スーパーヒーローのヒーローアカデミア   作:リューイ

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2話

 バリーは雄英入学を決めてからいくばくかの時間を平凡に過ごし、入学式の日を迎えた。

 

 その日、バリーは真新しい雄英高校の制服に袖を通し、1-Aの教室を目指し校舎を歩いている。

 

 大概走っているバリーにしては珍しいことだが、それもさもあらん、バリーは今、この時を楽しんでいるのだ。

 

 バリーにとってハイスクールの1年は二度目になるがIアイランドのアカデミーとは異なることがある。

 

 Iアイランドは海上を移動する人工島であることから様々な国の文化や風習が入り混じっているのだが、特に教育面では日本と同じ6-3-3制、エレメンタリースクール6年、ミドルスクール3年、ハイスクール3年で、4月に新年度が始まるのだが、文化面ではアメリカ的なものが取り入れられており、卒業式は盛大に行われるが、入学式はあまり行われない。

 

 実際の入学式はそれほど楽しいものではないのだろうが、日本の入学式が初体験のバリーはひそかに楽しみにしていたのだ。

 

 バリーが教室に着くともうかなりの人数が集まっている。

 

 バリーが教室の大きなドアを開けると、皆、バリーに視線を向けた。

 

 個性の発現により、容姿の差など些細な事と言われるようになった、今の社会でも、やはり日本では金髪に青い瞳の外国人は目立つ。

 

 「わぁー、外人さんだぁー。」入り口付近の席に座っていた活発そうな印象がある頭から触手の生えた、ピンクの肌の少女がそう言って立ち上がりバリーを興味津々に見た。

 

 そこへ真面目そうな眼鏡の少年もやってきてピンクの肌の少女に苦言を呈する。

 

 「君、外人と言う言葉は差別表現ではないにしろ、海外から来られた人の中には時折気分を害される方がいることがあると聞く。 雄英生ならばそう言った言葉は慎むべきではないだろうか?」

 

 少年の勢いに押されてか、少女は曖昧に「えっ、うん、今度からそうするよ。」と答える。

 

 少年が善意から注意していることは分かるが、それでも非の無い女の子が責められていることにバリーは不快に思い、自分と少女の間にいる少年の肩を掴み少し強引にどかし、少女の正面に立ち、少女に自分が外人と呼ばれても特段、不快ではなかった事を伝える。

 

 「初対面で名前も知らないんだから外人って呼んじゃうのも仕方がないよ。僕は気にしてない。」

 

 そしてバリーは自分を見ていた全員に伝わるように大きめの声でピンクの肌の少女に自己紹介しはじめた。

 

 「僕の名前はバーソロミュー・クラーク・スカイライン、アメリカ人でこれまではIアイランドにいた。これからはバリーって呼んで仲良くしてくれると嬉しい。」

 

 「ありがと、バリー。あたしは芦戸 三奈、あたしの事も三奈でいいよ。」

 

 「そう、これからよろしく、ミナ」

 

 「こっちこそね。」 

 

 そう言って三奈は物怖じすることなくバリーの差し出した手を取り握手し、笑顔を交わす。

 

 そうするとその行動を見ていた他の人達も話しかけてきた。

 

 「蛙吹 梅雨よ、これからよろしくお願いするわ。 それと私の事は梅雨ちゃんて呼んでね。」

 

 「わたしはねぇ、透、 葉隠 透だよ、よろしくね~。」

 

 バリーも声をかけてきた蛙っぽい女の子と透明人間の女の子に挨拶を返す。その顔は、教室に入ってそうそうに3人の女の子に囲まれるなんていいことありそう、とか考えているのか若干、口角が上がっていた。

 

 「よろしく、ツユちゃん、トオル。」

 

 

 その横ではバリーに無理やり押しのけられた眼鏡の少年も自己紹介を始める。

 

 「俺は飯田 天哉だ、これからよろしく頼む。」

 

