強殖装甲シンフォギア――不適合者と規格外品   作:群雲

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第8話 決意響かせ、すすめよ乙女

 

 

 

 

 本日は晴天。

 出かけるには最高の、休日の午後。 俺は、ベッドの上でうつ伏せになっていた。

 

 

 ノイズと初めて戦い、それから数度の戦闘を日ごとに行う事既に5回目。 わかりやすく言うと13日が経過した今現在。 遂に6回目の戦闘を終えた俺は、枕に言葉をつぶやいていた。

 

 

 俺は、今まで本当に血みどろな戦いをしてきたんだな。

 こんなことを呟いたのは初めてだ。

 

 

 前に起こったノイズとの戦闘。 開始は俺と立花さんとのタッグを……実は俺自身が提案していた。 理由は、彼女がつい最近戦いに巻き込まれたという、まるでいつかの俺と同じ状況だったからだ。 きっと俺自身の経験からフォローが出来るのでは……そう考えた末の助け舟だ。

 それに、“あの”風鳴さんと彼女を一緒に戦線へ置くのは心もと……いや、不安でたまらなくなる。 今はまだいいかもしれない、まだ、俺が彼女たちのあいだで緩衝剤と成れるかもしれない。

 けど、俺が居なかったら……?

 そう考えるとその先が見えなくなる。 それくらい、風鳴さんが立花さんに向ける視線の質は“最悪”だ。

 

 ……と、関係ない方へ話しが逸れてしまったけど。 なぜ俺が最初にあんなことを思ったのか、それはやっぱり立花さんのあの言葉が原因なんだろう。

 いちいち気にしているようなものじゃないのはわかっているけど、どうしても思ってしまう、俺が、俺自身が、血塗られた道を歩くのに抵抗がなくなりつつあるという事を。

 

 既に常識を外れてしまっていたのはわかっていたけど、今までごく普通の生活をしていたはずの立花さんから見て、今の俺の普通はその実かなり常軌を逸しつつある。 今日は、それをよく思い知らされた……

 

「いままで、本当にがむしゃらにやってきたから仕方がないんだろうけど」

 

 それでも、今日の俺は彼女からしてみれば――いや、あの風鳴さんからしてみても“鬼”のように見えたに違いない。 なぜなら、彼女もガイバーを見る目が少し揺れていたのだから。

 

「っと、もうこんな時間か」

 

 戦闘後、俺はある程度の問診を受けて、それからすぐに宛がわれた部屋のベッドの上でうつ伏せになった。 全身に疲れは無いけど、精神的疲労は否めない。 だからこうやって楽な姿勢と態勢で気分を落ち着かせてはいるんだけど。

 

「さっきの言葉が頭から離れない……今までこんなこと気にしてなかったのに」

 

 あの子が……立花さんが年下の女の子だから? 初めて自身の戦い方を疑問に思ったのがあの無垢な目だったから……? いままでは大体の人間が俺よりも年上、さらに戦闘ではどちらかというと俺が他に頼る場面が多かった。

 哲郎さんとか、戦闘能力を持たない人は別として。 実際に戦いの場で背中を合わせる人物として、彼女は今までにないタイプの人間だった。 ……だから、接し方がわからない。

 

「年が近い女子なんて、学校でも瑞紀くらいだったしなぁ」

 

 困ったときに出たのは、憧れに近いような気持ちを持つ幼馴染の名前。 最近いろいろあって距離が近づいたかも――そう思っていた矢先の遺跡宇宙船でのあの出来事だ。 気になるのは当然で、心配になるのは当たり前。 なのに。

 

「最近、思い出す回数が減ってきている気がする」

 

 忙しい、タイヘン、疲れた。 まるで父さんが会社から帰ってきたときみたいな台詞をあたまの中に浮かべて消していく。 身に降りかかる災難が、遠距離恋愛紛いの思いを薄れさせる。

 これが熟年夫婦間における亀裂というモノなのか!? ……いや、俺と瑞紀はそういうのじゃないけど、さ。

 哲郎さん、俺、なんだかどんどん高校生らしくなくなってきてるよ。

 

「はぁ」

「そんな深い溜息をしてどうしたんですか、幸せが逃げちゃいますよ?」

「大丈夫だよ、最近起こった不幸に比べたら今は幸せの絶頂と言っても過言じゃないだろうし」

「えぇ!? の、ノイズと戦っていてもですか……?」

「うん。 あいつらは立花さん達さえいれば獣化兵を相手するよりか…………」

 

 哲郎さん……俺、今誰と話をしてるんでしょうね。

 

 ―――俺にだってわかるかよッ!

