次回は戦闘をメインにする予定です
真夏の夜は蒸し暑い
とにかく暑い、暑くて眠れやしない
そんな事当たり前だと思うが
そうやって愚痴をこぼせば少しは気が晴れる
だがそんな事を言っているうちはまだ大丈夫
本当に怖いのは何も感じなくなる事
この異常事態で何も反応しなくなる事が異常なのだ
クーラーの故障により扇風機で夜を凌ぐ
深山町三番地のマンションに住む青年はそんな事を考えながら布団の上でゴロゴロと気を紛らわしていた
ダメだ、水を飲もう
立ち上がり冷蔵庫に向かう
ガラスコップに水が注がれ
徐々にガラスが潤いを取り戻していく
まるで若返ったと思うくらいにコップは乾いていたようだ
半分ほど飲み終わり
ふぅ っと一息ついた
この調子だと朝まで眠れるか心配になる
何か策はないものか…
しばらく考えた末に
辿り着く
そういえば…冷凍庫に水枕があった筈だ
上から2番目の段を確認し歓喜する
これを首元におけば少しは楽になる筈だ
よしよしと水枕をタオルに包み布団に置く
おっといけないっとコップに残った半分の水を飲もうとした時に…ふと気付いた
水に表面が僅かにブルブルと波を打っている
そりゃあコップを置けばしばらくは振動で揺れるだろう
しかしこの揺れ方は何かおかしい
何か巨大な足音…
そうジュラシックパークでT レックスが迫り来る時のようなあの振動だ
青年の推測はあながち間違っていなかった
間違いを指摘するならその震源は恐竜ではなく一匹の槍兵であった事だ
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一方、こちらの青年は気を紛らわす暇もなく迫り来る危機にただひたすらに策を練っていた
よりにもよってこのサーヴァントがやる気満々な事が逆に彼を焦らせた
正直逃げ切れるとも限らないが
正面切って戦うよりかはまだチャンスがあると踏んでいたからだ
この英霊がまともに戦えるかを俺はまだ知らない、
知らないからこそ信用していいのか分からない、
どうする…どうする…どうする…
焦りは刻々と冷静さを蝕んで行き
やがて怒りに変貌しようとしていた
だいたいなんでこんな事になってるんだ…
俺はただ金が欲しかっただけなのに…
いつから…
いつから間違えた…
俺は何を間違えた…
この戦争に参加しようと決めた時か?
それとも初めて借金に手を染めた時か?
それとも…
俺が産まれた時からか?
やり場のない怒りは思考停止へのカウントダウンだ
怒りとはそもそも思考停止させる
もう何も考えたくない
ただ現実を直視したくない
消えてしまえ…
目の前から消えてしまえばいいんだ…
そうだ…
このまま…
そんな俺を見かねたのか
ルーラーが話しかけてきた
「君が私に期待していないのは分かっている
私自身も暴力を好まない主義だ《プリンシバル》が信用できないのも無理はない」
俺の焦り具合を見ていれば語るまでもない
そうだこの男が暴力を好まないのはだいたい把握している
喧騒を好まないというのは言ってしまえ自分の力に自信がないと言っているようなモノなのだ
だが同時に疑問が浮かぶ
「じゃあ、なんで迎え撃つなんて豪語出来るんだよ?」
そうだ自信がないのに何故立ち向かうのか
分からない
相手はサーヴァントだ
恐らく知力だけでどうにかなる相手ではないコイツだって分かっているだろう
なのにどうやって…
ルーラーはそんな俺の心を見透かしたように
落ち着いた口調で反論する
「これだけは言っておこう…
私は必要条件もなく市場に参入するような
馬鹿者ではない」
…よく分からない単語が出てきた
「何か勝つ見込みがあるのか…?」
「無論!」
自信満々に声高々に
男は言い放った
「私も魔術については多少はかじっている
実は時計塔の新設に少し関わっているんだ」
…新設?
