ヘラクレスが現代日本倫理をインストールしたようです 作:飴玉鉛
作者のプロット通りなら、今月末か12月の頭ぐらいにsn完結予定。
続くかは未定。
当たり前の日常。そこには士郎がいて、大河がいて、桜がいた。
朝の喧騒、何気ない遣り取り。切嗣から受け継いだ理想を胸に、何をすれば“正義の味方”になれるのか判然としない日々に悶々としながらも、はっきり断言できる確かな幸福がそこにはあったように思う。
自分が人並みの幸せを甘受している事に、無意識の内に後ろめたさを覚えていても。それだけは、確かだったのだ。
――桜が攫われた。大河は遠ざけられた。必然として、衛宮士郎の日常は崩壊した。
聖杯戦争。彼女達を欠いた非日常が始まっている。その象徴として、バーサーカーとセイバー、そしてイリヤスフィールが衛宮邸の居間にいた。
士郎は半ば無意識に複数人分の朝餉の支度をして、物悲しい気分に陥っていた。桜と自分、そして大河の分を作ってしまっていた事で、一時的なものとはいえ彼女らとの離別を強く自覚し暗くなってしまったのだ。
しかし作ってしまったものは仕方がない。どのみちイリヤスフィールは食事が必須であるし、残すのも勿体無いのでセイバー達サーヴァントにも朝食を供する運びとなるのは自然だった。大河は食い意地を張っているので、三人分のものとしては多目に作っている。衛宮邸の住人が四人になったが不足はないはずだ。
「……ほう」
「………」
「へぇ……意外と美味しいわ。まだまだ荒削りだけど、長じたらわたし付きのコックになれるかもね、お兄ちゃん」
白米にワカメと豆腐の味噌汁、だし巻き卵、鮭のみりん漬け、小松菜の煮浸し、蓮根のきんぴら。朝から手の込んだものだが、必然として学校を休む事になった士郎は手間だとは思っていなかった。
いちいち頷きながら小まめに箸を動かし、出された物を残らず咀嚼していくセイバーと、批評が育ちの良さを感じさせるイリヤスフィール。バーサーカーは最初に呻いたきり、体格的には全く足りないはずなのに満足したように箸を置いていた。口の大きさもこの場では随一である、食事の早さもまたそれに比例したのだろう。早食いなのにそれを感じさせないあたり、戦士であっても王でもある証なのかもしれない。とは言っても士郎に古代ギリシャにおける作法の知識なんてないから、現代の感覚から見て汚い食べ方に感じないだけだったが。
「手厳しいなイリヤは。けど今回は有り合わせで作ったからな。採点は夕食まで待ってくれ。今度はイリヤも唸らせてやる」
「錬金術の大家、アインツベルンに向けて強気じゃない。そうまで言うなら楽しみにしておこうかしら」
「? ……なんで錬金術が出てくるんだ?」
「料理も錬金術の一部みたいなものだからよ。魔術世界に於いてアインツベルンに追随する錬金術を修めた家系なんて、ユグドミレニアぐらいのものだし、それだってわたしからすると児戯に等しいわ。そんなわたしをお兄ちゃんみたいなへっぽこ魔術師が満足させられるのかしらね?」
台所で手を洗い、手拭いで水気を取りながら居間に戻る。和食は得意分野だ、一般家庭の範疇なら早々誰かに遅れを取りはしない自信がある。
へえ、錬金術って料理も含めるのかと思いつつ。挑発的に笑う様子を見て、絶対イリヤは料理なんかしたこと無いなと確信する士郎であった。フィクションのお嬢様キャラクターにありがちな、料理をしようとすると鍋を爆発させたりするようなベタな真似はしないだろうが。
「バーサーカーはそれで足りるのか?」
空いていたのでセイバーの横に座る。お行儀よく、品よく咀嚼し、綺麗に食べてくれる健啖家らしいセイバーを横目に、見ていて気持ちよくなる食べっぷりだと満足しつつ――神殿の柱の如き重厚な存在感の巨漢に訊ねる。
