幕末の義賊   作:アルマジロ

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 三人称視点、主人公(桜泥棒)、三人称。

 の順で視点が変わってます。視点がコロコロして読みにくいでしょうがごめんなさい。


第三話:里へ(後)

 枯れ枝をどうするか悩んでから、ポケットの中にしまうことにした。入るか不安だったが、ちょうど入る。

 

「うーん」

 

 あの不思議な青年が言うには、この里は結構危ないところらしい。しかし、里の人間に最初こそ違和感を感じたが、そこまで危ない人とも思えない。だが、沖田が、何者かが敵意をもってこちらを見ているといっていたことも事実。

 

「でも、一応は里の人間の言葉で説明がついちゃうんだよなー」

 

 根っから疑うのはあまりよくない。彼らが敵意を持った目でこちらを見ていたのは、彼らの言う通り、年貢が厳しく逃げてきた者が集まってできた里であったなら、警戒することも当然だろう。

 だが、長く戦ってきたからこそ培われた直感だろうか。あの青年の言うことは正しいことのようにも思えた。

 

「分かんないから、とりあえず源郎さんの家に戻ってみようかな」

 

 

 

 今まで来た道を戻って、源郎の家に戻ると、体を起こした沖田と、その沖田と話しているマシュだけであった。

「あれ? 源郎さんは?」

「えっと、里の皆さんに連れられてどこかへ。何でも誰か不審な人がいたと。もし藩の役人だったら私たちが巻き込まれるかもしれないから、ここで待っているようにと」

「……不審な人か」

 

 一瞬先ほどあったおかしな青年のことを思い出す。里の他の人間と違って、ずいぶんと上等な着物を着ていたし、確かにこの里の人間ではないのかもしれない。それなら、その藩の役人である可能性もあるのではないだろうか。

 

「マスター、この里少しおかしいです」

 

 ふと、沖田が言った。

 マシュも沖田の言葉にうなずいて同意を示す。

 

「この里の人間、みんな実力者ぞろいでした」

「それも、あの人と似た特徴の……なぜ、土方さんはこのことを知っていたのでしょうか」

「? 土方がどうしたの?」

「いえ、彼らの体運びは独特のものです。隠密行動に特化しているようで、先ほどの源郎という老人は、剣を修めているようでした。彼と同じで」

 

 それ以降黙りこくってしまう沖田。やはり様子がおかしいが、土方の名前が出てきたのも気になった。レイシフトする直前に何かをこっそり話しているようであったが。

 それに、沖田が今言った「彼」とは誰のことを差しているのだろうか。

 

「その、沖田さんは、何かを探しているのですか? 里に入ってから、ずっとちらちら何かを観察していたようでしたが」

 

 沖田があえて言っていないということは、きっと言いにくいことなのだろうと考えたのだろう。少し躊躇いがちにマシュは沖田に尋ねた。

 

「そうですね。ある人を探しています。その人と会いたいのです。会えるかわかりませんが、この時代のどこかにいるはずなのです」

 

 

 悲しさを含んだ笑顔を浮かべて言う沖田に、藤丸とマシュは思わず顔を見合わせるばかりであった。

 

「それで、その人はどこに?」

「分かりません。この時代に彼がどこで何をしていたのかはさっぱりわからなくて」

「そうかー。うーん、何かヒントがあればいいんだけどなー」

「ヒント……この里」

「? この里に何かあるの?」

 

 藤丸の質問に、沖田は何かを言いかけて、少し目をそらして「いえ、何でもありません。お気になさらず」なんて言う。

 

 何かあるのだろうと分かっても、沖田が言いたがっていないのだから追及するわけにはいかない。

 やけに重くなった変な空気を払拭しようと、藤丸はポケットの中のものを取り出した。

 

「そういえばさっき変な人がいたんだよ」

「変な人? 先ほど里の方の仰っていた不審者を見たのでしょうか?」

「それはわからないけれど、黒い着物を着て、腰に短い刀を差してたよ。それで、何よりおかしいのは――」

 

 藤丸はポケットにしまっていた桜の枯れ枝を沖田とマシュに見せた。

 

「枝? ですか?」

「うん、枯れ枝みたいなんだけど、突然渡されて――」

「そ、れを、何処で?」

 

