Iアイランド編2話目、メリッサをメインに据えて書きたいのになかなか上手くいかないです。
今回オリジナルの刑事キャラが出てきます。ヒロアカらしく動物、馬の刑事にしました。名前は馬顔の刑事なので、長いこと刑事役をやってた俳優さんに関連する名前にしました。
まだ夜も明けぬ内に、ショーンの遺体は見つかった。実験場周囲を清掃する円柱状のロボットが見つけた。ロボットが大きな異物を見つけ、その情報はすぐさまセントラルタワーに、そしてセントラルタワーから警備用の円錐台に四本のタイヤ付きの足がついたロボットに伝えられ、警備ロボットが遺体を確認し、警察に連絡が入れられた。
そして警察が来るまでの間、警備ロボットにより規制線が張らる。
それから数分後二人の刑事らしき人物が警備用ロボットに似た、警察用ロボットをぞろぞろ連れてやって来た。
「まったく、こんな朝早くから呼び出されてきてみれば、人死にとは、迷惑なことだ。」
馬面の老刑事、ウマノスケ・ナカムラがそう言うと若い女性の黒人刑事、ブレンダ・サイクスが「そんなこと言ってていいんですか?ロボットに全部記録されること覚えてます?」と老刑事に聞く。
「年寄りの愚痴なんぞ誰も気にせんよ。 それよりお前さんが配属されて一月、初めての事件が殺人事件なんってついてないな。」
「事件の少ないIアイランドで早々に手柄を上げる機会が巡って来たんです、むしろついてますよ。」
「俺よりひどいこと言っとるじゃないか。」
「小娘の話なんて誰も気にしませんよ。」
遺体の前に来たサイクスはタブレット端末を取り出し警察用ロボットを操作し、鑑識作業を開始する。
「時代が変わったもんだ、鑑識作業も検死も機械任せとは。」
ナカムラがうんざりして言うとサイクスは「基本病院での病死以外、すべての遺体は監察医による司法解剖がなされますよ、ここでの検死は簡単な死亡確認だけです、それに鑑識作業は人間とちがって疲れ知らずだから、いくらでも追加調査してくれますよ。それに鑑識作業で回収する証拠品を鑑定するIアイランドのCSIは優秀らしいですし。」と訂正する。
「わかった、もういい、それより遺体をみよう。」
お手上げだってジェスチャーをしてナカムラは遺体に集中する。
ナイフの刺さった遺体の横に屈みよく観察する。
「サイクス、遺体の記録は取り終わっているか?」
「はい。」
サイクスの返事を聞くとナカムラは遺体の懐を探り始める。
「ナイフで胸を一刺し、即死か? 防御創はなし、顔見知りか、油断を誘える相手か…… 財布が残っているな。」
財布を開くとアカデミーの学生証が見つかった。
「ショーン・ブラント、アカデミーのヒーロー科の学生か。現金もカードも盗られていないな。」
「金目当ての行きずりの犯行では無いってことですね。」
ナカムラはタブレット端末を見ながらそう聞くサイクスに当たり前のことを聞くなと言うかの様に質問を黙殺し、質問する。
「このあたりの監視カメラはどうなっている。」
「この辺りは広い実験場なのをいいことに爆破実験とか、危ない実験が多くてその所為で監視カメラは壊れっぱなしなので映像はありません。」
「ナイフに指紋はついていたか?」
「いいえ、ついてません。それどころか毛髪や皮脂など犯人の痕跡と思われる物が何もないです。」
「そうか、なら犯人自身はこの被害者と接触していないのかもしれないな。人と人が接触すれば痕跡が残るはずだからな。」
「ロカールの交換原理ですね。」
ナカムラは立ち上がり、屈んでいる間に固まった体をほぐすために伸びをする。
「最近じゃ、それも何処まであてになるか分からんがな。」
「どういうことですか?」
サイクスがそう聞くとナカムラは嫌そうに答える。
「個性だよ、個性。 昨今、個性の存在が犯罪をややこしくしている。痕跡を残さず人を刺し殺す、無理なことに思えるが個性を使えばいくらでも方法が考え付く、念力でナイフを飛ばす個性とか磁力でナイフを飛ばすとか、そもそも痕跡を残さない様な異形系の体とかな。だからここにあるもんはどんなに関係ないと思えるものでも残らず調べなきゃならん。 だがそれでも殺害方法から犯人を特定するのは難しい、誰しも素直に個性を届け出ているわけでもないし、そもそも誰も思いもつかない使い方もあるかもしれんからな。」
