強殖装甲シンフォギア――不適合者と規格外品   作:群雲

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第52話 闇の巨人

 深町晶たちから遠く離れた事件現場。 そこでたった二人で巨獣人と相対することになった巻島顎人=ガイバーⅢと天羽奏。 彼らは、必要以上に距離をとり、相手の出方をうかがうことを強いられていた。

 

「参考までに聞きたいのだが」

「なんだよ」

「奴は、前回からなにかしら変化はあるか?」

「……翼が、なくなってんな」

「そうか。 いまは戦闘形態……つまり、俺たちを前にして、逃げる選択肢はないと踏んでいるということか」

「そいつはずいぶんと舐められたもんで」

 

 だが怪物なりに効率的なことをやてくれたものだ。 そう毒づいた巻島に、奏がガントレットを組み合わせてアームドギアを槍に再構成する。

 

「ガデンツァヴナと同じ力か」

「へぇ、マリアさんも槍を出せるんだ」

「…どういうことだ? 同じガングニールなのだろう」

「へへっ、内緒」

「……まぁ、いいだろう」

 

 隠し事はお互い様だろうから、巻島はここで追及を取りやめる。 そうだ、いまここでやることはお話などではないからだ。

 目の前の巨獣人との距離、おおよそ100メートル。 これ以上近づけば、戦端を開く合図となるだろう。

 

 ――――その油断が、巻島を窮地に追い込んだ。

 

「キシャアアアアア!!!」

「――――なに!?」

「ま、巻島!?」

 

 ガイバーⅢの体から針が突き出ていた。 それは足元から生えるように飛びて、ガイバーの右肩口を貫通しているのだ。

 

「こ、この…!」

「グゥゥゥゥ……」

「ぐ!? うぉぉおおおおお!!?」

「こいつ!? まさかガイバーを捕食する気か!!」

 突き出ていた針、そこに触れたところが脈打つかのように鼓動を開始する。 そして熱くなる身体と、輝きを発するコントロール・メタル。

 

「くっ……この俺をなめるな!!」

「グァ!?」

 

 まるで飛びのくようにガイバーⅢから抜き取られた針。 それが地中を駆け抜け、巨獣人の体に引っ込んでいくと、奴は忌々しそうにうなり声をあげていた。

 

「はぁ、はぁ……まさかこのガイバーを取り込もうとするとはな」

「あいつ、相当グルメだな、しかもゲテモノ方面。 あんたなんか食ったってうまくもないだろうに」

「……いちいち癇に障る女だ」

「そんな軽口が叩けるならまだ平気だな、今度はこっちから行くぞ!」

「言われなくとも!」

 

 二手に分かれた槍と装甲。 それをどちらを追いかけるわけでもなく佇む巨獣人は、右腕の体積を増大させる。

 

「ジャァァアアアアア!!」

「天羽! そっちに行ったぞ!」

「言われなくとも――」

 

 ガイバーのセンサーで見えたのは赤外線。 それは奏を傷つけることはなかったが、延々と彼女を追い続けるマーカーとなっていた。

 腕がさらに太くなり、やがてどこかで見たことがあるような形へと作り替わる。

「グァアア!!」

「あれは!?」

「ミサイルランチャー!? クリス…いや、おっさんの業か!!」

「よけろ! ソニック―――」

「任せとけ!! そぉぉりゃあああ!!」

「なに!?」

 

 大量のミサイルの雨あられ。 それに背を向けることなく、振りかぶり、一本の槍を投擲した奏。 そんな棒切れ一本で賄うわけがないと、バイブレイション・グロウヴの調整に入ったガイバーⅢは、しかし、次に槍が光るとその動作を止めてしまう。

 

STARDUST∞FOTON

 ミサイルの雨をしのぐように、槍が星の数ほど複製されていく。 それを奏の合図の元、一斉に射出されていくと、空一面が爆炎に覆われる。

 煙にふさがれる視界。 しかし、その中でもガイバーⅢと巨獣人だけは動きを狂わせなかった。

 

