スーパーヒーローのヒーローアカデミア   作:リューイ

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 Iアイランド編 3話目です

 今回話はあんまり進みませんが一生懸命書きました。
 なので読んでいただけると幸いです。


6話

 Iアイランド警察のナカムラたちが所属する殺人事件などの凶悪事件を扱う重大犯罪課のオフィスには誰もおらず、閑散としている。皆、担当する事件があり、出払っているのだ。

 

 オフィスは毎日清掃ロボットにより掃除され、埃一つなく、清潔に保たれている。しかし基本、机とパソコン、電話位しかなく、それがなんだが寂しさを感じさせる。

 

 そんなオフィスにナカムラは戻って来た。帰りの道すがらカート・トラップのアリバイを調べてきたのでナカムラがアカデミーを出てから結構な時間がたっており、もう昼前だ。

 

 ナカムラが椅子に腰かけ、一息ついていると、サイクスもブレインの親の事を調査し終えて帰って来た。

 

 「お疲れさん。」

 

 ナカムラがサイクスを労う。

 

 「こっちは、全く収穫なしって訳じゃないが、ブレイン・ダルトンの恋人だった、カート・トラップのアリバイは確認できなかった。あいつがやったかやってないか……印象もどっちとも言えないって感じた。 お前さんの方はどうだった?」

 

 ナカムラがそう問うとサイクスはナカムラの席まで行き調べてきたことを報告する。

 

 「こちらも大した情報はありませんでした。ですがブレイン・ダルトンの父親にはアリバイがありました。」

 

 サイクスはそう言ったが彼女はダルトン家の事をよく調べていた。

 

 彼女曰く、ダルトン家は、ブレイン・ダルトンとその父、ダン・ダルトンとの2人でIアイランドに来た。何でもヒーローだったブレインの母が他界し、気落ちした2人が心機一転するために環境を変えようとした、と言う事らしい。

 Iアイランドに来たのちのダルトン一家は、ダンは警備ロボットの製造、整備、点検などを行うIアイランドの行政機関の下請け会社に就職し、ブレインはアカデミーに進学した。2人は立ち直り、だんだんと充実した生活を取り戻していっていた。

 そんなさなかのブレインの自殺が与えたダンへの精神的負荷は計り知れない。

 ブレインが死んで以降、ダンは仕事でも度々ミスを犯すなど精彩を欠き、私生活では酒におぼれる毎日を送っていた。昨日も仕事が終わってから、ずっとバーにいたようで、奇しくもそれが彼のアリバイとなった。

 

 サイクスの報告を聞きナカムラはしばし思案しているかのように目を閉じていた。だがナカムラの得た情報が聞きたかったサイクスは焦れてナカムラに問いかける。

 

 「ナカムラ警部が得た収穫って何なんですか?」

 

 ナカムラは一旦、思考を停め、メリッサから聞いたショーン・ブラントとDr.モローがもめた話をした。するとサイクスは驚き、興奮して「それって重大な動機になるじゃないですか。」と言った。

 

 しかしこれで事件解決に向けて一歩前進した、と言わんばかりに喜ぶサイクスとは裏腹にナカムラはDr.モローが犯人である可能性は低いとみているのか、その表情は芳しくない。

 

 「Dr.モローについては俺が午後に、ショーン・ブラントの昨日の足取りを追うついでに話を聞いてくるから、サイクスはショーン・ブラントの両親への告知と被害者の最近の様子を探ってくれ。」

 

 サイクスは自分がDr.モローの方を担当したかったからなのか不満げな表情を浮かべるが、相棒であり、上司でもあるナカムラからの命令なので「了解しました。」と不承不承ながら受け入れて、自分のデスクに向かった。

 

 サイクスが不満に感じているのが分かっているのか愚痴を聞かされんうちにと、ナカムラは「ふぅ」と大きく息を吐き、両ひざに手を置き、「よっこらしょ。」と言いながら立ち上がり、オフィスを出る。

 

 すると壁際に待機していた多くの警察用のロボットの内の一機がナカムラに追従した。毎度のことながらナカムラはこれが苦手だ、まるで監視されている様……というか実際そうなのだが、さながら自分の方が犯罪者で在るかの様な気分にさせられるからだ。