「じゃぁどうやって犯人を捕まえるんですか?」
「動機だよ、なぜこの被害者は殺されたのか、まずはそこからだ。遺体を監察医事務所に運んだらアカデミーに聞き込みに行くぞ。」
警察用ロボットが遺体を運ぶ準備ができたことを確認するとナカムラは規制線の外に向かう。
サイクスもそれに続く。
ふと思いついたことをサイクスはナカムラに質問する。
「あの、だったら行きずりの個性犯罪はどうやって解決するんですか?」
「そんなのは基本現行犯逮捕だ、そのために町中にうじゃうじゃヒーローがいるんだよ。」
「なるほど、勉強になります。」
二人は並び監察医事務所に向かった。
翌日、メリッサはいつものようにアカデミーに登校した。
校舎に入り、自分の研究室に向かい、歩いているとアカデミー全体がにわかに騒然としているのにメリッサは気づく。
如何したのか、誰かに聞こうと辺りを見回すとケイトリンがいるのが見えた。
メリッサは校舎の中を人にぶつからない様に注意しながら速足でケイトリンのもとに行く。
「おはよ、ケイトリン、みんな騒がしいけど何かあった?」
ケイトリンはメリッサの耳に顔をよせ小声で事情を話す。
「実はショーン・ブラントが昨日の晩に殺されたらしいの。」
「死んだ!!」メリッサは驚き声を上げてしまうが、すぐにまずいと思い声をすぼめて、「って昨日のレッド・トルネードのせいで?」と訊いた。
「ちがうわ、殺されたっていったでしょう。 だから警察が校長に話を聞きに来ていて、アカデミーの警備も強化されたのよ。」
普段はいない警備ロボが目の前の廊下を通る姿をみてメリッサは納得する。
その時、ケイトリンがメリッサの服の袖をクイッと引張り「ねぇ、やっぱり、私たちも警察に昨日ショーンを見たこと言うべきかな。」と不安げに言う。
「それはもちろん、証言すべきだわ、けど証言するにしても3人一緒がいいと思う。」
メリッサがそう言うとケイトリンは「そうよね。」と言い、自分の携帯を取り出し、カートに連絡し居場所を聞く。
返事はすぐに返ってきてカートは自分の研究室にいる事が解った。
二人はすぐにカートの研究室に向かう。たくさんの生徒が利用するために作られた広いエレベーターホールの6個あるエレベーターの一番端のエレベーターに乗りカートの研究室のある10階に上がる。
エレベーターを降りるとカートの研究室はすぐそばなのだが、気がせくのか急ぎ足で研究室の扉の前まで行き、ドアの脇にあるドアホンを鳴らす。
するとすぐにドアが開く。
カートの部屋は他の生徒の部屋と同じく中央に大きな作業台があり壁に沿って棚や様々な機材、机などがおかれている。
「いらっしゃい。」とカートが作業台の向こう、部屋の奥から二人を迎えた。
だが二人はカートの迎えの挨拶も無視し部屋に入り、ドアを閉め、カートのもとに行き本題に移る。
「カート、ショーンが亡くなったとこきいた?」
そうメリッサがカートに聞くと彼は「知ってる、けど死んだからって心が痛む奴じゃない、どうでもいいよ。」と返す。
興味なさそうなカートにケイトリンはそれでも詰め寄る。
「ただ死んだんじゃないの、昨日の夜10時から11時ごろ実験場の近くで胸をナイフで一突に刺されて殺されたのよ。」
それでもカートはショーンの事には興味がないのか「随分詳しいんだね。」となぜケイトリンがそこまで詳しいのか尋ねた。
「私が監察医事務所にインターンに行ってるの忘れたの? 助手が誰も捉まらないからって、先生が私を助手の代わりにしたのよ。」
ケイトリンは大きくため息をつく。
「カートの言う通り死んで心が痛むような奴じゃないけど、さすがに同じ学校の生徒の解剖は気がめいったわよ。」
そんなケイトリンにカートは呆れたように言う。
「監察医になるつもりもないのに監察医事務所にインターンに行くからだよ。」
それに対しケイトリンは眉を顰め、反論する
