「お、おい! やめないか、陸奥!!」
「なによぉ、寒いんだから一緒に寝てくれてもいいでしょぉ。どぉせ長門姉だっていっつも私の布団に入ってくるんだしぃ……」
「いいわけあるか!! こ、この酔っ払いが……!!」
ある寒い日の夜である。
提督から貰った酒を味わってから、いい具合に酔いが回ってきた陸奥を抱えて布団まで運んできた長門だったのだが、さすがに酔っ払いを抱えて自室まで戻るのは骨が折れ、そのまま布団に倒れ込んでしまった。そこへ酔った陸奥がにじり寄って来たのである。
「酔ってなんかないわよぉ!! 一緒に寝てくれてもいいじゃない……」
「お、お前なぁ……」
正直なところ、陸奥を押しのけることくらいは造作もない。
とはいえ妹をぞんざいに扱うのは躊躇われたし、長門にしたところでだいぶ酒が入っていた。
ここが陸奥の部屋でさえなければそのまま眠ってしまっていただろう。
「ええい、放せ陸奥。あんまり絡みつくな!」
そうは言うものの陸奥は一向に離れようとせず、ますます長門に密着する。
すっかり崩れてしまった寝間着の胸元からは、艶めかしく火照った肌が覗いている。
「やめろ、陸奥……いい加減苦しいぞ……!」
「なによぅ、いいじゃないこれくらい……それとも、一緒に寝るだけじゃイヤなの?」
悪戯な笑みを浮かべて囁いた陸奥の横顔を見て、長門はふと思った。
ここでいっそ「そうだ」と言ってみてらどうだろう、と。
いつもはこの手の言い回しで散々からかわれてきた長門である。こういう時くらい仕返しをしても罰は当たらないだろう。肩透かしを食らった陸奥はどんな顔をするのか。
酒に酔った頭で導き出した回答を、長門は意地の悪い笑みと共に返す。
「……そうだな、ただ寝るだけというのも面白くないだろう?」
してやったり、と笑みを浮かべる長門だったが、しかし陸奥の反応は冷静だった。
その代り、予想もしない行動で長門の口を封じてきた。
「へぇ……」
陸奥は短くそう言うと、困惑する長門の唇に吸いついた。
「んん……ッ!?」
くぐもった声を陸奥が洩らす。
予想だにしなかった反撃で、長門の頭は真っ白になっていた。
たまさか自らの妹に唇を奪われることになるなど、一体誰が想像しよう。
しかも陸奥のキスは唇を重ねるだけの生易しいものではなかった。舌を滑り込ませ、絡め合い、貪欲に口内を蹂躙する荒々しいものだった。呆然としたままされるがままになっていた長門は、抵抗らしい抵抗もできずに陸奥の舌を受け入れざるを得なかった。
「ぷはぁ……」
長い長いキスが終わって、ようやく陸奥が顔を上げた。
頬が赤いのは決して酒のせいだけではあるまい。その証拠に、長門を見下ろす陸奥の瞳には、
背徳の興奮と嗜虐の喜びが炎のように燃えている。陸奥が「その気」であることは誰の目にも明らかだった。
「ま、待ってくれ、陸奥……」
「やぁだ。待ってあげない」
陸奥の手が長門の着る寝間着の帯にかかった。
震える手で帯を押さえ、潤んだ瞳で懇願するも、どうやら陸奥相手には逆効果だったらしい。
「長門姉の指……綺麗……」
ほんの一瞬、小悪魔めいた笑みを浮かべた陸奥は手を止めると、帯を押さえる長門の手を取って撫で擦ると、唐突に白く細い長門の指を口に含んだ。
「う、うあ……ッ……や、やめ……!!」
切ない喘ぎ声が長門の口から洩れた。
だがしかし、陸奥にはやめる気持ちなんて全くない。長門の反応にますます興奮を高めると、これ見よがしに舌を絡め、淫猥な水音を隠そうともせずに舐めまわす。
「む、陸奥……お前……」
「大丈夫。私に任せて」
蠱惑的な舌使いの余韻を残す声でそう言うと、陸奥は再び寝間着の帯に手をかけた。
帯がほどけ、裸に剥かれていくその間、長門は妙にぼうっとした気持ちのまま陸奥を眺めていた。
「長門姉、震えてる」
「そ、そんなことは、ない……」
「嘘ばっかり。もしかしてはじめてなの……?」
こんな陸奥、今まで見たことなかった。
優しくて、気立てがよくて、でもちょっとうっかりしたところのある陸奥しか、長門は今まで知らなかった。こんな、女としての陸奥の姿など――
「胸もおっきいし、肌もスベスベだし、髪もきれいだよね」
「陸奥……」
何か言わなければと思うのに、張りついたように言葉が出ない。
身体は熱く火照っていて、頭は霧がかかったようにぼうっとして。
もう、すっかり腰砕けになってしまった。
「陸奥……陸奥……」
自分の声とは思えないほど情けない声。涙声とも震え声ともつかぬその呼びかけに、
「なぁに?」
凄艶な笑みを浮かべた陸奥は、これ以上ないほど艶っぽい声で答えた。
「や、やさしくしてくれ……」
「どうしようかしら。長門姉、激しいのも好きそう」
こんな、自分の妹に組み敷かれて体を求める日が来るなんて、思ってもみなかった。
でも、いまはどうでもいい。ただひたすらに陸奥の温もりが欲しかった。
「は、はじめてなんだ。その、やさしくしてくれ……」
「ふぅん……?」
「お願いだから……やさしいのが、いい……」
「……そう、じゃあ仕方がないわね。できるだけ優しく、ね……でも、あんまり長門姉が可愛いと、わからないから」
そう言って、陸奥は長門の体に覆い被さった。互いの温もりを混ぜ合わせるように密着すると、陸奥は秘め事を耳打つように唇を寄せてこう囁いた。
「それじゃあ……一緒に火遊び、しよっか――――?」