ヘラクレスが現代日本倫理をインストールしたようです   作:飴玉鉛

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2.3 英雄の証、獅子の星 (下)

 

 

 

 

「グゥウウ……! 雄ォォオオオ――ッ!」

 

 肉を食い破る杭の如き牙の鋭さに苦悶の呻き声を漏らし、次いでそれを塗り潰すようにして咆哮した。

 左の二の腕を黄金の獅子の顎が捉えている。岩石より削り出したような太い犬歯が、束ねた棍棒の如き太腕の皮膚を突き破り、濁々と鮮血を噴出させていく。牙が骨に達すれば左腕は喪失するものと考える他にない。死に物狂いで抗う。

 荒い息が掛かる。獅子の猛々しい、されど必死な形相。三日目の激闘、ついに捉えたヘラクレスの腕をネメアーは離そうとしない。ぐいぐいと顎を鳴らして腕を噛み砕かんとしている。己の顔のすぐ近くにある獅子の顔に、ヘラクレスは右拳を叩きつけた。

 離せ、離せ、離せ――! 全身傷だらけだ。噛み付いてくる獅子の脳天に、眉間に、顎に、豪腕を幾度となく打擲する。顔面を殴打されながらも、獅子もされるがままではない。前肢を遮二無二に振るい、その大爪で英雄の肉体を掻き毟った。ヘラクレスの胴体に刻まれている裂傷が更に増える。背にも前にも傷しかない。比喩ではなく全身が傷だらけなのだ。

 

 牙を塞き止める筋肉の厚み。左腕に力を溜めたまま、ヘラクレスは狙いを変えた。この三日間の内に何度か痛撃を与えた犬歯に狙いを定め拳を振るう。

 

 硬質な牙を打撃する原始の音色。拳が割れ、血を噴出させながら、ヘラクレスはそれでも自慢の剛力を発揮し続けた。

 犬歯に皹が入る。左腕の筋肉を破り骨に牙が届く。ギャリ、ギャリと削られる骨の音を聞きながら、総身から深紅の血を噴き出すほど拳に力を籠める。

 

 先に砕けたのは、神獣の牙だった。凶悪な大岩の如き牙が殴り割られ飛び散る。それを掴み取ったヘラクレスは、神獣の砕けた牙をネメアーの左眼に突き込んだ。

 世界に満ちる精霊が狂騒に陥る絶叫を残し、黄金の獅子は顎の力を緩めてしまった。振りほどいてなんとか獅子の顎から逃れると、獅子の間合いからよろめきながら離れてヘラクレスは絶息する。

 

「ハァ、ハァ、ハ、ァ……」

 

 血を流し過ぎた。

 意識が朦朧としている。全身を大爪で刻まれ、流した血の上を更に血が流れる。左腕はだらりと肩から脱力し、力が入らなくなっていた。

 もう立っているのがやっとだ。だがそれは、ネメアーもまた同じである。

 後肢の内の一本は圧し折れ、全身に打撲の後を残し、至るところの骨が砕けている。神威も減じ、鬣も気力と共に縮れている。世界を支えるほどの腕力から繰り出された拳と蹴撃を、千回以上受けたがためだ。左眼にも己の折れた牙が突き刺さっている。

 

 共に死に体。されど、両者の目は炯々と光を放ったまま。

 

 まだだ、まだ宿敵が生きている。立って戦おうとしている。ならばここで倒れる訳にはいかない。満身創痍の有様で、体を支えているのは最早気力だけだ。

 勝ち筋は、実を言うと見いだせていた。とっくの昔に。何年も昔に見て取った友人の癖のように。獅子はその体の構造上、前肢の真横に張りついてしまえば相手の牙と爪は届かない。そこからネメアーの首に腕を回し、絞め続ければ絞め殺せる。ヘラクレスの洞察眼は勝ち筋を見抜いていた。

 だがそうはしない。正面切っての闘いをやめない。これはくだらない拘りだ。純粋に勝ちだけを目的としていられる領域に立っていなかった。いや、もはや勝ち負けではない。生死を争っているのではない。

 これは、対話だ。ヘラクレスはネメアーとの命のやりとりを、かけがえのない語り合いにしていた。噛みつかれる度、拳を叩きつける度、交わされる思惟。ヘラクレスはネメアーを理解し、ネメアーもまたヘラクレスを理解した。何よりも互いのことを――あるいは自分以上に分かり合っていた。

 

(実を言うと、嬉しいのだろう?)