「仕方ないでしょ、昨日のDr.モローの話じゃないけど個性は個人の資質によるところが大きいから、個性の研究をしようと思えば人体について深い見識がなければ到底できないのよ。 その点、監察医事務所ならいろんな個性を持った人の解剖がたくさん見られて、個性の研究者を目指す学生にとっては理想的なインターン先なんだから!」
「二人とも! そんなこと言い合ってる場合じゃないでしょう。人が一人死んでるのよ、だからふざけてないで知ってること警察に話さないといけないのよ。 きちんと3人で昨日の事思い出しておかないと。」
メリッサが2人を窘めていると、突然ジィーと機械音が部屋に響く。3人は突然の来訪者を知らせるドアホンのベルに驚き肩をすくめる。
もともと研究室についているドアホンは急に部屋に入られて実験や作業の妨げられないようにや、機械の騒音を外に漏らさない様に防音設備が整っている部屋の中にいても来客が解るように取り付けられている物なので、そのまま通すか声で誰が来ているか確認するしかできない。
カートは突然の訪問者に戸惑いながらもドアホンの受話器をとる。すると聞き覚えの無い声が聞こえた。
ナカムラとサイクスは遺体を監察医事務所に運んだあとアカデミーに来ていた。
だが今、ナカムラは一人で門前から物珍しそうにアカデミーを眺めている。
ナカムラにとっては学校など何十年も前に過去った場所でしかないのだろうがそれでもアカデミーは彼にとって少しは興味を引く場所なのだろう。
「ナカムラ警部、許可が取れました。入っていいそうです。」
サイクスは守衛から校長に連絡を入れてもらいアカデミーの校舎に入る許可をもらってきた。
「なら行くか。」
ナカムラとサイクスは警察用のロボットを連れてアカデミーの校舎に入り、まずアカデミーの代表者たる校長に会うため校長室を目指し歩き出す。
エレベーターホールまで行き教員専用のエレベーターに乗り2階の教員専用フロアに上がる。
校長室の前まで来たナカムラたちは扉をノックする。すると「どうぞ、お入りください。」と言う声と同時に扉が開いた。
扉を開けたのは校長ではなく若い女だった。
ナカムラたちは校長室にはいる。
校長室はとても広く、壁際の棚にはトロフィーや賞状が並んでおり、その前にはずらりと教師らしき人達が並んでいた。
部屋の中央にはローテーブルを挟んで革張りのソファー、その奥にウォールナットで作られた濃い褐色の重厚で大きなエグゼクティブデスクがあり、その席には50代ぐらいのスーツ姿の校長がふかく腰掛け背もたれに身を預けていて、ナカムラたちを見ている。
およそ人を迎える態度ではないが、これ見よがしにトロフィーを飾ったり、教師たちを呼ぶだけではなく整列させているあたり虚栄心と支配欲の強い人物の様だが机がアンティークでない分まだ可愛げがある方だろう。
殺人を扱う刑事に対する反応などたいていが萎縮するか、校長の様に反発するかの二通りで、あとは極稀にアホなミステリーマニアに喜ばれるぐらいの物である。なので刑事歴の長いナカムラは成れたもので全く気にせず校長のもとに歩んでいくが、若いサイクスは少し不愉快そうだ。
「はじめまして、校長先生、Iアイランド警察のナカムラだ。お宅の生徒が殺された件で少し話を聞かせてもらいたい。」
ナカムラがそう言うと校長は立ち上がり、踵を返しナカムラたちに背を向け窓際に行き、まだ何も質問していないのにペラペラ語りだす。
「ショーン君の事は誠に残念だ、彼は成績優秀で、他の生徒からも大いに慕われていたと聞いている。彼は偉大なヒーローになると期待されていた。 アカデミーでの彼の生活には全く問題がなかった。」
態度の悪い校長にサイクスは呆れ、こっちを向けと言わんばかりに机を拳でコンコンと叩き、「校長先生、質問は此方からします。」と言う。
校長は腕を組み振り返り窓によりかかる。
「それで、何を聞きたい。」
「それでは校長先生、ショーン・ブラントと親しかった人、恨みに思っていた人、もめていた人はいませんか?」
サイクスの質問に校長は顔を背け「そこまでは知らないがアカデミーで彼に悪感情を抱いているものはいなかったと思う。」と答えたが、サイクスはその回答に満足は出来なかった。
「校長先生、真剣に答えてください、これはアカデミーの安全にも関わることなんですよ。」
