「こんな催しで言うのもあれなんですけど、この際だからお話させてもらいます」
『…………』
「俺の名前は深町晶。 高校2年生の8月生まれ。 見た通りのどこにでもいる一介の高校生です」
「生年と、出身地の不一致を除けば、か?」
「……はい、そうなりますね」
このへんは昨日、風鳴司令にも言ったことだ。
だけどここから、ここからなんというべきか。 ……あの激動の3か月を、果たして口走ってもいいモノなのか。
正直迷う。 けど、ここで考えてみればこの人たちには既に“ガイバー”を見られているんだ。 なら、逆にきちんと説明しないと――
「……どうした」
「いえ、少しだけ考え事を」
目の前に居る“この人”にわかってもらう事なんて到底できない。
いろんな人の視線。 その中で圧倒的な違いのあるこの人のそれに、ちゃんと答えられるように、俺はただ真実を言うだけだ。 難しいことじゃないはずだ。
「……俺は、ある日偶然“ユニット”というモノを手に入れ、昨日の変身……殖装したというんですが、とにかくその力でガイバーに成れるようになりました」
「…………」
「しかし事はそれだけではなく、そのガイバーをもともと所有していた組織。 クロノスという秘密結社に付け狙われる羽目に。 奴らは世界征服を掲げ、目的のためには手段を選ばず、尖兵ともいえるべき獣化兵……人間を改造した怪物を送り込んで、俺の知人、友人……そして家族すら巻き込んでいく戦いを迫ってきたのです。 そして――」
結果的に、俺は“自分の攻撃”を受けて絶命。 ……したはずだ。
巻島さん……第三のガイバーを手に入れた俺の学校の生徒会長であり、クロノスの幹部候補であった、通称“ガイバーⅢ”と共に放ったメガ・スマッシャーを反転照射されて……
そこまで口にすることが出来ない。 ……悔しさで歯をきしませてしまったから。
あいつを、あいつらクロノスを倒さなければ、俺たちに安息の日々は絶対に訪れない。 それを、分っているのに。
「晶君」
「…………」
「深町晶君!」
「え? あ、……すみません、すこしあいつ等の事を思い出してしまって」
風鳴司令の一喝を受けて、思考の海から這い上がったが、やはり後を引きずるみたいで。 いけないな、こう言う風なことを言いたいんじゃないのに。 考えがイチイチまとまらないし、自分がなんて言ったのかもだんだん薄ぼけていく様だ。
ちゃんと話は通じたのか。
よく、相手に自分の状況をわかってもらえたのか。
尽きない疑問。 その中で俺は、もしもを考えてしまう。 ……もしも、俺がこの先この人たちにですら敵視されてしまったら。 いや、風鳴司令という人柄をみればここがどういったところかはもうわかる。
以前、俺を助けてくれた“遺跡基地”に居た人たちと同じ雰囲気……理不尽に立ち向かっていこうとする強い意思。 この人たちは、おそらくそれを持っているはずだ。
「…………それで、貴方は結局どうしてここに居るの?」
「え?」
「敵はまだ存命。 そして仲間も、自分の命もまだあり続ける。 ならば戦う選択を取るのが防人たる者の宿命の筈。 それなのにどうして貴方は此処に居る」
一瞬。 ほんの少しだけ風鳴さんが優しそうな……いや、寂しい、かな? よく分からない表情をした後、先ほどと同じ視線を俺にぶつけてくる。 あとを言え、お前の信念を聞かせてみろ。
このひとの言わんとすることが肌で感じ取れてしまう……そこまでの、圧迫感。
思わず後ずさりしてしまいそうな空気に、俺は本当に一歩さがった……しまいそうだった。 でもだめだ、ここで下がってしまったらきっと何かが崩れてしまう。 俺が、今まで築き上げてきた何かが――
「事故、だと思うんです」
「事故?」
「はい。 戦いの途中、俺は敵の総本山だと思われた“魅奈神山”で……」
「皆神山!?」
「え?」
「いや、なんでもない、続けてくれ」
風鳴司令の狼狽にも似た叫びに一瞬、なにかとんでもない地雷を踏んでしまったかと思ったけど、どうやらそうでもなさそうだ。 促されるように俺は続きを口にする。
