ヘラクレスが現代日本倫理をインストールしたようです   作:飴玉鉛

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5.6 ヘラクレスの機略

 

 

 

 強さ故の孤高。誰も同じ目線に立てぬ価値観。生じる孤独……。

 

 そんなものは生まれた時からの付き合いだ、今更辛いと感じるはずもない。事実『英雄』と称される傑物達にまで忌避するような目を向けられても(ああ、またか)ぐらいにしか思わなかった。

 だが、それでも望んではいたのかもしれない。誰もが当たり前のように価値観を共有し、友誼を結んでいるのを見て、己もまた心の奥底では自分にもそうできる存在が現れるのを待ち望んでいたのかもしれなかった。いやもっと単純に、強すぎる己を化物や、理解の及ばぬ『英雄』とラベリングせず、自然と受け入れてもらいたかったのだろう。だから自分を受け入れ、愛してくれた亡妻を掛け替えのない宝だと執着していた。もうきっと、妻のような者とは出会えないと思っていたから。

 

 故にその意外と言えば意外、望外の言葉と声に、ヘラクレスは我知らず問い掛けてしまっていた。その眼力は一目でイオルコスの王子が非力で、ひ弱で、吹けば飛ぶ雑魚と言える弱者であるのを見抜いていたから問わずにいられなかったのだ――貴様の集めた英雄たちは、例外なくこの身に恐怖している。なにゆえ貴様は恐れぬのだ、と。

 

「ん? 俺が何故君を恐れないかって……そんな当たり前の事を聞くのか?」

 

 そんな問いに、金髪の優男としか見えない王子は、あくまで自信満々に、傲岸不遜に告げるのだ。信じて疑わない確信を、彼にとっての事実を高らかに。

 

「それは、俺が神すら越える叡智をこの身に宿した賢者だからに決まっているだろう」

「――――」

 

 類稀な洞察力と、人間の域を超えた直感力で確信する。

 この男は掛け値なしに本気で言っている。そしてそう信じた、本物の愚者であると。愚か極まり力の差云々を気にしない――あるいは自身の麾下に付いたのなら、ヘラクレスの力すら自分のものだと思い込むような、真正の虎の威を借る狐であると。

 普通ならそれまで。しかしそのカリスマ性と弁舌の巧みさは一級以上なのは察せられる。そうでなければアルゴー号に集った乗組員達、アルゴノーツの英雄たちに船長だと認められはすまい。愚かさ極まり、反転した力を発揮しているのだ。

 

 ヘラクレスは笑い出したくなる。

 

 嬉しかったのだ。嬉しくて堪らなかったのだ。己の力を知り、なおも平然と受け入れて、さらにヘラクレスの力を自分のものとして使おうとする傲慢さが。

 度を超えた愚者の性質こそが、あらゆるものから外れたヘラクレスの友足り得る、世にも稀な気性なのかもしれない。愚かでなく少しでも賢明であれば、ヘラクレスには絶対に距離を置くものなのだから。これまで誰一人としてヘラクレスの友となれた人間がいない以上は、そう確信せざるを得ない。

 堪らなく愉快で、爽快な気分だ。なんて現金なのだろう、少し受け入れたような姿勢を見せられただけで、こうも簡単に心を開きつつある。出会って一言しか言葉を交わしていないにも関わらずだ。あるいは愚者とは己のことではないかとすら思ってしまう。いやきっとそうだ、変に超越者然として他を下に見ていたのは否定できないだろう。

 

「愉快な男だ」

 

 ふっ、と笑みを溢し、纏っていた武威を四散させて、穏やかに称する。イアソンは少しムッとしたのか言い返してきた。

 

「ではその愉快な男の下につく君は、私よりもっと愉快な男なんだろうな」

「は――」

 

 なんだその、口の減らない子供のような言い分は。そんな言い方ではアルゴノーツ自体愉快な連中だということになるだろう。負けず嫌いにもほどがある。

 イアソンと愉快な仲間達――そんな名称が浮かんできて、可笑しくて笑ってしまう。

 ヘラクレスが不覚にも思わず笑っているのに、周囲の戸惑ったような反応を見せているのを気にも掛けず、ヘラクレスはイアソンの早とちりを訂正した。

 これは確認しておかねばならないことだ。否と出ればそれで破綻する。

 

