幕末の義賊 作:アルマジロ
「結局、俺が沖田にかなうはずはない」
あれから時間が流れ夜。林太郎は藤丸を連れて、ある屋敷の前にいた。カルデアのマスターを誘拐したところで、魔術的な結界であったり、何らかの宝具を使わなければすぐに居場所が特定される。
林太郎の宝具は三つ。そのうちの一つで完全に隠れていたおかげか今までは特定されずに済んだが、今はその宝具も解いている。時期に沖田ともう一体のサーヴァント――あれはデミ・サーヴァントだったか――がやってくる。
「なら、どうして待ってるの?」
とりあえず縛っておいた藤丸は、縄でぐるぐる巻きにされていることをまったく気にした様子を見せずに、林太郎に尋ねた。
そう、天才沖田総司に、高々泥棒が叶う道理はない。
それこそ――聖杯の力がなければ。
実のところ、特異点の原因である林太郎自身も、なぜこんな特異点が発生したのかはいまいち理解できていない。自分がこの時代に召喚されたからだということだけはわかっている。そして、自分が欠片とはいえ聖杯を偶然拾ったから。
けれど、なぜそんなものを拾うことができたのかすらわからない。聖杯の欠片がそこら辺に落ちているはずもなく、ただ、気が付いたら拾っていた。
理由なんかわからなかった。けれど、しなければならないことがあった。
まさかこの時代に沖田が現れるとは思っていなかったのだから、カルデアのサーヴァントとして現れたときは大変驚いたが、神か仏か、どうやら林太郎に機会をくれたようだ。
まだわからない。まだ、
林太郎は、無理やりに出力を上げた体の調子を、手を何度か握ったり開いたりして確かめて。
「沖田を待っている理由は――――俺のわがままかな」
☆
マスターが連れ去られた直後のマシュは、思いのほか冷静であった。慣れた訳でも、薄情なわけでもなく、ただ、沖田の影響が大きかった。
沖田が落ち着いていたからマシュも――というわけではなく。
これ以上なく沖田が取り乱してしまったため、かえってマシュが冷静になったのだ。
「……」
「沖田さん……」
刀を握り締め、立ったままの沖田に、マシュは一体何と声をかけていいのかわからなかった。
「あの人は、すごく優しい人だったんです。変わっている人だったし、まさしく正義の味方といってもよかったかもしれない」
沖田がぼそぼそとこぼす。
「どんな状況でも人を殺すような人ではなかった……はずです。あの人は、少しでも誰かを助けたくて、それをするには悪に手を染めるほかなくて、それでも本当に自分が誰かを救えているのかずっと不安がるような……」
確かに、マシュは、桜泥棒が生前誰かを殺したという記録はなかったと記憶している。その活動理由までは知らないが、盗んだ金に一切手を付けずにそのすべてを庶民にばら撒いていたというのは、一周まわって常軌を逸しているとすら思う。
犯罪行為を正当化するつもりも、また、犯罪行為に勇気なんて言葉を当てはめるのは気が進まないが、失敗すれば釜茹でにされるという危険な橋を渡って、なおかつそれで得た全てを手放している。いったいどれほどの勇気と理由があればそこまでのことができるのだろうか。
今の沖田の話からすると、誰かのためになりたいという理由だけでそれを行っている。カルデアにいる英霊たちの中にも、そういって完全に自己の利益を捨て、誰かのためにのみ生きて死んでいったものがいる。そしてそんな彼らを知っているからこそ、その行いが簡単なものではないとよく知っている。
「どうしたらいいんでしょう……私は――」
☆
「わがまま?」
林太郎の答えに、藤丸は小首をかしげながら聞き返す。
「ああ、俺はすごく自己中心的な人間でね。今回のことも結局そうなんだよ」
「どういうこと?」
「俺の目的は……そうだな、ある人が死ぬ可能性を消す――――っていうのが建前。
本当の目的はどちらかというと『 』」
「うっわあ……」
「おい」
「それはわがままだなー」
「まあ、それ故に沖田がこの時代に来たのも偶然ではないのかもしれないな」
「あー、そうかも」
苦笑していた藤丸だが、そのうち真剣な表情になって、数秒間沈黙が流れる。
「じゃあ、沖田と戦って勝ったら?」
「俺が正しかったってことだろう」
「負けたら?」
「……この勝負の場合、負けても俺の勝ちだよ」
「……ほんとに自分勝手だね」
「なんか毒吐くようになったな……まあ、俺が義賊なんかやってた理由もある意味自分勝手な理由だからな」
林太郎は、軽く腕を振って、その場で数回飛び跳ねる。そのあと小太刀を抜いて構えた。
その様子を見てポカンとしている藤丸に林太郎は続ける。
「要はさ、誰かにお前が必要だって言ってもらいたかったんだ」
林太郎が見据える先には、一人――いや一騎。
夜にもかかわらず、すぐに見つけられるような目立つ格好。浅葱色の、だんだら羽織。
腰に差した刀は、いつも使っていたはずの刀とは別の物。
「やあ、沖田。林太郎として、夜に会うのは初めてかな?」
「えー? ひどいですよ。花火見に行ったの忘れたんですか?」
「おいおい、俺が桜泥棒の恰好をして、なおかつ夜に林太郎として会うのは初めてだろう。今まで顔隠していたし」
林太郎は、闇に紛れるための黒い装束。それに籠手、いたるところに暗器を隠し、臨戦態勢。普段通りの桜泥棒よりも、さらに戦闘に備えているが、唯一、普段は顔を隠しているのを今はしていない。
どうにも、顔を隠してしまうと、林太郎ではなく『桜泥棒』になってしまう気がしたからだ。
すごく不気味な光景だと、林太郎は思った。これから自分のすべてを否定する。沖田からしたら、自分のマスターを連れ去られてはらわたが煮えくり返っているはずだ。
お互いに、もはや正気の沙汰で居られるはずがない。にもかかわらず、それこそ久々に会った旧友と和やかに話しているような雰囲気で。
林太郎が振り抜いた小太刀は、夜闇を切り裂くがごとく勢いで沖田の肩めがけて、落ちる。それを体裁きだけで躱した沖田はくるりと回転。その勢いで刀を抜いた。とっさに距離をとった林太郎だったが、腹が血ににじんだことから、少しばかり斬られたようだ。
「突然攻撃してくるなんて、ひどいですよ林太郎さん」
「いつかお前が突然首を刈り取りに来た時の仕返しさ」
今の攻防だけで、林太郎はやはり沖田に敵わないことを悟る。聖杯で無理やり出力を上げた程度では、まだ足りない。
けれど、それでも勝てると思った。いつか土方にやられたときのように、絶対に勝てない相手がやって来たとしても、その程度で林太郎は負けたりしない。
力は無理やり追いつく。技量は数段向こうが上。速さ、経験、その他剣技における全て。沖田に挑むことがいかに馬鹿馬鹿しいか、比較するまでもない。
ただ、あの時土方に、たとえ致命傷を与えられようとも終ぞ死ななかったように。不意を突いてぎりぎり逃げられたように。
たかが自分と格が違う程度では、自分を止められるわけがない。
やっぱり終盤の展開が無理やりになるのは、僕の実力不足だと再認識できましたが、このまま最後まで投稿したいと思います。
今日の夜には最終回上げます。
リメイクするとして。改善してほしい要素、掘り下げてほしい要素。一番多いのを特に重視して書きます。一
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文章を改善してほしい。
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展開を改善してほしい。
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設定を改善してほしい。
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人間関係をしっかり描いてほしい。
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もっと長くしてほしい。
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もっと短くしてほしい。