「魅奈神山の地下深く、そこには遺跡があったんです。 話がこれ以上長くなるので簡単な説明になるんですけど、この俺が手に入れたユニット。 それを置いて行った“降臨者”たちが残した宇宙船という名の遺跡。 そこが最終決戦の地でした」
「降臨者?」
「……クロノスが言うには、“俺たちの世界”……地球がまだ生物であふれかえる前にやってきた地球外生命体だそうです」
「宇宙人……」
どんどん大きくなる話に、風鳴さんですら顔を蒼くしていく様だった。 けど、それでも言わなくちゃいけないことはある。
それに言いたいのはやまやまだけど、現状理解をできていないのは俺だってそうなんだ。 あまり、無理を言わないでほしい。
降臨者の事、俺が遺跡宇宙船で“観た事”と、そう言うのはまだいいとして。 今一番に言うべきこと……俺が、ここに居る理由と原因。 俺自身にもよくわからない、どうしてこんなことになってしまったのか。 でも。
今目の前に居る風鳴さんに問いただしてやりたい――そう言う感情は、なぜだか一切浮かび上がってこないんだ。
「降臨者の事はまたあとで。 まずは俺がここに居る理由、それを何となくですけど、ついさっきやっとまとまったんです。 自分の中でですけど」
「……」
彼女は静かにうなずくだけ。 周りにいる人たちも思いは同じなのかそれに同調してくれている。 信じて、もらえているんだろうな、俺の話。 ……よかった。
「さっき言った最終決戦、そのときに現れたクロノス側の……おそらく“クロノス十二神将”の頭であろう奴に俺たちは戦いを挑み、不意を突いた
「メガスマッシャー? それはもしや」
「はい、風鳴さんが見た昨日ノイズを一掃した武器です。 アレはガイバーの最強武装であり、最終兵器でもあったんですよ ……けど、それすらあいつはものともせず、それどころか“反転照射”をされて逆にこっちがやられた――っく」
「反転……あれを、自ら受けたのかッ!?」
「……はい」
風鳴さん以外の人は良くわからないという顔だ。 仕方ないと思う、メガスマッシャーの威力は直接見ないことには口での説明は辛いし、そもそもそれをされてどうなったのかも、実は俺自身よくわかっていない節がある。
だけど、想像は難しくない。
「メガスマッシャーの……それも昨日放った出力の三倍以上のダメージを受けたんです。 当然ガイバーでも耐えられるわけがない。 俺はそこで、やはり身体を原子の塵に還られたんでしょう」
『!!?』
「なんだと!?」
「ふかまち……さん」
「……なるほど」
「……」
風鳴司令、立花さん、了子さん……そして、風鳴さん達が唖然としつつも、俺の事を強く見つめてくる気がした。 言ってはなんだけど、こう言った反応が来ると予想していなかったわけじゃない。
困らせてしまうようだけどこれが事実なんだ、隠さないで言うには、ここを避けては通れない。
「ふーん。 それじゃ今の晶くんはどういうことなのかしら?」
この中でもやはりというか、何となく冷静なのが了子さんだ。 あの人はまるで舐めとるように俺を見るとそのまま、ゆっくりとこっちへやって来る。
「昨日見た感じじゃ幽霊ってわけでもなさそうだし、脈拍、心拍数共に至って健康体。 そんなキミを見ても、『俺、実は死人なんです! キリッ』だなんて言われてもねぇ」
「そうですよね、俺だって同じ気持ちですし」
『???』
「俺だってあの時は必死だったんです。 それこそ自分の身体が消えかかって、今度こそ死ぬんだって思ってたくらいですから。 けど、そこで俺は強く念じたんです」
「念じた?」
「はい。 遺跡宇宙船の中に居たみんなの安全の確保と…………………強い力が、欲しいと」
そう、圧倒的強さを誇った獣神将ギュオー。 それを赤子のように倒してしまった超存在。 それらを相手取るのに、いまのガイバーの力だけじゃまず勝ち目がない。 なにか強い力が……途轍もなく強大で、何物にも負けない力があれば、みんなを守れるのに。
クロノスという巨大な炎から、みんなを守れるのに。 ……俺はそう強く念じたはずだ。
「決戦の直前に遺跡宇宙船とリンク……ガイバーを介して直接つながっていたことも功を奏したんでしょう。 俺の念を受けて、きっと遺跡が何らかの処置。 そう、瞬間移動とかを俺や仲間に対して使ったんだと思います。 ですがそれでも俺の身体の損傷は激しかった」