箸を置いてイリヤスフィールやセイバーの食事の光景を眺めていた狂戦士のサーヴァントは、士郎に巌のような視線を向けて重々しく頷く。バーサーカーと比べると、士郎も普通の人間に過ぎない範囲の存在だからか、彼の所作のいちいちに威圧感を感じてしまう。しかし脅威を感じはしても竦みはしない程度には、バーサーカーの存在に慣れる事ができていた。
「喰えない事はないが、サーヴァントに食事は不要な物。マスターより供給される魔力だけで現界に差し支えはない。しかし供された物を訳もなく突き返すのも無礼だろう。故に栄養は不要だが、その味を楽しみはする。その点で言えば、私は満足した。称賛を受け取れエミヤシロウ。貴様の腕は、既に私の国に居たあらゆる者を凌駕している」
「そ、そっか……」
手放しに褒め称えられ、悪い気はしない。しかし彼の時代に現代基準での料理と言えるものがあるのか怪しいため、なんとも素直には喜べない気もする。つくづく相手取るのが難しい男だ。
ちらりとセイバーを見ると、丁度完食したみたいで、箸がお椀の底をカツンと突いていた。ぁ、と物悲しげな声で呟くところを見るに、食べきっていた自覚がなかったのだろう。目に見えて残念そうにするセイバーに、士郎はなんだか微笑ましくなった。訊かなくても分かる、彼女は士郎の料理を堪能してくれたのだ。
ささやかな喜びを抱くのは、人が喜んでくれたから。献身的な性質の喜びを感じている彼に、不思議なものを見る眼をしていたイリヤスフィールだったが、ふと思い出したように言った。
「あ、そうだお兄ちゃん。わたし、此処を拠点にするつもりなんだけど、その代わりに滞在費と食費は払っておくね」
「ん? そんなの要らないぞ。気を遣わなくていい」
「いーの。だってわたしがお金なんか持ってても仕方ないし……バーサーカーがわたしの家を消し飛ばしちゃったから、ほんとうに要らないのよ。アインツベルンの者はもうわたしだけなんだから、財産の所有権はわたしにしかない。だからお兄ちゃんに全部上げる。財産の共有とでも思っておいて」
「は? バーサーカーが家を消した……?」
「マスター、その言には誤りがある。セラとリーゼリットもいるだろう」
「ああ……そういえばいたわね、セラとリズ。放っておくのも可哀想だし、あの子達も呼ぼうかしら?」
訂正するのはそこなのか? 何やら物騒な遣り取りな気がしたが、特に言いたいわけでもないらしく士郎の視線は無視される。突っ込んで聞くのはやめておこうと士郎は自重した。何やら血生臭く陰惨な気配を感じたのだ。
――イリヤスフィールは、聖杯戦争が終わればどのみち長くは生きられない。だから財源が失われたとはいえ莫大に残っている財産を惜しむ事はない。
バーサーカーがアインツベルン家の『ラインの黄金』は処分してしまったから、どうあろうとアインツベルンの財産は目減りする一方でもある。故に士郎に全てを上げたいとイリヤスフィールは思ったのだ。
後日何気なく通帳を開いて、士郎は桁が跳ね上がった貯金残高に目玉が飛び出しそうになるのだが、それはまた別の話である。
「それにしても意外だったわ。セイバーって食い意地張っているのね。はしたないわ」
「っ! 心外だ、イリヤスフィール。私はあくまでシロウの出してくれたものを粗末にしないために――」
「あはは嘘くさーい。なにー? そんなに美味しかった? 涎出てるじゃない」
「!?」
「うっそー。騙されてるー!」
「……イリヤスフィール!」
「きゃー! こわーい、助けてバーサーカー!」
キツく声を荒げるセイバーの剣幕に、イリヤスフィールはきゃっきゃと笑って自身のサーヴァントの影に隠れた。バーサーカーは嘆息して窘める。食事のさなかにおいそれと騒ぐものではない、と。
