幕末の義賊 作:アルマジロ
翌日、店の準備をしようと外に出るとすでに沖田がいたものだから、思わず吹き出してしまった。
「な、なにやってんだよ?」
「え? 昨日お誘いしましたよね? 今日の花火を見に行きましょうって。待ち合わせの場所を話し合ってなかったので、用事があるんですが、その前にささっと決めちゃおうと思ってきたんですが……」
「花火? 聞いてない」
沖田は俺の言葉に「あれー?」と首をかしげて、
「んー、じゃあ今から話し合ってると間に合いませんね。しようがありません。今晩、迎えに来ますから」
一方的に言うと、俺が何かを言うより先に沖田は走り去ってしまった。
「お、おい……」
すごく足が速い。何か急ぎのようでもあるのだろうか。跳ねるように駆け、すぐに見えなくなってしまった。
「……あんな早く動けるのか」
桜泥棒を追いかけているときの沖田は、あそこまで早く動いていない。
なぜだ。
「手を抜いていたのか」
いや、けど、一度沖田を負かせた時に死ぬほど悔しがっていたし、手加減していたなら――いや、
『だって、たとえこっちが手を抜いていたとしても、負けるなんて悔しいじゃないですかぁ!!』
なんて、沖田は言っていた。あれが本心なら。
「ばれてて見逃されたのか?」
けど、沖田がそんなことをするような奴とも思えない。
「いや、いいさ。腹をくくろう」
今日、花火を見に行くというのなら、そこで決着をつけるほかない。
☆
沖田が、その男にあったのは、夜の見回りをしているときであった。ちょうど他の隊員たちと別れていた時に、屋敷の塀を飛び越えて道に現れた黒ずくめの男と遭遇したのだ。
その男の刀は、月夜に照らされ、赤く輝いていた。血だ。暗殺者か。
「まて、貴様、逃げられると思うな」
この平和な町で殺しなど、あってはならない。沖田は、自らを正義だなんて思っていない。かといって悪でもない。ただ、目的のために、町の平和を守るために、ただひたすらに斬るのみ。
「うぇ? ちょっ、新選組ぃっ――!」
一息に距離を詰め、足を斬る。それですべてが終わるはずだった。
だが、
「っぶな」
「ちっ」
男は後転し、刀の攻撃を避けると同時に沖田の顎めがけて蹴りを繰り出す。それを避けることができたのは、ほとんど偶然だった。
(油断、していましたね)
目の前の男の評価を変える。暗殺者だとしたら、白兵戦など到底不能と考えていた沖田が愚かであった。
だが、もう慢心はない。今のやり取りで、目の前の男の実力はわかった。そこそこやれる。その程度。
沖田は、構えて、男に向けてもう一度踏み込もうと――、
男は、小太刀を逆手に持ち構え――、
しかし、つんざくような甲高い悲鳴に、両者とも思わず構えを解いた。
悲鳴、しかもただ事ではない様子だ。沖田が向かわずとも、他の誰かが向かうだろう。しかし、目の前の男を見逃してもよいのだろうか。
沖田のそのわずかな葛藤は、男が逃げ出すに十分な隙を与えてしまった。男は、塀の上、屋根の上と飛び上がりそのまま走り去ってしまう。
「……仕方ありません」
ともかく、悲鳴のした方へ急ぐべきだ。沖田は刀をおさめると、すぐさま駆け出す。
悲鳴の位置はそこまで遠くなかったはずだ。だが、正確な位置はわからない。闇雲に探しても時間を浪費するだけであるが、だからといって何もしなければ、それが一番時間の無駄というものだろう。
だが、もしも無事なら続く悲鳴があってもよいはずだが、それはない。つまりは、最悪の事態になってしまっている可能性が高いということだ。
それでも駆けて、駆けて、駆けて。沖田はようやく二人の人影を見つけた。先ほどの男と、身なりのいい女性。悲鳴の主ではないだろうが、このままではあの女性が危険だ。沖田は刀を抜き、駆けだす。男は沖田に気づき、慌てて逃げ出すが、それを許す沖田では――
「ま、待ってください!」
だが、女性の叫び声に沖田は足を止めた。
「あの方は、私を助けてくれたのです!」
そう叫ぶ女性は、少し先の曲がり角を指さす。今からあの男を追いかけても追いつけまい、とにかく女性の話を聞くことにした。
「助けた、ですか?」
女性の指さす角の先を見ると、三人の男が縛られて転がっていた。