 

 (いっそ相棒とでも思えればそんな気分にならずに済むんだろうか、いっそ名前でも付けてみるか。)

 

 ナカムラはそんなくだらない事を考えながらDr.モローの研究所へと向かった。

 

 Iアイランド警察のオフィスからDr.モローの研究所へは徒歩では時間がかかり過ぎるのでナカムラは車で移動することにした。オフィスの地下にある駐車場でセダンタイプの覆面パトカーに乗り込み、発進する。当然のことながら大きさ的に車に入らない警察用ロボットは車の後ろを自ら走行してついて行く。それなりの速度が出ているのについてこれると言うのは流石Iアイランドのロボットだ。

 

 研究所に着くとナカムラは適当に車を停める。

 

 Dr.モローの研究所の外見は長方形のコンクリート製の建物の様で四角いすりガラスが規則的に並んでいて外壁は白く塗装されている、Iアイランドが管理しているとはいえ個人の研究所としては最大級の大きさで、彼への期待の高さがうかがえた。

 

 ナカムラが建物の中に入るとすぐに案内所の様な場所があり、受付嬢のようなスーツ姿の女性がいた。彼女は立ち上がりまるで手本のような綺麗なお辞儀で彼を迎えた。

 

 「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」

 

 ナカムラは警察バッジを見せ、自分の身分を示し、「Dr.モローにお会いしたい、取り次いでくれ。」と用件を口にする。

 

 刑事が来たことに驚きながらも受付嬢は、恐らくDr.モローに内線で連絡をいれた。しばらく何やら話すと「今は忙しいので作業しながらで良いのなら話をきいてもよい、との事ですがどういたしましょう」とナカムラに聞く。

 

 「それでかまいません。」

 

 ナカムラがそう言うと受付嬢は申し訳なさそうに「ありがとうございます」と頭を少し下げ、また内線をかけ二言三言喋ると、「こちらへどうぞ。」とナカムラを研究所の内部へと案内した。

 

 ナカムラは長い廊下を受付嬢の後をついて行きながら、案内を断らなかったのは申し訳なかったかもしれにあと考えていた。受付には彼女しかおらず、彼女が案内に出た今は、受付は無人になってしまう。それでは受付の用をなさず、来訪者が困るのではなかろうか。

 

 だがすぐにナカムラは、研究所という場所柄、自分の様にアポイントもとらず、案内が必要な客はそうそう来ないだろうと思い直し、素直について行くことにした。

 

 廊下の突き当りにセキュリティの厳しそうな扉がある。そこまで行くと受付嬢は首に下げていた身分証と一体になっているカードキーをかざし、鍵を開ける。すると小さい部屋があり、また扉があった。今度は普通の扉だった。

 

 最初の扉をナカムラと受付嬢がくぐると、受付嬢は最初の扉をしめてから奥の扉に行きノックし、「博士、お客様をお連れしました。」と言うと、返事も聞かずに扉をあけ放ち、ナカムラを部屋にはいる様に促す。

 

 受付嬢に促されるままに、ナカムラは部屋に入る。その部屋は綺麗に整頓され機能美に溢れ工場や作業場というより、工房やアトリエと言う言葉が似合いそうな部屋だった。

 

 その部屋の中央あたりにDr.モローと思しき人物がいた。傍には件のレッド・トルネードらしきロボットをはべらせている。

 

 見たところ忙しい様にも、何か作業しているようでもない。忙しいと言うのはナカムラをこの部屋まで呼ぶ口実なのだろう。きっと受付嬢も知っていたのだろう、だからこそ申し訳なさそうだったり、返事を聞かずにドアを開けたりしていたのだろう。

 

 そしてそうまでしてナカムラをこの部屋に来させたかったのは、やはりレッド・トルネードを見せたかったのではないだろうか。そこにDr.モローのある種の子供っぽさをナカムラは感じた。

 