 しかしバリーは男の名前にはそれほど興味がなかったのか女の子三人と会話しながら「イーダか、覚えとくよ、よろしく。」と適当に返す。

 

 そんな時、教室にドンと大きな音が響く。

 

 バリーが音のした方向を向くと、机の上に足を上げた不良っぽい金髪の少年がいた。

 

 バリーと同じように振り向いていた飯田は早速その不良少年を注意しに行く。

 

 「机に足をかけるな!! 雄英の先輩方に申し訳ないと思わないのか!?」

 

 「思わねーわ、てめーどこ中だよ、端役が!」

 

 そんなやり取りが飯田と不良っぽい少年の間で交わされていたとき、また一人新入生らしき人物が扉を開いていた。

 

 それを見た飯田はこれ以上不良っぽい少年と話しても無駄だと思ったのか新しく入ってきた新入生の方に行った。

 

 その一部始終を横目で見ていたバリーに気づいた不良っぽい少年は相変わらず机に足をかけたままバリーに絡む。

 

 「ちらちら覗き見てんじゃねーよ、クソヤンキーが!」

 

 その言葉にバリーもイラつかなかったわけではないが早々に不要ないさかいは起こしたくなかったので謝った。

 

 「別に覗いてたつもりじゃないんだけど、不快に感じさせたなら謝る、すまなかった。」

 

 だが少年の暴言は止まらない。

 

 「クソヤンキーは、そのクソビッチどもとでも校舎裏にでも消えとけ、目障りだ!!」

 

 さすがのバリーもその暴言は聞き流さなかった。

 

 芦戸たちが止めるのも聞かずに少年に向かってゆく。

 

 「僕は№1になる男だ、名声と同じ数だけ罵声を浴びる覚悟がある。だからクソヤンキーって呼んだのは聞き流してやる。けど彼女達へ汚い言葉を吐くのは許さない、彼女たちに謝罪すんんだ。」

 

「ねーわ、ボケェ‼ №1になるのはこの俺、爆豪 勝己だ。」

 

 2人はにらみ合うがやがてバリーが何か思いついたのか爆豪を馬鹿にしたように笑う。

 

 「フッ、そうか分かったよ。君は僕らに混ざりたかったんだ。けど自信がなくて話しかけられなかった、解るよ、その頭じゃね、レモン汁ででも脱色したのか、全然似合ってないよ。」

 

 「てめぇ。」

 

 爆豪の怒気が強まり一気に一触即発の雰囲気がクラス中につたわる。

 

 「静かにしろ。」

 

 一触即発の空気に余にもそぐわないけだるげな声色に皆が一斉に……バリーや爆豪でさえ、その声の方を向く。

 

 「静かになるまで一秒未満か、まぁまぁだな。 俺は担任の相澤消太だ。全員これを着てグラウンドにでろ。」

 

 そう言って黒いぼさぼさの長髪と無精髭が特徴的な人物、相澤が雄英の体操服を皆に見せて教室を出て行った。

 

 相澤の登場に爆豪は気勢をそがれたのかチッと舌打ちをして教室を出て行き、バリーは芦戸たちの所に戻り、「僕らもいこうか?」皆を促し着替えるために更衣室に向かった。

 

 

 

 

 バリーは更衣室からグラウンドに着くまでに飯田からショートボフの女の子、麗日 お茶子と緑の癖毛の少年、緑谷出久を紹介され、結局、芦戸ら3人と飯田ら3人それにバリーの7人でグラウンドまで互いの事を喋りながら行った。

 

 グラウンドではすでに相澤が待っており、全員が揃った時グラウンドに集められた理由が明かされた。

 

 「これから個性把握テストを始める。」

 

 その言葉に真っ先に反応したのはバリーだった。

 

 「個性把握テスト? 入学式をやるんじゃないのか? Mr.アイザワ」

 