 

 そんな声が返ってきた気がする。 もう駄目だな俺は、かなり疲れているんだ、自分が想像するよりもずっと。 だからこんな幻聴を聞いて、答えて、会話みたいな独り言をしてしまう。

 長年の付き合いで言うところの親しいヒトが居ないからね、こうまで精神に異常をきたすのは仕方がないんだろうね。 ……もうね、俺疲れてるんです。 だからお願いなのでソロソロおふざけは――

 

「やめてもらえませんか!? 了子さんッ!!」

「ふぇっ!?」

「あ、……え? ちがう人の……声?」

 

 ……ちがうんだ、これには立派な訳がある。 そもそも俺はあの人の侵入を許さないために部屋のカギを複数にしているんだ。 ドア本体に1つ在ったのを改造して3個に増やし、さらにチェーンロックを上下にふたつ連ねて、極めつけはもっとも原始的な施錠である“カンヌキ”だ。

 雰囲気を出すために色合いは木製のそれに近くしてあるけど、風鳴司令が調達してくれた特殊鋼鉄と強化ステンを使った積層構造のこれは、ガイバーのヘッド・ビームに5秒は耐えられるほどの頑強さだ。

 

 あれを取り付けるのは骨が折れたよ。 なんてったって壁の硬度も通常とは違うから、釘とトンカチで――なんていうことはできない。 最初に試した瞬間、釘が“く”の字に曲がったのを見て悟ったよ。

 それでもあきらめきれないから、ガイバーになって日曜大工に奔走したのはいい思い出だ。 あんな心がわき踊る殖装は初めてだろう…………あぁ。

 

「俺はどうしてしまったんだ……」

「あ、あのぉ」

「なぜッ、ガイバーで……っ、大工の真似事なんてやっていたんだ先週の俺はァァ!」

「ふ、深町さん!?」

 

 あたまを掻き毟る。 もう、これ以上にないってくらい乱雑に。

 

「真面目に考えていたはずなんだ。 けど、最後のあたりはバイブレーション・グロウヴから鼻歌みたいな音声すら流して……もしかして“あの人”の影響が俺に――? あの人のお気楽が俺に感染でもしているというのか!?」

「深町さん!」

「もう、だめだっ……」

「深町さん」

「頭がおかしすぎる……」

 

 聞こえてくる呼び声なんてどこ行く風。 いらないわからない聞こえない知らないと、頭を振って全部を否定して、俺は駄々をこねる子供のように頭を振る……振る?

 

「あ、れ?」

「……あの」

「た、立花さん!?」

 

 いつから、どこから!? もしかしていままでの狼狽ぶりを見られたか! い、いやそれは大丈夫なはずだ。 声には出してないし、何より彼女の反応もまだ平穏無事。 なら、挽回の仕様はきっとあるはず――

 

「困ってたら、あの……声、かけてください」

「…………うん」

 

 ダメだ。 完全に気を使われている。

 落ち着け深町晶16歳。 この日本ではまだ6月もそこそこらしいから、そこで換算してもうあと少しで17歳だ。 そしてこの子はまだ15歳。 一歳とは言え、俺の方が年上なのであってなんとか引っ張っていかなければ。

 いや、頼もしいと思ってもらいたいんだろうな俺は。

 ……きっとすでに手遅れだろうけど。

 

「あのぉ」

「……どうしたの?」

「いえ、少しだけ深町さんとお話したいことがあって」

「はなし?」

「はい」

 

 なんだろう、俺に話なんて。

 っぐ、もしかして勉強を教えてほしいなんて言われるんじゃ……さっきも考えていたけど俺と彼女はひとつ歳が違う。 つまり、俺は彼女よりも一学年上の人間だ。 だから下の子に勉強のひとつ教えるなんてわけない。

 

「いやいや、そんなわけがないんだ」

「?」

 

 しかしここと俺が居たところでは歴史の差異が激しいらしい。 起こった過去の事件もいろいろと違うだろうし、そもそもこの時代では既に学校群制度なんかは廃止されて新しいものが導入されているとかなんとか。

 …………そんな、カビの生えた知識しか持たない俺に、果たして先進国を生きるこの子に教えることなんかあるのだろうか……

 

「わかったよ」

「深町さん?」

 

 認めよう。 この子と俺はおそらく勉学に置いてかなりの差があるのだろうという事を。 なら、やる事はひとつしかないじゃないか。

 

「認めるよ。 自分がいかにふがいないかを」

「え、え?!」

 

 驚かれちゃったか。 仕方ないよね、年上のそれも男子にこんなことを言われちゃったら、誰だってこんな声の一つ上げたくなるはずだ。 困った顔をしている立花さん、けど俺には出来ることはない。

 ……どうすることもできないんだ。

 

「あのぉ」

「ダメだよ俺なんて。 勉強ひとつとっても、教えてあげることはできないんだ」

「…………はい?」

「いや、だから勉強を」

「べんきょう?」

 

 ……なんだ? 何かおかしいことを言っているのか俺は。 いやまて、いつから俺が勉強を教える話になったんだ。 もう一度話を整理してみるんだ。 そもそもどうしてこの子は俺の部屋に来たんだ?