「こいつ! やはり熱探知もできるのか!」

「うしろ!? くそ、こうなんも見えなくちゃ――」

「ジャアア!!」

「しまった!」

 

 巨獣人の左腕がロングソードのように変化する。 当然のように高速振動を付加されたそれは、必殺の高周波ソード。 たとえシンフォギアのバリアフィールドがあろうとも、巨獣人の膂力が加わったそれを食らえばひとたまりもないのは目に見えている。

 ほんの一瞬、コントロール・メタルから送られてきた情報をまとめ上げた巻島は、小さく舌打ちをした。

 

 

 

 ここでまだ、天羽奏を失うのは得策ではない…………

 

 

 

 

「キシャアアア!!」

「――――ぐっ!?」

「ま、巻島ッ!」

 

 間に割って入ったガイバーⅢ、なんら対策のない割込みは、そのまま高周波ソードの両断を許してしまう。

 力任せの一刀両断。 だが中央線を狙ったそれをコントロール・メタルからの警告を受け、とっさに右腕に極小のワームホールを形成。 何とか太刀筋の横合いからたたきつけると、軌道を真横にずらすことができた。

 

 だが、奴の力が圧倒的過ぎた。 身体の両断を免れた代償に、ガイバーの左腕が宙を舞う。

 

「ぐぉぉおお!!?」

「あ、あいつ!!」

「馬鹿野郎! 無暗に動くな!」

 

 残った右腕で奏の腹をぶん殴り、無理やり動きを止める。

 そのまま抱きかかえて後方へ大ジャンプ。 重力球の制御で飛行し、そのまま瓦礫の影に隠れる。

 

「お、おまえ…ごほっ」

「謝罪はしない。 あぁでもしないと貴様は止まらんだろ」

「あぁ……クソ、たしかにそうだ。 すこし頭を冷やすよ」

「わかればいい……だが、どうする。 奴め、やはりガイバーの数段上を行くポテンシャルだ」

「何とかショウがこっちに来るまでの時間稼ぎができれば」

「……ふ」

「あ? なんだよ巻島」

「いや」

 

 ――――この俺が、あの深町晶の救援を待つ日が来るとは。

 内心自虐しつつ、残った腕で胸部装甲に手をやる。

「やめとけ巻島。 いくらあのメガスマッシャーでも、アイツにはきっと通用しない」

「なに?」

「前にあった時、あのギガンティックのギガ・スマッシャーを浴びても半身を残して逃走を決めたんだ」

「……そうか」

 

 それでも走行から手をどけない巻島は、一瞬、奏の方を見る。

 

 何とか五体満足のその体、まだ戦闘続行が可能なガングニールを見ると、彼はそのまま瓦礫を背に立ち上がる。

 

「天羽」

「なんだよ」

「先ほどの技、まだ使えるか?」

「さっきの? まだいけるけどなんだよ」

 

 ならばと右腕でワームホールを生成するガイバーⅢは、それを地面に押し当てる。

 

「俺が穿孔後10秒で、さっきの奴をもう一度奴に叩き込め」

「おまえ、いったい何考えてんだよ」

「一泡吹かせてやるんだよ。 この俺を、ゼウスの雷を舐めてかかったらどうなるか思い知らせてやる」

「ぜ、ぜうす…?」

「いいか、チャンスは一度きりだ。 絶対に外すなよ」

「あー、もう! わかった! たく、どうしてガイバーをつけた奴はこう、変なところで強引なんだよ!!」

 

 奏が神を振り乱し、イライラを発散させる中、土煙を上げながら地中に消えていくガイバーⅢ。 それを見送り、ヒールでアスファルトを叩くこと10回、体を大きくしならせると、彼女は持てるすべてをやりに込めて射出する。

 