「私は真摯に答えているし、君たちがアカデミーの警備についてあれこれ指示する権利もない。それにもうすでにIアイランドの行政に警備ロボットをアカデミーに常駐させてくれるように依頼している。」
サイクスは校長のその発言を聞き、これはダメだと首を振り、頭を切り替える。
「では他の教員の方に聞きます。」
すると校長は教員たちをジロリと見回し「ショーン君には何も問題なかった、そうだな。」
と言うと教員たちは「はい。」とだけ返事をした。
「校長先生、質問するのは、私たちです。」
サイクスは強調するように言葉を区切り、再び校長を注意する。
しかし校長はサイクスの言葉をあえて無視した。
いいかげん少し頭にきたサイクスは校長にくってかかろうとしたがナカムラが止める。
「ありがとうございました、校長、お話はよく分かりました。 次は生徒から話を聞きます。」
ナカムラの発言に校長は「それはダメだ!! 許可しない。」と声を荒げるがナカムラは先ほどの意趣返しか、「許可はいりませんよ、我々の生徒への聞き込みを止めさせる権利は貴方にはありませんから」と言いサイクスを連れ校長室を出た。
校長室を出たナカムラの後をサイクスは不満げについて行く。
「ナカムラ警部! なぜもっと強く尋問しないんですか? 校長は絶対何か隠してます。」
ナカムラはやれやれと言った感じで頭をかき血気盛んなサイクスを諭す。
「そんなことは分かってるよ。俺たちからわざわざ遠ざかり背を向け、目線も合わせず、聞いてもないことをペラペラしゃべり、急に話を変える。あそこまで分かりやすく行動に出る奴もそうはいないだろう。」
「だったらなぜ?」
「奴は俺たちを警戒していた、あれ以上は何も言わん。それに奴は教員をそろえていた、あれは俺たちへの威圧って目的もあっただろうが教員たちへの口止めが主な目的だったように見えた。 と言う事は……」
「と言う事は?」サイクスは思わずナカムラに聞き返してしまう。
「校長が隠したい秘密は教員たち全員、それにきっと生徒にも広まってるだろう、何も校長から、何が何でも聞かないといけないわけじゃない。校長から離れれば一人ぐらいは生徒から話が漏れるよりは自分から話した方がいいって考える先生は出てくるだろう。動機は自己保身か生徒の為かはともかくな。 まぁ、心配するな。」
「はい。」
サイクスは少し不満に思いつつもナカムラの理屈には納得する。
2人がしばらくアカデミーの校舎を歩いているとナカムラの読み通り、ナカムラに話しかけてくる人物がいた。その人はナカムラたちが校長室に行った時、扉を開けていた女性だった。
「あの、刑事さん、私、アカデミーで歴史を教えている者なのですがショーン君の事に関して少し内密にお話したいことがあるんですが。」
「うかがいましょう」
ナカムラはそう言うと女性の教員の案内で普段使われていない非常階段に場所をうつし、彼女の話を聞いた。
「ショーン君の事なんですが成績は確かに優秀ではあったのですが、実は素行に問題があったんです。」
「具体的にはどういった問題を?」言葉に詰まる教師にナカムラは続きを促す。
「他の生徒に暴力を振るったり、いじめたりしていました。見つけるたびに注意、指導を行ってきたんですが我々の目の届かない所で続いていたようで…… 数か月前に男子生徒が一人自殺をしてしまったんです。」
ナカムラはその話の虚実を確かめるためサイクスにデータを調べさせようと「サイクス」と彼女の名を呼ぶ。
「すぐ調べます。」
サイクスはナカムラの意図を汲み、携帯しているタブレット端末でIアイランド警察のデータベースにアクセスしアカデミーの生徒の自殺者がいるか確かめた。
「いました。ブレイン・ダルトン、男性、無個性で当時17歳、去年の11月に亡くなっています。」
サイクスの報告を聞きナカムラは「そうか。」と呟き少しの間目をつむり心の中で祈りを捧げてから女性教師への聞き込みに戻った。
「他にイジメていた人や争っていた人はいますか?」
「少しからかったり、小さい喧嘩はしょっちゅうでしたが特定の誰かと言う事は、ブレイン君以外はなかったと思います。」