 

 ヘラクレスはよろめきながら獅子に歩み寄ると、見る影もない拳撃を放つ。

 それを顔面で受けたネメアーは、踏ん張れずに無様に転倒した。追撃できない。肩で息をして、ネメアーが立ち上がるのを待つ。

 黄金の獅子は、血を吐いた。それでも立った。そしてもたつきながらヘラクレスに突進する。胴の真ん中に獅子の体当たりがまともに入る。

 

(死に体になっていながら、恥ずかしげもなくほざくな)

 

 今度はヘラクレスが転倒した。血を吐いて咳き込み、肋骨が折れているのを今更自覚する。ネメアーはヘラクレスの上に圧し掛かった。大口を開け、欠けた牙ばかりの顎でヘラクレスの首に噛みつかんとする。

 動かない左腕はそのままに、右手でネメアーの鼻面を抑えて防ぐ。そのまま押しのけようと力を込めても、ネメアーの情けない膂力に拮抗する程度だった。

 

(対等の友と出会えた故に、年甲斐もなく喜び、孤高の王の座を降りてしまった。それが照れくさいのだろう)

(戯言を。貴様が言えた口か? 気色の悪い怨念をぶつけ、八つ当たりをし、鬱憤を晴らした分際で)

(すまん。貴様にしか吐き出せないと思った。だが受け止めてくれただろう?)

(くどい。王に友など要らん。これまでも、これからも、孤高のままに在る。惑わせるな)

(そうは言うが何事にも例外はつきものだ。貴様にとっての例外を、私にすればいい)

(………)

 

 ――そんな思惟の交感。力の緩んだネメアーを押しのけ、獅子を蹴り飛ばして立ち上がったヘラクレスは笑った。久し振りに自然と溢れた、晴れやかなまでに快活な好漢の笑みだった。

 魅入られたように獅子王はそれを見詰める。そしてフッとネメアーは笑ったようだった。

 

(ばかめ。貴様は真正の戯けだ。だが――そうだな。そんな戯けだからこそ、いいのだろうよ)

 

 ネメアの谷の獅子は。特異点級の神獣は。周囲と自身の魔力を掻き集め、口腔に溜める。知っていた。それは大陸を削り取るだけの破壊力を秘めた魔力砲撃であると。

 だがその凄まじい天災が如き破壊の力は、やはり大幅に規模が縮小している。それでは辺り一帯を灰燼とし、死にかけのヘラクレスを殺すのが精々だろう。

 全霊を賭していた。なけなしの全力を費やしていた。これで殺す、殺してみせると、矜持に掛けて最後の一撃を放った。

 

 ヘラクレスはそれを迎え撃つ。最初に見た時は力任せの拳撃で相殺した。だがもうそれだけの腕力は捻出できない。これは無駄な足掻きである。

 だが無駄でも良い。無駄な闘いだからだ。殺すだけならヘラクレスはネメアーを絞め殺せていた。そうできるほど闘いの中で急成長していたのだ。だがそうしなかった。しなかった時点で、この血戦は蛇足である。余分な闘いで、全く合理的ではない。

 それでいい。それがいい。ヘラクレスは緩やかに拳を構えた。なけなしの魔力を振り絞り、体力を絞り尽くし、力を握る。だが体は疲弊し尽くしていた。もはやまともに動かせない。力を入れた端から抜けていく。強すぎる力で固まっていた、固めていた体が脱力しかけていた。

 

 黄金の粒子が獅子の口腔より迸る。決着を望む獅子王の魔力砲撃がヘラクレスを襲った。

 