「おおおおりぃやあああ!!」

「――――ギッ?!」

 

 不意を突く形になった。 これで作戦の半分は果たしたのだが、奏は槍の流星をそのままに全身のフォニックゲインを両腕に収束していく。

 

「どうせそんなんじゃ満足しねぇだろ? だったらよ―――」

「シャアアアア!!」

 その姿を見て奴が腕を変形させていく。

 長く、しかしいびつに形成されていくそれは銃身。 ライフル状に形成されたそれは、弾丸ではなく周囲の熱を装填し、弾丸として射出する光学兵器だ。

 だが、奴がそれを放つ寸前、足元の地面が隆起する。

 

「うぉおおお!!」

「シャアアアア?!」

 ライフルの銃身が、両断された。

 収束した熱が霧散する中、巨獣人の目の前に現れたのは高周波ソードを振り上げたガイバーⅢだ。 彼はソードを元に戻すとそのまま胸元をこじ開ける。

 胸の中に詰まった極小の太陽が大気に触れると、しかし一瞬だけ相手の方が早い。

「シャア!!」

「―――!?」

 

 

 口から覗いたのはミサイルの弾頭。 一瞬、後ほんのわずかのタイミングで巻島の攻撃が遅い。

 チャージは臨界点でも、発射のための行動が間に合わない。

 それを知ってか知らずか巨獣人が大口を開くと―――――

 

 

 

 

「これがアタシの……絶唱だぁあああああああああああああああ!!!!」

 

 

 

 

 オレンジの輝きが奴の頬を殴った。

 ぶれる射線、放たれたミサイル。

 明後日の方向に向かって飛び去ったそれは、だれにもあたることなく大きな爆発を起こし、消え去っていく。

 その轟音を背に受けて、巻島顎人のガイバーⅢはコントロール・メタルを激しく輝かせる。

 

「消えろ――――メガ・スマッシャー!!!!」

 胸部粒子砲が巨獣人を焼く。 あの獣神将ギュオーすらも沈黙させたガイバーⅢの攻撃に飲まれる奴は、バリアーを張る隙も与えられずにその身体を奔流の中に沈めたのだ。

 確かな手ごたえ。 それを感じ取った巻島は地面に着地と同時、胸部装甲を閉じる。

「……やったか」

「あ、おいバカやめろ―――」

「なに? なっ――――!?」

 

「グォオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!!」

 

 巻島顎人の仕損じに奏が走り出す。 しかし、体を焼かれ、激痛にさいなまれる巨獣人の方が行動が早かった。

「が?!」

「ま、巻島!!」

「キシャアアアアアア!!」

 

 その巨大な手でガイバーⅢの頭部をわし掴みにすると、圧倒的な握力をもって締め上げる。 およそ超人であるガイバーの数十倍の腕力を持つギガンティックとほぼ同等のスペック、それがただのガイバーを圧殺せんと締め上げる。

 

「ぐおッ!?」

 

 コントロール・メタル周囲の……人間でいう頭蓋に相当する箇所が砕かれていく。 強殖装甲で改造されたそこは通常の人間よりもはるかに頑強だ。 しかし、そんなもの巨人の力を前にすれば木材と大差ないだろう。

 激痛でのたうつ身体を、強靭な精神力で抑えながら、巻島はソニック・バスターとプレッシャーカノンを乱射して暴れまわる。

 

 ガイバーのコントロール・メタル摘出まであと10秒。

 

 その、絶対的な危機に陥り、巻島はようやく苦渋の選択を下した。

 

「ふ、………ふかまち………こたえろ………ふかまち………!」

 生き残るため、おのが野望を成就するため、孤高の男はいま、そのプライドを取り下げたのだ。

 巻島顎人たちと別れ、避難民を逃がし、戦闘態勢に入った深町と響、マリアの三人。 彼らは目の前に現れた巨獣人を前に、それぞれの武装を開放していく。

 