「まだ私はお前の船出に参加すると決めたわけではない」

「はあ? なんだ、せっかくオレが……この私が歓迎したんだぞ。感激して滂沱の涙を流し感謝する場面だろう、ここは」

「そこまでか? 大袈裟だな。……一つの了承を得、一つの質問に答えてもらえれればそれでいい」

「ああはいはい、解った。解ったよ。了承してやろうじゃないか。だから聞きたいことがあるならさっさとしてくれ。私は気が長く慈悲深い方だが、時間を無駄にするのは好きじゃないからね」

 

 まだ何も言っていないのに、あっさりと投げ渡される了承の言質に苦笑する。頼み事の内容を聞かないでいいのかと訊ねると、イアソンは至極当然のように言った。

 

「君はヘラクレスだ」

「……?」

「だから……解れよ。いいか? 君はヘラクレスなんだぞ? 豪勇無双の半神半人! 私の集めた英雄達が、揃って腰抜けになってしまう大英雄だ! 君の成し遂げた偉業の総ては真実だと証明されたも同然で、なら私の目的を達成するのに君の力を宛にするのは当然だ! ここまで言えば馬鹿でも解るだろう?」

「なるほど。では私の従者イオラオスと、我が友ケリュネイアの乗船を認めるのだな」

「えっ? 鹿を……? あ、ああいや、もちろん。一旦了承したんだから受け入れる。未来の王に二言はないからな、うん」

 

 流石に予想していなかったのだろう、ケリュネイアの乗船の許可申請に目を瞬いたイアソンだったが、自分の発言を思い返してなんとか頷いた。

 そんな様にすら好意的な笑いが出てくる辺り、いとも容易く誑し込まれてしまったらしい。いやこれは、単に自分が容易い手合だったというだけのことだろう。まったく嫌になる。しかし……不愉快ではなかった。

 

「ではもう一つだ。アルゴー号の船長、アルゴノーツを率いる首魁イアソンよ。私は貴様がコルキスの金羊毛皮を求めていることは知っている。しかし何故求めることになったのか、どうやって手に入れる気なのか、持ち帰れたとしたら金羊毛皮をどうするのかは知らない。それを私に聞かせるがいい。要は総てだ」

「うっわ……めんどくさ……。……いや何も言ってないぞ。本当だ」

 

 ばっちり聞こえていたわけだが、聞こえていなかったふりをする慈悲はあった。

 アルゴー号から降りてきたイアソンは、酒宴の席に我が物顔で座ると手の届く範囲にあった杯を取り酒を呷る。口を潤わせて、面倒臭そうながらも語り出した。

 

「あー……うん。話すなら()()からか。――私は先代イオルコス王アイソンの子だ。しかし先王が逝去した後、まだ私が幼かったのを良いことに、叔父のペリアスが王位を簒奪した。母は身の危険を感じ、女神ヘラの神殿に逃れたが、刺客を差し向けてきたペリアスに殺されたよ。だが流石この私の母だけあって咄嗟の機転が利いてね、私をヘラの像へ抱かせていたからペリアスも手が出せず命を拾えたんだ。その後は知っているかもしれないが、私は馬小屋臭いところでケンタウロスの賢者に育てられ、王権を取り戻すためにイオルコスに戻ってきたというわけ。だってどう考えてもペリアス如きより、私の方が遥かに優れた治世をおこなえるからね。民のためを想ってのことだよ。だが……ペリアスは余程王位が惜しいのか、およそ不可能と思われる黒海の向こう側……コルキスの国が持つ秘宝を手に入れろと宣ってきやがった。それを持ってくれば王位を返還するってね。しかし私に不可能はない、敢えてこの難題に臨み、成功させてペリアスの鼻を明かしてやって王位を取り戻すことにした。以上が旅に出る理由だ」

 

 ヘラ。

 

