幕末の義賊   作:アルマジロ

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第四話:桜泥棒

「正義……? いったいこの行いのどこに正義があるというんですか!? どうしてこんなことをするんですか? 林太郎さん!」

 

 震えた声で言う沖田に、しかし林太郎と呼ばれた男は平然と答える。

 

「お前に――いや、誰にも理解されなくとも。俺の正義はこれだ」

「子供達も殺して何が正義だ!」

 たまらずに叫んだ藤丸を、林太郎はちらりとだけ見て、小さく笑った。その反応が藤丸をさらに苛立たせたが、林太郎は気にも留めていないようだ。

 再度、林太郎は沖田をじっと見つめる。

 

「この里の人間は総じて暗殺者としての訓練を受けている。残しておくと誰かが死ぬ。彼らを一人殺せば、数人の命は助かるんだ」

 

 そこまで言うと、林太郎は持っていた刀で沖田に斬りかかった。突然の攻撃に、沖田は流石と言うべきか、一瞬で抜刀し刀を受け止める。

 続けて林太郎は突きを繰り出すが、それを軽々とよけ。縦、横、斜めと迫りくる連撃を、顔色一つ変えずに防いで見せる。

 

「ちっ」

 

 対して、沖田が振るう刀を林太郎はまともに受けることができず、沖田が刀を振るうたびに、肌に赤い筋が入る。致命傷はまだ受けていないが、だんだん傷が深くなっていく。

 沖田がわざと大きな動作で斬り上げるのを後ろに下がってよけ、そのまま林太郎は距離を取った。

 

「やっぱ強い、なんでだろうな。俺はいくらやってもそうはなれそうにない」

 

 林太郎は頬を流れる血を手で拭って、忌々しげに言う。動揺していた沖田も、少しは落ち着いてきたようで、ひとまず林太郎を倒すことに集中する。剣術のことなど、ほとんどわからない藤丸にも、その実力差ははっきりと理解できた。沖田はまだ本気を出していない。だからと言って油断しているわけではないし、この先どれほど優位に立っても沖田は油断などすこしもしないだろう。

 まず間違いなく沖田が勝つ。

 

 しかし、なぜか林太郎は少し余裕ぶっているようにも見えた。林太郎は持っていた刀を地面に突き立てて、今度は小太刀を抜いた。

 

「林太郎さん。本気で私と戦うつもりですか?」

 

 林太郎が沖田に勝てる可能性はほとんどない――――わけではない。沖田には一つ致命的な弱点が存在する。万が一戦闘中に病弱スキルが発動してしまった場合。今度は一転して沖田が圧倒的に不利になる。

 そうすれば林太郎が沖田に勝つこともあるかもしれないが。

 

 それでもまだマシュがいる。たとえ沖田が敗れそうになっても藤丸やマシュがサポートすることで、林太郎を倒すことはできるだろう。

 

 それでも林太郎が戦おうとするのは、それほどまでの理由があるのか。あるいは。

 

「戦うつもりはないよ。今のはちょっと試してみただけ。どうやら俺は英霊になったからと言ってお前には勝てないらしい」

 

 意外なほどにあっさりと、林太郎は負けを認めた。しかし、いまだ小太刀を離さずに構えたままだ。

 

「でも、たとえ実力で劣っていようとも、英霊にはとっておきがあるだろう?」

「宝具……」

「そう。俺の宝具は三つあるんだよ。そのうちの一つはすでに発動準備に入っている」

 

 やけに自信満々に。もう既に勝っているといわんばかりの雰囲気で、林太郎は言う。その態度を見て、沖田は逆にはったりだと判断した。

 

「確かに英霊の宝具はかなり強力ですが。『桜泥棒』の逸話にそれほど強力なものはありません。そもそも、戦闘向きの宝具を持っているかすら――」

「だから、俺は戦わないって。そもそも俺は本来泥棒だから、誰かと戦うような状況になる前に逃げるさ」

 

 

