事件が発覚したのは、よく晴れたある日の午後の事だった。
「司令官さん。その、ボーキサイトの減りが早くないですか?」
今しも遠征から帰って来たばかりの電の言葉に、提督はふと首を傾げた。
確かに資材は消耗品。燃料弾薬はもとより、入渠すれば鋼材も減る。
その管理には気を配っていたが、そう言えばボーキサイトはどうだったのか。
「遠征で持ち帰った資材があっという間に無くなってしまっているのです」
ボーキサイトの消費は概して艦載機を運用する空母を出撃させた場合だけだ。
ここ最近は大規模な機動部隊を編成することはなかったはずだが――
「……やっぱり、おかしいのです?」
おずおずと電が差し出した管理帖には、恐るべき実態が記載されていた。
減っている、などというレベルではない。もはや「消えている」と言うべきだ。
「はわわ! 司令官さん、どうしたのです!?」
もはや一刻の猶予もならない。
このままではそう遠くないうちに鎮守府の財政が破綻する。
何としても異変の正体を突き止めねば。
提督は机を叩いて立ち上がると、そのまま足早に執務室を出ていったのだった。
ともあれまずは聞き込む以外に他はない。
ボーキ消費の第一人者(?)である空母娘らに片っ端から声をかけていく。
「何か相談? いいけれど」
「えーっとあの、さすがに補給以外でボーキサイトは……」
「ボーキがないんですか? 多聞丸に怒られますよ」
「なんや? ウチはボーキなんて弄ってへんで」
「ボーキサイトって……提督? あんっ♡ 格納庫まさぐるの止めてくれない?
んぅっ♡ っていうか邪魔ッ!!」
しかしながら結果は芳しくなく手応えは全くない。
別な意味での手応えはあったがこれについては言及するべきではないだろう。
結局、ボーキの行方は判明せず、提督は再び遠征を命じるのだった。
それから数日を経た夜。ついに鎮守府のボーキが危機的なレベルまで減少した。
このままでは艦隊の運用・維持が困難になってしまう。
ひとしきり悩んだあげく、提督は一つの策を編み出した――
「司令官さん、本当にこんなことしていいのですか?」
「気合が入っていないわね電。そんなんじゃダメよ。今夜のわたし達は名探偵なんだから!」
何を隠そう、提督の用意した作戦とは徹底した張り込みだった。
遠征から帰って来た第六駆逐隊の面々をそのまま倉庫に張り込ませ、そこに便乗したのである。
「もう、狭苦しい場所で困っちゃうわ」
「そう言ってやるな、暁。提督も困っている。……だいぶ深刻なレベルで。」
山と積まれた資材の中に身を隠すこと数時間。
ついにその時はやって来た。
――ゴソゴソ……カリカリ……
「な、なんの音なの?」
「しーっ! なのです」
果たして暗い倉庫の中に響き始めたのは得体のしれない異音であった。
これぞ妖怪ボーキ荒らしの犯人に違いあるまい。
確信を得た提督は意を決し、懐中電灯を突きつけて物陰から飛び出した。
するとそこには――
「あ、あはは……見つかってしまいました……」
なんということでしょう。
其処に居たのは、一心にボーキを捕食する一航戦、赤城の姿ではないか。
もっきゅもっきゅとボーキサイトを平らげると、さも平静を装って一言。
「――ボーキサイト? いえ、知らない資材ですね!!」
そんな白々しい言い訳が通用する筈もなく、阿修羅すら凌駕する憤怒に染まった提督に肩を掴まれた赤城は、そのまま問答無用で執務室へと連れ去られていった。
道中、何かが爆発したりするような音が聞こえたが、きっと気にしていけないことなのだろう。
「そ、そろそろ帰りましょうか」
「電は何も見ていないのです。なにも見ていないのです……」
あまりにショッキングな出来事を頭の隅に追いやりつつ、駆逐艦の面々もその場をあとにした。
――数日後
「あはは……その、良く似合ってると思いますよ、赤城さん……」
「いいのよ、蒼龍。気を遣ってくれなくても……」
果たしてそこには、生まれ変わった赤城の姿があった。
箒に塵取りを持ち、せっせと掃除に励む姿が何とも涙ぐましい。
しかもそれだけではない。今や赤城の首元にはあるプレートが掲げられていた。
【無暗に餌を与えないでください】
「一航戦の誇り、こんなところで失うわけには……!」
悲しいかな、既に失われた誇りに自信を見出そうとする赤城。
赤城への餌付け禁止令はその後も続き、いつしか「妖怪食っちゃ寝」なる渾名を頂戴するようになりましたとさ――