 「ここはヒーローを育成する場だ、入学式式なんて無駄なものに出ている暇はない。それからスカイライン、ここは日本だ、俺の事は相澤先生、もしくはヒーロー名のイレイザーヘッドと呼ぶように。」

 

 「イレイザーヘッド‼」

 

 皆、相澤のヒーロー名を聞いてもどんなヒーローか分からないようだったが一人その名に反応する者がいた。

 

 「ミドリヤ、知っているのか?」

 

 バリーが緑谷に相澤の事を知っているのいかと問うと彼は皆にイレイザーヘッドの事を聴かせた。

 

 「抹消ヒーローイレイザーヘッド、見ただけで相手の個性を消す個性を持っているアングラ系のヒーロー、マスコミ嫌いで有名でほぼ顔写真が出回ったことがないんだ。」

 

 「俺の事はどうでもいい。 今日はまずお前らの限界を知るためのテストだ。 出席番号1番青山まずボール投げやってみろ、個性の使用は自由だ。」

 

 「オーケイ、まずは僕からだね、僕のキラメキで皆を魅せちゃうよ。」

 

 青山はそう言い、相澤からボールを受け取り、ボール投げ用のスペースに入る。

 

 青山はボールを腹に撒いたベルトに着いているレンズの部分にセットして、彼の個性、ネビルレーザー、お腹から出るレーザーで押し出し飛ばす。

 

 一秒ほどでレーザーは止まり、ボールは落下する。

 

 「317m、一人目としてはまずまずだな。」

 

 相澤が手元の計測器の測定結果を映し出す端末を見ながら結果を発表した。

 

 それを聞いた生徒たちは口々に「すげー」とか「面白そう」と騒ぎだす。

 

 そんな生徒たちに氷水を浴びせるが如き言葉を投げかける。

 

 「おもしろそうか。ヒーローになるまでの3年間、そんな腹積もりで過ごすつもりか? 雄英にそんな生徒はいらない、総合成績が最下位だったものは見込み無しとして除籍処分としよう。」

 

 相澤の言葉を聞き生徒たちは「ひどい。」とか「横暴だ。」などと口にするが相澤は全く取り合う気がない。

 

 「いいか雄英は自由な校風が売り文句、そしてそれは教師にも言える事、生徒の如何は先生の自由。」

 

 畳みかける様に相澤は語る。

 

 「自然災害、大事故、身勝手な敵たち。いつどこからくるかわからない災厄、世界は理不尽にまみれている。そういった理不尽を覆すのがヒーローだ。 放課後マックで談笑したかったならお生憎、これから三年間、俺は全力でお前たちに苦難を与え続け、見込みの無い者をふるいにかけていく。 ヒーローになりたいなら全力で乗り越えろ、 そしてそれこそが雄英の精神、PLUS ULTRAだ」

 

 「デモンストレーションは終わりだ、ここからが本番だ。」

 

 

 

 

 

 第一種目 50m走

 

 競技が始まると文句を言っていた生徒たちも自分の個性を使い放題なことに興奮し、皆生き生きと競技を楽しみ始めていた。

 

 しかしバリーの隣にいた、緑谷出久だけは顔を青ざめこの世の終わりの様な顔をしている。

 

 隣でそんな顔をされていたら自分まで辛気臭さが移ってしまうとバリーは緑谷に元気を出すように言う。

 

 「除籍の事を気にして尻込みするのは分かるけど如何しようもないだろ! 今はそれよりも個性把握テストを楽しんでいい成績だすことを考えろよ。」

 

 「そうかもしれないけど、僕はまだ個性の調整が……」

 

 バリーのアドバイスも緑谷には届かないようでいまだに彼は青い顔で思いつめている。

 

 そんな時、一種目目を終わらせた飯田と麗日がやって来た。

 

 「お疲れ、まぁまぁな記録だったな。」

 