 ヘラクレスは吼える。吼えて体に活力を取り戻す。ケイローンの下で身につけた呼吸法は、辛うじて体を動かせるだけの力を捻出した。

 しかしそれだけだ。それだけでは力が足りない。どうする、どうすればいい。光の帯が迫りくる。ヘラクレスは己の死を直感しながらも、信じた。己を。

 英雄は己の肉体に任せることにした。本能に託す。これまでの修練を信じる。さあ、この絶体絶命の死地をお前はどう脱するのだ、アルケイデスよ――自らへ向けた問いに体は応えた。

 

 そうするのか、と感心する。拳を腰の位置まで落とし、握った拳は柔らかく、肩から手首まで柔軟だ。それでいて足は大地を踏み締めて、重心が地の底まで伸びている。

 全身から無駄な力が抜けた。強すぎる力故に、ここまで追い込まれねば抜けない力が抜けた。手を伸ばした先にまで黄金の光の帯が迫っている。ヘラクレスの肉体は、長年の研鑽と本能を融合させ、その一撃(・・・・)を導き出す。

 

 ――対象を消し飛ばす神威の光。放たれた神聖なる破滅の力。それに向かって振るわれるは英雄ヘラクレスの集大成。

 

「――――」

 

 気がつけば、黄金の破壊の光は消滅していた。

 綺羅綺羅と光の粒子が夕焼けに溶けていく。ヘラクレスは呆気に取られた。自身の放った一撃は、絶体絶命の死地を正面から打ち破ったのだ。

 

 記憶にない。己は何をした。直前まで覚えている動きと力の加減、技量の粋を集めたそれを再現しながら、体が覚えていたそれを虚空に放つ。

 閃光が瞬く。己自身の目にも留まらぬ、神速を超えた超高速の九連撃。淡い魔力の光を燐光として散らしながら、ヘラクレスの拳撃の極致が結実していた。余波で谷が振動する。死に体の体で振るった一撃でだ。

 

 無駄な闘いだと思っていた三日間の激闘。それがヘラクレスに齎した一つの極限、究極の一撃。ただの技量を、技を宝具の域にまで高めたヘラクレスだけの力。

 真名(なまえ)はまだない。ヘラクレスはこれが宝具の域に達したそれだとまだ自覚していないからだ。

 

 ネメアーは驚愕していた。己に残された命の全てを結集しての砲撃が掻き消されたのである。勝利して飾ろうと放った最期の思いが儚く散っている。しかし虚空に放たれたヘラクレスの技撃の極致を目にすると、ネメアーは仕方なさそうに地面に横たわった。

 

「……!」

 

 ヘラクレスは血みどろの死闘を繰り広げていた神獣に駆け寄った。

 闘いは終わった。ヘラクレスにとっては予期しない形で。

 ネメアーは己の全てを出し切ったのだ。命を使って放った魔力砲撃でヘラクレスを倒し、それを見届けて自分も死ぬことを良しとしていたのである。

 ヘラクレスを殺せなかった時点でネメアーの敗北は決定した。もはや立ち上がる力がない。気力はあっても体が言うことを聞かない。それに、異様に眠くなっていた。これが死か、と縁遠いはずの概念にネメアーは穏やかな表情をしていた。

 ヘラクレスは得難き友の最期の顔を見る。死んだと思った、だが抗った。すると無自覚に放った一撃でネメアーのそれを相殺し、これで勝てると勇んだ時にネメアーが倒れたのだ。無性に悔しくて悲しかった。

 

「――ひとりだけ満足して逝くなッ!」

 

 大喝した。理不尽にも立ち上がることを要求した。

 しかしネメアーは穏やかに、薄く開いた目でヘラクレスを見るだけで。

 まるで勝ったのに負けた気分にされる。ネメアーは心底満足していて、ヘラクレスはまだやれると息巻いている。頼む、もっと闘ってくれ――懇願するようにネメアーの体に触れると、最後に今までの曖昧なそれではなく、はっきりと伝わる思惟があった。

 

(貴様の、勝ちだ)