 

「…………」

 

 そうだ、そこからがおかしいじゃないか。

 まだこの子は何も言ってなかったはずだ。 ……焦りすぎだな、深町晶。 まだ、心のどこかが浮ついているのか判らないけど、おそらく立花さんを困らせたはずだ。 すこし落ち着け、俺。

 

「その、なんだか狼狽しちゃったみたいで、ごめん」

「あ、はぁ……?」

 

 馬鹿だなぁ。 自分の勝手な勘違いでここまで時間をと選らせるなんて。 ……さてと、変な考えもここまでだ、どうやら立花さんが何かを言いだそうとしているみたいだし、こっちは嬉々の態勢で居てみよう。

 

「……そのですね」

「うん」

 

 モジモジ。 言いたそうで言えない。 何か言いにくい事なのだろうか? けど、友達の小日向さんというあの子に言わず、わざわざ俺の所にくるんだ。 きっと、おそらくだけど普通の話じゃない。

 そう思うと、身体に自然と力が入る。

 

「…………ばささん」

「え?」

「つ、翼さんの事なんです!」

「風鳴さん?」

 

 ……そうか、いつかはとは思ってたけどまさか俺に聞いて来るなんて。 司令には聞きづらくて、桜井さんだとセクハラが待っている。 そして他の人には聞きに行ったけどはぐらかされたか知らないか。

 いろいろと憶測ぐらいはできるけど。 それらをやって最後に俺のところに来た。 そんな感じだろう。

 

「翼さん、なんだかわたしを見る目が厳しい気がして。 もしかしたら何か失礼なことをしたんじゃないかって、でもそんなこと自覚無くて」

「うん」

「でもでも! 友達からは天然なところがあるなんて注意もされてるし、きっと知らないところでポカをしてるんじゃないかって不安になって」

「……うん」

「わたし、どうしていいかわからなくて……」

 

 あぁ、うつむいてしまった。 らしくない、そう言うにはこの子とは付き合いが短い気がするけど、あえてこういうべきだろうな。 少しだけ震えている肩に、そっと手をやりたい気分だけどそんな勇気ハッキリ言って俺には無い。

 だから、言葉だけで応援してあげよう。

 

「大丈夫」

「深町さん?」

 

 根拠はない。

 

「いつか、なんてありきたりなことを言うけど。 きっとあの人のこと、立花さんはまだわからないんだよ」

「わからない?」

「うん。 だって考えても見てよ? キミはあの人とどれくらい話をしたかを」

「…………あ」

 

 自信もない。

 

「あの人がどんな人かなんて俺にもわからない。 けど、話くらいはできるはずだ」

「はなし」

「そうだよ。 キミがここにこうやって俺に頼ってきたように、あの人にも話をするべきだ。 同じ人間だ、言葉を聞いてもらって、解りあうことが出来るんだ。 まだ、出来ることがあるはずさ」

「できること……ですか」

「うん」

 

 それは、俺が出来なかったこと。

 話は通じず。 結局お互いを殺し合うことでしか決着を付けられなかったある親子。 ……そこまでは行かないにしても、何か手遅れになる前にどうにかして仲たがいをなくしてあげたい。

 

 ……でもまぁ。

 

「…………俺も苦手だけどね、風鳴さん」

「ふ、深町さん」

「ははは。 話のオチとしてならこれくらいはつけないとさ。 ……なんだか上から偉そうなこと言っちゃって嫌だしね」

「そう、ですね」

 

 軽く大げさに笑っているこっちに、向こうも若干の苦笑いで返してくれた。 うん、なんだかんだ言ってもこういう空気は良いな、やっぱり。

 

「よし!」

「ふぇ!?」

「決めたぞ」

 

 そうだ、やっぱり話をしなくちゃいけないよな、同じ人間なんだし。

 分かり合うことが出来るはず。 分かり合わなきゃいけないんだ、俺達は。 そっぽを向いて、見て見ぬふりばかりしていたらいつか絶対後悔する。

 

「苦手苦手と言ってばかりで堪るか! ここは、一度思い切って近づいてみよう!」

「え? ……翼さんにですか!?」

「うん、そうだよ」

 

 そうと決まれば善は急げだ。 あの人は自宅があるにもかかわらず、俺の監視をと言ってここで寝泊まりをしているらしい。 なら、オペレーターの人に聞けばどこにいるかぐらい――

