幕末の義賊 作:アルマジロ
俺は団子屋としてそこそこ忙しい日々を送っている。ありがたいことに繁盛して、それでも、ぎりぎり生活ができる程度。誰か、義賊とかが悪人から金を盗んで店先に置いて行ってくれないかな、なんて考える毎日だ。
さらに、生今日はまったく人がやってこない。遠くの木にとまっている鳥の様子を眺めて、時間が流れるのを待つのみ。
「お団子おひとつくださいな♪」
「んあ、い、いらっしゃ――」
呆けていたからか、客に気づかなかったようだ。やけに上機嫌な、心なしか聞き覚えのある声に挨拶しようとして、沖田だと気付いて途中でやめた。
「なんだよ沖田か」
「な、なんですかその態度は! そうですよ! 最強かわいい沖田さんですよ!!」
「わーい」
適当に返してやりながら、団子を用意する。適当に接してはいるが、沖田はお得意様だ。多少なりおまけしてやらんこともない。
「そういえばですね、さっき子供たちと遊んできたんですよ」
「ふむ」
沖田は、泣く子も黙る剣豪だ。戦ったことのある俺はそれがよくわかっている。冷徹に、冷酷に、必要とあらば確実に殺す。そんな存在だ。けれど、沖田は、心まで冷徹というわけではない。子供たちと遊ぶのが好きな、優しい人だ。
「それで、どうしたんだよ」
上機嫌だったことと関係があるんだろうか。
「いえ、やはり子供相手なので、手加減すべきだと思っていたんですけどね」
「まあ、沖田が子供相手に本気を出したら、子供に勝ち目なんかないだろうしな」
「けれど、逆に子供に負けちゃったんです」
笑顔で続ける沖田に、少し嫌な予感がした。沖田は相当に負けん気が強くて、たとえ手加減していたとしても、悔しがるだろう。
「なあ、まさかとは思うんだけど……」
「子供相手でも、やっぱ手加減はよくないなって思いなおしまして、本気で――」
「お団子一本おまけしようと思ったけれど、やっぱなしだ」
「え゛!?」
☆
「だって、たとえこっちが手を抜いていたとしても、負けるなんて悔しいじゃないですかぁ!!」
結局泣き出してしまった沖田に、俺は団子をあげることにした。俺も今は休憩をとって、沖田と店先に並んでお茶を飲んでいる。
「ふー、けれど、この店に来るようになってもう三月も経つんですね」
感慨深げに言う沖田だが、俺からするとそこまでいい記憶でもない。
「お前が店先に倒れてたせいで……それにしばらく気づかなかった俺も悪いが……とにかくあれのおかげでずいぶんの間客足が遠のいちまったがな」
最近ではほぼ回復しつつあるが、一時期は本気で生活がやばかった。町から離れた道沿いという立地も悪いのかもしれないが、一週間で一人しかお客さんがいなかったのは本当に、やばかった。
「う、でも、しょうがなくありません? 私だって好きで倒れたんじゃありませんし!」
好きで倒れられてしまっては困るが。
「まあ、最近はまた体調も少しずつ回復しているんだろう? また変なところで倒れるんじゃねーぞ?」
店先で倒れていた沖田を見たときは本気でびっくりした。その時はすでに俺は『桜泥棒』として活動していたし、その過程で沖田とやりあったこともあった。あの時は、小太刀の扱いを誤って、俺の腕を斬ってしまったばかりで、小太刀に血がついていた。その血を見たせいか、人を殺したのだと勘違いしたのだろう沖田は、特に殺意が高くて死ぬかと思ったものだ。
そんな修羅や鬼神なんていう二つ名が似合いそうな沖田しか知らなかったものだから、かなり警戒したのを覚えている。覚えているもなにも、たった三月前の事なのだが。
「なら、なるべくこの店の前で倒れるようにしますね」
「どこでも倒れるなよ……」
素の彼女を知ってからは、どうにもそういった印象が薄れた。無論、沖田が鬼のように強いことはどうしようもない事実ではあるけれど。
「んんーっ、長閑でいいですねぇ」
遠い目をして、柔らかな笑みを浮かべて、そっとお茶を飲みながら沖田は言う。
どうして、沖田は戦うのだろうか。気にはなるが、わざわざ聞くことでもないだろう。俺が義賊をやっているように、そこには人に言いたくない理由があるように、沖田にだって理由はあるかもしれないし、案外なんにもないのかもしれない。ただ、今この平和な時に、沖田に戦いの話をすることに抵抗を感じた。
「ずっと平和が一番だな」
俺もお茶を飲んで沖田の視線をたどって、同じものを見る。どうやら、先ほど俺が見ていた木のようだ。今も鳥が止まっているがどうやら先ほど見たものとは別の種類らしい。白と黒の派手ではないものの、美しい鳥だ。
平和を望む彼女の横で、何食わぬ顔でお茶を飲んでいる俺自身に嫌悪感を抱きそうになる。だが、俺には俺の正義がある。
けれど、少し空気に耐えられなくなった。少し予定を繰り上げることにしよう。
「さて、そろそろ町の方に行こうかな」
「あれ? 何かあるんです?」
小首をかしげながら不思議そうに俺を見る沖田。
「いや、これといって用はないんだけれどさ、情報収集とかかな」
「情報収集……?」
「まあ、大したことではないよ。ただどの店が安いかなーとか、結構こういうのころころ変わるものだからな」
