幕末の義賊   作:アルマジロ

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第三話:沖田総司

 翌日、店の準備をしようと外に出るとすでに沖田がいたものだから、思わず吹き出してしまった。

 

「な、なにやってんだよ?」

「え? 昨日お誘いしましたよね? 今日の花火を見に行きましょうって。待ち合わせの場所を話し合ってなかったので、用事があるんですが、その前にささっと決めちゃおうと思ってきたんですが……」

「花火? 聞いてない」

 

 沖田は俺の言葉に「あれー?」と首をかしげて、

 

「んー、じゃあ今から話し合ってると間に合いませんね。しようがありません。今晩、迎えに来ますから」

 

 一方的に言うと、俺が何かを言うより先に沖田は走り去ってしまった。

 

「お、おい……」

 

 すごく足が速い。何か急ぎのようでもあるのだろうか。跳ねるように駆け、すぐに見えなくなってしまった。

 

「……あんな早く動けるのか」

 

 桜泥棒を追いかけているときの沖田は、あそこまで早く動いていない。

 なぜだ。

 

「手を抜いていたのか」

 

 いや、けど、一度沖田を負かせた時に死ぬほど悔しがっていたし、手加減していたなら――いや、

『だって、たとえこっちが手を抜いていたとしても、負けるなんて悔しいじゃないですかぁ!!』

 

 なんて、沖田は言っていた。あれが本心なら。

 

 

「ばれてて見逃されたのか?」

 

 けど、沖田がそんなことをするような奴とも思えない。

 

「いや、いいさ。腹をくくろう」

 今日、花火を見に行くというのなら、そこで決着をつけるほかない。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 沖田が、その男にあったのは、夜の見回りをしているときであった。ちょうど他の隊員たちと別れていた時に、屋敷の塀を飛び越えて道に現れた黒ずくめの男と遭遇したのだ。

 その男の刀は、月夜に照らされ、赤く輝いていた。血だ。暗殺者か。

 

「まて、貴様、逃げられると思うな」

 

 この平和な町で殺しなど、あってはならない。沖田は、自らを正義だなんて思っていない。かといって悪でもない。ただ、目的のために、町の平和を守るために、ただひたすらに斬るのみ。

 

「うぇ? ちょっ、新選組ぃっ――!」

 

 一息に距離を詰め、足を斬る。それですべてが終わるはずだった。

 

 だが、

 

「っぶな」

「ちっ」

 

 男は後転し、刀の攻撃を避けると同時に沖田の顎めがけて蹴りを繰り出す。それを避けることができたのは、ほとんど偶然だった。

 

(油断、していましたね)

 

 目の前の男の評価を変える。暗殺者だとしたら、白兵戦など到底不能と考えていた沖田が愚かであった。

 だが、もう慢心はない。今のやり取りで、目の前の男の実力はわかった。そこそこやれる。その程度。

 

 沖田は、構えて、男に向けてもう一度踏み込もうと――、

 男は、小太刀を逆手に持ち構え――、

 

 

 しかし、つんざくような甲高い悲鳴に、両者とも思わず構えを解いた。

 

 悲鳴、しかもただ事ではない様子だ。沖田が向かわずとも、他の誰かが向かうだろう。しかし、目の前の男を見逃してもよいのだろうか。

 沖田のそのわずかな葛藤は、男が逃げ出すに十分な隙を与えてしまった。男は、塀の上、屋根の上と飛び上がりそのまま走り去ってしまう。

 

「……仕方ありません」

 

 ともかく、悲鳴のした方へ急ぐべきだ。沖田は刀をおさめると、すぐさま駆け出す。

 

 悲鳴の位置はそこまで遠くなかったはずだ。だが、正確な位置はわからない。闇雲に探しても時間を浪費するだけであるが、だからといって何もしなければ、それが一番時間の無駄というものだろう。

 

 だが、もしも無事なら続く悲鳴があってもよいはずだが、それはない。つまりは、最悪の事態になってしまっている可能性が高いということだ。

 

 それでも駆けて、駆けて、駆けて。沖田はようやく二人の人影を見つけた。先ほどの男と、身なりのいい女性。悲鳴の主ではないだろうが、このままではあの女性が危険だ。沖田は刀を抜き、駆けだす。男は沖田に気づき、慌てて逃げ出すが、それを許す沖田では――