「それに市場に対抗できる程の強みもある
自分で言うのもアレだが、決まれば勝つ
必ずだ…!」
……
「だが《プリンシバル》…いやマスター…
シェアを獲得するかは…
結局の所、君の意気込み次第なんだ」
…………………
………………………
かの経済学者にここまで言われたら
引くわけにも行かなくないか…
そうだ悩んでいたってしょうがない
やるしかないんだ
何処か青臭いような感情は
失われていた闘争心に火を灯し始めた
そうだ…やるんだ
一族とか
借金とか
そんな事はどうでも良いんだ
今ここで負けたら…
今ここで自信を失ったら…
「《プリンシバル》…
保険にも入っていない君が今死んだら
きっと負債しか残らないだろうな…」
ルーラーが哀れむような目で俺を見ていた
「余計な一言を追加するな!」
そうだやる事はただ一つ…
「…迎え撃つぞ!」
勝つ…絶対にだ…
どんな卑怯な手を使おうと
泥水を啜ってでも
敵をぶっ殺す
「その意気だ!マスター!」
その瞬間
ルーラーは俺の肩を叩いた
いや、叩いたのはルーラーではなかった
何故なら、俺とルーラーの間には手を置けるほど距離が近くないからだ
でも、肩を叩かれた
誰に…
振り返ると笑みを浮かべたルーラーが立っているだけだ
そして手を顎に置きながら発言する
「では…
マーケティング(作戦会議)を始めようか」
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槍兵が到着した
ここに到達するまでに約5分程…
途中屋根裏を登ったり人目を避けたりなどで2分程掛かってしまったが
それでも早い到着と言えるだろう
だが、もう少し早ければ待ち構えられる事も無かったかもしれない
ルーラーとそのマスターである宝城優臣は
既に道路の上に待ち構えていた
「やっぱ夜襲なんて無理じゃねえか」
呆れたように首を横に振り
ハアっと溜息をついた
彼自身、手っ取り早く相手を始末した方が良いのは分かっているが、やっぱり真正面から戦いたかったのだろう
それ故に少し嬉しそうだ
「いや、そうでもないさ
コッチも召喚されたばかりでね
そちらが数秒早く着いていれば結果は分からなかったよ」
ルーラーは落ち着きながら相手のスピードを称賛した
「して、君はランサーのサーヴァントで間違いないかね?」
ルーラーは冷静だった
こんな時でも情報分析は怠らなかった
「あぁ、正解だぜ、
そういうアンタはキャスターのサーヴァントか?」
相手も聞き返す
だが特に必要として聞いた訳でもなさそうだ
単に聞かれた事を聞き返しただけ
初対面の会話あるあるだ
だが…
「残念だが、初対面の相手にそれは教えられないな」
おいおい…いきなり挑発かよ
相手はニヤっと笑顔を見せているが
たぶん…
「挑発とは良い度胸だなスーツ野郎」
あぁ…完全に乗り気だ
「なら死ぬ間際に答えてもらうぜ!」
相手が構える
敵を突く構え
同時に走り出す構え
獣のような構え
敵は攻撃の構えに出た
いよいよ本番だ
勝機は薄いがやるしかない…
よし…!