 立花響は思わず見る。

 天羽奏とも、自身とも違う”第三のガングニール” その漆黒のギアを覆うマントは彼女固有のものだろう。

 ガントレットの自身、槍の奏、そして……

 

 あのマントはただの飾りではないとして、いったい何をするというのだろうか? まさか飛行能力などあるまい、だったらここまで自力で飛んでいけるだろうし。 そうこう、考えに没頭しかけた響きを深町が呼びかける。

 

「二人は――」

「まずは私が出よう」

「マリアさん!?」

「行くぞ!」

 黒いガングニールが突出する。 決して相手の実力をなめてかかったわけでも、響よりも自身が力量があるなどとおごったわけでもない。 その証拠に、彼女は駆け抜けていった先で転回し、漆黒のマントを翻して奴の周囲を高速で駆け抜けている。

 幻惑するように、相手の攻撃を、誘うように。

「シャアアア!!」

「はっ――」

 

 黒い巨獣人が右腕をふるう。 しなやかさと、甲殻類のような頑強さを持つ鋼鉄のムチに変異させた腕が襲い掛かるが、それをマリアはすんででかわす。

 かわし、潜り抜けたマリアの手には再構成をした槍が一つ。 それを大きく振り回し、鋼鉄のムチを切り落とすと、黒いフォニックゲインが槍を満たす。

 

「はぁあああああ!!」

「――――ッ!?」

 

 首を狙った刺突。 フォニックゲインの輝きで突如としてリーチを伸ばした槍での奇襲は、しかし、巨獣人の分厚い外骨格を破砕することはできなかった。

 確かな手ごたえの中にある、しびれるような感覚。 槍を持つ手を強く握り直しバックステップ。 大上段に構えた槍を振り下ろす。

 

「この!」

「ギィィィィイ!!」

「マリアさん!?」

 

 響が叫ぶ。

 肩から袈裟に振り下ろした攻撃は、奴の表皮すら傷つけることがかなわない。 圧倒的な力不足は承知のところだったが、まさかここまで――嘆く間もなく、横合いから奴の尾がたたきつけられる。

「あ、あっ――!!」

「たぁああ!!」

「え?」

「上手い、敵の攻撃を受け流した!」

 

 深町はそう言うが、響の目をもってしても今の攻撃はクリーンヒットだったはずだ。 その証拠に今しがた尾に叩きつけられたマリアのマントは破け、大空へと舞い上がって消えてしまったのだから。

「…………危なかったわ、まさか一撃だなんて」

「ふ、深町さんいま――」

「おそらくあの黒いガングニールについていたマント、あれはマリアさんの固有の力なんだ」

「マントが?」

「叩きつけられる一瞬、あのマントが異常なまでの硬度を作り出して衝撃を完全に殺したんだ。 でも、さすがにそこまでが限界だった、だから再構成を解かれ、いま向こうに飛んで行ってしまったんだろう」

「そっか、あんな攻撃から身を守ってくれる防具があったんなら、一番手を引き受けたのも納得かも」

 だがそれももう使えない。

 巨人殖装ですら互角に渡り合う巨獣人の、不意を突いた一撃を防いだマントは完全に消失している。

 もう、マリアを守る盾はなくなり、後は抜身の刃で正面突破を仕掛けるしかない。

 そんな追い詰められた彼女だが、その表情に焦りはない。 2度、手のひらを握っては開くと、自然、笑みがこぼれていた。

「すごい、戦闘に体が追い付いてる」

「ど、どういうことです……?」

「私は不適合者だったのを、貴方よりもさらに強引に融合症例にさせられた欠陥品。 ゆえに、戦闘力は上がっても、長時間の稼働は不可能だった」

「え……!?」

「でも、そうね。 ……彼が近くにいると全然苦しくない、いいえ、鉛を纏っていた身体が、今じゃ羽のように軽い」

「そっか! ガイバーの統制能力!!」

「えぇ、こればっかりはアギトに感謝をしなくちゃね」

 だからいつまでも駆け抜けることができる。 その戦闘への昂ぶりをやりに込めると、黒い光があふれだす。

 