「いろいろ難しいわねぇ。 なんだか専門用語がいっぱいだけど……弦十郎ちゃん、今のどれくらいわかる?」
「半分くらいわな……だがしかし、晶君が敵対するという組織。 クロノスがどれほどに危うい存在かというのはわかるつもりだ。 シンフォギアの補助があったとはいえ、ノイズと対等以上に渡り合えるガイバーを易々と倒してしまったのだからな」
ガイバー、クロノス、獣神将、遺跡宇宙船に数ある話の中で、的確に彼我戦力を測る風鳴司令に、俺は思わず目線を配る。
「そう、ですね。 えっと、あとはなにを説明をすればいいのか迷うんですけど、取りあえずもっとも俺に身近な
「……よろしく頼む」
「はい。 ガイバーはそもそも、降臨者が残していった遺産で、地上の技術力ではまず再現不可能なものだそうです。 その理由の一つとして、身体を構成する“強殖細胞” これがあまりにも凶悪な性質をしているんです」
「あぁ、昨日の回復具合と言い、結構な物だったわよねぇ」
「そうですね。 けど、それだけじゃない。 アレは周りの生き物を“喰らい”その細胞をもとに生物の構造を変化、強化し別の生き物……強殖生物へと変えてしまう」
「そんなものを……」
桜井さんの顔がわずかに青みがかる。 それでも、決しておぞましさを見せないのは科学者の血だろうか。 あの人は益々俺に近づいて、その、……えっと。
「なぜに腕を抱くんでしょうか?」
「興味がある。 それだけじゃ足りないかしら?」
「……できれば離れてください、こっちは真面目な話をしてるんですから」
「あら、イケズ」
……こほん。 まったくこの人は、こっちが子供だからって好き放題からかってくれて。 まぁ、嫌ではないのだけど。
「強殖生物。 それだけじゃあのガイバーのような力を発揮できない、けどその性質を利用するべく用いられているのが制御装置……コントロール・メタルなんです。 その制御能力は恐ろしく、昨日のように殖装体の欠損を治したりはもちろん、殖装前の身体が欠損したところを、殖装することによって…試製することが可能なんです」
「へぇ、なんだか便利なものねぇ」
「いろいろ難点はありますけどね。 それにガイバーも弱点は存在しますし」
「……へぇ」
何か気づいたみたいだけど、これ以上は言わないでいるみたいだ。
幾ら友好的な人たちだとしても、あまりにもガイバーの事を知られるのも良くないはずだ。 仮にこの場でクロノスにとっての巻島さん……いわゆるスパイというモノが居たのなら、ここから情報が漏れだしていつかの時のように――――いや、やめておこう。
「深町さんそれって――」
「――まぁ、いまのをお嬢ちゃん達にもわかりやすくするなら、強殖生物、それと制御装置の二つを合わせてユニット。 さらにそれと有機的に結合し、肉体構造そのものから改変された存在なのが……ガイバー」
「はい」
「あ、えっと……」
「さらにそれを狙ってきた組織との戦いで致命傷を負った晶くんは、それでもなんとか最後の力を振り絞って“安全で、力を自身に与えてくれるであろう場所”に転移した……まぁ、思考がごっちゃになって、こんな曖昧な単語で“別の時代、別の歴史を辿った世界”に飛ばされちゃあれよねぇ」
「ま、まぁ」
立花さんが、やはり気になったであろう単語を言う寸前。 まるでカーテンを一枚閉じるように滑り込んだその人は。
「というより、ガイバーって異世界を跳躍する力でもあるの? 昨日、例の強殖装甲を外したときにそれらが異空間らしきところへ消えていったわよね?」
「それは俺にもよくわかりません」
「…………あ、あの~~」
すっかりとあの子を黙らせてしまう。
ここら辺はこの人もわかっているんだろう。 情報の漏えいというか、俺に余計なことをしゃべらせないように配慮したみたいだ。 ……少なくとも、俺はそう思っている。
「おそらく遺跡宇宙船が、俺の死に際に発せられた強い意志……なにより、操縦者である俺を――殖装者を保護するためにこのような現象を引き起こした。 そう思うしか」
そう、結論付けることはたぶん、間違いじゃないかもしれない。