 

「ダメですよ、いまは」

「え?」

 

 どうしてだい、立花さん。 ここで後ろを振り向くと、また尻すぼみになって一歩が踏み出せなくなる。 それは、出来ることなら避けておきたいじゃないか。

 

「翼さん、さっき“緒川さん”と一緒にレコーディングに行ってくるって出て行っちゃいましたもん」

「出て行った……そうか、ここにはもういないのか」

 

 なるほど。 俺が行動する前に既に立花さんは自分なりに動こうとしていたのか。 それで会えないから俺の所に。

 

 …………いやまて、いま立花さん何か変なことを。

 

「レコーディング?」

「え、はい」

 

 それって確か歌手の人が歌を録ったりする時の単語だったはず。 え? いや、でもそんな。

 

「あの人、高校生だよ?」

「そうですけど?」

 

 いけない。 なんでそんなことを聞くんですか? と言う顔をされてしまった。 ここで一つやっておかないといけないことが出来てしまったようだ。 いいかい、立花さん、俺はね?

 

「悪いんだけど立花さん。 俺はこの世界に来て1月も経っていないんだ」

「はぁ……?」

「……いや、だからね。 さっきなんだかんだ言ってたけど、今この時点ではおそらく、俺はキミより風鳴さんの事を知らないんだよ」

「へぇ、そうなんですかぁ」

 

 ……こ、この子ホントにわかっているんだろうか。

 

「仕方ない。 ここでまさかこんなことになるとは思わなかったし、なんだか探偵業の人みたいで気が引けるけど。 聞かせてもらおう、風鳴さんについて」

「ほぇ?」

「呑気に口元おおっぴろにしない。 女の子がそんなだらしのない顔しちゃダメだよ」

「あっ、いけないけない……でも、深町さんが? なんでわたしから……?」

 

 これは本当にどうにかしないといけないレベルだぞ。 どうやら立花さん、俺の事をすこし勘違いしている節がある。 恐らくこの子――

 

「立花さん、俺の事をキミより結構前にここに来たと思っているだろうけど」

「?」

「実は違うんだ。 俺は、君が初めてシンフォギアを扱うようになったその日にここで目が覚めたんだ」

「え!? あのとき初めて!! で、でも――」

「戦いに慣れていたのは、前言った通り別の世界での経験値があったから。 あの動きはガイバーを使っている賜物。 正直言って、この世界の常識はキミよりも低い」

「そう、なんですか」

 

 きっちり言わないとね、こう言うことは。 勘違いでとんでもない事態なんて御免だし、テレビじゃないんだからそう言うネタで笑いなんて取っていられない。 ……その勘違いで、刀美人のサビにされたなんて笑い話では済まないからね。 ……はは。

 

「えっとですね。 わたしが知っている翼さんはというと、学校はわたしと同じの私立リディアン音楽院高等科で、そこでもやっぱりあんな風な雰囲気なんです」

「リディアン。 この基地の上にある女子高か」

「はい。 それでですね、なんと翼さんは数年前に進出し、いまやトップアーティストと呼ばれるくらいの歌手なんですよ」

「……へぇ、そういう」

 

 なるほどそういうことか。 レコーディングって聞いて疑問に思ったけど、歌手だというのならすべてに納得が出来る。 というより歌手か、すごいなあの人。 初対面の時からすごい歌唱力だとは思ってたけど、まさか本職の人だなんて。

 

 そりゃあ、この子と比べてってのは酷な話だよな。 ごめんね、立花さん。

 

「でもすごいな、風鳴さんて」

「そうなんです、すごいんです!」

「……うん、そうなんだよね」

 

 学業、戦い、そしてアーティストと言う3つの顔を持つ彼女。 その忙しさは申し訳ないけど、世のサラリーマンですら目を見開くレベルに違いない。 音楽という世界は今まで無頓着だったけど、彼女たちが戦いのたびに奏でる歌を聞いてきて何となくわかる。

 あれは、只声に出していればいいって物じゃないんだという事を。

 

「確かに、そんなに忙しくしていれば気だって荒くなるかもしれない」

「……そ、そうですよね」

「うん。 さっきは何も知らずにあの人と距離を近づけようだなんて言ったけど、そのことを考えると少し待った方がいいのかもしれない」

「ですよ、ね」

 

 ……ただし、あの人がこの子に向ける視線が、まるで親の仇を見るかのような目だというのを除いてだが。

 おそらく彼女との距離を縮めるうえで、その話題は決して逃れていけないモノになるだろう。 知って、理解して、そのうえで彼女を見ていかなければ今以上の親交は不可能なはずだ。

 

 しかし何があの人にあんな目をさせるんだろう。 ……今度、それとなく調べてみたほうがいいのだろうか。

 