コチラが陣形を整えた、と同時に
ランサーは顔をしかめた
「テメエ…どういうつもりだ?」
ランサーの疑問は最もだった
だがコチラからすれば最も論理的な作戦だ
何故なら前衛は…
「どうもこうも…こういう事だが?」
ルーラーは俺が言うべきセリフを言いやがった
そうだ、前線は…
俺の役目だ
「……調子に乗るのも大概にしとけよ」
突進
そして突き
あまりの速さに槍先から気流が見えそうだ
しかもただ突くだけではない
その速さと心臓を狙う正確さが絶妙なバランスで襲いかかってくるのだ
プロに格闘家でも避ける事は難しい
ましてや普通の人間なら回避は不可能だ
そう…普通の人間ならば…
紅の槍は俺の身体には到達しなかった
俺は右足に力を入れて身体を斜めに逸らした
それだけの事だった
それだけで槍は命中しなかった
一連の挙動で分かった事が二つある
一つは“瞬発強化”と“筋力強化”だ
この二つの魔術で俺の運動能力を限界まで引き上げればこのサーヴァントの攻撃をギリギリ回避できる
そしてもう一つ、
奴は俺を舐めているという事だ
俺の体格から武術を心得ている事を見抜けなかった観察眼の低さがこの結果を起こしたのだ
一族直伝の体術「騭」
相手を定め、実力を定める事で
反射神経の伝達を極力高める体術
詳しくは説明できないが
要するに反射神経は鍛えられてるって事だ
自慢じゃないが黒帯くらいならボコボコにした事がある
それが攻撃を回避した要因だった
それは同時に奴とギリギリ戦える事を意味する
呆気にとられているランサー
間髪入れずに左脚に力を込めて
詰めよる
右手に神経を集中
そして唱える
「ー 言の葉を呪いに ー 呪いを顕に」
“物質化”《マティアリアリゼイション》
物質化した呪いが右手に完成する
そしてそれを
パンチをするかのように相手の脇腹に打つ
霊気化した呪いをぶつける場合
例えると銃弾を至近距離で放つような
そんな感じだ
逆にそんなものが効くのか疑問に思うだろう
だがサーヴァントの肉体はエーテルで構成されているのだ
魔力の通ったものならダメージは与えられる
だが…
「そう上手く行く訳ないだろ馬鹿が!」
不発
そう上手くは行かなかった
やはり歴戦の戦士は筋力も反射神経も桁違いだった
飛び足を前に出して途端後ろに仰け反ったかと思えば一瞬にして距離を取られてしまった
だが…
やはり焦っている
目が驚きを隠せていない
目は口ほど何とやら
ウチの体術は相手の目を見て行動を読む事を基本としている
敵が目を瞑らない限り動きは大体読める
さっきの回避も俺はずっとランサーの目を見ていた
こうして結果が出るとウチの武術も大したものだと感心してしまう
ランサーが構える
おそらく次は一点集中ではなく
連続した攻撃が来る筈だ
そして
迫る
槍は横に薙ぎ払われた
思わず後ろに回避
相手はそれを見越したかのように
突く
俺は右脚に力を入れ、それを回避
ランサーは伸ばした腕に力を入れ
右に薙ぎ払う
そんな一連の攻防が約30秒続く
そして薙ぎ払いを後ろに回避した瞬間
ランサーが詰め寄る
一気に距離を詰められる
恐ろしい瞬発力だ
だが…
思った通りだ
もう一度右手に神経を集中
そして詠唱する
「ー 言の葉を石に ー 石に呪いを ー」
“物質変換”《トランス》!
「うお!」
ランサーが声を出すのも無理はない
目の前に先端の尖った棒が迫って来たのだから
しかし首を傾ける事で何とかなった
そして再び距離を取られる
ランサーは槍を構えながら叫ぶ
「さっきから舐めた真似しやがって!」
だが俺も言い返す
「力量を見誤ったな…青タイツ!」
睨み合いは続く
一方で戦いを観戦していたルーラーは
内心ワクワクしていた
やっぱりなっと予想が的中した事に喜んでいた
(このマスターは魔術師として優れた才能を持っている)
ルーラーがそう確信したのは召喚直後に彼のレポートを見た時だった
魔術を多少かじっているだけ彼の目から見ても、そのレポート内容が良く出来ている事に気付いたのだ
それ故に、ランサー到着前の作戦会議では
彼が武術と魔術をどれほど扱えるかを確認した
それによっては最悪自分が前に出ようとも考えたが、その必要はなかった
現に作戦は順調と言えるくらい着実に進んでいる
もうそろそろだ…
見えない勝利は徐々にその姿を顕そうとしていた
武術と魔術はオリジナルの設定にしました
ちなみに 騭 は シツと読みます
魔術については後々解説します
ルーラーが必要条件が何とやらと言っていましたが
言葉の通り最低限必要な条件の事です
例えばコケシを売りたいならコケシを作る技術などが
必要条件になります
しかしマーケティングにおいてそれだけでは十分とは言えないのは
常識的にも明らかです
販売ラインの確保や顧客の確保などの十分条件を満たす事が重要になります
両者揃って初めてマーケティングをする事が出来ます