ヘラクレスが現代日本倫理をインストールしたようです   作:飴玉鉛

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注)エミヤの時はサーヴァント追加召喚、ギルVSアルケイデスはなく、弓兵はエミヤではない。其れ以外には言えない、言ったらネタバレになる危険があったりなかったりする。




二十二夜 白の陣、邂逅の夜(下)

 

 

 

 

 轟音と共に襲来したのは、体の急所のみを護る鉄鎧を纏い、純白の外套を羽織った白銀の髪の女神である。

 否、女神ではない。しかし父である軍神の美貌を、他の誰よりも色濃く受け継いだのは確かである。故にその美が人語を絶するものとなるのは必然だった。

 棘のついた鉄球に繋いだ鎖を手に、堂々と敵陣に突撃した麗しき女戦士は謳うように告げた。ヘラクレス、出てきてこの私と闘えと。果たして騒音を撒き散らし登場した女王の声は、その類稀な声量もあって衛宮邸の隅々にまで鳴り響いた。

 

「騒々しいな。余程に礼儀を知らぬ狂犬かと思い出向いてみれば、いたのが我が義妹であったとは――ふん、遠い時の果てにまで構ってもらいに来たのか、ペンテシレイア。存外可愛いところもあったものだ」

 

 鎧は出さず、海嘯の魔槍のみを提げて出たのはバーサーカーである。続いて飛び出してきた士郎が、自身の家を囲う外壁が打ち崩されているのを目撃し目を見開く。

 長年住み慣れた我が家が破壊された。この事実は士郎に大きな衝撃を与える。そして美の化身ペンテシレイアを睨みつけ、しかしすぐに呆けたように人の領域にはないその美しさに目を奪われた。

 

「ハッ――戯言をよくもほざいた。相も変わらず大上段に構えた男だな。腹立たしいがなるほど、確かに懐かしくはある。…この手で縊り殺してやる日を、昔から夢想していたものだが……ああ、悪くない気分だ。貴様と戦えるなら現界した甲斐もあった」

 

 ペンテシレイアは一瞬、バーサーカーを目視し目を細めた。そこには郷愁にも似た、ある種の温かい光があって。しかしその光はすぐさま滾るような戦意に押し隠される。

 

 瓦礫を蹴散らし、悠々と衛宮邸の敷地に侵入したペンテシレイアは、鉄球を放り捨て腰の剣を抜く。ヘラクレスと戦うのに鉄球など荷物にしかならないと判断してのもの。つまり彼女は本気でヘラクレスと――バーサーカーと戦うつもりなのだ。

 だが解せない。彼女とバーサーカーはこの聖杯戦争では初見同士だ。どこでバーサーカーの存在を知り、その所在を知ったというのだろう。探りを入れるべきかとも思ったが、戦争では情報は命である。指揮官としても優秀なペンテシレイアが情報の出処を漏らすとは思えない。故にバーサーカーは無駄な探り合いはやめる事にした。ただただ、旧知の仲の英霊の貌に懐かしさに浸った。ライダー・メドゥーサがいたのに会う事なく脱落した事を知る故に、その感慨も一入だった。

 

「敬愛する姉を取られまいと、噛み付いてきたあのペンテシレイアがな……随分と大きく出るようになったものだ。微笑ましくて頬が緩む」

「……バカめ。いったい何時の話をしている? 女王たる私は寛大だが、()れるのは好みではない。聖杯に招かれた戦士と戦士が相見えたのだ。ならば戦士としても、サーヴァントとしてもやる事は一つだろう」

 

 道理ではある。総ての戦士達の王とまで謂わしめた王者として、その言には受けて立つ他になかった。

 殺す他にないか――自身の感情の全てを無視し、戦士である以上は戦いは避けられない。そうなれば殺すしかないのだ。ペンテシレイアは女王であると同時に戦士であるとはバーサーカーも認めるところ、故に戦士として挑みに来たなら戦士として迎え撃ち、打ち倒すしか道は有り得なかった。

 だからバーサーカーは、せめて最後に彼女との会話を楽しむ。殺気を潜ませながらも和やかに対話する、その生と死を内包した対峙こそが敵対する戦士達に赦された唯一の交わりなのだから。