「ッ……! なぜ、そんなことを……」

(自然の掟だ。この身を如何様にもするがいい。我が身は人理に属する遍く道具を無効とする力を持つ。この身に打ち勝った貴様にこそ、我が力を纏うことを赦そう)

「ばかな! 私はまだ、まだ足りない……!」

(フン。ばかは貴様だ。気づいておらんと思ったか? 貴様はそう傷を負わずともこの身を滅ぼせた。貴様は……強すぎた(・・・・)

「――――」

 

 神獣の思念に、ヘラクレスは喉を詰まらせる。そんなことはない、とは言えない。だがネメアーには、ネメアーにだけはそう言われたくはなかった。

 

(ばかめ。大虚(おおうつけ)が。ああ、だからこそなのだろうよ。勝者に敬意を。強き者に権利を。貴様の行く末を見届けたい。我が力と共に、征け)

 

 そう言ったきり、ネメアーは目を閉ざして、二度と眼を開くことはなかった。

 打ちのめされたように呆然とする。最期の瞬間まで気高く、自然の掟に従う姿勢に、畏敬の念を抱けるだけの心的余裕がない。

 そのまま座り込んだ。どうしてだ、とヘラクレスは嘆く。なぜこの身は強く生まれてしまったのだ。強者の傲慢と笑わば笑え。もう少し己が弱ければ、今少し力がなければ――己は友に対等ではない(・・・・・・)と突き放されずに済んだというのに。

 

 意気消沈する。血戦の最中には有り得なかった空虚が心を支配した。

 しかし、ヘラクレスは動く。対等ではないと言われても、友だと思ったのだ。その友の思いを無為に貶めたくはない。それに、彼の力はヘラクレスに必要だった。

 ネメアーの爪を剥ぎ取る。その爪で死したネメアーの毛皮を剥ぎ取っていった。雄大な王者の骸が無残な姿になっていくのに涙が溢れそうになる。こんなことはしたくないと心が抵抗する、だがそれを抑えつける。やがて毛皮を全て剥ぎ取ると、獅子の鬣を半分削いで束ねた。そして、呟く。

 

「自然の掟、か」

 

 ヘラクレスはネメアーの血を啜った。そして一口だけ肉を喰らう。そして無言で王者の骸を前に佇む。ここから離れる気に、どうしてもならなかった。

 いったいどれほどそうしていたのか。時間は平等に流れ、その経過は否応もなくヘラクレスの気力を回復させていく。

 はた(・・)と気がつくと、自身の傷が殆ど塞がっていた。痕こそ残っているものの、流血は止まり痛みもない。ネメアーの血を呑んだからか、それとも自前の回復力なのか。ここまでの負傷をしたことがないヘラクレスには判断がつかない。だがそんなことはどうでも良かった。

 

 ネメアーの骸を供養しよう。せめてもの礼儀だ。だが、ふいに重く硬い神威が降臨してくるのを感じ取る。

 ちらりと視線を向けると、そこには小柄で醜い……しかし筋骨逞しい太腕をした、虎髭の小男が立っていた。その姿からなんとなく察する。この神はオリンポス十二神の内の一柱、ヘパイストスだろう。

 

 体ごと振り向くと、礼を示そうとするヘラクレスに、ヘパイストスは面倒そうに首を振った。そういった格式張った儀礼などどうでもよいと。

 

『英雄ヘラクレスよ。見事な闘いだった』

「……は」

『此度の用向きはな、そこもとに頼みがあるのだ』

「頼み……?」

 

 唐突に現れ突然本題に入るヘパイストスに、面食らわない部分がないとは言えない。けれどもそうでなければヘラクレスは億劫に感じていただろう。神への非礼をしてしまう恐れがある。今そんな真似をするわけにはいかない故に、ヘパイストスの態度は助かるものだ。

 しかし鍛冶の神の頼みとはなんだろう。鍛冶仕事ばかりに熱意を傾ける神だ。それに類するものなのだろうが……。

 

『その神獣の毛皮と骸、魂の半分を貰い受けたい』

「……なんだと?」

 