 気づけば、沖田が布団から立ち上がってまじまじと枯れ枝を見ている。内心驚きながらも藤丸は。

 

「えっと、その変な人が突然投げ渡してきて。たしか、もうすぐここは復讐と再会の舞台になるから、とかそんなことを言って突然消えたんだよ」

 

 

 沖田が、藤丸の持っていた枝に手を伸ばし、今まさに触れようとした瞬間に、大きな叫び声が響き渡った。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 生前。こんな夢を見た。

 

 今思っても、変わった夢だ。俺はその夢を、夢だと分かっていて見ていた。

 俺が殺したはずの彼女が、俺の隣に座っていた。俺は縁側に座って、暑いお茶の入った湯飲みを持って、彼女と共に月を見上げていたのだ。

 その月は満月であった。夢だからだろう、現実ではありえないほど大きく、夜の空を半分覆ってしまっているほどだ。

 

「平和ね」

 

 彼女が言った。

 彼女の長い黒髪は、月の光に照らされて、まるで濡れているかのように艶やかにきらめいていた。

 

「ああ、いろいろ、忘れられるな」

 

 俺が言うと、彼女は俺をまじまじと見て。

 

「いろいろって、あの里のことかしら?」

「……忘れた、って言ったが?」

「ごめんなさい。でも、あの里のことどう思っているの?」

「今も正しかったと思っている。やり方はどうであれ結果としては、少数の悪人が消えて、大多数の善良な一般市民が救われている」

「……そうね。それで、それはあなたの考えかしら?」

「え?」

「それは、あなたが自分で正義とは何かを考えて出した結論かしら? その考えに、あなたの考えは本当に入っているの?」

 

 隣に座っていた彼女は、いつの間にか俺の目の前に立っていた。周りの場所も、ただ真っ白い空間に変っていた。

 

「悪い。いまいち意味が分からない」

「他人にこう行動するのが正しいよ、なんて言われて、その通りに行動することも間違いではないわ。でも、それで正義を成すのは危険よ。正義とは何か、よく考えてみなさい。例えば、法を素直に守ることが正義かしら? 善良な一般市民が、食うに困って……いえ、そうね、自分の家族を助けるために金を奪ったとしましょう。それは悪かしら? その人が盗みを働いているのを見たときに、その人の事情も分かろうとせずに、捕えることが正義かしら?」

「……そんなことを考えていたら、キリがない。全員の立場に立って、全員の状況を理解して、誰も傷つかない結果を求める何て無理だ」

「ええ。よくできました。なら、あなたにとっての正義は何? 今の話を聞いて、どう行動するのが正しいと思った?」

「……わかんない」

「そう。それでいいわ、焦って答えを出すより断然ましだわ。じゃあ、一つ助言よ」

「助言?」

 

 気づけば、彼女の存在は消えていた。右も左もない真っ黒な空間の中で、俺は彼女の声だけを聴いている。

 

「ええ、私の望みはあなたが幸せになることだわ。そのための助言。

 

 自分勝手に生きなさい。たとえあなたの正義が他の誰かにとって、すべての人間にとって悪だったとしても、あなたが信じた正義こそが、あなたにとって正しいものだわ」

 

「そんなことをしたら、それこそ幸せになれないんじゃないのか?」

「ふふ、その時は私が無理やりにでも幸せにしてあげるわ」

 

 

 

 夢から醒めたとき、俺は涙を流していた。

 空を見上げると、月が出ている。夢のそれとは違って、細い三日月であった。その細い三日月に手を伸ばしてみた。届くはずがない。

 

「あなたが俺に幸せになってほしいのならば、俺もあなたに幸せに――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 まず飛び出していったのは沖田であった。沖田はわき目も振らず、叫び声のしたであろう方向へ走っていった。里から少し外れた山の中だ。

 

「……先輩。他の方がだれもいなくなってしまっています」

 

 冷静に周囲を見ていたマシュが、そっと藤丸にささやいた。マシュの言葉通りに、周りを見渡してみると、先ほどまでいたはずの里の住人が消えている。

 

「人が移動している気配なんてなかったけど」

「……沖田さんの言葉では、隠密行動に特化していると。ひょっとしたら」

「とにかく、行ってみようか」

 

 声のした方へ、走り出す。

 