 そう言ってバリーは二人を迎えるが、二人の興味は緑谷に向いている様だった。

 

 「ああ、50メートルでは加速しきれなかったよ。ところで緑谷君は如何したんだ、落ち込んでいる様だが?」

 

 「さぁね、個性の調整がどうとか、言っていたが、僕にはよく分からない。」

 

 「あぁ、なるほど。」

 

 「そう言えば、そうやったね。」

 

 飯田と麗日は緑谷の落ち込んでいるわけが分かったの顔を見合わせ頷き合う。

 

 「何か知っているのか?」

 

 バリーが心当たりを問うと飯田と麗日は入試の事を語りだす。

 

 「俺と麗日君は入試の実技演習の時、緑谷君と同じ演習場だったんだ。」

 

 「試験の終盤に0ポイントヴィランロボが出てきた時ね、あたしどんくさくて逃げ遅れちゃって、ヴィランロボに潰されそうになったんよ。そんとき、助けてくれたの。」

 

 「その時の彼はすごかった、一瞬で間合いを詰め、一撃のもとに巨大ヴィランロボを粉砕してしまった。だがその代償は大きく、一撃で自分も行動不能に陥っていた。」

 

 「なるほど、個性に体がついて行かないと言う事か。」

 

 バリーは飯田たちの話を聞き、緑谷が思いつめていた訳を理解した。

 

 「個性はおいそれとは使用できず、素の身体能力で結果を出すしかないわけか。」

 

 飯田たちと話している間に順番が来て走っている緑谷をみてバリーは口には出さないが今のままでは緑谷は最下位になるかもしれないと考えていた。

 

 緑谷と爆豪が走り終え、出席番号で19番と20番の峰田と八百万が走り始めた頃、「ところでバリー君も、もう行った方がいいんとちがう?」と麗日に言われ、バリーも50m走のスタート地点に向かう。

 

 バリーの出席番号は特別留学生として最後の21番とされていたので計測の順番が最後かつ1人になってしまい、ほとんどがバリーに注目していた。

 

 バリーはスタート地点に着いてもクラウチングスタートの姿勢をとるわけでもなければ、何か個性を使うために特別な姿勢をとるわけでもなく、ただ単に棒立ちになっていた。

 

 皆、バリーはやる気がないのだろうかと思っていた、しかしスタートの合図がかかるとそれが間違いだったことに気づいた。

 スタートの合図がかかった瞬間、全員がバリーの姿を見失う。

 

 「0秒1」

 

 計測装置の合成音声が響き、皆がゴールラインを見ると、そこにはすでにバリーがたっていた。

 

 彼らは気づく、バリーは構える必要などなかったのだと。

 

 

 

 

 その後の競技でも緑谷の記録が振るわない中、バリーは好成績を出し続ける。

 

 握力測定では持ち前の超パワーで計測器を握りつぶし、立ち幅跳びでは飛行能力でどこまでも飛んでゆき、反復横とびでは早すぎて残像ができ、3人のバリーが現れていた。

 

 

 個性把握テストも半分を終え、後半に差しかかり、今は麗日がボール投げで無限と言う大記録を打ち立てたところだ。

 

 皆が凄い凄いと騒ぎになる中、やはり緑谷だけは思いつめた顔をしていた。

 

 (このままじゃダメだ! 皆、何かしらの競技でヒーローらしい成績を出してるのに。)

 

 思いつめ、焦っている様子の緑谷を見かねてかバリーは傍に行き、声をかける。

 

 「大丈夫か? ミドリヤ。」

 

 バリーを見上げ緑谷は「うっうん、大丈夫だよ、僕もきっと次はちゃんと大記録出せる様に調整してみせるよ。」とだんだん尻すぼみ気味の声で答える。

 

 しかしその姿は全く大丈夫そうには見えなかった。

 

 「ミドリヤ、こういう時はできないことを考えるんじゃなく、今自分にできることを考える方がいい。」

 