 

「貴様の言う通りだ。生前はついぞ、本気で立ち会った事はないが……貴様に私が斃せるのか? その身の父たる軍神が、最強の人間であると指し示したこの私を」

「ヘラクレス。貴様が最強だからこそ挑むのだ。我が血、我が魂を誇ればこそ、最たる者である貴様を糧として我が強さの位階を上げる。英霊は不変の存在――だからなんだという。そんなものでこの血の滾りを抑えられるものか。私は強くなる、私自身の手によって。そして示すのだ、いと高き父マルスに。貴方の娘こそが最強なのだと――貴方の定めた最強者を凌ぐのだと!」

「そうか……時が経つのは早いものだ。骨の髄まで戦士、だからこそのアマゾネス。ああ、認めよう。アマゾネスとしての純度は紛れもなく貴様が最高だ。……しかしだな、その思い立てば魔猪の如くに突撃する癖は治らんのか? 私としては戦闘の最中に巻き込んでしまったのなら仕方ないと思うが、そうでもないのに他所様の家を壊してしまうのはいただけん。いいかペンテシレイア、我々サーヴァントは所詮、稀人なのだ。戦闘の結果でもないのに迷惑を掛けるのは不届きだぞ」

「……その妙な貧乏性も変わらんのか、ヘラクレス……他ならいざ知らず、敵マスターの陣地ともなれば破壊に躊躇いを持つわけがないだろう……」

 

 微かな笑みと苦笑が交わされる。殺気を滲ませながらも、互いに呆れ合い軽口を叩く様は、これから殺し合おうという殺伐とした雰囲気は感じられない。

 士郎はそれに戸惑う。殺し合いは忌避すべきもので、恐ろしいものであるはずだ。だのに、この二人にはそれがない。まるで近しい者との語らいの如く、平素の在り方のまま……さながら“戦い”こそが唯一の付き合い方のような、ある種の清々しさがあった。

 イリヤスフィールとセイバーが、いつの間にか士郎の傍に居た。油断無く辺りに視線を配り新手の存在を警戒しつつ、セイバーが加勢する素振りも見せずにいる。イリヤスフィールは打ち壊された外壁を見て、これは修復できないわね、と投げやりに言った。

 緊張感はない。バーサーカーが勝つと誰もが確信していた。バーサーカー自身も、そしてあるいは……ペンテシレイアですらも。

 

 しかし、衛宮邸の外壁部を一瞥してバーサーカーがある言葉を口走った瞬間、そんな空気は刹那の瞬間に淘汰される。駆け抜けた戦慄に、イリヤスフィールの貌から余裕が消え、緊張感が生まれた。

 

「“城壁の破壊者”か。そんな所まで父を真似ずともいいだろうに。美しさも含めて私の記憶のままだな」

「――美しい、だと」

 

 ピシリ、とペンテシレイアの眉間に亀裂が走ったような険が広がる。凄まじい憎悪と憤怒に彩られた貌に、一瞬にしてバーサーカーは思い至る。

 

 ――ペンテシレイアは、アマゾネスの女王である。人類を間引かんとする大神は、大義名分や口実がなかった故に、自ら勅令を発しアカイアにトロイアへ攻め込ませた。その際に公に神意が晒された故にもはや隠し立てする必要もなく、神々は憚りなくアカイアの軍勢に加護を与えたのだ。

 対し、トロイアに味方した神は戦神マルスのみ。マルスの尽力、ヘクトールの奮迅もあって十年間戦い抜けたが、業を煮やした大神の発令により神や精霊までも戦争に直接参加しトロイアを苦しめた。ヘクトールはもはや長くは防げないと悟り、アマゾネスに救援を要請し――来援したのがペンテシレイアである。

 ヘクトールとペンテシレイアは協力してアカイアの軍勢と戦い、ペンテシレイアは特に畏敬の念を懐き信仰する父の下、奮起して戦っていたのだが。その活躍があまりにも目立ち、目を瞠るものだった故に、アテナとオデュッセウスの策によってヘクトールとマルスから分断されてしまい、最速の英雄アキレウスと一騎討ちに及ぶ事になった。