わかる情報は此処まで。 パッと話せない事情は仕方ないとして、それでも必要なことのほとんどは言い切ったはずだ。 ……すこし、喉がかわいた、それほどに長く、つまらない説明だったかもしれない。
少し遠くにいるあの人……風鳴さんの表情は前髪が隠れて見えない。 しっかり聞いていたようだし、途中で声に出して質問をしていたから、こちらの話は聞いていたとは思うけど。 どうだろうか。
「…………」
「か、風鳴……さん?」
「すまない、少し失礼する」
「え? あ、はい」
急に身体を回し、扉の向こうに消えてしまった。
彼女はどうにも俺の事が嫌いらしい……これから、タイヘンだろうな俺。
「…………」
「そう、気に病むな晶君」
「風鳴さ、……司令」
「あいつは、翼は強く、鋭い……その様に今まで生きてきた。 いや、生きなきゃいけない出来事があったんだ。 だからこそ、ツルギとして生きたからこそ“横からの衝撃”に弱い。 今はまだ君の事、それにあの子の事を消化しきれていないんだ、だから、嫌いにならないでやってほしい」
「……わかりません」
「晶君……」
そんなこと言われても、あの人の冷たい瞳は俺を否定してならないんですよ。 いくら歩み寄っても斬り掛かって来るんじゃ、仲をよくすることなんてできないじゃないですか。
「でも」
「む?」
だけど、それを見ていると……失礼かもしれないけど思い出すんだ、自分の事。 ガイバーを手に入れて、疑心暗鬼に陥りかけたあの時のことを。
あのときは、哲郎さんや瑞紀、父さんの存在が俺を助けてくれたけど。
「努力は、してみます」
「…………」
きっとあの人は、そんな存在すら居なくなってしまったんだろうと、何となく思ってしまうんだ。
「ありがとう、な」
「……はい」
風鳴司令の言いたいことはまだよくわからない。 この世界のこと、自分が何をやっていくべきか、そして彼女の事。 分らないだらけだけど、それでも下ばかり向いてられない。
進むんだ、前に。 たとえ目の前が何も見えない真っ暗闇でも、そこに差し込むわずかな光を目指して進むんだ。 それがどんなに無様でも、どれほどに無謀でも……俺は、進むことをあきらめたくない。
「…………それで、どうするの晶くん?」
「は、はい?」
「このままだと大変よぉ。 なにせ最近一大事が起きたもんだから翼ちゃん、今の話を聞いてどう思ってるかわたしたちですら掴みかねるのよ」
「それが――」
「今後の関係。 きっとさらに気まずくなると思わない?」
「――――どうした……ら、いい…………でしょうか」
この関係の修復もあきらめるもんか。 ……いや、修復も何も元から無いモノを修復とは言わないな。
「はぁ」
思わず出た息は途轍もなく暗かったに違いない。 前途多難というのが一番しっくりくるこの事態に、俺は肩を落とさずにはいられない。 ……誰か代わって――なんて、言わないけどさ。
「ま、まぁ晶君の事はこの際置いておくとして」
「少しは助けてくださいよ……」
「そこはあれだ。 若いモンに任せる」
「……そうです……ね」
「あらあら、晶くん目から鼻水が出てるわよ?」
「泣いてるんです! 察してくださいッ」
大人が……大人がみんな敵に見えてきた。 哲郎さん、俺、なんだかここでうまくやっていく気力がなくなってきそうです。 ……対人関係でここまで困る何て、ずいぶん久しぶりな気がします。
「が、頑張ってください深町さん」
「……ありがとう」
そんな中でもひとり、慰めてくれるこの子はとってもイイコだ。 ……あぁ、元気いっぱいの向日葵みたいな笑顔が本気で眩しい……眩しすぎる。
「……それじゃあ次にいこう。 晶君の事情は大体呑み込めたとは思うが――響君」
「は、はぇあ!?」
「本日はキミについても詳しく説明しておかなければならん。 あ、さっきみたいに生年月日は良いだろう」
「ほぇ?」
「あなたの場合、こっちがもうあらかた調べつくしちゃってるのよ。 生まれた日、どこの学校に通ってるだとか…………」
いきなり自分へ話を振られて驚いたのだろう。 めまぐるしく表情を変化させる立花さんの前に、桜井さんが靴を鳴らして近寄っていく。
「あ、あの?」
「ふふ」
腕を組んで…………?