 その名が出たのに一気に機嫌が悪くなった。だがヘラクレスはそれを押し殺す。あの名を聞くだけで吐き気を催す、邪悪にして不倶戴天なるヘラが関わっていようが、イアソン自身の人柄や能力には関係ないと割り切るのは造作もない。

 イアソンはそこまで語り、次いで手段について語り出す。

 

「私は野蛮なバカとは違う。コルキスに乗り込んで、無理矢理に秘宝を略奪なんかはしないさ。向こうからしたら海の果てから来た連中に、いきなり秘宝を寄越せと言われるんだからね。普通に考えて拒否されるだろう。しかし平和的に話し合って向こうに条件を出させる。それをクリアして穏便に済ませるつもりだ」

「そうか……考えてはいるようだな。だが……」

 

 英雄という名の、腕っ節の立つ荒くれ者が四十人以上いて要求されるのだ。それはコルキスからすれば恫喝でしかない。

 旅の途上で何か、コルキスにとって金羊毛皮に代わる物を調達するしかないか。そう考える。しかしそれ以上に気掛かりな箇所があった。おそらく誰も気にしていないだろう、だがヘラクレスは気づく。気づける。幼少より親しい友の一人もおらず、ジッと遠目に人間を見続けたヘラクレスだからこそ。

 

「迂闊だな」

 

 ヘラクレスがそう溢すと、イアソンはまたもやムッとした顔をする。挑みかかるように噛み付いてきた。

 

「何がだい? 私のどこが迂闊だって?」

「貴様は自分で答えを言ったぞ。ペリアスとやらは王位を欲し、兄王が死した後を襲って簒奪したのだろう? 後の禍根を立つために貴様の母と貴様自身の命を狙いすらした。そして今、正統な王位継承権を持つ貴様が王位の返還を求めたというのにペリアスは拒んで、奴にとっておよそ不可能と思われる難題を出した。要はペリアスは、貴様にこの船旅で死んで来いと命じたに等しい。そして二度とイアソンが帰らぬものと確信している。であれば――例えコルキスより金羊毛皮を持ち帰ったとしても、王位を返そうとはしないのではないか?」

「あ……」

 

 イアソンは虚を突かれた顔をする。盲点だったとその顔に書いていた。しかしすぐに得意げな顔に戻る。短慮を思いついたのだろう。

 欠点の多そうな男だが、無駄に自信家で足元が見えておらず、些細な陥穽に嵌って身を滅ぼしてしまいそうだ。詰めの甘さが見て取れる。約束は守るもの、守られるものと考えているのも甘い。人としては美点だが、律儀に約束を守るような男が亡くなった兄弟の子から王位を簒奪するなんて真似など、するはずもないと気づいて然るべきだ。

 

「ふん。そうなったら私は奴を粛清するまでだ。私の手に掛かれば奴の命も儚い。約束を守らないのなら当然の報いだ」

「戯け。民が反発するだろう。見たところペリアスは暴政を敷いているわけではない。名君とは言えんにしても、それを暗殺なりしたと露見すれば王座を追われるのは貴様になる。それとも反発する民を貴様は力で抑えつけるのか?」

「そんなことするものか!」

 

 イアソンは本気で怒ったのか、顔を真っ赤にして怒号を発した。

 

「オレは王になるんだ! 皆がオレを王と讃え、オレに傅く総ての民が幸福に暮らせる理想の国を作るんだよ! そのオレが! どうして民を虐げねばならない?!」

「ならば民より国を追われれば、貴様は何も出来ないというわけだ」

「ぁ……」

「ペリアスが約束を守るなら良い。だがその手の男は王位を手放しはせんだろう。なら約束が履行されることはない。貴様は激怒しペリアスを暗殺したとする。そして貴様が王位に就けば不審に思う輩は必ず出てくるだろう。なぜペリアスが死に、王位を要求していたイアソンが王になったのだ、とな」