 「次、緑谷」

 

 緑谷の順番になり相澤に呼ばれる。

 

 バリーのアドバイスも効果が無く緑谷は思いつめたままだ。

 

 ボールを投げるスペースに入った緑谷の脳裏には今まで応援してくれた人たちの顔が思い浮かび更なるプレッシャーとなる。

 

 (最下位になるわけにはいかない。)

 

 緑谷は自爆覚悟で個性を使いボールを投げる。

 

 しかし個性は発動せずボールは46mしか飛ばなかった。

 

 「なんで……」

 

 「個性は消した。 見たところ個性を制御できてないんだろ? また入試の時の様に行動不能になるつもりか?」

 

 相澤は緑谷を睨みつけ、首に巻いていた捕縛帯を緑谷に飛ばし、巻き付け緑谷を自分の傍に引き寄せる。

 

 「昔、暑苦しいヒーローが大災害の時1000人の被災者を救い、伝説となった。 同じ蛮勇でもお前は一人助けてそれで終わり、後は木偶の坊になるだけだ、お前の力じゃヒーローになれないよ。」

 

 そう言われた緑谷は俯き歯を食いしばって折れそうになる心を必死で支えている様だった。

 

 「待てよ、イレイザーヘッド。」

 

 バリーは相澤の言葉に怒っていた、緑谷と知り合って間もないが、横暴な試験にもヒーローになる為に必死で頑張ろうとしている事が解ったからこそ、相澤の緑谷を切り捨てるような言い方が気に入らなかった。

 

 「一人助けて、後は木偶の坊か、確かに今の緑谷はそうかもしれない。けどあんたはどうなんだよ、個性を消す個性、救助に来たヒーローの個性でも消すのか? あんた風にいえばあんたは誰も助けられない邪魔者になっちゃうんじゃないのか?」

 

 バリーは語気を強め畳みかける様に言葉を重ねていく。

 

 「それにできない生徒もできるようにするのが教師の本道だ! 生徒を切り捨てて何が先生だよ‼」

 

 バリーがそう叫ぶと、相澤はバリーの事をちらりと鋭い目を向け、「他人の事を気にするとはずいぶん余裕そうだな、スカイライン。 そうだ、お前はこのテスト一位を取らなければ除籍することにしよう。」とバリーの除籍免除のハードルを上げた。

 

 その時、今まで顔を伏せていた緑谷が顔をあげ、まっすぐ相澤を見る。

 

 その目は今までの焦りに満ちた物ではなく、何か強い意志にあふれているように相澤には見えた。

 

 「相澤先生、バリー君は僕を心配して、あんなことを言ったんです、一位じゃなければ除籍にするっていうのは取り消してください。 お願いします。」

 

 (やはり緑谷はこういうやつか、自分がどんな状況でも誰かのために動いてしまう。 ヒーローの資質はある、だが今の世の中、こいつみたいな、いい奴から死んでいく。実力がないなら尚更だ。)

 

 相澤は緑谷を認めつつも、あえて緑谷の言う事を無視する。

 

 「個性は戻した、ボール投げは二回だ、早く戻れ。 それとも諦めて此処を去るなら早くしろ。」

 

 「お前何処まで……」

 

 バリーは相澤の突き放したような冷たい言い草に、何処まで人でなしなんだと言いかける。

 

 しかしバリーがまた何か言いだそうとしていることに気づいた緑谷は、これ以上バリーの状況が悪化しない様にバリーを停める。

 

 「大丈夫!! 僕は大丈夫!!」

 

 緑谷に不器用に作った笑顔でそう断言されては、バリーには最後まで言葉を紡ぐことはできなかった。

 

 緑谷はボール投げのスペースに戻っていく時も必死に考えていた。

 

 (どうしよう、バリー君には大丈夫って言ったけどこのまま、また全力の個性、ワンフォーオールを出しても相澤先生に止められるだけだし、どうすればいいんだ。バリー君には出来ることを考えればいいって言われたけど僕のできる事ってなんだ。)