常識的だ、と士郎は驚いた。そういえば、何かと彼は秩序立った規律を重んじている気がする。見掛けと能力で誤解していたのかもしれない。なんでもかんでも腕力に物を言わせるような荒くれ者が、一国の王として史書にその名を燦然と輝かせるはずもないのに。――実際はその通りな一面もあるが、知らぬが仏とはこの事である。
そうして食事を終えると、空の食器を持って台所に行く。士郎が洗い物を終え、元の位置に腰を下ろすと時計を見た。……平日である。本来なら着替えて登校していなければならない時間帯だが、士郎はサボる事にしていた。桜が攫われているというのに、呑気に学生として過ごしていられない。元の日常を取り戻すためにも今は、
「――皆、俺は桜を助けたい。協力してくれ」
間桐桜を取り戻す。彼女の居ない日常なんて、考えられない。
セイバーとイリヤスフィール、そしてバーサーカーの顔を見渡して、士郎は切り出した。そこに先程までの和気藹々とした雰囲気はない。
悪ふざけしていたイリヤスフィールも幼気な佇まいを掻き消し、氷のように冷たく冴えた表情で士郎を見返した。バーサーカーとセイバーは口を噤む。サーヴァントとしてマスターの意向を優先する構えだ。セイバーは無条件に協力してくれるだろうから、頼むべきはイリヤスフィールである。
「いいんじゃない? シロウが助けたいんなら、そうしたらいいわ」
「手を貸してくれるのか?」
「手を貸す貸さないは別として、どのみちサクラはあの金ぴかの手の内よ。ならわたしとバーサーカーは金ぴかをどのみち殺すんだし、必然的にサクラを助けようとするシロウの手助けをする事になる。だからシロウは協力を要請するんじゃなくて、金ぴかとサクラ、ついでにランサーがどこにいるか一緒に探してくれって頼めばいいの。戦うのは同じなんだから」
「……そうだな。そもそもどこにいるかも分からないんじゃあ手の打ちようがない」
「だから、まずはランサーのマスターを探す所から始めるべきね。――後、マキリも捕まえなくちゃ」
「マキリ?」
「マトウの事よ。あそこの家が御三家の一角なのは知ってるわよね? 初代はマキリって名前で、日本に来て間桐って名前に変えたのよ。聖杯の役目を掠め取った奴なんてソイツしか考えられないし……金ぴかとランサーのマスターが結託してて、金ぴかがサクラを連れ去ったんならマキリが裏にいてもおかしくない。だからマキリも探さないといけないわ。……でもマキリの家、今はもう更地になっちゃったから……」
「御三家……あ、じゃあ遠坂も、もしかして聖杯戦争に関わってるのか……?」
今更のように思い出した士郎に、イリヤスフィールは呆れた風に首を左右に振った。
「リンはほっといてもいいわよ。話してみた感じだけど、こんな回りくどい事に関わりそうには見えなかったもの」
「遠坂と知り合いなのか、イリヤは」
「ええ。最近ちょっと話しただけなんだけど。リンはその時まだサーヴァントを喚んでなかったみたい。流石にもう喚び出してるだろうし、異変に気づいたら向こうから来るんじゃないかしら。だからリンは放っておいて、好きに動き回らせればいいわ。厄介事に首を突っ込んだらその騒ぎに介入できるでしょうしね」
イリヤスフィールは顎に手を当て、考えを纏めながら話している。すると不意に眉を動かしてバーサーカーを一瞥した。
サーヴァントとマスターに繋がるパスを通じて何かを話しているのだろうか。気になり目を向けると、イリヤスフィールが小声で士郎とセイバーに言った。
「……シロウ、口を隠して」
「え?」
「いいから。手で覆いなさい」
有無を言わさない語調に驚きながらも、イリヤスフィールが自分の口を手で覆ったのを見て真似をする。
どういう事なんだと視線で問うと、声をくぐもらせてイリヤスフィールが言った。
「バーサーカーが教えてくれたわ。
「ッ……!?」
「霊視……それから遠視ね。キャスターかしら? なんにしても、口の動きで話の内容を知られるのは面白くないわ。だからこのまま話すわよ。分かった?」