「………」

「調べる者が出てくれば、貴様がペリアスを殺した事実は露見する可能性は高い。何せ新王となった貴様の家臣となるのは長年ペリアスに仕えた者達だ。探られれば秘密を隠せる力を付けられていない貴様の所業は明るみに出る。本来は貴様がイオルコスの正当な王だったと主張しても、十年以上王位に就いていたペリアスの方が死んでいたとしても人望や権威は上と見做される。ペリアスを殺した貴様はイオルコスから追われるのはほぼ間違いない」

「な……なら! オレはどうすればいいんだ!? そんなことになるんだとすれば、オレのこの旅は完全に無駄になるじゃないか!?」

 

 イアソンは明晰な頭脳はあるのだろう。理路整然とヘラクレスが未来予想図を語るとそれが充分に有り得ると理解してしまい、混乱してしまい掛けている。

 しかし……なんだろう。ヘラクレスは自覚している。自分は頭は悪くない。だが人並外れているわけではなかった。イアソンの頭の出来が平均以下ではないなら、ヘラクレスに思いついたことを思いつけないとは考えられないのだが。こういうところも、自分と他人がズレているところなのだろうか……?

 

 内心首を捻りながらも、ヘラクレスはイアソンに自身の考えを伝える。彼とて好意を懐いた相手を、こうして言葉で嬲って悦べる性根はしていない。

 それにヘラクレスは、イアソンに肩入れしたくなっていた。ペリアスのような卑劣漢より、好意を持った男の方に味方したい。

 

「どうしたらいい、か。簡単な問題だぞ。今すぐにでも解決できる」

「そうなのか!? どうやって?!」

「いや……寧ろなぜ思いつかない? 私としてはやって当然のことなのだが……保険は何事にも不可欠だろう」

 

 思わず呆れてしまう。ヘラクレスはイアソンの腕を掴んだ。

 

「お、おい」

「どうやって、と訊いたな? こうやってだ」

 

 イアソンを肩に担ぎ上げる。肩車の形だ。狼狽えたイアソンの声を無視し、ヘラクレスはアルゴノーツに呼びかける。

 

「どうする。これから貴様達の船長は、帰還後の王位を盤石なものとしに向かう。ここで座して待つか?」

「――オレはついていくぞ。ヘラクレスが何をするのか……見たい!」

「僕もだ」

 

 真っ先に声を上げたのは、白髪に褐色の肌をした、槍と盾を持つ美貌の男の戦士だった。続いてテセウスも名乗りを上げる。

 ヘラクレスは白髪の槍遣いに誰何する。

 

「貴様の名は?」

「カイネウスだ。最強の英雄、大英雄と言われる『男』の手並、拝見させてもらうぞ」

 

 先程までヘラクレスの武威に呑まれていたのを恥じているのか、カイネウスは英雄に相応しい強気な顔でヘラクレスを睨んでいた。それに頷きを返し、背を向けると王宮に向かい歩き出す。アルゴノーツの面々は、互いの顔を見合わせると、何やら伝説に居合わせられる好機の臭いを嗅ぎ取って追いかけてきた。

 英雄船に乗る男達と、紅一点の女狩人がついてくる。ヘラクレスのすぐ後ろには当然といった顔のイオラオスと、カイネウスとテセウスが付き従っていた。その更に後ろに英雄達である。港にいた民衆は何事かと様子を伺ってくるのに対して、ヘラクレスは大音声を発した。

 

「――付き従えッ!」

 

 ビリ、と電撃が走ったような衝撃だった。打たれたように震えた民衆は動けない。

 しかし何度も繰り返す。付き従え! 付き従え! 付き従え! するとイオラオスが唱和し、テセウスとカイネウスが続いて、アルゴノーツが唱えた。英雄たちの咆哮に、イアソンもようやく乗ったのかヤケクソ気味に叫んだ。

 

「付き従え!」

 

 付き従え! 付き従え! ――民衆はその扇動に等しい叫びに支配されたかの如く、戸惑いながらアルゴノーツに続いてぞろぞろと歩き出した。

 頭数が揃う。しかし足りない。もっとだ。ヘラクレスとアルゴノーツは叫び続け、イオルコス国の中心を突っ切っていく。聞きつけた民や兵士が何事かと顔を出し、アルゴノーツとそれに付き従う民衆の数、迫力に気圧されて道を空け、そして戸惑いながらも後に続いた。