 

 緑谷が全力を出せないのは相澤の予想通り個性が体に合っていないからだ、なぜならば緑谷の個性、ワンフォーオールはNo.1ヒーローオールマイトから譲られたもので体が個性の力を受け止めきれないのだ。

 

 だが緑谷は止まらない、止まれない、憧れのヒーローからチャンスをもらったのだ、彼自身でヒーローになる夢をあきらめられるはずがない。

 

 ボールを投げるサークルに着いてもいい考えが浮かばない緑谷はすがるような思いでバリーの方に視線を向けると、バリーの隣で心配そうに自分を見ている麗日が緑谷の目に映る。

 

 (麗日さん)

 

 緑谷の脳裏に入学試験の事が甦っていた。

 

 (あの時、確かに僕は一歩前に進めた、あの時僕にできたことはなんだ? 麗日さんを助けようとロボに向かって両足で思いっきり踏み切って両足が折れて、ロボに殴りかかった右腕はボロボロになったんだ、左腕は……そうだ左腕は無事だったんだ。 当たり前のことだけど個性を発動しても使わなければ怪我はしないんだ。 だったら投げる腕一本なら……だめだ腕一本ボロボロになったら痛みで動けなく位なる、なら投げ終わる一瞬、最後の最後、指一本にワンフォーオール100%の力をこめたらどうだ。)

 

 緑谷はようやく決意した。

 

 (もうこれしか道はない! やるんだ!)

 

 「スマーッシュ‼」

 

 緑谷は考えていた通り最後の人差し指に全力で力をこめてボールを投げた。

 

 今回は相澤に止められることがなく、ボールははるか彼方へと飛んでいく。

 

 705.4m

 

 ボール投げの記録が出る。

 

 麗日の無限には及ばないがいい記録だ。

 

 だがやはりその代償は大きい、緑谷の右の人差し指はひどい怪我だった。

 

 緑谷がいい記録を出しても今までと変わらない態度の相澤を、痛みを堪えながら緑谷はまっすぐ見据える。

 

 「まだ、動けます!!」

 

 

 緑谷のガッツに皆が感心していた、バリーはもちろん、態度には出さないが相澤もだ。しかしただ一人、爆豪だけは違った、何か二人には因縁があるのだろう、爆豪の胸中には異なる感情が満ちているようだった。 そしてそれはお世辞にも好意的なものと言えるようなものではなかった。

 

 「デク‼ コラ‼ テメェ どういうことだ。」

 

 爆豪は己の掌からニトロの様な爆発する汗を出し爆発させる個性で爆発を起こしながら緑谷に掴みかかろうと突進していく。

 

 それを見てバリーはケガをしている緑谷を心配し爆豪を停めるべく超スピードで走り始める。

 

 だが最初に向かったのは爆豪のもとではなく保健室だった。

 

 バリーの今の速度では彼以外は止まっているも同然なので、バリーは器用に人や物を避けて保健室まで行き、指の固定具と包帯を持ち、それらを借りる旨を置手紙として残しグラウンドに戻って来た。

 

 しかしそれでも爆豪と緑谷の間には大分距離があったのでバリーは次に緑谷の指に固定具を当てて緑谷本人にすら気づかれない様な速さで包帯を巻いて行く。

 

 そしてそこまで終わらせてようやく爆豪のもとに行き、彼の両腕を掴み拘束したところでスピードを落とす。

 

 それでも爆豪にとっては突然自分のまえにバリーが現れ自分を拘束した様に感じられただろう。

 

 「離しやがれ! クソヤンキーが‼」

 

 バリーから逃れようと爆豪が暴れるが爆豪は個性が使えなくなっている様だ。

 

 相澤が個性を使いバリーと爆豪を睨みつけている。

 