「はぁぁああああああ!!」

「キシャアアア!!?」

「傷つけた!?」

「すごい……アレが、わたしと同じガングニール……」

 

 奏のような嵐のような攻撃じゃなく、洗練された一直線の斬撃。 それが奴の外骨格を切り付けると、同時、マリアが即座に退避する。

「ヒビキ!!」

「は、はい!!」

 

 一瞬の遅れ。 それを取り戻さんとばかりに一呼吸でフォニックゲインを手のひらにかけ集めると、彼女はガントレットを展開してパイルバンカーの形へと再構成していく。

「うぉおおおおおおおおお!!」

「マリアさん、よけてください!!」

「えぇ、後はまかせるわ」

 

 響の拳を、ギガンティックの手のひらが包み込む。

 オレンジのガングニールが放つフォニックゲインをギガンティックのエネルギー・アンプで循環し、増幅し、響の持つポテンシャルを限界にまで高めていく。

 

 

「これがわたしたちのォォォオオオオオオ!! 絶唱だぁあああああああああああ!!」

 

 極光が巨獣人を包む。

 あまりの威力に大地がえぐれ、アスファルトが粉々に砕けていく。 その光にマリアが呆けるが、即座に焦りの表情に塗りつぶされていく。

 

「あ、あいつ!!」

「グゥゥゥゥ」

 耐える。 耐え忍んでいるのだ。

 あの恐ろしいほどにまで増幅されたフォニックゲインの輝きを、空間をゆがめることで威力を落とし、チラシ、そらしているのだ。

 バリアーを起用に変形させて、衝角のように突き立てることにより流れるエネルギーをかき分けて回避しているのだ。

 

 知性の欠片もない、本能でしか動いていない存在が見せる技。

「グゥゥゥゥウ…………キシャアアアアアアアアアアアアア!!!」

「あ、……ぐっ!?」

「ヒビキ!? ……うっ!? わ、私も体が……いや、ギアの出力が」

 マリアは背筋を凍らせる。

 ここにきて例の能力を使い、響たちの力を奪いに来た巨獣人。 シンフォギアの色がくすみ始めると、しかし、ここにもう一人驚愕の行動に出た男が居た。

 

「プラズマジェット……点火!!」

「ま、まさか!?」

「はぁあああああああああ!!! グラヴィティ・ナックルッッ!!」

「あの閃光の中を突っ切る気?!」

 響の力を通り抜けるように突っ切る巨人殖装。 同じ力を、同じ方向で放出しながら進んでいくことで、フォニックゲインの奔流の中を抵抗なく飛んでいこうというのだ。

 あの巨獣人を目前にした巨人殖装は、重力でゆがむ拳を、その圧倒的な膂力をもって撃ち落とした。

 

「はッ!!!!」

「――――――――――!?!?」

 

 

 巨獣人の頭部が吹き飛ぶ。

 バリアすらも打ち破り、貫通した先での大ダメージに怪物がもろくも崩れ去り地面に転がっていく。

 

 まさに圧倒的な力をさく裂させたギガンティックが大地に降りると、戦いの終わりにマリアがつぶやく。

 

「なんて威力……」

「よし、あとは体細胞を――」

「ふ、深町さん……」

「立花さん、どうかし――――っ!?」

 響の呼びかけと同時、深町の背筋に悪寒が走る。

 

 デュアル・コントロール・メタルに意識を集中すると、深町の脳内に声が響いてくる。

【ふ、深町……答えろ……】

「ま、巻島さん!?」

「ショウ、どうしたの!?」

「多分ガイバー同士の通信だと思います。 ……それにわたしも、とてつもない悪寒が……」

「もとは同じガングニール同士の共鳴……まさかカナデも!?」

 自分の身には何も起きていないことから推測したマリアは、震える響の手を握りしめ、少しでも支えになろうとする。

 