 そうしてペンテシレイアはアキレウスに敗れ、彼は自身が打ち倒した女王の兜を剥いで素顔を見て思わず溢したという。『美しい』と。

 

 その最期を逸話として知る、ペンテシレイアの人柄を知る。故に美しいという言葉に憤怒を示す表情でバーサーカーは悟った。禁句だったか、と。

 だが撤回する気はない。美しいと感じたのだ、それを否定する事はできない。だが、

 

「美しいと、そう言ったのか、ヘラクレス――」

「ああ、言ったとも」

「ッッッ!!」

「だが、まあ……ポルテには劣るがな」

「――――姉上に?」

 

 赫怒の炎を燃やさんと、今に爆発するところだった怒りが霧散する。

 ポルテ――其れはヒッポリュテの愛称である。困惑する様には、しかし若干の喜色があった。

 煽てでも誤魔化しでもなく、確信を持ってなんでもないように言う。

 

「アレは気高く、誇り高く、そして強かった。その心までも。メガラを忘れた事はないが、私はポルテを妻に迎えられた事を誇りに思っている。――ポルテはただただ、その姿から魂に到るまで全てが美しかった……貴様よりもな、ペンテシレイア」

「……そうだろう。姉上は、強かった。そして私と同等に美しかった。フン、分かっているではないか」

「戯け。何が“同等”だ。ポルテが上だと言ったぞ」

「………」

 

 機嫌を直したペンテシレイアが、うんうんと頷く。それにバーサーカーは呆れながら訂正するも、ペンテシレイアは聞こえないふりをした。

 美しいと言われれば怒り狂うくせして、自身の美しさを欠片も疑っていない様に、面倒な奴とバーサーカーは呆れてしまう。しかし思い返せば面倒ではない手合いの方が珍しかったのを思い出し、これも愛嬌かと思い苦笑した。……その愛嬌が致死性であるのは笑い事ではないのだが。

 

「――なんだ。敵を前にしているというのに、まだ戦ってはいないらしいな」

 

 と、ペンテシレイアの背後から、彼女を追うようにして一人の男が現れた。

 士郎が満面に驚愕を浮かべる。それに興味を向けもせず――どころか、最初から眼中にないペンテシレイアは、少しの微笑みと共に背後を一瞥した。

 隔絶した美貌が象る微笑みは、万人の心を魅了する呪いのようなもの。しかしそれに全く反応した素振りのない男に、ペンテシレイアは一層笑みを深めるのだ。

 

「やっと来たか、ソウイチロウ。遅いぞ」

「お前が速いだけだろう。それよりどうした、アーチャー。お前は戦いが望みなのではなかったのか?」

「その通り。だが先刻の我が言葉を忘れてはいまい。私は初戦を貴様の号令で飾ってやると決めている。さあ命令を寄越せ、ソウイチロウ。我がマスター。――恐らく、全力で戦える唯一の機会だ。頼むぞ」

「ああ、それがお前の望みだというのなら、そうしよう」

 

 ペンテシレイアが獰猛に犬歯を剥きながらも言うと、男は淡々と頷いた。

 全力で戦える唯一の機会……それは、比喩ではない。ペンテシレイアは現世への依代は得たが、マスターからの魔力供給は受けられていなかった。

 なぜなら彼には魔力がない。故にペンテシレイアは現界してから一度も戦わず、活動しているだけで貯蔵魔力を目減りさせていっている。全力戦闘は今のマスターであれば一度が限度であると見切っていた。だからこそ戦うのはこの聖杯戦争で最強の相手でなければならず、それこそがヘラクレスなのである。

 

「葛木先生!? なんであんたが……!?」

 

 愕然とした士郎の声に、男――葛木宗一郎は凪いだ眼差しを向ける。ペンテシレイアなど「また教え子か」と呆れ気味だ。

 

「衛宮か。まさか遠坂だけでなく、お前までも聖杯戦争に加わっているとはな。世間というものは存外狭いらしい。学校を休んだのはこれが原因か。ならば同様に欠席しているらしい間桐とその妹も聖杯戦争に関わっているのかもしれんが……災難だったな」