 里を抜けると、当然山道に代わるのだが、心なしか誰かの通った後が残っている。

 木の枝をかき分けて、藪を突き進む。気づけば、視界が開けて――

 

「さ、里?」

「もう一つ、里があったのですか」

 

 驚いた表情でマシュも、里の様子を見渡している。先ほど藤丸たちのいた里と違い、家屋はきれいで、そこら中に弓や刀が置かれている。木の板に突き刺さっているクナイは訓練の後だろうか。

 

「なるほど、沖田とあの変った人が言っていた通りに……」

「……とにかく、沖田さんたちを探しましょう」

 

 

 

 『それ』が近づいてきた時だ。当然、藤丸たちにはそこに『それ』があるなんてわかっていない。

 ただ、それに近づけば、いやでも理解できた。それは、今までの戦いで嗅ぎ慣れてしまったものだ。慣れた、なんて表現を使いたくはないが。

 

 濃密な、鼻につく金属の臭い。生臭さは、吐き気を誘う。その臭いがだんだん強くなって、地面が赤く染まっている個所が現れるようになった。

 地面に、打ち捨てられたボロボロの雑巾のように、人が倒れていた。首を大きく裂かれて、もう息絶えていることは明らかだ。

 

「っ!」

「ひ、ひどい……」

 

 傷だらけになった子供の亡骸が、家の壁に刀で縫い付けられている。それを見て、藤丸もマシュも思わず口を手で塞いで、すぐに目をそらしてしまう。

 その目をそらした先では、真っ二つにされた女性がいるのだから、藤丸は悲鳴を挙げそうになるのをこらえるので必死であった。

 

 

 

「ひぃ、や、やめろおおおお!!」

 

 

 少し遠くから、そんな悲鳴が聞こえ、藤丸とマシュはすぐに走り出した。里の中で一番大きな家。その裏手。

 

 

 

 立ち尽くしている沖田がいた。

 

 両腕を失って、膝立ちになっている源郎がいた。

 

 その源郎の首を刎ねる、青年がいた。

 

 間欠泉が如く噴き出す血を浴びて、青年は源郎の首を刎ねた刀を眺める。首から上を失った源郎はそのまま地面に倒れる――前に、もう一度青年が刀を一閃。たった一度しか振るっていないように見えたが、源郎の体はバラバラになって、地面に転がる。

 

「どうし……て、ですか?」

 

 かすれた声で沖田が青年に問いかけた。

 

「これが俺の正義だ」

 

 青年は、沖田に刀を向けながら言う。

 

 状況が理解できないが、どうやら青年と沖田は顔見知りらしいことが分かった。藤丸は、沖田の顔をじっと見つめ続ける青年を観察する。

 藤丸が、最初に案内された里で出会った青年に間違いない。

 

 先ほどと服装が微妙に違っていた。黒い着物であることに変わりはないのだが、足は見慣れない防具で覆われ、腕には籠手が装着されている。腰に差してある小太刀は、三本に増えていた。

 全身に赤い血糊がべっとりとついて、それらの服装の特徴はかろうじてわかる程度であった。

 

 その返り血の量は、この里の惨劇を起こした張本人であろうことが容易に理解できる。

 

 だが、彼は狂っていなかった。

 

 子供をボロボロにして殺害し、女を真っ二つにし、今まさに老人の首を刎ねた彼は、狂ってなどいなかった。

 

 その瞳の奥にあるのは、激しい情熱。

 

 自分の目的を遂行するためなら、何でもする。殺人が楽しい。なんていう狂気は一切うかがうことができない。

 正義の炎が、瞳の奥で静かに、しかし取り返しのつかないまでに激しく燃えていた。




 終盤が近づいてくると、急展開になるのは私の悪い癖の一つです。
 直そうかとも思ったのですが、構成力を鍛えるのはまたの機会として。

 長らくお待たせして申し訳ございません。

 
 主人公の本名忘れてる作者がいるらしい。

リメイクするとして。改善してほしい要素、掘り下げてほしい要素。一番多いのを特に重視して書きます。一

  • 文章を改善してほしい。
  • 展開を改善してほしい。
  • 設定を改善してほしい。
  • 人間関係をしっかり描いてほしい。
  • もっと長くしてほしい。
  • もっと短くしてほしい。

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