 ナカムラはレッド・トルネードを見る。確かに凄そうだ。だがナカムラにはなんだか気持ち悪く感じられた。それはレッド・トルネードが表情でもあるかのように感じるほど人間にそっくりな作りであるにもかかわらず、血の様に赤いカラーリングだからかもしれない。

 

 ボーっとレッド・トルネードを見ていても来た意味がないのでナカムラはDr.モローに質問を始めようとする。

 

 「始めまして、Dr.モロー、私はIアイランド警察のナカムラです。少しお話があります。」

 

 ナカムラがそこまで言うとDr.モローはナカムラに向け掌をかざしもう言わなくてもわかっていると合図した。

 

 「いいたい事は分かりますよ。警察用のロボットを今の物から私のレッド・トルネードに変えたい、そうでしょう。」

 

 それはナカムラが話したい事ではないのだがDr.モローは本気でそう言っている様だ。だがここで気分を害し、だんまりを決め込まれては厄介だと感じたナカムラは、適用にDr.モローを煽てつつ、本題を切り出す。

 

 「そうだったらこちらの仕事も楽になったんでしょうけど、一刑事でしかない私じゃあお願いできる立場ではありませんよ。 本日お尋ねしたのは、昨夜、外縁部の実験場付近で起きた殺人事件についてお話を伺いたいんですよ。」

 

 「実験場付近で事件……そういえば今朝レッド・トルネードを実験場からここに運ぶ途中規制線が張られているのをみたな。だが私に何の関係が?」

 

 ナカムラのお世辞が聞いたのかそれ程気分を害した様子もなくDr.モローは答える。これならいけるとナカムラはショーンについての事を話し、アリバイを問う。

 

 「殺されたのはショーン・ブラント、昨日の博士の研究発表会で、もめた少年なのです。実験場付近で昨日の夜10時から11時頃、胸を刺されて死亡したんです、その時間博士は何処にいたか、教えてもらえますか?」

 

 「ばかばかしい、確かに最初は少し腹を立てたが、結果的に彼は良いかませ犬になってくれて大盛り上がりだったんだ、私に彼を殺す理由がない。」

 

 確かにDr.モローが言ったことは、ナカムラもそう思っていた事なので、動機が薄い事は分かっているのだが、まだショーン・ブラントが報復に来てそれを返り討ちにした可能性がのこっているのでアリバイを聴かないわけにはいかない、なのでナカムラはなるべく角が立たない様にもう一度聞く。

 

 「それは重々承知していますが、これはあくまで関係者の皆さん全員に聞いている形式的な質問なんです。お答えいただけませんか?」

 

 自分よりはるかに年上のナカムラにこれほどへりくだられてはばつが悪いのかDr.モローはアリバイを話し出す。

 

 「昨日のその時間なら発表会の打ち上げをしていた。彼女も居たから聞いてみてくれ。」

 

 Dr.モローはそう言い、受付嬢の方を指し示す。

 

 「博士の言われたことは本当ですか?」

 

 ナカムラが受付嬢の方に向き直り、そう聞くと、受付嬢は「はい、間違いありません。10時頃、全員分のタクシーの手配を博士から直接頼まれましたし、10時半ごろ手配が完了し、その報告をしましたし、そして11時に打ち上げが終わり、博士が見送りをしている姿を見ています。」と昨日の事でまだ記憶が確かなのかすらすらと答える。

 

 「ありがとう」と受付嬢に礼を言ってから、ナカムラはDr.モローの方に向き直り、「あと一つ聞きたい事があります。ショーン・ブラントを運んだ病院は何処ですか?」と訊いた。

 

 だがDr.モローはめんどくさくなったのか、はたまた自分が疑われたことに憤っているのか、そっぽを向いて、「それも、そこの彼女に聞いてくれ」と言うだけだった。

 

 

 

 

 

 ナカムラはDr.モローの研究所を出た後、受付嬢から聞いた病院を訪ね、ショーン・ブラントの生前の様子を聞いた。その後、ナカムラはショーン・ブラントが生前歩いたと思われる道のりを実際に歩きながらこれまでえた情報を整理していた。

 