「それでは、そのダルトン君の親しい友人やつき合っていた恋人など知っていることをすべて話してください。」
女性教師は「はい。」と返事をしてから一息おいて語りだす。
「親しい友人は分かりませんが同級生のカート・トラップと言う男子生徒と交際していたと聞いたことがあります。」
「ダルトン君はゲイだったんですか?」
「はい、そしてそれがイジメの原因だったと聞いています。だから校長は出来るだけ伏せておきたかったんだと思います。性差別が原因のイジメ問題だけでも大事なのにその所為で自殺者を出してしまったんですから。」
「もう一つお聞きしたいのですが、ダルトン君をイジメていたのはショーン君の他にはいましたか?」
「いました、ジョン・パックマンとシーリン・フィッシャーズと言う生徒です。」
これ以上現時点で聞けることはなさそうだと判断したナカムラは女性教師からの聞き込みを終える。
「情報提供ありがとうございました。また何か言いたい事や思い出したことがありましたらこの番号にご連絡ください。」
そういってナカムラは連絡先の書かれた名刺を渡し女性教師を校舎内に戻す。
女性教師がいなくなった非常階段の踊り場でサイクスはナカムラに話しかける。
「酷い話でした。」
「そうだな、だが事件のとっかかりにはなる。 俺はダルトン君の恋人をあたる。 君はダルトン君の親族を調べてくれ。」
「了解です。それでは、これを。」
サイクスはポケットから大きめのスマートフォンの様なものを取り出しナカムラにわたす。
「これは?」
「警察用ロボットの操作端末です。この前、操作のしかたが分からないって言っていたとお聞きしたので簡単に操作できる端末を用意しました。」
「昔、年寄りでも簡単に使えるってふれこみの携帯電話があったが、今じゃロボットもか。」
ナカムラはそう言いサイクスに渡された端末を物珍しそうに目を細めて見ている。
「Iアイランドは取り調べだけじゃなく捜査も録音録画するんですから必要ですよね。」
「あぁ、ありがとよ。 それじゃあ、もう行くぞ。」
ナカムラはサイクスの背をポンと叩き、早く行くように促し、自分も出発する。
ナカムラはサイクスと別れてから、近くにいた生徒にカート・トラップの研究室の場所を聞き、そこに向かっている。
カートの研究室の前に着いたナカムラはドアの横のドアホンを鳴らした。
「だれ?」
ドアホンのスピーカーからカートの声がする。
「Iアイランド警察のナカムラだ、ショーン・ブラントについて聞きたい事がある。ドアを開けてくれるか?」
「どうぞ」
ドアが開く。
「失礼するよ。」
ナカムラが研究室に入るとメリッサ、ケイトリン、カートの3人が身を寄せて驚いていた。
ナカムラは3人を怯えさせない様に作業台の前で立ち止まり、台を挟んで彼女たちに話しかける。
「少し聞きたいことがあ……」
「分かってます、今証言しにいこうと思っていたところなんです。ほんとに。」
ナカムラの言葉に最初に大きく反応したのはケイトリンだった。突然の刑事の来訪に慌てたのだ。
慌てるケイトリンの肩に手を置きメリッサは落ち着くよう声をかけてから、昨日会ったことをナカムラに話す。
「落ち着いてケイトリン。 刑事さん、私たち昨日Dr.モローの研究発表会でショーンを見かけたわ。」
メリッサのおかげで幾分落ち着いたケイトリンがメリッサに少し早口で続き語りだす。
「そうです、そうなんです。 Dr.モローの作った人型ロボットのレッド・トルネードに壇上で、皆が見ている中、吹き飛ばされて病院送りにされてました。」
思わぬ情報が聞けたナカムラは心の中では喜ぶが、そんなことはおくびにも出さずに「なるほど、だが他にも何かあるんじゃないか?」と質問を続ける。
しかし昨日の事を話す事ばかり考えていたメリッサとケイトリンは何も浮かばず互いの顔を見合わせ困惑した表情を浮かべた。
そんな中、カートだけはナカムラが聞きいことは何か理解できた。だがその表情は芳しくはない。
「メリッサ、ケイトリン、ナカムラ刑事はわざわざ〝僕の〟研究室まで来たんだ。何を聞きたいかは分かるよ。」