「葛木先生……いや、葛木。あんた、魔術師だったのか」

 

 敢えて呼び捨てたのは、士郎なりに彼を敵と認識するための自己暗示だった。

 敵対するのに敬称を付けると、士郎はやり辛くて仕方ない。割り切れなくなる。無論殺すところまでいきたくはないが、相手もそうしてくれるとは限らないのだから。

 士郎の詰問に、葛木は否定する。あくまで平静そのものの姿は、士郎が普段から知っている教壇に立つものと同一で、その揺らがぬ有様にこそ違和感を感じずにはいられない。

 

「私は魔術師ではない。そして純正のマスターでもない。マスターを失い、消えようとしていたアーチャーに請われ、依代になっただけの事。――しかしこれは、私が始めた事だ。傍観者を気取るつもりもない。戦うというのなら、降り掛かる火の粉を払う程度はしよう」

「ッ……」

「衛宮。私はアーチャーの邪魔をする気はない。お前が戦わないと言うなら、私はここに立っているだけだ」

「フン。貴様も律儀な男だな、マスター。この期に及んで教師らしく諭すとは。だが、私は手は抜かん。殺せる所にいれば殺すぞ。構わないな、ソウイチロウ」

「好きにしろ。ああ、命令を出せばいいのだったか。ならば――やれ、アーチャー。敵を殺せ」

 

 葛木が気負いなく、枯れた声音で告げる。ニッ、と会心の笑みを浮かべ、ペンテシレイアが抜き身の剣を構えるや、バーサーカーも応じて魔槍を構えた。

 妖しく、酷薄に笑みを浮かべたのはイリヤスフィールである。刻限は夜、すなわち聖杯戦争の時間。甘えん坊で、ワガママで、天真爛漫な少女ではなく、冷徹なマスターの貌になる。

 

「――あら。まるでわたしが手折られるだけの華に見られるだなんて心外ね。バーサーカーがソイツを抑えてる間に、わたしが貴方を殺しちゃえばお終いじゃない」

「イリヤ!? 葛木を、殺すのか……!?」

「当然よ。相手は殺す気で来てる。それもわたし達にサーヴァントを嗾けた。なのに自分は知らないから勝手に戦えだなんて……そんな言い逃れを許すほど、わたしは甘くないわ」

 

 ――生きている人間を殺すだなんて、士郎には受け入れられない。

 だが短い付き合いでも士郎には分かる。イリヤスフィールは、殺すと言えば本当に殺す少女だ。そして同時に、あっさりと前言を翻す気紛れさもある。

 説得すれば思い留まってくれる、そう信じてイリヤスフィールを説き伏せようと士郎が口を開いた瞬間――ペンテシレイアが()()()

 

「ァァアアアアアア―――ッッッ! さあッ! 戦いの時だ! 私と貴様、生きて終えた者こそが真の強者! 殺し合おう、我ら戦士の業は血を見る事こそ悦びだッ!」

 

 軍神咆哮。アマゾネスの女王が持つ固有のスキル。それは聞く者が味方ならば勇猛を与え、敵ならば心肝を凍えさせる獰猛なそれ。

 バーサーカーは懐かしげに遠くを見て。イリヤスフィールや士郎は顔を強張らせた。そして、セイバーは二人のマスターを護るように前に出る。

 

 葛木は、戸惑っていた。困惑した目で、ペンテシレイアを見る。

 

 ()()()()()がペンテシレイアの咆哮によって揺り動かされたのだ。これまで感じたことのない感覚――()()()()()()、戦闘に際してのベストコンディションに変貌する。

「ッ――」堪えるように葛木は拳を握る。()()()()()()()宿()()。ペンテシレイアと契約で繋がるが故に、その精神の同調が葛木へ戦いの加護を齎したのだ。

 すなわち、()()()()()()()()()()()()()()()()()ということ。堪え切れずに葛木の口が歪んだ。()()だった。

 

