ヘラクレスが現代日本倫理をインストールしたようです   作:飴玉鉛

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第九節 嗚呼、ローマの華よ

 

 

 

 

 

『イオラオスの持つ外套の魔術式の解析、コピー完了。劣化版だけど、そのデータをマシュの礼装に転送したよ。ふぁぁ……はふ。疲れたぁ……! 天才の私でも疲れはするんだ、ちょっと休ませてね』

「ありがとうございます、ダ・ヴィンチさん」

『ダ・ヴィンチ「ちゃん」ね、まったくもう、本当にマシュは硬いんだから……』

 

 すみません、とモニター越しに見える絶世の美貌の持ち主に苦笑と共に謝罪する。

 レオナルド・ダ・ヴィンチ。万能の天才。ノウハウのない状況でのレイシフトを実行し続けるために、彼……ないし彼女は休み時間なしのフル稼働に徹していた。

 その片手間にとても助かる支援をしてくれるのだから、本当に頭が上がらない。もしダ・ヴィンチがいなければ、神代最盛期のギリシャで迂闊に会話すら出来なかっただろう。密告者の異名を持つ太陽神ヘリオスにいつ視られ、聞かれているか博打をしながら過ごさねばならなかっただろう。イオラオスが外套の術式の解析を許可してくれたお蔭であり、ダ・ヴィンチの万能っぷりに大いに助けられた形だ。

 

 

 

 

「それにしても――『プロメテウスに気をつけろ』ですか……」

 

 アテナイへと向かう道中、ガウェインから上げられた報告にマシュは眉を顰めた。

 互いに全力を出したものではないとはいえ、仮にも戦闘中に告げられた言葉をどのように処理したものかと数瞬迷う。

 これで額面通りに受け取り、じゃあ気をつけないといけませんね! などと考えるほどマシュも能天気ではない。無闇に他人を疑うような少女ではないが、それにしたってあからさまに不審な点があれば猜疑心を持ちもする。曲がりなりにも敵対した人物からの警告ともなれば、マシュが警戒の念を懐くのもさもありなんというべきだ。

 そしてマシュは自身で判断がつかない場合、上位の立場の者やサーヴァントなどに、意見を求める事を厭う性格でもない。故に彼女は自身の最も信頼する青年へ真っ先に相談を持ちかけた。

 

 マシュから話を聞いたロマニもまた首を捻る。

 

『なんだってそんな事を言ったんだ……? 大佐殿は』

「……大佐、ですか?」

『ん……ああ、スーダグ・マタルヒスって英雄はね、近代国家の軍隊の階級、“大佐”の語源でもあるんだ。昔の欧米では将官に相当する階級が存在しなくてね、佐官の最上位、つまり大佐が軍のトップだった時代があった。だから『大佐』っていうのは、集団の大黒柱って意味合いを持ってる。この階級の呼び名に英雄スーダグ・マタルヒスの名前を付けたのが佐官最上位、大佐の階級の由来だよ。何せヘラクレス王亡き後のオリンピアの舵取りをして、ヘラクレスの次の王ヒュロスの子供達を各地に送り出し、オリンピアの影響力を強めると共に各地を征服した手腕は目を瞠るものがある。彼女の行いが、あのローマ建国の礎になってるんだ。ヘラクレス亡き後の功績の方が、王が健在だった頃より大きく有名なのは、専ら王の補佐に当たっていたからで……つまり補“佐”する者として優秀で、忠誠心に篤く、ヘラクレス王亡き後の混乱を鎮めた手腕からも高度な政治的視点も持っていた事で知られているよ。マタルヒスじゃなくてアレクサンドラ、またはヒュロス自身の政略、もしくは三人で知恵を出し合ってのものとも考えられてる』

 

 真相は、夫の後を追うように病に倒れたヒッポリュテが、末期の頼みと称して半神半馬の賢者を脅しつけ、知恵を出させたのだが。実行の采配を振るったマタルヒスの功績に数えられている。

 武勇に長けた勇者達は戦場では無敵でも、歴史や国を左右する能力は足りていなかったのである。ケイローンは()()()()()として剪定から逃れる策を打ったのだ。その結果が後のローマ帝国の誕生に繋がっている。

