ヘラクレスが現代日本倫理をインストールしたようです   作:飴玉鉛

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書き方忘れたでござるの巻……!
シリアス欠乏症につき本作に手を出したでござる。


二十六夜 裁定者に下されるモノ(下)

 

 生前に受けた啓示と、サーヴァントとして備わったスキル『啓示』は異なるものだ。

 

 前者が紛れもない『主』の声を、本能を超えた先にある本質へ届けてくるものだとしたら。後者は形のない感覚がダイレクトに叩きつけられるもの。

 

 後者のものは主の声ではなく、あくまで伝承を基にした力でしかない。故に裁定者のサーヴァント『ジャンヌ・ダルク』は英霊としての自分に宿るスキルについて、特別な思い入れを感じてなどいなかった。生前と死後の啓示は根本的に別物なのである。英霊ジャンヌ・ダルクにとって啓示とは、もはや道具、力の類いでしかなくなっていた。

 

 とはいえ利便性で言えば後者が勝る。何せ主の意志が関わらない『道具』だから、発生頻度が生前に比べて桁外れに多いのだ。

 

 不敬な物言いになるが、滅多に語り掛けてくれない天上の御言葉よりも、便利さを問うならばやはり、安定しているスキルの方が有り難い。

 スキル・啓示の精度は高い。いや、高いなんてものではない、的中率はほぼ100%と言えた。故に敬意こそ懐いてなくとも信頼はしていた。この力が報せてくれたものは、きっと間違いのないものなのだ、と。

 

 ――故に、齎された啓示にルーラーは凝固する。

 

「ほう? 我の姿を見るまでもなく、我の王気を感じ自らの末路を悟ったか」

 

 ほんの一瞬、体が固まった。目の前に現れた金色の英霊を認識する前に。

 さきほど謁見した戦士王とは全く異なる黄金だ。太陽のように眩く酷薄な熱射を放っている。

 それは英霊であり、故にジャンヌ・ダルクは裁定者の特権であるスキルでその真名を看破できた。

 

「英雄王、ギルガメッシュ……」

 

 ――死。

 

 死。

 

 死。

 

 啓示は、確定された結末をルーラーに報せていた。叩きつけていた。

 余りに明確で、冷酷な事実。心が折れても仕方のない、絶望的な未来告示。だがルーラーは、絶望の正体を目の前にしても怯まなかった。

 毅然と睨み据え、殺気を漲らせる王に向け口を開き――それを、制される。

 

「誰の赦しを得て口を開こうとする? 雑種、貴様と無駄な問答をするつもりはない。この我を差し置き『裁定者』などと嘯く不敬は万死に値するのでな、貴様に下す裁定はただ一つのみ――死ね。自害せよとは言わん、我が手ずから死をくれてやる。疾く消え失せよ、我の描く絵図に貴様は要らん」

「――な、」

 

 問答無用とばかりに、黄金の王は背後の空間へ金色の波紋を展開する。

 その数は――百は下らない。だがその数よりも、ルーラーが驚愕したのは位置だ。

 ルーラーは今、言峰教会へ向かっていたところで。ルーラーの背後には人々の暮らす住宅街があった。こんな所で宝具を使う英雄王の意図を、ルーラーは見抜いたのだ。即ち――躱すのはいいが、躱せば無辜の民草に犠牲が出るであろうな――そんな冷徹な戦術だった。

 聖人なら絶対に躱せない位置に、英雄王がいる。英霊ジャンヌ・ダルクは自分を聖人、聖女であるなどと思ったことはないが、それでも避けられない。避けて良いはずがない。サーヴァントとは所詮過去の影法師、今を生きる現世の人々を害する真似は言語道断であるのだから。

 

「あ、貴方は――貴方には、英霊としての誇りが――!!」

「喚くな、雑種。英霊としての矜持とやら――貴様自身が魅せるがいい。もし我を興じさせたなら、褒美を賜わす事を考えてやってもいいぞ?」

 

 ニヤリと嗤い、英雄王はルーラーの批難を聞き流して。そして百を超える魔弾が、断続的に放たれた。放たれ続けた。

 果たして宝具を解放する間も与えられず、ルーラーがどれほど持ち堪えられたのか。それを知る英雄王は詰まらなげに鼻を鳴らし、誅した雑種の事など記憶の彼方へ追いやっていた。

 

「――これで目障りな雑種は排した。次に我が動く時が決戦の時だが……雑種を間引くのは庭師の仕事、それを我にさせたのだ。我の想定を超えて興じさせねば……無事で済むとは思わぬ事だな、サクラ」

 

 

 

 

 

 

 

 

  †  †  †  †  †  †  †  †

 

 

 

 

 

 

 

 

 サーヴァント・バーサーカー、真名をヘラクレス(アルケイデス)

 一つの神話に於いて最大無比の大英雄として語られ、三千と余年の時を経てなお知れ渡る超級の雄。史実に残された大王アルケイデスと、神話の英雄として記されたヘラクレス双方の霊基を有する特記存在こそが彼である。

 マスター・イリヤスフィールだからこそ、サーヴァントという枠組みの中で可能な限り生前に近い状態で召喚できた。イリヤスフィールが喚ばなければ、史実と神話の特性を有した戦士王は現界しなかっただろう。したとしても魔力供給など叶わず一瞬で命が枯れていたはずだ。

 最高のマスターとして設計されたイリヤスフィールにしか使役できない最強の大英雄。それが戦士王だ。彼と単騎で戦い勝利を掴める者など、古今を見渡したとて五人もいるかどうか怪しいだろう。

 

 紛れもなく全英霊中最強候補の一角である彼は、しかし強者の傲慢さこそあるものの、油断や慢心とは縁遠い戦士であった。

 