「……ああ。バーサーカーはなんで気づいたんだ? 俺には全く分からないぞ」
「バーサーカーは視線とか、生き物の意志とかに敏感らしいわ。多分セイバーも気づいてたんじゃないかしら。さっきからシロウに物言いたげだもの。パスを通じての思念をキャッチできてないのね、シロウ。……鈍すぎない?」
「え?」
慌ててセイバーを見ると、気まずげな表情をされて士郎まで気まずくなる。
自身の魔術師としての腕が、そうとうにレベルが低い証拠のようで、とても居た堪れない。セイバーが強く言ってこなかったのは、バーサーカーがイリヤスフィールを通じて教えるだろうと察していたからだろう。
「――っ。シロウ、今バーサーカーが教えてくれたけど、昨日の夜に蟲が忍び込んできてたみたい。バーサーカーは態と気づいてないフリをして見過ごしたらしいわ」
「……蟲? ……あっ! マキリか!? 確か間桐の魔術がそれだって桜が――」
「ええ。シロウがわたしに護られてるのを察知してたから大丈夫だって判断したんだって。それで、マキリはまだ気づかれてないと思って、また何度か忍び込んでくるかもしれないわ。それを繰り返せば尻尾を掴めるかもしれないって。……バーサーカー、そういうのはもっと早く教えなさいよ」
恨めしげなイリヤスフィールの視線に、バーサーカーは肩を竦めた。
士郎としては自分の家にそう何度も侵入を赦したくないのだが……それで桜の行方を知れるなら我慢するしかない。
「で、これからどうするの?」
「え?」
「サクラを探すんでしょ。わたしとしてはバラバラに探し回るより、固まって動いた方がいいと思うわ。だって別行動してる時に金ぴかとランサーが同時に襲い掛かってきたらセイバーも困るわよね?」
「………」
「……そうだな。じゃあ四人で纏まって動こう。何処から探そうか……」
セイバーが小さく頷くのを見て士郎が考え込むのを尻目に、イリヤスフィールは冷徹な表情で眼を細める。
桜を探す。実に結構だ。別に構わない。だが、イリヤスフィールには彼らを見つけられるとは思えなかった。
マキリは狡猾だ。向こうから下手を打たない限り見つけられるとは思えない。あの、前回から残っているらしい金色のアーチャーもそうだ。そして此処までずっと穴熊を決め込んでいるランサーのマスターも、迂闊に見つかる手合いとも思えない。
探すだけ手間になるだけだ。今は時期を見るべきで、士郎があんまりにもお粗末な魔術師らしいからそれを補う時間に宛てるべきである。そして向こうが動き出したところを迅速に叩くのが手堅い。その場合、相手の土俵に乗ることになるのだろうが、こちらには最強のバーサーカーと最優のセイバーがいる。狂化していないとはいえ、バーサーカーの一撃をまともに受けていながら、短時間で回復してくる防御力は特筆すべきものである。正面から敵を食い破れるとイリヤスフィールは確信していた。
だからイリヤスフィールはにこりと微笑む。彼女の考えでは桜は既に
「テキトーに街を歩こうよ。どうせ宛なんかないんだし、暇も同時に潰しながら探した方が建設的だと思うわ」
――哀れだな、小娘。雑種共は貴様を見捨てたぞ。
「うそ、です」
自身の裡より溢れそうな、
暗がりの中、金色の王は眼を細める。喜悦に歪んだ口を耳元に寄せ、囁いた。
「ああ、確かに貴様の慕う小僧は見捨てんだろう」
「………先輩」
「だが奴も所詮は雑種。隠れ潜む者を探し出す術はない。見つけ出せるとすれば、アインツベルンとやらの小娘だろうが……アレに貴様や我を探す気はあるまい」
「………」
囁く。
「奴らは血縁関係らしい。小僧は兄妹の情ゆえかあの小娘を許し、あまつさえ小僧の屋敷に上がり込んでいる。とんだ厚顔さよな? そしてアレは貴様の裡にあるモノ故に、断固として貴様を殺そうとするだろう。小僧がなんと言おうと、な」
「………」