 昨夜6時半ごろにショーンは目が覚ました。その後、念のための精密検査などが行われ、それがすべて終了したのが9時ごろ。持ち物や衣服を看護師から返されたショーンは最初から不機嫌だったが、服を着替え終わり持ち物を確認し始めた時、突如怒りを露わにし「俺のナイフをどこにやった!!」と看護師を怒鳴りつけたらしい。

 

 看護師が「ナイフなんて最初から無かった」と言うとショーンはさらに怒り出し、「さっきまで持っていたんだ、絶対にあるはずだ。」と言い看護師にもう一度探すように言った。

 

 看護師は仕方なくもう一度、ショーンの持ち物が他になかったか確認し、なかったと分かるとショーンが最初に運ばれた処置室や病院の搬入口まで探したがそれでもナイフがなかった。そのことを伝えるとショーンはチッと舌打ちし病院を出て行ったらしい。これが9時40分ごろと言うことだ。

 

 ナイフを探していたのはよほど大事なものだったか、それとも見つかってはまずいものだったのかだろう。ナカムラはショーンが殺された凶器が彼自身が購入した、違法すれすれのナイフだったことから後者だと当たりを付けている。

 

 ショーンがさっきまで持っていたと言っていたことから、実験場でレッド・トルネードに吹き飛ばされたときに実験場近くに飛ばされていったのだろう。たぶんショーンもそれに気づき実験場の近くまで戻って来たに違いない。

 

 だとするといよいよ行きずりの犯行の可能性が低くなった。ナイフもショーンから直接奪ったのではなく、恐らく先に拾っておいたのだ。そしてショーン戻ってくることを予想して、事件現場で待ち構えていたのだろう。

 

 ならば犯人はあのナイフが違法すれすれの物だと分かり、なおかつ実験場で失くしたことを知ることができた人物と言う事になる。前者はあれだけ大きなナイフだ、見ればすぐわかるだろう。であれば重要なのは後者だ。

 

 ショーンが実験場でナイフを失くしたことを知りえた人物、それはやはりDr.モローの研究発表会に来ていた者達だろう。

 

 ナカムラがそこまで考えが及んだ時、事件現場に到着した。

 

 現場に到着したナカムラは自分の腕時計を見て時間を確認する。

 

 「病院から現場まで約20分か、死亡推定時刻ともあうな。」

 

 ナカムラは改めて今回の犯人について考える。被害者に対し強い殺害動機があり、ナイフを探しに実験場近くに被害者が現れる事を予測できる人物、ナカムラの脳裏に一人の人物の顔が思い浮かぶ。カート・トラップ、ショーンに対し強い殺害動機があり、Dr.モローの研究発表会に来ており、ナイフの事も知りえた可能性がある。その上アリバイがない。

 

 「これは明日もう少し詳しい話を訊く必要があるかもしれんなあ。」

 

 ナカムラは明日、カートを警察に呼び話を訊くことに決めた。

 

 

 

 

 ナカムラが重大犯罪課のオフィスに戻るとすでにショーン・ブラント両親は帰ったのかサイクスが机に向かって書類仕事をしていた。その顔は何時もの上昇志向が強く、前へ前へと向かって進んでいこうと言う意欲に満ちた溌剌としたものではなく、何処か暗い海の底でもがいている様な苦い表情だった。

 

 無理もない。ただでさえ被害者の関係者に被害者の死亡を伝えるのは難しく、気分のいいものではないのに、親に子の死を告げるとなれば尚更だ。

 

 だが乞われても居ないのに慰めるのはサイクスのプライドが傷つくだろうとナカムラは何も気づかぬ素振りでサイクスのデスクまで行き声をかけ、得た情報を交換する。

 

 サイクスの話によるとショーンの両親は彼の死を告げられると泣き崩れたそうだ。その後、何とか話を訊くことができたが家族の前ではショーンはごく普通の子供だったようで特段気になる話はなかった。また両親自体も平凡などこにでもいるような夫婦で息子を殺されるほどの怨みを買うようなことはなかったようだ。

 