「巻島さん! いったいどうしたんです!」

【こちらに……例の巨獣人がでた……】

「な、なんだって!? ……やはり分体が」

【ぐぉぉおおおお!!?】

「ま、巻島さん!?」

【すまんが早く手を貸してくれ……しくじった、奴にコントロール・メタルを――ぐあぁぁああああ!!?】

「巻島さん!? しっかりしてくれ!! ……あ、つ、通信が」

 

 光はそのままに、しかし声が完全に途切れる。

 ガイバー同士の通信は基本的に電波障害の影響を受けない。 次元を超えることのできる殖装の技術を転用した超空間通信を利用していると思われる。 だが、その声が途切れたということは、殖装者が意図的に閉じたか、あるいは……

 

「ま、巻島さんが……」

 

 あの、いままで自身を引っ張ってきた巻島顎人が死にかけている。 自身が何度も死んでやり直している中、ただの一度もガイバーの蘇生能力に頼らなかった男が、今度こそ死に瀕している。

 そして……

 

「あの巻島さんが、俺に……」

「ふ、深町さん!! 巻島さんと奏さんが!!」

「わかってる…………いや、だけどその前に――」

 

 後ろを振り向く。 そこには今しがた頭部を粉砕された巨獣人が、空っぽの頭で立ち尽くしていた。

「た、立ち上がった!? あの体でどうやって……!!」

「いいや、もとより頭部は飾りだったんだ。 そもそもゾア・クリスタルを砕いたらアプトム細胞が活性化してアプトムが復活してもいいはずだ。 なのに、それをしないということは」

「体のどこかに、それに代わる器官がある……?」

「でもどこに?!」

 

 時間がない。 早く奏たちのところに行かないと手遅れになりかねない。

 

「ショウ……行って!」

「ま、マリアさん!?」

「そうですよ深町さん! ここは、わたしたちが何とかしますから!!」

「だけど」

 

 彼女たちの意気込みはうれしい。 しかし、ここからどうやっても巻島たちのいるところまで数分かかる。 その間、あの状態のガイバーⅢ=巻島顎人が耐えられるかもわからない。

 

 ならば……どうするか。

 いいや、もう、やることは一つしかないと少年は学んできた。

 

「みんな、お願いがある」

「えぇ、まかせて」

「ここは、絶対に――」

「二人の力を、貸してほしい」

「……え?!」

「どういう、ことですか」

 デュアル・コントロール・メタルが輝きを強める。 同時、全身のエネルギー・アンプが虹色に輝くと、彼女たちに向かって光が降り注いでいく。

 

「限界まで二人に力を注ぐ。 たとえ奴の能力にさらされても、跳ねのけられるくらいに……」

「そ、そんなことが……だったら!」

「けどこれは、今まで以上に危険な賭けだ。 二人の体がギアの最大出力に負けてしまう恐れもある。 ……だけど、もうこれしか手がない。 許してくれ」

「構いません! ここで倒れるわたしたちじゃありませんから! ね、マリアさん!」

「あぁ、むしろ望むところだ!!」

「すまない」

 

 響の体が白く輝き、マリアの体が黒く発光する。

 鮮烈なまでの力の増幅に、身体の奥底からくるエネルギーの奔流に、彼女たちの意識が、魂が、激しく震えて叫びだしそうになる。

 

 それでも、今ここでそんな弱い叫びをあげてやるほど、彼女たちは弱い生き方をした覚えはない。

 

 震える? いな来れは奮えているのだ。

 いまこの体を駆け巡るエネルギーは、深町晶の願いそのもの。

 ―――――――あの、無茶ばかりをしてきたヒトが。

 

 ―――――――あの、悲しみを一人背負った少年が。

 