 

「なるほど、そうなんですか……勉強不足でした。神話の方はきちんと押さえていたつもりなんですけど……私もまだまだです。ダメダメです。もっとしっかりしないと……」

『マシュは忙しかったんだから、知識に穴があっても仕方ないって』

 

 落ち込むマシュに苦笑して慰め、ロマニは再び思案する。

 

『でもほんと分からないな。なんであのマタルヒスがガウェイン卿にそんな事を? 彼女がボクらの事を知ってるみたいにも聞こえる台詞だ』

 

 プロメテウスに気をつけろ。この一言だけで見えてくるものはある。

 まずマタルヒス自身には、カルデアを早急に始末する気はないであろう事。始末する相手に余計な忠告などする意味がない。

 また気をつけろと言う時点で、こちらが気をつけねばならない事について知っている事になる。現在を生きる人物であるなら、カルデアに対して友好的になるとも思えないというのがロマニの考えだ。無論イオラオスのような例外もあるが。

 

『仮になんらかの方法でカルデアについて知り得ていたにしろ、プロメテウス神といえばヘラクレス王の助言者だ。謂わば王と宰相、もしくは影武者……それを排斥するような動きを見せるなんて普通じゃ考えられないぞ……?』

「ロマニ殿、スーダグ・マタルヒスに関して詳しいようですが、彼女がそもそも何者なのか見当は付かないのですか?」

『そこはガウェイン卿の知識と大差ないと思うよ』

 

 ガウェインの質問にロマニは曖昧に返す。

 何事かを誤魔化そうとしているのではなく、なんと言ったものかと悩んでいるのだ。

 

『ブリテンでも彼女の名は知られていたはずだ。勿論現代にも広く知られてる。でも、彼女の正体に関してはどの資料にも記載されてないんだ。ヘラクレス王が十二の功業を終えてオリンピアを建国した時には既に居たらしいんだけど、彼女がどこから来て、どうしてヘラクレス王に忠誠を尽くしていたのかは不明だ。忽然と姿を現し、ヒュロスとアレクサンドラが没したのを見届け、自分の家に火を放ち自害したって神話で語られてるけど、誰も彼女の素顔を見た事がない。一説ではコスプレしたメディアだったんじゃないかとか、実は生きていたアタランテか、アマゾネスの女王ペンテシレイアかもしれないなんて異説もある。一番ありえないのがヘラクレス王の隠し子で、それを妻のヒッポリュテに隠すために正体を隠したっていうのだ。確定情報は女だったという事だけ。とにかく正体不明なんだよ』

「我々の時代でも彼の仮面の女戦士の正体は誰も知らないとされていました。高度な隠蔽魔術の施された仮面、全身を隙間無く覆っていながら体の動作を阻害しない鎧、紫紺の外套……そして二振りの魔剣『混沌と法の天秤(ストームブリンガー)』と『秩序と法の弾劾(モーンブレイド)』を操る事しか……」

「ストームブリンガー……ですか……」

 

 ガウェインの言葉に、マシュはポツリと溢す。

 共に著名な魔剣である。それはマタルヒスが何処からか手に入れてきた、神霊に堕ち悪しき精霊となった者の()()()()()()()()もの、そして嘗てオリンピアを襲った巨人の脊髄を削り出し、鍛冶の神の眷属の巨人が鍛えたとされる黒剣だ。

 仮面の英雄が所持していた魔剣の知名度が跳ね上がったのは、マイケル・ムアコックのファンタジー小説『エルリック・サーガ』に、この二振りの魔剣をモデルとした剣が登場したからである。最早現代にあって、星の聖剣エクスカリバーに比肩する知名度を有している。

 マタルヒスの魔剣は、架空小説のものとは違い、自我などは持たない。然し魂をも切り裂き、其れを喰らう悍ましい力を有している。凄まじい切れ味は、生半可な武器や盾ごと切り裂かれてしまうほどであるという。彼女の魔剣が死後、どうなったのかを知る者はいない。