 「何度も個性を使わせるんじゃない。」

 

 相澤が緑谷の方にも目をやると緑谷の指に包帯がまかれているのが見えた。

 

 「おい緑谷、その手の包帯はどうした?」

 

 相澤の言葉を受け、緑谷が自分の手を見ると「えっ」と困惑した声をあげる。

 

 自分の指が応急手当てされていたことに、今気づいたようだった。

 

 それを見た相澤がバリーに「お前の仕業か?スカイライン?」と問うがバリーはしらを切りとおす。

 

 「さぁ、僕にはなんのことやら。」

 

 「まぁいい、時間の無駄だ、次準備しろ。」

 

 相澤のその言葉でなんとかその場は収まり、個性テストの続きが再開される。

 

 バリーがボール投げの順番を待っていると痛みを堪え緑谷が謝罪をしに来た。

 

 「バリー君、さっきの事、僕の所為でほんとにご……」

 

 「ヒーローになるために壁が必要だっていうなら、当然No.1ヒーローになる僕には一番高い壁が来るのは当然だ。」

 

 バリーは緑谷に謝らせなかった、彼自身、緑谷が謝る必要がないと感じているからだ。

 

 「だから僕も、大丈夫だ。」

 

 自分は大丈夫だから、君は君の事を頑張ってくれ、そう言うニュアンスをこめてそう言いバリーはボール投げのサークルに入っていく。

 

 (緑谷に大丈夫と言った手前、無様な記録は見せられないな。)

 

 バリーはサークルの中から空を見上げる。

 

 次の瞬間バリーは猛スピードで宙へ飛んでいく。

 

 そして宇宙に出たところで手早くボールを投げ、地上のサークルめがけ急降下した。

 

 記録は宇宙空間でボールを投げてきたのだから当然障害物に当たらなければ、∞となる。

 

 ほとんどの物はバリーが何をしたのか分かっていなかったが、とりあえず∞と言う記録に驚いていた。

 

 緑谷も例にもれず驚いていたが、しかしそれ以上にバリーの好記録を喜んでいるようにバリーには見えた。だからバリーは緑谷に笑顔でサムズアップを決める。

 

 

 

 その後の個性把握テストは、緑谷は結局痛みで碌な記録は残せなかったが、それとは対照的にバリーは残りの3種目も好成績を残した。

 

 そして今、個性把握テストが終わり相澤から結果が発表され用としている。

 

 「んじゃパパッと結果発表する。口頭で説明するのは時間の無駄なので一括開示する。」

 

 空中に結果を発表するスクリーンを投影しながらイレイザーヘッドは事も無げに「ちなみに最下位除籍はウソな。」と言ってのけた。 

 

 「君らの最大限を引き出す、合理的虚偽って奴だ。」 

 

 生徒たちは皆呆気にとられ、言葉も出ないようである。

 

 空中に映し出された結果は一位バーソロミュー・スカイライン……最下位緑谷出久となっていた

 

 「教室にカリキュラム等の書類あるから目を通しておけ。 これにて解散。」

 

 そうして解散を指示した後、相澤は緑谷を呼び止めて、懐から保健室利用書を取り出し、雄英の最古参、老婆と言って差し支えない年齢になっても、いまだ治癒の個性で活躍し続けているヒーロー、リカバリーガールのもとに行くように指示する。

 

 「緑谷、その指はリカバリーガールのとこ行って治してもらえ。明日からもっと過酷な試練の目白押しだ。」

 

 

 

 相澤がグラウンドを出て後者に戻る途中、彼に声をかける人物がいた。

 

 「相澤君のうそつき♪」

 

 その女性的なリズムで語られた言葉とは裏腹な野太い声がした方に相澤が振り返るとそこには声の主であろう筋肉質の男くさい巨漢がいた。

 