「……あまり人の事情に首を突っ込むのはよろしくないんだろうけど」

「深町さん?」

「いや、なんでもないよ」

 

 桜井さんか司令。 あの二人に今度当たってみよう。

 渋い顔をされるかもしれないけど、そのときの解決方法はそれとなく考えてある。 巻島さん、あの人のようにうまく行かないだろうけど、今度確かめてみるべきだな。

 

「それじゃ立花さんは、今度風鳴さんと話をしてみるってことで頑張ってね」

「はい! ……って、深町さんは?」

「俺はそうだな。 もう少し、この世界に溶け込めてからにするよ。 ここがどんな状態で、俺が居たところとどう違って、みんなが何を考えているのだとか」

「??」

 

 分らないって顔してる。

 当然かな、俺だってわからないんだし。 そもそも、ここに来る前の俺だったらこんな考えはしないし、もっと単純明快にしていたと思う。 けど、ここは違う世界で、俺はもともとここには居るべきではない人間なんだ。

 そんな人間が大それたことをしていいのだろうか。 はっきり言ってそう言ったマイナスな感情が無いはずがない。 

 

「もう少し、考えてみたいんだ」

「……はぁ」

 

 迷ってるんだ、ここで、俺が何かを為していいのかを。

 

「わかました」

「うん」

「良い答え、見つけてくださいね!」

「そうだね、見つかるといいね」

「みつかりますよぉ」

 

 優しい声。 励まそうとしているんだろうけど、残念ながらこの答えは――

 

「だって深町さん、いつだって自分が思ったことをまっすぐにやってきたじゃないですか。 この間だって、わたしが困ってたところを無理をして、一人で大変なことを背負って駆けだして」

「そ、それは仕方がなかったからだよ」

「それでもです! 困っている人を放っておけなくて、少し悩んでも自分がやりたい……やらなくちゃいけないことを見つけて行けるんです。 そんな深町さんがこんなに悩んで悩んで、そうやって見つけたものなら、良い答えに決まってます!」

「そうかな?」

「そうです! わたしが保証します!!」

 

 見つからなそう。 そう思っていた心が軽くなっていく様だ。

 前から思っていたけど、この子は本当に強い子だ。 いつだって誰かのためにと思って行動して、元気で、笑顔で。 普通の女の子なのに、どこか、普通の事は違う物が見え隠れしていて。

 何がこの子をこんなに強く動かすのだろうか。 そう思う俺は、少しだけ表情を崩していた。

 

「――――!」

「……あっ」

 

 唐突にポケットの中身が振動する。

 それはこの世界で衣服に次いで貰った俺の生命線。 スマートフォンと呼ばれる電話の次世代品がそこには入れられ、数少ない連絡先からのコールを今か今かと待っている代物だ。

 いま、その数少ない連絡先からひとつ、俺に向かって電話が掛けられている。

 ディスプレイには2課という名前が映し出され。 初期設定のままにしてある無機質で無頓着な音色が部屋中に響き渡る。

 そこまで見たからにはもうこの先の言葉はいらない。 わざわざ俺に2課の名前で電話が来るというのなら、それが意味する答えなんてひとつしかない。

 

「……ノイズか」

「深町さん」

 

 奴らが現れたという事。 それは、今この時に何らかの被害をこうむり、最悪の場合だれかの命が奪われているという事。 そう思い、気が付けば両手を硬く握り、身を震わせていた。

 身体中の血が沸騰しそうになる。

 

「…………奴らめ、このあいだ倒したばかりだというのに」

 

 まだ誰かの命を奪うというのか、性懲りもなく。

 風鳴さんがレコーディング中だという今、正体を隠さなければいけないからおそらくあの人は動けないだろう。 なら、今この世界でノイズに対抗できるのは俺と立花さんのみ。

 彼女の顔つきが硬くなる。 重責が、肩にかかっているようだ。 

 

「…………大丈夫」

「え?」

「キミが居るならノイズは一撃で倒せる。 ケガをしても俺は平気だし、立花さんに大事を起こさせるつもりもない」

「そ、そう言う意味じゃ――」

 

 遠慮して、両手を前に振る立花さん。 この場合は遠慮というより、本当に力になりたいがための積極性というところなんだろうけど、やはりここはなんというか譲れないものがある。

 戦いという物に触れている時間なら、俺はこの子より長いはずだからね。 先輩なんだ、頑張らないといけないだろう。

 

「別にこのあいだのように冗長してるわけじゃないんだ、ただ、その……」

「?」

「うーん……」

 

 ……言葉に詰まる。

 正直、白状すると先輩後輩というのは口実でしかない。 実際問題俺の中に占めているのはなんてことはない、只の……

 

「アレだ」

「え?」

「俺だって男なんだ、こういう時は格好つけさせてくれよ?」

「はい?」

「……いや、あのね?」

 

 この子は鈍感なのだろうか?