 サイクスの話を訊いた後、ナカムラが仕入れてきた情報を話すとサイクスも同じ結論にたどり着いたのか「カート・トラップを引張っりますか?」とカートを警察に強制的に連れてくるのかと含みを持たせ訊く。

 

 それに対しナカムラは任意できてもらうつもりだと言う意味を込めて「ああ明日、こっちに来てもらって、もう少し詳しく話を訊くつもりだ。」と答えた。

 

 そうするとサイクスは「わかりました、明日、取調室を使えるよう準備しておきます。」と言った。

 

 ナカムラはそれに「ありがとよ、それじゃ頼む。」と言ったのを最後に自分のデスクに戻っていこうとした。だがそれをサイクスが「すいません、少し話したい事が……あるのですが。」と戸惑いがちに呼び止めた。

 

 ナカムラはサイクスのプライドを気づ付けると思い何も言わなかったが、サイクス自身はナカムラに話を訊いてほしかったのかもしれない。

 

 「それじゃああっちで話すか。」ナカムラが休憩室を指さし、二人で向かう。

 

 ナカムラにとってサイクスは部下であり相棒である。一人の社会人として尊重してきたつもりだが、サイクスにとっては違ったのかもしれない。そもそも二十歳そこそこのサイクスとナカムラでは祖父と孫ほどの年の差があるのだから意思の疎通に齟齬が生じるのは予め予測して然るべきだろう。

 

 サイクスにしても親世代に対しては反発する心があるかもしれないが祖父母世代のナカムラには甘えが出ると言うか、素直になれるのかもしれない。

 

 休憩室に向かう二人は姿形こそ大きく違うがどことなく祖父と孫娘の様にも見えなくはない。

 

 二人は休憩室に入る。誰も居なかったのでサイクスは手近な席に座り、ナカムラはそのままカップドリンクの自動販売機まで行き、コーヒーとニンジンジュースを買ってからサイクスの対面の席に座り、サイクスにコーヒーを渡す。

 

 「ありがとうございます。」

 

 お礼を言い、サイクスはコーヒーを受け取った。その温かさに心をゆだねながら彼女は自分では消化しきれなかった思いを口にする。

 

 「最初、遺体を見てもただの遺体としか思わなかったんです、学校でショーン・ブラントのやったことを聞いて、ブレイン・ダルトンの父親にあって、殺されても仕方がない奴だとさえ思いました、ですがショーン・ブラントの両親に会ってからは、そうは思えなくなったんです。 彼にも親があり、子供だった、殺されていいはずがない。でも殺される理由がなかったとは思いたくはないんです。ブレイン・ダルトンを自殺に追い込んだのなら、それは許されるはずがない。」

 

 ナカムラはサイクスの話を訊きながら、新米だったころの自分を幻視した。なんと言う事はないナカムラも昔、同じようなことを考えたことがある。要は被害者の関係者に会い感情移入してしまっているのだ。それ自体は悪い事ではない。だがサイクスの場合、正義感が強いので感情移入が強すぎる、所謂、入れ込み過ぎであるのと、それぞれの被害者家族両方に感情移入してしまい、自分の中に矛盾を抱え込んでしまったのだろう。

 

 「サイクス」

 

 ナカムラは優しく、そして力強く、サイクスに声をかける。

 

 「はい」と返事をし、俯き手元のコーヒーに視線を落としていたサイクスは顔を上げ、助けを求めるようなまなざしでナカムラを見る。

 

 「お前の考えはどちらも間違ってはいないと思う。ブレイン・ダルトンがショーン・ブラントのいじめを苦に自殺したなら、例え殺人罪に問えなくとも人殺しと変わりないと俺は思う。だがショーンの両親にとっては、彼は良い子で殺されていいような子じゃなかったんだろう。だからな、ショーン・ブラントには殺される理由はあった……だけど、だからって殺していいわけじゃない。それだけだ。」

 

 ナカムラは一息入れ「まあ、そうやって色々考えたり、悩んだりするのも、お前さんがまっとうな人間の証しだ。俺みたいな年寄りだって、いまだに迷う事がある。」

 

 「ナカムラ警部が迷った時はどうしているんですか?」サイクスは少し元気が出てきたのかナカムラの話に少し興味がわく。

 