 

 死後エリュシオンに導かれた彼女――メドゥーサの魂が、自身がマタルヒスであった事を忘れぬように、魔剣を持ち去ったのだ。後世の英雄の手にこの魔剣が渡らなかったのはそのような理由がある。

 

「イオラオス殿は、何か知らないのですか? 彼女の言葉をどう受け取ったものか、マスターは判断に困っているらしいので、賢者殿に何か助言でも頂ければ有り難いのですが」

「ん? ああ……」

 

 それまで黙っていたトリスタンに水を向けられ、イオラオスは足元を見下ろしながら歩いていた為か鈍い反応を返す。

 考え事をしていたらしいが、話自体は聞いていたらしい。思案しながら応じた。

 

「賢者殿って云うのはやめろ。そんな大層なもんじゃない」

「そう言われるのでしたら控えましょう」

「そうしてくれ。……それからわたしもヤツについては余り知らない。何せわたしが居ない間に伯父上の手下になっていたからな。ただ……不可解ではある。お前達も気づいてはいるんだろうが」

「……マタルヒスさんが、私達の事情を知っている上で警告してきたらしい、って事ですか?」

「そうだ。誰それに気をつけろだなんて、相手の目的や事情を知って、互いの関係性を理解していないと出てこない言葉だ。おまえ達の事情なんて、普通はおまえ達から聞かないと知り様がない。知っても普通は信じない。荒唐無稽な与太話と流されるのがオチだ。それにわたし以外には話していないんだろ?」 

「はい。というより、レイシフトした直後にイオラオスさんと遭遇したので、他の誰かと接触する時間もありませんでした」

「運が良いんだな、おまえ。いや悪いからこうしてるのか?」

 

 マシュの答えの何がツボだったのか、イオラオスは可笑しそうにクツクツと笑った。

 

「その場に居合わせずに知り得る事ができるとしたら大地母神、下級の地母神、後は太陽神ぐらいなものだが、それだってわたしの隠蔽術式の編まれた外套を使って会話の内容を隠した。此処から逆算するに、わたしの外套に編まれた魔術……メディアのそれに精通して感知し易くなっている事、かつ女であるという点から大地母神に通じる血、もしくは権能を借りてる巫女って事になるが……伯父上が自分の子供の世話役にまでするほど信頼を寄せるってなると、わたしからするとヤツの存在は意味不明だよ」

「そうですか……」

「分かる事は、おまえ達の口ぶりからしてヤツは伯父上を裏切らなかった、って事。大地母神に連なる系譜、おそらくは半神か何かでもう半分も人間じゃない事。わたしの隠蔽術式を編んだメディアの魔術を貫通して知覚できる……つまりヘカテー神の魔術の系譜に通じてる事ぐらいか。ついでに言えば短い付き合いだけで伯父上が全幅の信頼を寄せるに足る実力、そして人柄を持ち……多分だが神という存在を好ましく思っていない事か。それなら伯父上にも共感し易いしな。んで、伯父上に信頼される、未来で語られてるらしい評価、功績、ついでにさっき挙げた不審な点を総合して、やっぱり意味不明なヤツって結論に落ち着くんだ」

「………」

「プロメテウスに気をつけろ、だったか? あの神についても面識はないが、どういう神格なのかは知ってる。監視者だなんて銘打たれてるが、どうせオリンピアを実質的に統治して施政を取り扱ってたのは専らプロメテウス神だろ。もしかすると伯父上に賛同する協力者なのかもしれないって思っていた。案の定、おまえ達の話だとその通りらしい。そしてその話も、当然わたし達の話をマタルヒスが聞いてたんなら知ってるはず。なのに気をつけろ? わざわざ身内の大事な知恵袋に危険を及ぼす理由はなんだ? わたし達とプロメテウス神をぶつけてなんの得がある? プロメテウス神は確かに神だが戦闘能力は低い。脅威的な神炎を扱うだろうが戦闘は得手ではないはずだ。万が一わたし達がプロメテウス神を害せたとしたら困るのは伯父上だろ。忠誠心に篤い忠実な下僕(しもべ)のやる事じゃない。なら――マタルヒスは神が嫌いだから最初から排除したいと思っていたのか、伯父上って光に目を灼かれて盲目になっているのか……或いはプロメテウス神が伯父上に対して取り返しのつかない害を与えると見ている、もしくは()()()()()()()()()()()()()()って事になるか。そこまでとなるともしかすれば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()か。……でも“今”を生きてるわたし達からすると、特異点は悪い状況じゃない。人理焼却から逃れる手さえあるなら。とすると……特異点の先にあるのが、伯父上の許容できない事態に繋がるのか……?」