 できれば軽く流してほしかったんだけど。 いやほら、こう言うのを真っ向から説明しなおすのは照れが入るというかなんというか。 ……こういうところをヘタレというのだろうか。

 

「と、とにかくキミに大事があったら俺が小日向さんに何をされるか分かったもんじゃない」

「未来がですか?」

「そ、そうだ。 キミの一番の友達なんだろ? だったら、そんなキミになにかがあったら俺なんて強殖細胞の一片だって残らないよ」

「そんな大げさですよ~~」

「いやいや……」

 

 すこしだけ誤魔化しを入れてしまったのは俺がまだ高校生だからだろうか。

 巻島さんならまた違う言葉を見つけたろうし、風鳴司令だったらおおらかに且つ尊厳を見せながら気の利いたことを言うだろう。 まだまだだな、俺は。

 

「それじゃあ、未来に怒られないように深町さんには守ってもらっちゃおうかなぁ」

「うん。 小日向さんに刺されないようにしっかり無事に彼女の下に送り届けなくちゃだね」

『…………あははははっ』

 

 結局二人で景気よく笑ってしまうのは、お互いそう言った方面に疎いからかどうなのか。 男女という分別が曖昧な戦闘の空気を前にしても、最近出来上がった“余裕”を胸に置きながら俺は同じく最近出来た後輩に合わせて声を出して笑う。

 笑って、笑って。

 戦闘前に来る緊張感その他を一切合財投げ出してしまった時だ。

 

「行こうか」

「…………はい!」

 

 気合という叫び声を上げた立花さんと一緒に、俺は地下と地上をと繋ぐエレベーターに乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 週末、太陽が真上を昇りきった正午過ぎ。

 ノイズ発生の報を受けたガイバーⅠ=深町晶と、ガングニールの少女=立花響が何時ぞやと同じくチームを組んでの駆逐、要救助者の保護に駆けだして20分が立つ頃であった。

 深町晶の身を包む、強殖装甲システムがその超感覚を最大限に発揮する。

 

「……まだ、人が居るみたいだ」

「ホントですか?! もうかなりの人数が避難したと思ったんですけど……どこに」

 

 頭部の金属球からのアラートと、生命反応の報告を受けた深町は此処で響に向き直る。 その合間に来るノイズの三体を片足で蹴りあげるて黒炭へ変わらせていく姿には、既に慣れを感じさせる。 彼は、逞しくなっていた。

 

「は、話しの合間にノイズ対峙……あ、はは」

「別におふざけのつもりじゃないよ? ただあいつ等、こっちの事情というか話すタイミングで襲い掛かって来るもんだから」

「それで片手間で相手取れるのなんて深町さんくらいですよぉ」

「……いや、風鳴さんも結構なもんだと思うけどな」

 

 などと、軽口も言えるのだから益々だろう。

 

 さて、そんな深町が蹴り崩したノイズが、その身体を砂時計が如く舞い散らせると、青い身体がとある方角を向く。 それに釣られ、響も同じ方へ視線を飛ばしたその先には。

 

「はぁぁ~、大きいビルですねぇ」

「15階くらいかな。 でも大きいだけじゃない、よく見て立花さん」

「……っ!?」

「見えたね? 今の」

「はい…はい…!」

 

 大きな影が、響の頭上を通り過ぎる。

 一度見上げ下ろしたのは違うと思ったからだ。 こんな、自分に大きな影を落とすのは自然界では空にある雲だけだ。 そう勘違いしていた彼女は、2度目の視認でようやく思い至る。

 

「3回くらい前にこんなノイズいましたよね……」

「うん。 でも今回は規模も、何より状況が違いすぎる。 見てくれ、あのビルから時折見える触手みたいなの」

「……あれってまさか」

「ノイズだ」

 

 響の顔が引きつる。 だがその理由はなにも巨大なノイズを見ただけではない。 ノイズが絡みつくと言われた15階建てのビル、それを見た瞬間にあるものを連想してしまったからだ。

 

「あ、あのビル今にもその、なんていうか。 よくカラオケとかでゲームのために持ち込む……ほら、なんでしたっけあれ!」

「引き抜いた棒を上に乗せるアレだよね。 不謹慎だよ立花さん、確かにその通りだとしても」

「……あ、あれって」

「そうだね、相当アンバランスだ。 ガイバーのセンサーを使ってしまうのが恐ろしいくらいに外壁がボロボロだ」

 