 

 これでいい。ヘラクレスは王宮の前まで来ると、イアソンを神輿にしたままさらなる大音声を発した。

 

「聴こえるかッ! イオルコス王ペリアスよ、イアソンが来た――今すぐにこの場に現れるがいいッ!!」

 

 ヘラクレスが民を囃し立てるように腕を突き上げると、訳が分からないままに彼らは喚声を上げた。

 これを無視できるはずもない。すわ叛乱かとペリアスは大慌てで王宮より姿を現す。隠れていればいいものを、出てきてしまえばこちらのものだ。ヘラクレスは笑い、己の上にいるイアソンを示した。

 

「これなるはイオルコスの正統なる王、イアソンである。此度のコルキスへの船出の成果による報酬について確認がしたい」

「な――」

 

 顔を真っ青にするペリアスに、イアソンは漸く理解に至ったのか余裕を取り戻していた。悠然と微笑み、黙ってヘラクレスに任せる。

 

「イアソンに王位を返す約束は、コルキスより金羊毛皮を手に入れてくれば果たされるものだと聞いた。イアソンはそのために我らを集めたと! では問うぞ、イオルコスの王よ。我らが長たるイアソンが約束のものを持って帰れば、確かに王位を返還するのだな? これを違えたのならば、天地に存在するあらゆる総ての笑いものとなるぞ!」

 

 民が聞いている。それだけだ。誤魔化せばいい、それだけでいい。

 だがここにはアルゴノーツがいた。約束した当の本人であるイアソンがいた。ペリアスは嵌められたことを悟り、震えるも、否定すればアルゴノーツが黙ってはいないと察してしまえた。

 顔を青くしたり、赤くしたり、ペリアスの全身が震える。しかし無数の視線の圧力に負け、絞り出すようにペリアスは肯定した。するしかなかった。

 

「そ、そうだ……」

「肯定したな? では違えるな。契約を違えたのなら、私が貴様に報いを与えに来る。そうなればこの地上に貴様が安息を得られる日はなくなるものと知れ」

 

 言うだけ言って、ヘラクレスは踵を返した。船出だ! アルゴノーツに向けて笑いながら言うと、アルゴノーツも事態を飲み込んで大口を開けて笑いだした。

 特にイアソンなど笑い死にしそうなほど、ヘラクレスの上で笑っている。

 

「あ――は……はは、ははは、はははは、ハハハハハハハ――!! 見たか?! 見たかお前たち! あのペリアスの顔! あの顔を! アハハハハハ! なんだ、なんだヘラクレス! 君は……最高じゃないか!?」

 

 大声で笑うイアソンが、上から転がり落ちないように抑えながら、ヘラクレスも釣られて笑う。クツクツと声を殺して笑っていると、カイネウスがヘラクレスの背中をバンバンと叩いて笑いながら声を掛けてきた。

 

「なんだよ、なんだ……?! オマエ……イアソンの言う通りほんっと最高だ! こんな笑える船出ならいつだって大歓迎だぜ、オレは! ああ、オマエが来てくれてよかったよ、こんなに笑わせてもらえたんだからな――!」

「そうか……楽しんでもらえて何よりだ」

 

 笑う。みんな笑っている。今この時、ヘラクレスは確かに人々の中心に居た。

 孤立して、孤高に生きてきた男が……。

 経験のない未知の体験に、ヘラクレスは珍しく……本当に珍しく、少なくともイオラオスの記憶にない――声を上げての大笑いを見せた。

 

 アルゴー号の冒険……アルゴノーツの仲間達。このギリシアに浮かび上がっていた異端は、この時に多くの仲間達と絆を結ぶ。

 ヘラクレスの齎す影響に、アルゴノーツの英雄たちがどのように変化するかは、この時はまだ誰も知らない……これから記される未来の、未知の物語だ。

 

 英雄たちの冒険が、はじまる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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