「その三人の強盗が、私に襲い掛かって。叫び声をあげたのですが、すぐに押さえつけられて、それで、覚悟したのですが何もなく。恐る恐る目を開けると、先ほどのお方が三人をすでに倒してしまった後で」
それで逆に金をせびられたのか、沖田はそう考えた。女性は女性で、助けてもらった恩があるから無下にできずに、謝礼をするだろう。それが狙いだったのではないか。
だが、沖田の考えは外れる。
「謝礼をしようとしたのですが、いらないと答え。せめてお名前をと頼んだのですが、少し悩まれてから、これを」
女性が沖田に見せたのは桜の枝。
「そうか、あれが」
あの有名な義賊の桜泥棒だろうか。なるほど、それならば無償でこの女性を救ったって不思議ではないだろうが。
(盗みは盗み)
彼は決して正義の人ではないだろう。
その後、調べたが、桜泥棒の被害のあった屋敷でけが人はおらず。周辺でも傷害事件すら起きていなかった。桜泥棒の小太刀に付いていた血の正体は不明であるが、どうやら誰かを傷付けたわけではないようだ。
だからといって、彼の存在を認めるわけではない。今度会ったら、そのとき必ず捕まえる。
☆
「ぐえぇ」
沖田は、ちょっとした散歩に出たつもりが、その道中体調を崩してしまった。このまま倒れてはいけないと思い、偶然遠くに見えた団子屋まで歩いて――力尽きた。
けれど、店先で倒れたのなら、すぐに助けられるはずだ。やってくる客なり、店主なり。そう思って早四半刻。うまく声が出せず通りかかる人に助けを呼ぼうとするも、逆に逃げられてしまう。店に入る客がいないのだから、店主が様子を見ることもない。
(あうぅ、皆さん、最後まで戦えず、申し訳ありません……)
死を覚悟する沖田であったが、その時、何者かが店から出てきた。助かった、そう考えた沖田はその人物に助けを求めようとするのだが。
「――!」
あの時の男は顔を隠していた。体格も何かを仕込んで分からなくしていた。
けれど、その程度で隠せないものはいくらでもある。気配であったり、足運びであったり。意外と歩き方というものは癖が出てくるものだ。店から出てきた人物はまず間違いなく、あの日の男、桜泥棒であった。
「うわ、なんか倒れて……うわー」
店から出てきた男の顔を見ると、ひどく驚いた表情をしている。当然、店先で誰かが倒れていれば驚くだろうが、男の表情はただ驚いただけでなく引きつった表情をしていた。
(……結局助かるかわかりませんね)
ひょっとしたら、あの桜泥棒ならば自分を助けてくれるかもしれない。けれど、自分の正体がばれたと考えて自分を消す可能性も十分ある。
けれど、どうしようもない。
沖田は、ゆっくりと目をつむると、そのまま沈み込むように意識を手放した。
☆
「ここは……?」
沖田が目を覚ましたのは、
プチ過去編的な。沖田さんのかわいさを描きたかったのに、勇ましさというか、剣士なところばかりだったという……。
プロットを書いた時の、私の『なんやかんや主人公の善性に触れて、沖田さん見逃す(様子見?)』という無茶ぶりが苦しかったです。
リメイクするとして。改善してほしい要素、掘り下げてほしい要素。一番多いのを特に重視して書きます。一
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文章を改善してほしい。
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展開を改善してほしい。
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設定を改善してほしい。
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人間関係をしっかり描いてほしい。
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もっと長くしてほしい。
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もっと短くしてほしい。