カートのその言葉で、元来、頭のいいメリッサとケイトリンもナカムラが何を聞きたいのか悟り、少し表情に陰りのあるカートを気遣う。
「大丈夫?」
「大丈夫だよ。」そう言うとカートはナカムラの前まで進み出る。
「お聞きになりたいのはブレインの事ですよね。」
「ああ、ショーン・ブラントからのいじめを苦に亡くなったブレイン・ダルトン君と交際していた、そうだね?」
「ええ、ブレインは普通科で学科が違ったけど、授業で偶然隣の席に彼が座っていて、彼のお父さんが僕と似たような個性を持っているって話題で盛り上がって、その後も話すようになって、お互いゲイだって分かって、そこからはまるで、2人の出会いが運命の様に思えて、僕から告白して恋人になったんです。」
カートは少し辛そうな顔をしていたが、それでもしっかり前を向きナカムラの目を見てブレインの事を語った。
「ブレインとつき合い始めてしばらくして僕たちはショーンからの嫌がらせを受けるようになった。最初は単純に暴力を振るわれるだけだったんだ、それ自体は友達のおかげですぐなくなって、ブレインも怪我をしなくなったから気づけなかった。ブレインへの嫌がらせが肉体的なものから精神的なものに変わっていったことにね。嫌がらせが無くなった喜んでいた僕には優しいブレインは相談できなかったんだ、それであんなことになってしまった。昔に戻れるなら愚鈍な僕をぶん殴ってやりたい。」
気丈に話していたカートもブレインが死んだ事に話が及ぶと感情のコントロールができなくなってきたのか両の眼にうっすら涙がにじむ。
その姿を見てナカムラはカートの事を不憫に思えてきたが、己の職責を果たすためにもさらに深く踏み込んでいく。
「それなら相当ショーン・ブラントを恨んでいた?」
「ええ。」
「殺したいほど?」
「一体僕に何を言わせたいんですか?」
「昨夜の10時から11時ごろどこで何をしていました?」
ここまで来てはメリッサたちもナカムラが何を言いたいか理解した。
「カートは人殺しじゃないわ!」
メリッサは思わず声を荒げる。
「なぜ、ショーン・ブラントが殺されたことを知っているんだ? 俺は一度もショーン・ブラントが殺されたとは言ってないぞ。」
メリッサの言葉にナカムラは疑問を感じ彼女たちに鋭い視線を向けた。
まずい!と思ったケイトリンは「それは私、私です。」と手をあげる。
「私、監察医事務所にインターンに行ってて、助手のかわりをしたので知ってたんです。」
ナカムラは納得したのか頷く。
「なるほど、君たちがなぜショーン・ブラントが殺されたことを知っていたのかは分かった。だがまだ昨日の夜10時から11時どこにいたのか答えてもらってないぞ。」
ナカムラの再度の質問にカートは答える。
「昨日のその時間ならもう家に帰っていたよ。」
「それは証明してくれる人や物はあるか?」
「昨日は両親とも仕事が遅くまであったみたいで帰ってきていなかったから証明は出来ないよ。」
「なるほど、なら君のアリバイは我々が君の家周辺の監視カメラなど当たってみよう。住所と教えてくれ、それと、また聞きたい事が出てくるかもしれない、連絡先も教えてほしい。」
「分かりました。」とカートがいいナカムラの質問に答えると、ナカムラはそれらを懐から取り出した古びた手帳に書き込みカートの研究室を出て行った。
ナカムラが居なくなってメリッサたちは一息ついた。何も悪い事をしていなくとも刑事が聞き込みに来たと言うだけでただの学生である彼女たちにとっては大きなストレスだったのだ。
「これからどうなるんだろう。」ケイトリンが漠然とした不安を口にする。
「どうなるって、なるようにしかならないよ。僕らにできる事はないんだから。」
「カートの言う通りね。私たちは刑事さんを信じて事件が解決するのを待つしかないわ。」
メリッサはカートの言葉に賛同した。
「そう……よね。」
そしてケイトリンもカートやメリッサの考えに同意する。
だがそれでも3人の心の中には、まだ何か起こるのではないかと言う、不安が渦巻いていた。
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