「そ、その!?」
「うふふ」
そっと抱き寄せ……
「はむっ」
「ひっびびょおおべへらぼろばら!??!!?」
「耳を、噛んだ? ……なにやってんだあの人」
……桜井さん、ここに男子高校生が居るって事を忘れてはいないだろうか。 一応俺だって男だ、こういう場面は、その……
「晶君、顔が真っ赤だぞ」
「……放っておいてください。 俺は聖人君子なんかじゃないんです、あんなもん見せられて恥ずかしがるなっていう方が無理ですよ」
風鳴司令、ただ黙ってそこは温かい目で見守ってくれると助かったんですが……
「というより桜井さんはどうしたいんですか。 いきなりそんな悪戯なんて」
「ふふふ。 あまりにも初心恋からツイツイ」
「は、はぁ? けど、立花さんが困ってるからやめてあげてください。 ほら、彼女何もしゃべれてないじゃないですか」
「……はら、ほろ~~~~」
「ね?」
「やりすぎちゃったかしら」
崩れるように膝からヘタレる立花さん。
まったく、あんなちょっかいして何をやりたいんですかもう。 この子に変なトラウマでも付いたらどうする気なんだか。 あまりにもショッキングだったのだろう、顔から湯気を出している立花さんの肩を支えて軽く介抱。 “手うちわ”で申し訳程度に仰いであげると、正気を取り戻させることに努める。 ……かわいそうに、この子も桜井さんの魔の手に引っかかってしまって。
「ほら、しっかりして立花さん。 あんなの……あれだ、えっと、ほら。 飼い犬に手をかまれたと思えば――」
「…………噛まれたの耳ですよぉ……うぅ」
「あ、あぁ~~そうだよ、ね。 はは」
フォローには失敗し、一層涙目となる彼女。 うん、完全に手助けになってない。
「まぁまぁ。 今のは冗談よぉ。 ただ本当においしそうだったのは事実だから、それだけは忘れないでね?」
「ひぅぅ!?」
「やめてくださいッ、冗談が過ぎると俺だって怒るんですよ!!」
「おほほのほ~~」
「こ、このひとは……ッ」
もう駄目だ、立花さん完全に挙動不審だ。
たまに、友達がウチに犬を預かってと連れてきたりするけど、そのときに居た仔犬。 なぜかそいつのことを思い出してしまった。 仔犬ってさ、慣れない環境に放り出されたりすると、必要以上におびえるんだ。
「まぁ、関係ないんだけど……さ」
思考が、少しずれてしまった。
そのあとにもかなりのイザコザがあったものの、風鳴司令の一声で俺共々ダウン。 思考回路を一新された状態で再起動を果たすと、やっと話の本題に入っていく。
もう、時間も遅い……いや、俺が余計なことを口走ったせいなのもあるんだけど…………そのせいで、結構簡潔に、それでいてわかりやすい“立花響”という女の子の現状についての説明を、本人共々うけることとなった。
曰く、今から2年前に在ったとある事件。 詳しくはまたも省かれてしまいよくわからないけど、そこにはやはり立花さんも居たらしい。 彼女はそこで大勢の人と共にノイズの襲撃に遭遇、救助されるものの、戦闘の際に起こった不慮の事故で当時のシンフォギアを扱う者の武器の破片が体内……心臓付近へと命中。 生死を彷徨ったらしい。
驚くことにここは本人も明確に覚えているらしく、彼女自身、その説明を受けた時の表情は珍しく硬かった。
けど、事はそう簡単ではないらしい。
彼女の心臓部付近にある武器のかけら。 ……つまりは
「立花さん、身体は大丈夫? どこか痛いところは無い?」
「へ? いえ、どこか気になるところなんて……いきなりどうしたんですか?」
身体が、普通の人間とはかなり違う細胞に“置き換わろうとしている”
昨日のガイバーへの殖装時に彼女を見た時だ、最初はそんな違和感はなかったけどやはり気になり、よく“観て”居た時に気付いた些細な変化。
俺は科学者じゃないから口で説明するのは難しい。 合っているか判らないけど、例えるなら白い画用紙を黒く塗りつぶしていっている感じ。 この場合、白い画用紙が普通の体細胞。 黒が……おそらくシンフォギア――聖遺物と呼ばれる代物だったのだろう。
今日一日、俺自身の事とかの片隅で微妙に気になり考えていたけど、やっぱり明確な答えなんか出ない。 これがシンフォギアを使う人全般に出るならまだわかるけど、残念ながら風鳴さんはごく普通の反応しか見れなかった。
だから、これはおそらくあの子だけの変貌。 ……いったい、どうなるかわからない変異だ。
言うべきか……迷うところではある。 しかしこの事を正直に言って、この子に余計な心配をさせていいモノなのか。