 

「ま、待ってください!」

 

 だが、女性の叫び声に沖田は足を止めた。

 

「あの方は、私を助けてくれたのです!」

 

 そう叫ぶ女性は、少し先の曲がり角を指さす。今からあの男を追いかけても追いつけまい、とにかく女性の話を聞くことにした。

 

「助けた、ですか?」

 

 女性の指さす角の先を見ると、三人の男が縛られて転がっていた。

 

「その三人の強盗が、私に襲い掛かって。叫び声をあげたのですが、すぐに押さえつけられて、それで、覚悟したのですが何もなく。恐る恐る目を開けると、先ほどのお方が三人をすでに倒してしまった後で」

 

 それで逆に金をせびられたのか、沖田はそう考えた。女性は女性で、助けてもらった恩があるから無下にできずに、謝礼をするだろう。それが狙いだったのではないか。

 だが、沖田の考えは外れる。

 

「謝礼をしようとしたのですが、いらないと答え。せめてお名前をと頼んだのですが、少し悩まれてから、これを」

 

 女性が沖田に見せたのは桜の枝。

 

「そうか、あれが」

 

 あの有名な義賊の桜泥棒だろうか。なるほど、それならば無償でこの女性を救ったって不思議ではないだろうが。

 

(盗みは盗み)

 

 彼は決して正義の人ではないだろう。

 

 

 その後、調べたが、桜泥棒の被害のあった屋敷でけが人はおらず。周辺でも傷害事件すら起きていなかった。桜泥棒の小太刀に付いていた血の正体は不明であるが、どうやら誰かを傷付けたわけではないようだ。

 

 

 

 だからといって、彼の存在を認めるわけではない。今度会ったら、そのとき必ず捕まえる。

 

 

 ☆

 

 

「ぐえぇ」

 

 沖田は、ちょっとした散歩に出たつもりが、その道中体調を崩してしまった。このまま倒れてはいけないと思い、偶然遠くに見えた団子屋まで歩いて――力尽きた。

 

 けれど、店先で倒れたのなら、すぐに助けられるはずだ。やってくる客なり、店主なり。そう思って早四半刻。うまく声が出せず通りかかる人に助けを呼ぼうとするも、逆に逃げられてしまう。店に入る客がいないのだから、店主が様子を見ることもない。

 

(あうぅ、皆さん、最後まで戦えず、申し訳ありません……)

 

 死を覚悟する沖田であったが、その時、何者かが店から出てきた。助かった、そう考えた沖田はその人物に助けを求めようとするのだが。

「――!」

 

 あの時の男は顔を隠していた。体格も何かを仕込んで分からなくしていた。

 

 けれど、その程度で隠せないものはいくらでもある。気配であったり、足運びであったり。意外と歩き方というものは癖が出てくるものだ。店から出てきた人物はまず間違いなく、あの日の男、桜泥棒であった。

 

「うわ、なんか倒れて……うわー」

 

 店から出てきた男の顔を見ると、ひどく驚いた表情をしている。当然、店先で誰かが倒れていれば驚くだろうが、男の表情はただ驚いただけでなく引きつった表情をしていた。

 

(……結局助かるかわかりませんね)

 

 

 ひょっとしたら、あの桜泥棒ならば自分を助けてくれるかもしれない。けれど、自分の正体がばれたと考えて自分を消す可能性も十分ある。

 けれど、どうしようもない。

 

 沖田は、ゆっくりと目をつむると、そのまま沈み込むように意識を手放した。

 

 

 ☆

 

 

「ここは……?」

 

 沖田が目を覚ましたのは、




プチ過去編的な。沖田さんのかわいさを描きたかったのに、勇ましさというか、剣士なところばかりだったという……。
プロットを書いた時の、私の『なんやかんや主人公の善性に触れて、沖田さん見逃す(様子見?)』という無茶ぶりが苦しかったです。

リメイクするとして。改善してほしい要素、掘り下げてほしい要素。一番多いのを特に重視して書きます。一

  • 文章を改善してほしい。
  • 展開を改善してほしい。
  • 設定を改善してほしい。
  • 人間関係をしっかり描いてほしい。
  • もっと長くしてほしい。
  • もっと短くしてほしい。

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