 彼の天を突くように空に伸びる2本の角の様な金色の前髪と白い歯をみせ笑うその姿を見れば、誰しも彼がNo.1ヒーロー、オールマイトだと気づくだろう。

 

 「見てたんですか? オールマイトさん。 もしかして暇なんですか?」

 

 相澤の質問には答えずオールマイトは続けざまに語りだす。

 

 「合理的虚偽って、エイプリルフールはとっくに終わってるぜ。 君は去年の一年生の一クラス全員を除籍処分している。なのに今回君は前言撤回している。 ってことはさ、君も緑谷少年に可能性を感じたってことだろう。」

 

 余に緑谷を押すオールマイトを不審に思い相澤はオールマイトを問い詰めてみる。

 

 「君もってどういうことです?」

 

 相澤に問われオールマイトは答えに窮する。

 

 緑谷に個性を譲渡し、自分の後継者、次代の平和の象徴にしようとしていることを知られたくないオールマイトはとっさに嘘を吐く。

 

 「えっと、それは、そう、特別留学生のスカイライン少年も緑谷少年を買っているみたいじゃないか、緑谷少年のために食って掛かってさ。」

 

 「そうですか。まぁ、いいですけどね。」

 

 相澤はオールマイトの嘘を全然信じてないようだった。

 

 「可能性がゼロではなかった、それだけです。これからも俺は見込みがないと判断した者は切り捨てます。スカイラインは出来ないものもできる様にするのも教師だと言っていたが現実はそんなに甘くはない、半端に夢を追わせることほど残酷なことはありませんよ。」

 

 そう言って自分に背を向け歩き出す相澤の背中にオールマイトは彼の不器用な優しさを感じた。

 

 しかしそれでも納得しきれないオールマイトはスカイラインの事に着いても相澤に尋ねてみた。

 

 「話は変わるが相澤君、スカイライン少年にたいして厳しすぎたんじゃないかい?」

 

 相澤は足を止めるが振り向かずにオールマイトの問いに答える。

 

 「スカイラインは仮にも二年もIアイランドのアカデミーのヒーロー科で学び、仮免も持っているんですから、あれ位で丁度いいんですよ。 まぁ少しイラついていたのはみとめますがね。」

 

 「スカイライン少年の言ったことを気にしているのかな。」

 

 「一人も助けられない邪魔者、確かにスカイラインの言うとおりですよ。自然災害の現場では俺の個性は役に立たない、俺個人のレスキュー技能も専門の訓練を積んだレスキュー隊員には遠く及ばない。」

 

 「だが対個性犯罪者に対しては絶大な効果を上げているだろう。」

 

 「ええ、ですからヒーローたちが災害救助に尽力している時も俺は、いつも通りにヴィランの犯罪に備えつつ、他のヒーローが災害救助などで手が回らないところをカバーしています、それが一番合理的だからです。ですがたまに自分がヒーローではなく個性犯罪専門の賞金稼ぎの様に感じるときがありますよ。」

 

 オールマイトは少し自分と相澤の違いが分かった気がした。

 

 かつてオールマイトは緑谷に語ったことがある。「トップヒーローになる者は学生時代から逸話を残している……彼らの多くは話をこう結んでいる。考えるより先に体が動いていた」と。

 

 オールマイト自身もそうだ、困っている人がいたら体が自然と動いてしまう。

 

 (相澤君、たぶん君は先に動きそうになる体を押さえこんで、考え、最善を選択しているんだろう。だが君も、助けに行けないことをなんとも思わないなんてことはないんだろう。きっといつも〝合理的〟と言う言葉で自分を納得させ歯を食いしばりたえているんだな。 だからこそ生徒が同じ思いをしなくて済むように生徒から嫌われようが高い壁を用意するのか。) 

 

 話が終わったと思ったのか相澤が歩み進める。

 

 (君は強い男だな! 相澤君)

 

 校舎へと消えてゆく相澤をオールマイトはもう呼び止めなかった。

 




 
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