考えた。 俺はいつにもまして慎重に事を運ぼうとして…………
「……なんでも、ないよ」
遂に、“言わない”ことを選択してしまった。
「ふぅ、今日は最後にいろんなことがあったな」
聖遺物、シンフォギア、ユニットにガイバー……様々な話をして、いろんな人の意見を聞いた。 中にはガイバーのシステムがどことなくシンフォギアに似ているという人もいたけど俺はそう思わない。
「ガイバーって歌う必要無いしね」
単純明快。 それだけの回答だ。
いつにもまして志向性の無い回答は、きっと俺が疲れているせいだろう。
「おっと、もう着いたんだ」
先ほどから俺は風鳴さん達が所属する施設“特異災害対策機動部2課”のとある一室……いやまぁ、もったいぶらずに言うと俺の部屋なんだけど。 そこに向かう事2分、インスタントラーメンが作り終わる前にたどり着いた。 結構近いんだな、あそこと俺の部屋。
「まぁ、助かったけど」
しかしさっきの説明で、桜井さんがそれとなく俺が異邦人で過去の時間に生きていたらしいとばらしてはいたけど、みんな案外無反応だったなぁ。 言っちゃあなんだけど、結構言うのを躊躇した俺ってなんだったんだろう。
「いや、でもパニックになるよりはいいか」
突然だが、この特異災害対策機動部2課は地下数百メートル以上の深さにある。 だから太陽の光は無いのですべてが蛍光灯……の代わりに使用されている“LED”というもので灯されているらしい。
見た目はちいさな電球……いや、マメ球よりも全然小さい。 おそらく発光ダイオードかなんかを応用した奴なんだろうけど、それをここまで多く用意したうえで、こんな風に結構な明るさを放っている。
こんな小さなところにも感じてしまう……俺が、本当に未来の時代に居るという事を。
「さっき許可が下りたインターネットも全然環境が違った。 ハードもソフトも、何より掲示されている情報量が俺の居た時代とは比べ物にならない」
数少ないキーワードを設定しただけで、それに見合った以上の検索結果が表示されていく。 たとえば、俺が死んだとされる“みなかみやま”と入れたら284,000,000件もの情報量が提示される。
もちろんこの世界に俺が居た魅奈神山は無い。 ここでは名前を“皆神山”とされ、一般の手による遺跡調査すら入っているらしい。 ……クロノスが本当にいたら決して許される行為じゃないと思えば、これがこの世界に奴らが存在していないという事への“止め”となった。
奴らは、本当にここには居ないんだ。
「…………いないんだ」
さっきも言ったけどここは地下施設だ。 光と言えばすべて人工物であり、今あるのは頭上から照らされるLED光。 それを確認しても、俺は思わずそれに手を差し伸べずにはいられなくって。
「瑞紀、哲郎さん……みんな」
今まで居たと思っていた、俺の仲間たち。 それどころか俺が居たという証しすらないこの世界は、どこか自分の存在を否定していく様にも思えてならない。
なぜここに居る。
どうして戦わない。
「そんなこと、俺だって出来ることなら――」
思い起こされる風鳴さんの言葉は、今になって俺の心に重しを施す。 足枷のように、首に縄をかけていく様に……彼女の言葉は、思い出せば出すほど俺を苦しめる。
…………まるで、俺だけ平和な世界に逃げたと責める、置いてきた仲間たちの代わりをするかのように。
「……よそう。 そんなこと考えていたら本当のことになってしまいそうだ」
頭を振り、気分を変える。
どうせここで悩んでいたってどうにもならないんだ。 それにここでやる事も出来てしまった。 クロノスは倒したい、出来ることならみんなを無傷で助けることが出来ればなおのことだ。
でも、この身がいくら超常の力を手に入れようが、幾度とも死の淵から這い上がることが出来ようが……
「出来ることに限りはあるんだ。 だから焦るな、深町晶!」
――――ガツン、と。 握った右手を壁に叩きつける。 音、衝撃、何より返ってきた反動の痛みで心ごと目を醒まさせる。
「帰る方法は見つけるし、クロノスは倒す。 父さんの仇とか、そんなじゃなくってみんなを……クロノスの魔の手からみんなを守りたいからだッ!」
酔っていたのは悲劇的な状況からの“自分への慰め”だ。 そんなことしているぐらいなら、身体の一つでも鍛えていた方が有意義だろう。
出来ること……少ないだろうけどなんだっていい。 出来ることをやるんだ、俺!!