「………」

『………』

「……どうした?」

 

 長考しながらブツブツと考えを纏めていると、ポカンとした表情で自身を見詰める少女と、モニターに表示されている青年の顔に気づいた。

 茫洋としている湖の騎士はさておくとして、太陽の騎士と琴弓の騎士にも感心した眼を向けられている。それに困惑しつつ訊ねると、マシュが目をきらきらと光らせて言った。

 

「す、凄いです……そこまで分析できるものなんですね……」

「はあ? いや……論理を詰めて考えたら自明だろこんなの。それに全部大ハズレって可能性の方が高い。あくまで信憑性に欠ける推測だ、こんなのは」

「それでもです! どうしたらそこまで分析できるものなんですか!?」

「……言ったろ、逆算だ逆算。材料は足りないにしろ出ている結果がある。ならそこに符合する仮定を片っ端から当て嵌めて、それっぽい筋が通るのを探しただけだ」

「なるほど、パズルのピースを型に嵌めていく要領ですか!」

「パズル……?」

 

 イオラオスにはパズルというものが何かは分からないが、理解できたんならそれでいいかと納得しておく。

 この少女の知能は高く、膨大な知識量に磨かれた知性がある。後は想像力さえつけばこんなもの、簡単に導き出せる回答であるはずなのだが。

 円卓の騎士とやらは考えるのが苦手な面々らしいので、知略に関しては微塵も期待できないと見切っている。なので最初からこの手の話に乗ってくるとは考えていない。適材適所、荒事だけやって、後は大人しくしてくれていたら良いとイオラオスは思っていた。そういう意味で、狂化しているらしい黒騎士が一番理想的だ。

 余計な話に惑わされず、本能で戦うだけ。狂っているにしてはマシュの守護に必死な点は気になるが、この黒騎士こそが最も信用できる戦力だとイオラオスは思っている。

 

 純戦士。ランスロットへの評価はそれで、イオラオスは彼を高く評価していた。サーヴァントではない生前の湖の騎士なら、恐らく危なげなく自分を倒せるかもしれない、と。

 

「ふむ。さながらイオラオス殿は我らの軍師ですね」

 

 ガウェインがしたり顔で頷く。それに訝しげな目をイオラオスは向けた。

 

「マスターも歩き疲れたでしょう。ここは一つ、小休憩でも取るべきかと」

「……太陽野郎がこんな事言ってるが、疲れてるのかマシュ」

「え? ……はい、実は少しだけ……」

 

 かれこれ半日以上歩き通している。肉体的な疲労とは無縁なサーヴァントと、旅慣れているイオラオスにとってはどうということはないが、デミ・サーヴァントになるまでインドア派だった少女には辛いものがあった。

 控えめに疲れを告白する少女に嘆息する。おまえより年下の、俺のガキ連中の方がタフだなと呆れつつ。疲れてるんなら早めに言えと軽く叱責した。しゅんとするマシュを放っておいて、イオラオスは太陽の騎士ガウェインに目を向ける。

 

「で、休むのは良いが、何かしたい事でもあるのか?」

「分かりますか」

「分かる……っていうか、あからさまだおまえ。腕試しでもしたいのか?」

「はい。イオラオス殿を相手に本気の、全力の模擬戦を申し込みたい。貴殿ほどの英雄に、サーヴァントでしかない今の私がどれほど戦えるのか、言葉は悪いですが今後の物差しにしたいのです。それが分かれば私のマスターも、戦術を練り易くなるはず」

 