 今この時”自分たち”を頼り、力を合わせてくれるのだ。

 自分たちが危機にさらされるとわかって、なおも頭を下げてきたのだ。 だったら、この願いを―――――

 

「絶対、乗りこなす…!!」

「この程度の痛み……負けるわけがない!!」

 

 ――――聞き入れないわけにはいかない。 彼女たちが、その痛みに打ち勝ち背中から光翼をはためかせる。

 大きく広げ、羽根を散らせると彼女たちを覆う光が爆発する。

 

「ショウ! 貴方は早く向こうへ!」

「お願いします!」

「―――――いや、俺は行かない。 行くのは……」

『??』

 

 

 怪訝な顔をした少女たちだが、次の瞬間には驚愕に染まることとなる。

 

「深町さん!? 身体が!!」

「貴方まさか!?」

 巨人殖装の体が砕ける。 だがこれは、前にあった強制的な分離ではない。

 少年が、決意をもって強敵を前に武器を手放したのだ。

 

「蛹よ……」

「ショウ、貴方はそこまで……」

「マリアさん?」

「いえ、今は目の前の敵に全力集中よ。 できるわね?」

「は、はい!! ドンと来いです!!」

 思わず目を背け、しかし向けた先は敵の姿。

 マリアが深町の一大決心を背に、一気に駆け出す。 それに追い付くよう、起きこせるように、響は翼をはばたかせて空をかける。

 

「はぁあああああああああ!!」

「せぇぇいい!!」

 巨獣人の叫びをかき消す咆哮を上げた。 彼女たちだけの戦いが始まる。

 

 

 

「この……放しやがれ……!!」

 巨獣人に胴体をつかまれた天羽奏。 二人とも敵に自由を奪われ、締め上げられる。

 ガングニールの装甲などとうにひしゃげている。 いま耐えているのは融合症例となった自身の特異な身体と、ただの気合に過ぎない。 だが、それもすでに限界を迎えようとしていた。

 

 どうあっても深町は間に合わない。 そう踏んでの救出行為が、まさかこんな結末になるなんて。

 

 食いしばった口から血が流れ、その眼からは光が消えそうになる。

 

 

 だが。

 

 それとは真逆に、ガイバーⅢのコントロール・メタルが光を最大限にまで強く輝かせていた。 

「―――――き、来たか!?」

「グォォオオオオオ!?」

 巨獣人の背中に衝撃が走る。

 何か巨大な物体が衝突してきたのだろう、目をそちらに向けると、奴はうなり声を上げた。

 知っているのだその正体を。

 

 

 わかるのだ、それが自身にとって一番邪魔なものなのだと。

 

 だけどもう、それをどうにかできるほど、巨獣人には余力が残っていなかった。

「こ、の――放せ化け物!!」

「!?」

 

 ガイバーⅢ渾身の蹴り上げ。 高周波ソードを展開し、奴の腕を切り刻むともう一度蹴り上げてその場を離脱する。

 持てる最後の力を振り絞った彼は、その場でうずくまり、途切れかける意識の中でたった一言叫んだ。

 

「――――――来い!!」

 

 

 

 力に対する命令。

 それは、今からお前は俺のモノになるという事実を突きつける一言。

 

 そしてその声を受けて、ガイバーⅢの真後ろに現れる”蛹”は、厳かにその殻を開いていく。

 

「ま、まさかアイツ……嘘だろ」

「ついに……ようやくだ」

 

 開かれた外殻の中に入り込むガイバーⅢ。 それを受け入れた”蛹”は重い扉を閉じるように、その殻を元の蛹へと戻していく……いいや、もう、元の蛹ではない。

 

「さ、蛹が……蛹の色が黒く――!?」

 

 今までならばありえなかった変貌。

 自身の半身といっても過言ではない深町が創った蛹の変化に思わず拳を握りしめた奏。 

 