……でも。
「でも、今日はもう寝よう。 蘇ったからかはわからないけど、昨日からやけに疲れ……て……あれ?」
勢いをつけすぎた? ……イケナイ、足元がふらついてしまう。 ガイバーになってこんなこと今までなかったはずなのに。 これも、コントロール・メタルの不調のせい……なのか。
「だ、めだ……へや、いかなきゃ……うっ」
目の前がグラリと揺れる。 喉もとで何かが暴れ出しそうで、必死に抑えようといしきをしゅうちゅうすると……あしもと、気、まわらない。 耳なりも、きもちわるいしあたまも……
「おい、どうした」
「……す、すみません。 どうにも気分が悪くて……」
だれだろう。 もう目のまえがかすんでしまってよくわからない。
聞こえづらい。 みみ鳴りがとうとう頭ツウを連れてきたみたいだ。 でも、キビキビトシタ声で話しかけてくることはよくわかるし、…ツカんでくれる手の強さもフツウのあくりょくじゃないから……たぶん。
「ありがとうございま、す…かざな、り…さ……ん」
「…………」
あの人なのだろう。 あの目立つふくそうと、胸もとに入れたネクタイのあのひと――――それをアタマで想いながら、だけど確認する気力までなかった俺は、そこで意識を手のひらから零してしまう。
いま、自分が誰の肩に支えられているのか。
誰と誰を“間違えて”口にしたのかを認識することなんかないままに……………
「……」
広い廊下に、地下とは思えぬ明るさのこの施設。 今日も私は自宅へと帰らず、この施設の一室に寝泊まりしようと思う。 なぜかと聞かれてもわからない。 あの男が……いや、私よりも歳が低いのだからあの子、というべきだろうか。
16歳と言った彼が、いや、“つい最近”力を手に入れ、雪崩か激流に巻き込まれるように
何が彼を動かし、どのような心境で今まで“敵”と対峙してきたのであろう。 いや、聞いた話を整理すれば想像は容易いのかもしれない。 だから私は、それを……その“つよさ”を知りたいがために目を閉じ、今までの情報を事細かに整理していき――――
「クロノスの魔の手からみんなを守りたいからだッ!」
聞いてしまったのは男の咆哮であった。
熱く、強い、懸命な決意の声。 己が未熟を悟りながら、それでも泥をすする覚悟で這いずるかのようなその姿は、まるで“彼女”を思い出させてしまう。
「……っ」
思わず引く我が身。
声がするのは歩いていた通路の折れ曲りがあるその先だ。 上方から来る明かりのせいで、自身の影が向こうまで伸びずに己の存在を隠してくれたのは
そんなことを考え、後に聞こえてきた壁を叩く音を静かに聞くこと3回ほどの呼吸。 先ほどの叫びから一向に動きが無い“彼”の動向が、どうにも気になり……
引き返して別の道に行くこともできた。
敵ではないのだとわかったのだ、もうここで寝泊まりする必要もないはずだ。
だからここから先にある私が使っている寝室に行く必要もない。
ここを、通る理由など何一つないはずだろう。
様々な声が渦巻き、足が先ほどとは逆の道を歩もうとする中、やはり私は襟首を掴まれ、後ろ髪を引かれる感触を覚える。
「あの子……」
そうして出た言葉がこれだ。 もう、私は確認せずにはいられなかったのだ。
不躾、相手への配慮が足りない……そんなことは百も承知だ。 けれど彼の中にある、私には無いナニカを知りたい気持ちは強くなる一方だ。 弱いまま、己を虚像で塗り固めた私にない芯の強さ。
きっと彼は持っている。 きっと彼なら私に答えを――――…………なにを、考えているのだろう。
「いくら“墓石”が無くなり心が不安に襲われているとしても。 “そのようなもの”を誰かに見せられるものか」
そもそも。 そんなことを考えてしまうから弱いのではないか?
迷いを、持ってしまうのではないか……。 分らぬ答えを求め、彷徨うこともできない私は……わたし、は……
「ふ、これはいよいよ精神的にも辛いところまで来ているらしい。 奏は完全に居なくなり、そう思ったら今度は奏が持つべき“ギア”を持つものが現れ――どうなっているんだ、もう、訳が分からない」
立ち止まっているのは比喩で在りながら物理的な意味でそうであろう。 そう言えば大きな音がしてから物音というか、気配に変化が無い。 未だ先ほどと同じ位置に立ち止まっているのだろうとは思うが……彼はいつになったらそこをどいてくれる?