「気づいておるのだろう? もはや貴様は
「………ギルガメッシュさんは、私をどうするつもりなんですか」
「知れたこと。貴様を利用してやっているだけだ。だがまあ、結果として貴様は我の手により、その身に潜むものより解放されるだろうがな」
「………私を、助けてくれるんですか?」
「助けるつもりはない。全ては利用した結果、そうなる可能性もあるというだけだ。だが――何度も言うようだが、アレは貴様を殺す。魔術師とはそういうものだ。貴様にも理解できるだろう?」
「………」
「面白いものを見せてやる」
黄金の王は、手元に金色の波紋を生み出す。そこより開かれた門が、彼の手に一つの水晶が顕した。
それを少女の前に差し出す。
映し出されたのは、少女もよく知る屋敷だった。慕っている少年もいる。先輩、と呟いたのを尻目に、王は楽しげに嗤った。
「ほう、流石はヘラクレス……セイバーは元より鋭さは変わらんらしい」
気づかれた事に、王は気づく。しかしそれでも構わないのだ。その光景の中で、彼らは――少女が恐れ、忌み嫌うバーサーカーとそのマスターが、少女の領域を憩いの場としているのが問題なのだ。
少女の貌に、嫌悪が過る。なんで、と不穏な響きを持って呟かれた。なんであの娘が先輩の隣に……。
やがて動きがある。外出するらしい。
少年と少女が並んで歩く。周囲を固めて、セイバーとバーサーカーが警護している。
街に出て、散策していた。少女は気紛れに少年を振り回し、笑顔を見せていて――それを、食い入るように見る貌が――
「ッ………」
「貴様も女だ。分かるであろう? アレは貴様のいない場に居座り、成り代わろうとしている。貴様がアレの手により死んだ後も、何食わぬ顔で小僧の隣に居座るのだろう」
「そん、な……事……」
「貴様は、我の言った通り手遅れだ。それこそ我が貴様を拐かすまでもなくな。故に、今は小僧の元には帰れまい。反転した貴様は確実に小僧を害すからだ。言ってみれば、その業より解き放てるのはこの我のみ。アレは貴様を殺すことしか考えてはいまいよ。愚図れば愚図るだけ、アレは小僧の心中に食い込み、やがては貴様に取って代わるだろうさ」
「――――」
「小娘――いや、サクラ。この我が名を呼んでやる。サクラ……貴様はどうしたい? 貴様の裡のものより切り離せるのは我のみだ。貴様を救えるのも我だけだ。さあどうするサクラ。我を利用し、あの小僧の許へ帰るか? 我を利用し、あの小娘を殺すか? ああ――選択肢は無いな。そうせねば、
「私と……ギルガメッシュさんは、対等って事ですか……?」
「ふむ」
少女の問いに、王は一瞬の間を空けた。
「対等ではない。我は貴様の生殺与奪権を握っているのだ。そしてあの小僧を生かすも殺すも我次第なのだからな」
「……先輩に、手を出さないでっ」
「もう一度言おう。貴様次第だ。サクラ、我を利用しろ。出し抜いてみせよ。我と貴様は対等ではない……だが貴様がその関係より脱さんと足掻くのは自由だ。さあどうするサクラ? 我を利用しその裡のものを切り離し、帰還するか。そしてアレを排除するのか――選ぶのは貴様だ。今、選べ。我の慈悲は有限だ。何も選ばぬ者には何もくれてやるものなどない」
「――……わた、し……は……」
王が手を差し伸べる。
少女は――その手を取った。
蠢く何かを、少女は受け入れる。仮の宿として差し出す。自由と、自分と、自分の居場所を護るために。
「祭典の時は間もなく満ちる。ヘラクレス、そしてセイバーよ。――さあこの時代の行く末を占うぞ。聖杯戦争を始めようではないか――」
王が、裁定を下す。
※ルールブレイカーはこの世界線に存在しない模様。メディアもエミヤも持っていない。よってどうにかできるとしたらギルだけというのもあながち嘘とも言い切れない。ギルの万能っぷりは異常だってはっきりわかんだね。