「なるほど……で、でしたら、私が町を案内してあげなくもないかなー、なんて。どうです?」
沖田はきらきらとした目で俺を見ながら言う。なんとなく、何か奢ってもらおうとか、遊びに行きたいとか、そういった本音が見えるがあえて無視しておく。
だが、案内も何も――
「案内も何も、離れたところで暮らしているからといって、別に俺は町のことを知らないわけじゃないぞ? いや…………まあ、俺が知らないような場所を紹介してくれるというなら別だが」
「! ええ、ええ、この沖田さんにお任せください!」
断ろうとすると、まるで捨てられた子犬のようにしょんぼりとするのだから、断ることができなかった。
別に、何か困ることがあるわけではないだろうしいいのではないかとも思うのだが、やはり、あまり長時間沖田と一緒にいるというのは不安だ。義賊をやっているときは、意識して声色を変えているし、何より夜に黒装束で顔も見られてはいまい。しかし、それでも不安は感じる。ばれたら、俺の顔が完全に知られることになる。
桜泥棒の顔は明るみになっていない。自分で言うのもなんだが、鮮やかなまでに誰にも気取られずに盗みをしている。例外として沖田とはよく遭遇するが。少し前に――当然桜泥棒として沖田と対峙した時に――どうして俺が今日来るか分かったのか、なんて聞いたが、直感とのこと。優れた剣士なだけあって、直感も天下一品ということだろうか。
「それでは、早速行きましょう!? ほら、早く!」
「まて、準備するから」
満面の笑みで俺をせかす沖田。やはりどうしても、夜に出会うあの
当然、両方とも間違いなく沖田であると分かっていても、どこか、理性か本能か、はたまた別のところかはわからないが、そこが拒絶し続けている。
なぜだろうか、俺の中の何かが、今俺に笑いかけている沖田と、
俺が、沖田と会うことの危険性を理解しながらも、俺の正体を知られる危険性があっても、会う事をやめられないのは、やはりそれが原因なのだろう。
☆
「むうううぅ……」
町へ来る前と一転して、沖田はどうも不機嫌だ。
「まあまあ、目の前の金に引っ張られるのが人間だよ」
「う~、けれど、盗人をみんながみんなここまで褒めているのは納得がいきません」
理由は単純。町での話題は桜泥棒で持ち切り。沖田としては当然面白くないだろう。
「次こそは……次こそは捕まえて、余すことなく吐いてもらいます……!!」
変なところで気合を入れないでほしい。次の仕事は苦労しそうだ。どうにか沖田の裏をかくか。
しかし、余すことなく吐いてもらうとはどういうことか。自白? 拷問? うわ、怖い。
「まあ、せっかく遊びに来たんだし楽しめよ」
あんみつ、寿司、そば。食べるものはいくらでもある。
「むぅ、それはそうでしょうけど。まー、林太郎さんだってせっかく私と一緒なんですから楽しみたいでしょうからね! おすすめの屋台でもなんでも、お教えしてあげましょう!」
「じゃあ、さっそく何かお願いしようかな?」
沖田は甘いものが好きだったから、おそらくあんみつでも食いに行くのだろうが。
二人して歩き出した時、ちょうど俺の横を走っていた女の子が転びそうになる。
「おっと」
腕をつかんで、助け起こしてやると、少女はしばらく目を白黒させていたが、状況を察したらしく、俺を見て「ありがとう」と満面の笑みを浮かべてまた元気に走り去っていった。
「…………」
「子供はかわいいですね……」
ほほえましげに言う沖田であれど、俺の心中は穏やかではなかった。どうにも、俺が義賊をするきっかけとなったあの時のことを思い出しそうになって。
「林太郎さん? どうかしました?」
「いや、何でもない」
俺は頭を振って、いやな気持を振り落とした。そうだ、自分で言ったじゃないか。せっかく遊びに来たんだから楽しもう。
「じゃあ、沖田。おすすめの場所とやらに連れてってくれよ」
俺は努めて笑顔を浮かべ、沖田に言った。
なんか出来が微妙。そのうち修正します。
リメイクするとして。改善してほしい要素、掘り下げてほしい要素。一番多いのを特に重視して書きます。一
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文章を改善してほしい。
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展開を改善してほしい。
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設定を改善してほしい。
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人間関係をしっかり描いてほしい。
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もっと長くしてほしい。
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もっと短くしてほしい。