 故にヘラクレスは驕らずに敵を見渡す。超抜級の呪いを内包した泥に周囲を囲まれていた。ルーラーを始末するのを邪魔されないように牽制目的で、三騎の敵サーヴァントが襲来している。内訳は『黒』の陣営の槍兵と兜の騎士、そして黒化英霊――ヘラクレスは微かに目を細め、その有様を悼んだ。

 

「スーダグ・マタルヒス……いや、その姿からしてメドゥーサとして喚ばれたのか。既に斃されていたとはな……」

 

 ライダー・メドゥーサの末路にヘラクレスは一握りの嘆きを零した。

 黒化しているとはいえ、理性と知性は残っているのだろう。彼女は自身が()()()()()で仕えた恩人にして主君、ヘラクレスと敵対している事に気まずさを覚えたようで、居た堪れなさそうに身じろぎした。

 だがライダーは黙して語らない。

 自らのマスターである間桐桜のためを思うなら、自身が成すべき事は一つだけだ。それを成すまで迷うわけにはいかず、ただただ木偶に徹して戦うのみ。それに既に敗死した身で何を語れようか。相手が嘗ての主君であろうとも、矛を交えるのに躊躇いを覚える資格はなく――ライダーの様子に、ヘラクレスは彼女の覚悟を感じる。

 ならば交わす言葉は無い。元より今生は仮そめのもの、生前からの知己や臣下に情けをかけるよりも、マスターの身の安全を確保する方が優先される。敵として立ち塞がるなら、例え誰であっても討ち取るまでだ。

 

「――貴方、は……」

「……? シロウ、下がって」

 

 そして、対面する兜の騎士と騎士王。

 高潔なる伝説の騎士王を目にした兜の騎士は、予期せぬ邂逅に驚愕し――そして澱み、歪んだ歓喜に総身を震えさせる。その様子にアルトリアは眉をひそめた。兜の騎士の纏う甲冑は宝具であり、正体を隠蔽する力がある。アルトリアからすると、敵が何故か自分に注目しているのに警戒心を懐きこそすれ、そこになんらかの特別な感情を想起される事はない。

 アルトリアは自身のマスターを下がらせ、ちらりとヘラクレスを見遣る。彼はセイバーの視線に応えて一歩前に進み出るや、背に自らの陣営を従えて指令を発した。それは各々の適性と能力に則った手堅い判断である。

 

「アーチャー、キャスター、セイバーはマスターを守れ。アサシンは好きにするがいい。――ランサーとメドゥーサは私が殺る」

「へッ……」

 

 殺気の籠もった視線を受け、ランサーのサーヴァント、クー・フーリンは嬉しげに笑った。

 呵責なき殺意。闘争の誘い。それは鬱屈とさせられていたランサーにとっては福音だった。気に食わないマスター、気に食わない令呪、気に食わない味方との戦列。何もかもに牙を剥け、心臓を穿ち抜いてやりたい怒気に燻っていたランサーは、思わずヘラクレスへと語りかけてしまっていた。

 

「いいねぇ……この聖杯戦争はクソッタレばっかだが、テメェと殺り合えるってだけで一時は忘れてやれる。だがな……オレをコイツと纏めて殺るだと? ナメられたもんだ……ああ、面白えじゃねぇか……!」

「………」

 

 メドゥーサは内心、自分を仕留めた槍兵と肩を並べるのに思う所はある。それに同じ少女をマスターにしているとはいえ、ランサーの方は桜を毛嫌いしている節があった。マスターの鞍替えを強制されている以上、仕方がないのだろうが……やはり完全な信頼は出来かねる。本音を言えば後ろから刺してしまいたい。が、それをするには敵対陣営もまた強すぎた。

 ランサーを失えば、均衡が崩れてしまう。不利になってしまう。それは避けたい、故に殺さない。『黒』の陣営に相互の信頼関係は皆無だった。

 光の御子の好戦的な物言いに、しかし戦士王は冷静に返す。

 

「誤解をするな、舐めてはいない。単なる計算の話だ」

「計算だと?」

「辺りを囲うこの黒泥は取るに足りん――等と、生前はともかくサーヴァントの身では言えん。故に魔術に長けた者、後方からの支援を行える者、サーヴァントの命綱であるマスターを直接守れる者を配置したのだ。するとどうだ? 後は私しか、貴様らを制圧できる者がいない。簡単な話だろう」

「ハ、そこの……アサシンだったか。ソイツは計算にも入れねえ雑兵かよ?」

「さてな。私は貴様を知る、貴様の槍をアレは躱せん。対峙を避けさせ、横合いから殴りつけさせるのが上策だろう」

「そうかよ……なら、そろそろおっ始めるとしますかねぇ……!」

 

 真紅の魔槍を扱き、強靭な四肢に力を漲らせる槍兵に、ヘラクレスもまた自然体のまま戦闘態勢へ移行する。

 いざ、小競り合いを。

 誰もが小規模の戦闘に帰結すると、薄々悟ってはいたが。しかしヘラクレスは内心独りごちた。

 

(私を前に、私を見もせんとはな。生前の因縁でもあるのかもしれんが……それは油断とも言えない()だぞ)

 

 視野の隅に収まる、輪郭定かならぬ全身甲冑のサーヴァント。まるで騎士王しか見えていないかのような様子に、戦士王は声なき声でマスターに念を送って裁可を仰いだ。

 

(隙だらけのアレを殺る。一瞬、一撃で終わらせるぞ。マスター、宝具の使用許可を)

 

 『白』の陣営の要、冬の少女は薄く嗤った。

 無垢な雪の花弁が如き微笑みが答えである。

 

(いいわね、面白そうだし――やっちゃえ、バーサーカー)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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