 林太郎は、小太刀を鞘に納め、ニヤリと笑う。その目は藤丸を向いていた。

 

「やあ、カルデアのマスター。先ほどぶりだね。捨てられてなくて安心したよ」

 

 突然そんなことを言われた藤丸は、何を言っているのか理解できずに硬直する。

 

「俺のこの宝具は、使い道次第ではそこそこ。けれど、警戒している英霊には全くの無意味だし、魔術師だってまずそもそも受け取ることすらしないだろう。たとえ受け取っても一般人ならまだしも、英霊とかはすぐにその状況から抜け出しちゃうだろうし」

 

 受け取る? 何をだ? 

 

「俺は生前に盗み終えたら証拠としてそれを残した。そして、それを誰かが見たということは、俺がすでに逃げているということ」

 

 藤丸は少し考えて、すぐに思い出した。捨てられてなくて安心したとはこのことか!

 

 沖田やマシュも何かに気づいたようで、慌てて藤丸に駆け寄る。藤丸も慌てて、ポケットから受け取った『それ』を取り出し――

 

 

 

 

 

 

 

「それをその場に残すということは、俺が盗み終えた証拠だ」

 

 藤丸が桜の枯れ枝を投げ捨てた瞬間に、その姿が消えた。桜の枯れ枝は、先ほどまで藤丸のいた場所にポトリと落ちて、その場に残っている。

 慌てて林太郎の方を見た沖田だが、林太郎の姿もまた消えている。

 

 たった今林太郎が言った通り。藤丸が桜の枯れ枝を手放して、その場所に桜の枯れ枝が残る状況になったから、藤丸は『盗まれた』。

 そして、その場に残った桜の枯れ枝を見た時にはすでに、桜泥棒は逃げた後。

 

 青ざめたマシュが、辺りを見渡しているが、おそらく無駄だろう。

 

「林太郎さん……」

 

 まさかこんな再会の仕方をすることになるとは思っていなかった。

 

「どうして」

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 

 

「林太郎さんは沖田と知り合いなの?」

 

 ぼろぼろの小屋。町の少し外れたところに建っている団子屋の前身となる建物だ。俺はあの人を殺してしまった後、ここの小屋を使って団子屋を営みながら、『桜泥棒』になった。

 時代的に、俺がそうなる前なので、今はただのボロ小屋だ。

 

「知り合いっていうか。うーん。なんだろう。知り合いっていうべきなんだろうけれど、知り合いよりはもうちょっと仲のいい感じの」

「友達?」

「友達……うーん? なんか違う」

 

 俺が『盗んで』きたこの藤丸という少女。どうにも肝が据わっているというか。縛っていないのに逃げたりしないし、むしろ沖田とのことを必死に聞きたがっている。

 

「というか、英霊……俺が怖くないのか?」

「え?」

「自分で言うのは何だが、ついさっき里の人間を全員殺してきたばかりの人間だぞ」

 

 俺がそういうと、藤丸は少しだけ考える素振りを見せてから、

 

「また、誰かを殺すの?」

「ああ、あと一人。あと一人を殺せば俺の正義は完全に終わる」

「……さっきも言っていたけれど、正義って?」

「あの人を殺した奴と、殺そうとした奴を殺して、あの人が助かる道を作ることだ」

 

 沖田とはもう一度だけ会えた。

 

 

 あと一人。

 

 俺を殺す。




 たぶんあと三回くらいで終わります。
 あまりオリ主の過去編を長くやってもあれなので、作中で大事なところに触れる程度で終わらせて、機会があれば番外編みたいな感じで投稿しようと思います。

 

リメイクするとして。改善してほしい要素、掘り下げてほしい要素。一番多いのを特に重視して書きます。一

  • 文章を改善してほしい。
  • 展開を改善してほしい。
  • 設定を改善してほしい。
  • 人間関係をしっかり描いてほしい。
  • もっと長くしてほしい。
  • もっと短くしてほしい。

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