 ガウェインの言は聞くべき所があった。

 確かにその通りだ。イオラオスも彼らの全力を知っていれば、どれぐらい出来るかと推測が立て易くなる。それにイオラオスは、伯父を除けばトップクラスに近い武力を持つという自負もあった。

 イオラオスを物差しにするのは、彼らとしても悪くない……寧ろ最善手の体験であると言えるだろう。イオラオスを倒せれば、即ち一対一なら彼らにも戦い様が出てくるという事になる。

 

 その時、ぴくりとイオラオスの獅子耳が動いた。視線が横に走り、整備されていない荒い山道の脇、物陰に照準される。

 

「……なあ、カルデアの。何か周りにないか?」

『え? いや……特に反応はないけど……どうかしたのかい?』

 

 観測できていないか。ついでに誰も気付いていない。勘違いか? そう首を捻るも、やはり()()()()

 気配はない。イオラオスも何も感じない。だが鋭敏な聴覚が、()()()()はずの地点から音を感知したのだ。

 

「……ふぅ」

 

 溜め息を吐くように、細い息を吐き出す。そして鞘に収まっている短剣の柄に手を掛けた。

 瞬間、ピンと緩んでいた糸を張ったような緊張感がマシュ達に走る。

 イオラオスは音の聞こえた方に声を掛けた。

 

「誰だ。気配の遮断、まずは見事と言っておくが、肝心の隠密行動はお粗末だな。木の枝を踏んだぞ、おまえ」

「……!」

「出てこい。さもなければ敵と見做し、殺す」

 

 放浪の賢者――小ヘラクレスとまで言われた男の凄絶な殺気が向けられる。物理的な壁が圧し潰しに迫るかのような圧力に、殺気を向けられた訳でもないマシュに冷や汗を掻かせた。

 これで何もなかったらとんだ間抜けだなとイオラオスは思っていたが、ややあって物陰から一人の仮面の女が姿を現した。

 

「あ、貴女はっ!?」

 

 マシュが驚愕して声を上げる。

 

 ――赤いドレス、頭部を覆う華美な装飾の仮面と、そこから覗く金の髪。独特な形状の赤い大剣を右手に、そして左手には赤の剣と同様の形をしている白い大剣が握られていた。

 

「ふっふっふ……」

 

 仮面の女は隠密を見破られたというのに、不敵な声で笑う。快活に。

 

「あれは誰だ?」

 

 そして両手の大剣を地に突き立てると腕を組み、小柄な体躯には不釣り合いな豊満な胸を張り、歌うように唱えた。

 

「美女だ? ローマだ?」

 

 あたかも舞台の上にある俳優のごとく。憚ることなく彼女は仮面の上からでも分かるほどはっきりと笑った。

 

「もちろん――」

「ネロさんっ!」

「!?」

 

 いざ名乗ろうと。余だよ、と告げようとした瞬間、信じられないものを見たと言わんばかりに上げられたマシュの叫びに掻き消され、仮面の女……然し隠し様のない特徴的なアホ毛と存在感を持つ女は驚愕して固まった。

 そしてふるふると震え出す。イオラオスは呆れて殺気を霧散させていた。そして微妙に空気を読まなかったマシュに嘆息する。

 恐らくマタルヒスの仮面を模したのであろう、然しオリジナルより華美にされている仮面を被った女――感じからしてサーヴァント――は、勢いよく仮面を外すと涙目で吠えた。

 

「うぅぅうう! 余、余の……余の初登場がぁ! 彼のイオラオスに見せつける圧巻の名乗りが! 三日間考えに考えた余の、出ていくタイミングを見失って実は見つけられたのが嬉しかったりする余の、余の第一印象がぁぁぁ……」

 

 ――そう、彼女こそローマ皇帝ネロ・クラウディウス。暴君と謗られし君主。マタルヒスとヒッポリュテ、そして何よりヘラクレスをリスペクトした皇帝。メディアの劇を自ら演じ、幼少期からイオラオスの手記を読み込んで育った我が侭ちゃん。

 

 第二特異点でマシュ達と共闘した、愛すべきローマの華である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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