 スワヒリ語で組み立てるという意味の積み木を思い出した彼らは、そのままビルを見上げたまま動かない。 しかしそのときだ、深町の頭部にあるガイバーのセンサーが、倒壊寸前のビルを勝手に透過、識別していく。

 そしてその結果を送りつけた後にあるのは……

 

「まずいな」

「深町さん?」

「あの中に生命反応がいくつかある。 それもビルの外壁からは見えない位置に」

「そ、そんな!?」

 

 緊迫の時間だけであった。

 

「助けないとッ」

「あ、まって! 立花さん!!」

 

 立花響は駆け出す。

 黒いヒール付のブーツを大きな音で打ち鳴らし、高く高く跳びあがる。 それは、彼女の意思を表すかのように盛大な駆け足は、確かに力強いモノであった。 それを、赦さないモノが居なければの話だが。

 

「きゃ!?」

「――あ!」

 

 不意に、響の身体がその場から消える。 遠くに聞こえる破壊音は、アスファルトが抉れた音だろう。 ここまでの情報量、例えガイバーを付けていなくてもわかる。 彼女は……

 

「い、痛たたた~~」

 

 瓦礫の山に頭から突っ込んでいた。

 気づいたら身体中煤だらけ。 叩き、掃ってそれらを落とすと、彼女の影を蒼い脚が踏む。

 

「大丈夫かい?」

「あ、ははは……いきなりコテンパンにされちゃいました」

 

 ガイバーを纏う深町を前にして、ガングニールの装飾を揺らすこと5秒。 小さく遠慮がちに息を吐いた響は、ここに来て再度腹部に力を籠め大地を蹴る。

 

「も、もう一回ぃぃ――――とりゃあ!」

「あ、だから……」

 

 右からの薙ぎ払い。

 

「やぁぁああああ!」

「あの立花さん?」

 

 正面からの衝突。

 

「キェェェェエエええッッ!!」

「…………ん、うぅん」

 

 それらすべてが軽くいなされ、三か所にクレーターが作られる様を見守る深町は、段々と響にかける声のボリュームを下げていく。 膝をつき、埃まみれのギアを手で払い直している響の目が少し潤いを醸し出してきていると。

 

 そこから幾たびの叫び声が聞こえていた。

 叫んだ誰かが嗚咽を漏らし、眺める男はため息をつく。 止めろ、そんな声が聞こえそうなものではあるが、事ここに居たって少女の気迫に完全に呑まれてしまったのだこの男は。 なんと情けない。

 

「……うーん」

 

 出てきたのは、只彼女の行動を抑止できない未熟さからくるため息だけであった。

 

「…………ん?」

 

 はずだった。

 

「なんだろう、いま違和感が」

「ひぐっ」

「あぁあぁ、泣かない泣かない……ほら、俺の手に捕まって。 ちゃんと立ち上がって」

「……はぃ」

 

 膝付く響の手を握り、ゆっくりと引き上げる。 身体中の装甲に付いた土を払ってやると、涙目の彼女を覗き込む。 しょげた顔、そう思った深町は改めてこの子の立ち位置を思い出す。

 

「いくらギアの力で炭化しないからって無暗に突っ込んじゃダメだ」

「でも中にいる人が……」

「わかってる。 けどここで俺たちが失敗したらそれで終わりなんだ。 冷静に、まずはどうするかをよく考えよう」

「……はい」

 

 彼女が、自分よりも戦闘経験が無い、このあいだまで普通の女子高校生だという事を。

 

「けどどうするんですか? あの触手みたいなノイズ、ビルの割れ目から突然生えてきていきなりこっちを攻撃してくるんですよ?」

「そうなんだ。 あいつはあのビルの中からキミを攻撃しているんだ。 立花さんが攻撃するたびに出すあの奇声と同時にね」

「……うっ。 わたしそんなに変な声出してましたか?」

「いや……そうじゃなくてね」

 

 そして自分より確実に天然であるという事を。

 強殖装甲が少しだけ汗をかいたように見えた。

 

「いいかい、立花さん。 よく考えてみるんだ」

「……なんでしょうか?」

「あの触手はどうやってキミの攻撃のタイミングでカウンターの真似事をやっていると思う?」

「それはあの触手がこっちをいつも見張って」

「――――と、思うよね」

「?」

 

 青い手が地面を触る。 その手が再び持ち上がり、彼の胸元にまで移動させるとその場で開く。

 

「小石?」

「少し見ていて」

「見てと言われても……なにするんですか?」

「いまにわかるよ」

 

 倒壊寸前のビル。 その右側十五センチ側に身体を向けた深町は右手を上げ、足を踏みしめて身体をしならせると――――小石が遠くに跳んでいく。

 

「ッ」

「あ、額が光っ―――」

 