 だが彼女の必死のこらえもむなしく、ソレはこの世界に、大地に足を踏み入れる。

 

「キシャアアアアア!!」

 

 

 それは許さない。 許してはならない……己が敵の出現を阻むべく、巨獣人が爆炎を巻き起こす。 全身から発せられる高熱が威力をもって周囲を焼く。

 アスファルトが剥げ、大地が露出し焦土となる。 そこまでの抵抗、それほどまでの危機感。 怪物が恐れる本物の恐怖が、今、この世界に現出する。

 

 

「――――――――――いい気分だ」

 

 無傷だ。 あの大爆発を受けて、蛹はおろか、中身ですらなんらダメージがない。

「すごい力だ。 くくっ、深町め、とんだ手土産を持ってきたものだ」

 

 あふれるエネルギー、こみ上げる悪意。 表情が変わるのならば、ひどく歪な顔をしているのだろうと自身ですらわかっていた。

 そこまでの力を深町が生み出したと思うと憤りを感じ、しかし、それが手に入ったのだと思うとそんな小さな感情などあっという間に吹き飛んでしまう。

 

 そうだ、彼はついに手に入れたのだ。

 

「力だ……この力があればもう誰にも従う必要はない…! ついに手に入れたんだ! 神の力を!!」

「シャアアア!!」

「邪魔だ――――」

「――――ッ!!?」

「ふ、吹き飛ばした!?」

 

 ついに現れたのはガイバー・ギガンティック……ではない。

 黒く染まった巨人だ。 禍々しく、鋭角に、誰もが触れぬ刀剣のような鋭さを持った怪物が生まれてしまったのだ。

 それが乱雑に振り回した腕に巨獣人が吹き飛ばされると、おもむろに腕を回す。

「ほう、軽く振るっただけでこの……」

 この圧倒的なちから。 それを思う存分に振り回せる相手がそこにいる。 ……試さない手はないだろう。

 

「さて、この体がどの程度か慣らし運転に付き合ってもらおうか?」

「ギ、ガァァ」

「ま、待て! そいつはもしかしたらアプトムが!」

「クリスタルさえ砕けばいいのだろう? 安心しろ天羽、よく考えているさ」

 

 そういって歩き出した巨人が全身のエネルギー・アンプをうならせる。 その急激なエネルギーの高まりは、天羽奏を騒然とさせる。

 

「ば、馬鹿野郎!! そんなちから―――近くには街が!!」

「プレッシャー・カノン……」

「巻島…巻島!!」

「ギガ・マキシマム!!!!」

 

 超重力の砲撃が巨獣人を飲み込む。 大爆発が起こると爆炎が周囲に飛び回り、そう遠くない場所から人々の悲鳴が上がり始める。

 

「な、なんてことを……しやがる」

「これで奴もだいぶ弱っただろう。 さて、とどめと行くことにするか」

「おい巻島!! お前……おまえ今自分が何をしたのかわかるのか!?」

 知っているさと巻島が流す。 その姿に奏は一気に沸点に駆け上がる。

 

「てめぇ!! よりにもよってショウのギガンティックでこんなこと!!」

「安心しろ。 被害は多少出たが死傷者は一切出していない。 きちんと計算して放ったさ」

「だからってお前……!」

 

 

 爆炎を背に悠然と立ち尽くす巨人。

 その炎は人々の嘆きの声を表すようでいて禍々しく、その巨人の体暗く照らしていた。

 

「さぁ、ゼウスの雷が上げる反撃の狼煙だ。 この俺――――」

 

 この世界に降り立った……黒き巨人。 そう、深町晶ではない、巻島顎人のモノとして再臨したそれを、彼自身がこう告げる。

「ギガンティック・ダークの巻島顎人が、滅ぼしてやるぞ……クロノスども!!」

 

 黒い殖装者は、闇の巨人となってクロノスの世界を破壊せんと立ち上がったのだ。

 

 

 

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