「ぐ……はは……なんだ、なんだこれは? 私は……私が、昂ぶっている? アーチャーめ……この情動、なんとした事か……ッ!」

「戦え、戦えソウイチロウッ! 貴様には私と肩を並べる資格があるッ! 闇夜に潜むべき暗殺者であろうと、この私と並び立てば一廉の戦士として遇するに値するッ! さあ、敵を殺すぞッ!」

「……良いだろう。悪くない、ああ、悪くないぞ。この私が……枯れた殺人鬼に過ぎん私が、その気にさせられてしまってはな……!」

 

 言いつつ、葛木は嗤った。その殺意に漲る男の姿に、士郎は生唾を呑み込んで刀を投影した。

 らしくない、らしくないのに――あの葛木には、まるで()()()()()()()()

 士郎達の前に出ているセイバーの顔色が変わった。葛木が油断ならぬ敵であると直感したのだ。

 

 戦いが始まる。この場の誰かが確実に死ぬ、死闘が。

 

 セイバーがいる、バーサーカーがいる、如何にペンテシレイアでもこれを覆せる力はない。まずペンテシレイアが敗れ、葛木はセイバーに斬られて死ぬだろう。

 だが()()()を予感させる何かがあった。バーサーカーが鎧を纏う。魔槍を構え、イリヤスフィールに言った。それは――微塵も油断なきが故の、確殺の要請。

 

「マスター。私に()()を。全力で仕留め、()()()の芽も潰さねばならん」

「……そうね。なんか、嫌な感じがするもの。全力でやっていいわ。バーサーカー……」

 

 狂いなさい。その一言で、バーサーカーのサーヴァントはしかし、狂わずに本領を発揮するだろう。

 

 その直前、ペンテシレイアが跳ぶ。弾けたように襲いかかるのはバーサーカー。戦いの嗅覚が、させじと機先を制する為に仕掛けさせたのだ。

 応じてバーサーカーが槍を振るわんとする。

 

 その時だった。不意にペンテシレイアの剣と、バーサーカーの魔槍の切っ先が鈍る。気配を感じたのだ。

 

 

 

「――やめなさいっ! この場は私が預かるわ!」

 

 

 

 ()()()来たのだろう。その()()は水晶を二人の間に投げ、仲裁を鋭く宣言する。

 その水晶の中に、()()が閉じ込められている事を一瞬で気づいたのはペンテシレイアとバーサーカーの双方である。

 令呪による空間転移で出現した、()()()()が物干し竿を手に、バーサーカーの魔槍を受け流し。ペンテシレイアの剣を握る手を片手で受け止め、威力を絶妙に散らしている。

 

 玲瓏な風貌の侍は、フッと耽美な笑みを浮かべてペンテシレイアとバーサーカーを見遣り。バーサーカーは彼の得物を見て興味を惹かれ、魔女の声を聞いたが故に槍を引いた。

 なおも邪魔者を押しのけ戦わんとする女王に、魔女は焦りと苛立ちからペンテシレイアに向けて叫んだ。

 

「アーチャー、人の話は最後まで聞きなさい……! ヘラクレスと戦わせるために居場所を教えたわけじゃないわよ!」

 

 そう。葛木宗一郎は元々、柳洞寺に住む。そしてそこに潜んでいた魔女は彼を庇護下に置いていて。そんな彼をマスターにしたペンテシレイアの存在を知らぬはずがなかった。

 魔女はペンテシレイアを間に置き、ヘラクレスの陣営と接触しようと目論んでいたのだ。全てはこの変質した聖杯戦争に対処するために――世界で一番恐ろしくとも、世界で一番信頼でき、一番強いと確信する大英雄を味方にしたかったから。

 だから居場所を聞き出すなり飛び出したペンテシレイアを止めるために、名もなき亡霊の依代である山門を水晶に閉じ込め、元々山門のあった場に幻術を掛け門が消えた事を隠蔽し、準備に準備を重ねて大慌てで追ってきたのである。

 

 ――此処に、“白”の陣営が結集する事となった。

 

 セイバー、バーサーカー、アーチャー、キャスター、アサシン。

 衛宮士郎、イリヤスフィール、葛木宗一郎。

 

 彼らが“白”である。

 

 

 

 

 

 


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