すこしだけ、本当に僅かに廊下の折れ曲りの向こう側を覗こうと、背を壁に付けて首だけ伸ばしてみると。
「…………いったい何、を……!?」
「はぁ…はぁ…っ」
「お、おい?!」
その光景に、思わず私は彼の肩を支えていた。
ほぼ反射的だ、なにか考えてのことでもなければこうしようという意思すらない、ただ、自然の流れからくる動作の筈だ。
もう、吐息が混じりあうその位置関係は、おそらくみるモノが見れば口出しとからかい、さらには話題の的になるであろうが今は関係ない。 この距離から見てようやく分かったのだからな……
「だ、だいじょう、ぶです」
「…………ッ」
彼の、線の細さというモノを。
あのとき。 初めて彼と戦場を共にした時はあの生物的外観を持つ鎧――ガイバーという武装でまったくと言っていいほどに分らなかった。 けど今は違う。
「何が大丈夫な物か。 今自分がどんな顔色をしているかわかるのか?」
「なんと、なく……」
「なら――」
直に触れ、支えつつも彼を立たせているこの状態だからこそ分かる。 ……彼が、本当に只の高校生だという事が。 中肉中背の極一般的な体格は、筋トレの一つや二つくらいはなんとかこなしている程度の締まり具合しか感じない。
何となく、今までやっていた。
そこから一転して、やらなくてはならない状況になった。 まさにその真っ最中だという感じの筋肉の付き方だ。 基本も、何もなっちゃいない。 ……そこまでを瞬時に掴み取ると目を細め、いま言った“戯言”を――
「黙って休んでいろ」
「……は、い」
一気に切り捨て。
「いま医務室に――」
「そこまで……これくらい、部ヤでネていれば……」
「…………本当だな?」
「はい……」
彼の言葉を少しだけ鵜呑みにする。
確かにここから医務室までは結構な距離があるだろう。 誰かを呼ぶ、そう言った手段があるのも事実だし、そうするべきだったのだろう。 だが、だけど。
「……すみません」
「構わない」
彼の顔が静かに言うのだ――他の人に心配を掛けたくはない、だから黙っていてほしい……と。
「…………すぅ」
「もう、意識もない癖にな」
支えていた側の半身に、更なる荷重がかかる。 気を失ったらしい、仕方ないので勝手にドアを開けさせてもらい、すぐそばのパネルを操作し電気をつける。 ……部屋、何もないのだな。
いや、昨日来たばかりで尚且つ手荷物というものなどないに等しいのだ。 あるのは、戦うためだけの道具。 本当にそれしかないらしい。
いけないな。 今は彼の部屋に視線を配っている場合ではないだろう。 とにかく安静にさせてやらなくては、例え風邪だったとしても下手を起こせば大惨事になりかねない。 それに彼の場合は……おそらく。
「下手な病院には出せやしないだろうしな」
無論、そんなことは司令が許さないだろう。 そもそもこの組織にも専属の病院というものがある。 私たち奏者がいつでも万全な状態を保てるように……そう言う題目でだ。 故に彼をそこに搬送するのも最悪可能だろうとは思う。
「こいつが、それを許せばだがな」
「う、ん……」
「待っていろ。 いま、ベッドに横たわらせてやる」
無地の素材で出来た寝具を前に、ついに意識を失った彼は、そのまま全体重をこちらにかけて倒れ込もうとする。 しかしそれに流される私ではない、鍛え上げた足腰で踏みとどまり、そのまま逆に――
「……見た目よりは重いか」
「…………」
彼を担ぎ上げて見せる。
自身の左腕を首裏に、右腕はひざ裏に持って行き、静かに息を吐いては足、腿、背筋と力を伝達させて姿勢を整える。 ここでふと、私が彼に対する行為を再確認すると。
「これでは本来の役回りが逆ではないか――手を焼かせる」
ついて出ていたため息は、きっとここ2年で一番軽いモノだったろう。
いままで世話を焼かれていたから? それとも……よくはわからぬ感覚はこの際おいておくとして、思考を切り替えて彼をベッドへ寝かせ落ち着かせる。
整っていた黒髪が汗でべた付き、額に張り付いているのを見るとつい、かき分けてやりたくなるのはどうしてだろうか。
「別段おかしな感覚ではなかろう。 ただ、不恰好が気になるだけにすぎん。 ……そうに違いない」
そう結論付け、私は彼の顔をひと目見るとそのまま足だけで方向転換。 この部屋に未練なく背を向ける。 そして誰ともなく、私はおもむろに口を開き言葉を連ねる。
「今日だけだ、私がお前に心を許すのは」
それは、己と彼の間に引いた一本の線。 これは決して超えられることが無い言葉の壁であり、境界でもある。 いくら敵が同じとは言え、やはり彼は奏を――かもしれないのだから。
偶然にしろ必然にしろ、故意で在れ無意識で在れ。 そのどちらかであっても同じ危険は拭いされないのだ、なら、ここに一人警戒をしていなければ、最悪同じ過ちが起きてしまう。 それは、なんとしても防いでいかなければいけない。
だからこそ私は、“奴”に対する警戒は引き下げない。 ……そうだ、警戒をしていなければいけないのだ、私は。
故に今起こった事はあくまで非常措置。
それ以上でも、それ以下でもないのだ。 警戒は、常にしないといけない。 そう、だからこそ――――――
「明日からはこういかんぞ……“深町”」
「…………すぅ」
「……そうだ、“こうはいかないんだ”……風鳴翼」
私は足早にこの部屋から退出する。
これ以上の長居は必要が無いし、する理由も皆目ない。 ならばいつまでも時間の浪費は明日のためにもよくは無いだろう。 先ほどの催しでかなりの時間も経っている、今日はもう、床に入り身体を休めるべきだ。
明日から、また“いつものように”剣としてあるために…………な。