 ナカムラは自分の事を話すぐらいでサイクスの気がまぎれるならいいかと持論を語りだす。

 

 「俺の場合か? そうだな、俺はこの仕事をルールを守る仕事だと思う様にしているな。」

 

 「ルール? 法律を守らせるってことですか?」

 

 「いや、もっと大きなものだ、そうだな、モラルや常識って言い換えてもいいかもしれん。人が集団の中で生活を送るために最低限必要なこと、殺さない、害さない、とかそう言う事だ。 ……なぜ人を殺してはいけないのか、サイクスは考えたことはあるか?」

 

 「命を奪う事は悪い事だからですか?」とサイクスは答える。

 

 それに対しナカムラは少し意地悪い返しをする。

 

 「そうかもしれんな、だが人間は多くの動物の命を奪って生きているぞ。牛とか豚とか魚とかな、外を出歩けば蟻だって踏み潰してるかもしれん。 それはいいのか?」

 

 「…………」

 

 サイクスはナカムラのその返しに答えられなかった。

 

 「なぜ人を殺してはいけないのか?という問いへの、俺なりの答えは、人殺しは悪い事だからだ。」

 

 「それって私の答えとどう違うんですか?」サイクスは少し非難めいた声色で言った。

 

 「そうだな、きちんと言葉にするとなると難しいが、〝人を殺してはいけないと言う事が人間が、文化的、または社会的生活をするために最低限必要な共通認識だから〟というところだな。隣人が自分を殺しに来るかもいしれないっていつも警戒しないじょうたいじゃあ、まともな集団生活なんてできないだろう。」

 

 サイクスはナカムラの説明に思わず納得しそうになるが、「それって、なぜ人を殺してはいけないのかの説明にはなってますけど最初の話とずれてませんか?」と言いナカムラがなにを言いたいのか問う。

 

 「要するに、だ。 刑事続けてるといろんな被害者、加害者、その家族、友人、知人、色んな事情を持った人に出会う。そんな中で、犯人を確保したり、時には自分や仲間、一般の人達を守るために犯人を制圧したりするんだ。同情したり、怒りに身を焦がしたり、悲しみにくれたり、後悔したり色々ある。とても他人の思いまで背負い込み続けることは出来ん。だから俺はある程度以上は踏み込まない様に線を引いた。それが〝人を殺してはいけない〟だ。誰かの為でも、正義の為でもなく、己の為、己の所属するコミュニティを護ために必要な共通認識を維持するために、刑事の仕事をしている。そう考える様にしている。 誰かの為って考えるより自分の為って考える方が気が楽だからな。」

 

 ナカムラの心の内を聞いてサイクスは少なからず戸惑っている。彼女からすればナカムラは刑事の大先輩で、それこそ職業としてのではなく、本物のヒーローの様に思っていた。だからこそナカムラにも人間らしい弱さの様なものがあることに驚き、また今までよりも親しみが感じられた。

 

 「だけど何も、俺の事を真似しろって言ってるわけじゃない、お前も自分で折り合いをつけられるところを見つけて行けばいい。まあ、いい加減にやれって訳じゃないが、力を抜いて、もっと気楽にな、やっていけばいい。」

 

 ナカムラはそう言い、サイクスを元気づける様にかすかに微笑みかける。

 

 「ありがとうございます。」

 

 ナカムラの話を訊き少しは気が楽になったのかサイクスは礼を言う。

 

 「まあ、また辛いこと、困った事があったときは、俺でも、他の誰でもいいから相談すればいい、幸いお前は、一番の新人、周りは全員先輩だらけだ、相談相手には困らんさ。」そう言うとナカムラは立ち上がり、すれ違いざまに座ったままのサイクスの肩を、いたわるようにポンポンとたたき、休憩所を出て行った。

 

 




 

 読んでいただきありがとうございました。
 Iアイランド編はメリッサをメインで書こうと思っていたのに今回はオリキャラがメインになってしまいました。
 だけど次回こそメリッサをメインで書こうと思います。

 感想、批評いただけると嬉しいです。
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