 思わず、であった。剣呑に殺意を見せるヘラクレスは、己の不覚を悟る。

 しかしヘパイストスはヘラクレスに理解を示した。虚を突かれる。

 

『そこもとの憤りは解る。戦利品を奪いたいわけではない。ましてやその気高き魂を貶めたいわけでもないのだ』

「……?」

『防具に仕立ててやろうというのだ。儂がな。そこもとの武具は見た、弓もだ。酷い出来栄えだ……そんな腕で毛皮を防具としてみよ、粗悪な代物しか出来上がるまい』

「……それは」

 

 それは、そうだ。ヘラクレスは自覚している。己に鍛冶の才能はない。それにヘパイストスと比べたら、およそ総てのモノは鍛冶の腕で劣るだろう。張り合えるのは極少数だ。

 呆気に取られるに足る申し出になんとも言えないでいると、ヘパイストスは重ねて言う。

 

『これは素晴らしい戦を魅せてくれた礼だ。そこもとが纏うに相応しい神獣の鎧を仕立ててやる。儂に任せろ』

「………分かった。持っていくがいい」

『うむ』

 

 長考の末、ヘラクレスは友の亡骸をヘパイストスに預けることにした。

 話してみたところ、そう邪険にする手合いでもないと判断したのだ。なら鍛冶の神が仕上げたものを見てみたい。そう思った。

 

 そうしてネメアーの亡骸と毛皮を持ったヘパイストスは、去り際にヘラクレスに発破を掛ける。彼が自ら武具防具を鍛えるに足ると見た英雄が、いつまで経っても消沈しているのが見ていられなかったのだ。

 

『ヘラクレスよ』

「……」

『……獅子の王の魂の半分は、鎧としてそこもとと共に在る。そしてもう半分は骸と共に主神の手で星座に上げられる。神獣は常にそこもとを見ているであろう。そんな様で奴に誇れる己であると思うか? 己の胸に聞け』

「……ッ!」

 

 帰するヘパイストスの言い残した言葉に、ヘラクレスはハッとした。

 慌てて目を向けると、既に鍛冶神の姿はない。しかしその激励は確かに胸に届いた。

 そうだ。己はあのネメアーに勝ったのだ。それがこんな様では、ネメアーに笑われてしまう。失望さえされるだろう。

 怖いな、と思う。友に失望されるのは怖い。ならこんなところで立ち止まってはいられないだろう。ヘラクレスは発奮し立ち上がる。

 

 ミュケナイに戻ろう。イオラオスが心配して待っているだろう。そして次の勤めを果たそう。総ての勤めを終わらせよう。ヘラクレスの望みはまだ先に在る。それまで立ち止まる気はない。そして同時に、友に恥じぬ強者で在り続ける。そう誓った。

 

 ――後日届けられたヘラクレスの鎧は、獅子の鬣を着けた鋼の兜と、人理に属する全ての道具を弾く外套(マント)、毛皮を宿した神秘に輝く黄金の甲冑と成っていた。

 それを身に着けたヘラクレスは、ネメアの谷の獅子の力を内包し、その能力を増大させた。ヘラクレスがネメアーの認めた英雄で在る限り、その力は決してなくならず。またヘラクレス以外が身に着けると、全身から血を噴いて死ぬ呪いを発揮した。

 

 剪定事象を免れたとしたら――後の時代。ヘラクレスの鎧は散逸し、中でも兜と外套を家宝としたマケドニアの王は自身をヘラクレスの子孫であると称し征服王と号される。

 そして、遥か未来。西暦二千年以降にも現存するその兜が或る探検家によって発見され、神話の英雄ヘラクレスが実在したという証明であると考えられるようになる。

 

 呪いも現存し、ヘラクレス以外に纏えたものはいない。そしてその黄金の鬣のなびく兜の存在が、ヘラクレスは最期までネメアーの認めた英雄で在り続けた証であった。

 

 

 

 

 

 

 

 




バタフライエフェクト? 神秘の漏洩? 知らぬ知らぬ、なんだそれは何も聞こえぬ。
神秘の秘匿は協会の役目でしょ! 僕は悪くない。

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