 そう思った瞬間に、赤い閃光が石を砕き、散らす。

 

【…………っ!!!!】

「ひっ!?」

「……やはり」

 

 音が弾けた瞬間に飛び出てきた不定形な物体。 先ほど響が延々といじめられたノイズの触手だとわかった時には、強殖装甲から排気音が小さく唸る。

 

「ふ、ふふふ深町さんいま、なにもいないところにノイズが!?」

「そうみたいだね。 ……思ったとおりだ」

「はい?」

「……………………………………う~~ん」

 

 行動し、証明してみせた深町に対してこれでもかというくらいの疑問符を見せつける。 これには堪らず腕を組んだのは青い装甲の彼。 皮膚が通常であれば、思い切り汗をかいているであろう彼の頭部。 その頭部の金属球が蠢く。

 

「……居た。 こんなところに」

「居た? もう、深町さんさっきから一人で話を進めないでくださいよ」

「え? あぁ、ごめん立花さん。 さっきから立花さんが体当たりを続けていく中で、あのビルの中から大きな歪のような物を感じ取ってたんだ」

「歪ですか?」

「うん。 それはあのビルの9階あたりに強く感じ、今なおその質量を大きく広げて行ってる。 そして今のを思い出してもらえればわかるようになるだろうけど、さっきのは多分、小石を砕いた音にあのノイズが反応。 外敵と判断して攻撃してきたんだと思う」

 

 見上げる深町の視線の先には何が映るだろうか。 立花響には分らぬ超常の認識力を持つガイバーだからこそわかった今の状況は……実はかなり危ういモノであった。 故に、彼は静かに息を吸う。 ここからどうするべきだろう、そう考えて。

 

「助けるのは当然だけど、こんな時にでも周辺のノイズがうようよとしている。 ビルの耐久力を考えると外から穴をあけて、仲の人を助けることは出来そうにないしで時間も状況も最悪だ」

「…………」

「奴らの進行を抑えつつ、出来るだけ無音で迅速に……それが出来るのはキミだけだ、立花さん」

「………………」

「立花さん?」

「ダメです。 わたしにはできません……」

 

 それを断った時の目は、しかしどこにも迷いはなかった。

 

「不安なのはわかるけど、ノイズに感づかれずにあのビルの中には入って行けそうにない。 ガイバーの背は175くらいだけど、横に広いから瓦礫を通れない。 何より今の体重は200キロを優に超えるんだ、その重さで階段を昇ろうものなら、強度が落ちた建物じゃ崩れてしまうだろう」

「…………」

「だから――」

「違うんです。 そうじゃないんですよ」

「え?」

「わたしだって助けたい、だけどその場所がわからないんです。 それに体重ぐらいガイバーなら飛んで誤魔化せる。 狭いところはこの間使った相手を塵にしちゃう攻撃で崩していけばいいんです!」

「あ、あれは音波兵器だから音を感づかれて――」

「その分の音はわたしが騒いでかき消します!! なんならわたしの歌でアイツに聞こえないようにしてみます……いいえ、します!!」

 

 一番確実なのはそれしか無い。 自身の能力が追いつかないことを、いま重々承知した少女に撤回の文字はありえない。 それを、真正面から受けてしまった深町はもう、彼女の声に。

 

「……わかった。 俺が行くよ」

「おねがいします!」

 

 うなずくことしかできなかった。

 

「でも立花さん、くれぐれも気を付けて。 慣れてきたとはいっても多勢に無勢、キミはまだ戦い方を熟知しているわけじゃないんだ。 あまり派手に行き過ぎず、スタミナを温存しながら戦ってくれ」

「わかりました、体力ですね!」

「うん」

 

 首を縦に振った深町を背に、最速の槍の異名を持っていた聖遺物が、其の力を存分に発揮しようとしていた。 その眼前には、空間の乱れ……さらには周辺に散らばっていたノイズが群れをなし、先ほどまで注視していたビルに寄ってくる。 まるで、生き残っている人間の存在に気付いたかのような行動に響は。

 

「ふん!」

 

 開けていた左手に、右拳を叩きつける。 響、奏でたその音に現れたノイズたちが一斉に振り向く。 ……待っていた、この瞬間を。 そう言おうとしたのだが、口から声が出て行かず。

 その代り、立花響の背中に汗が下っていく。

 

「あそこにいる人たちと、あそこを巣にしてるノイズの事はお願いします」

「……任された。 頑張ってくれ、立花さん」

 

 心細い。

 声を聞いた深町が最初に抱いた感想だ。 だが、だが――――

 

「ここは、キミに任せる」

 

 彼は背を向けビルに侵入していく。

 そのあとから聞こえてくる、頼りなく、けれど力強い歌声を背に受けながら。

 

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