ヘラクレスが現代日本倫理をインストールしたようです   作:飴玉鉛

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三回目の投稿。なんかすらすら書けたので(笑)
ギャグ回。




三夜 奇跡の王妃の苦難

 

 

 

『きゅるるん☆ 魔法少女マジカル☆メディア、ここに参上! 月に代わってぇ〜、みんなブッ血KILL! 明日朝七時から第二期放送開始☆ みんな見てくれないとぉ、あたしの拳が唸って光ってひどいんだからね☆』

 

 

 

 

 

 

 

 

 悔いのない、良い人生だった。死した後に振り返った生涯の足跡を顧み、自身の裡に些かの曇りがない事実を噛み締めて。稀代の魔術師にしてサラミスの奇跡の王妃であるメディアはその人生を終えた。

 強いて言えば長女のアイアスが、自身の許を巣立ちギリシャ産筋肉勢の英雄も真っ青な大英雄になってしまった事が悔やまれるが、二女、長男は無事に愛する夫と共にサラミスで過ごせた為、アイアスが満足しているならいいと思い切れる。彼女も愛する娘である事に違いはないのだから。

 奇跡の王妃という呼び名には、照れ臭いながらも誇りを持っていた。それは自分の苦難の末のもので、夫であるテラモンに善く尽くし、善き家庭を築き、共に試練を乗り越えた証であるから。――魔女という呼び名は呪わしいほど嫌悪していた。金色の筋肉の甥が広めてくれやがり、あまつさえそれを拾って歌劇などを始めてくれやがった、犬の糞尿にも劣る吟遊詩人の所業だから。

 あ、割と未練はあるわね。メディアはそう思う。放浪していたイオラオスの死に際に立ち会えなかったのが悔やまれる。山ほど文句を言ってやりたかった。歌劇を始めた吟遊詩人をこの手で呪ってやりたかった。だが……いいか、と穏やかな気分だった。自分はここで終わる、ならどうせすぐに廃れるだろう歌劇など捨て置いても良い。そう思い大人しく世を去ろう。そう考えて、メディアは英霊となったのだ。

 

 甘かった。

 

 歌劇は廃れなかった。寧ろ伝統的な、最も著名な演目の一つとして、遥か未来にまで受け継がれるとはメディアをして不測の事態だったと言える。

 あまつさえ面白可笑しくイジられ、次第に奇跡の王妃の呼び名が忘れ去られ、遂には英霊の座にあるメディアの在り方まで変容させていく人類に絶望した。

 みんな滅びろ。メディアは切実に願った。せめて、せめて魔女の汚名と、歌劇から自身の演目が未来永劫消滅する事を切に願った。

 

 故にメディアは聖杯の招きに応じたのだ。万能の願望器を使い、自身の汚名と歌劇の演目の抹消を果たすため。忘れられた誇りある呼び名を取り戻すため。

 それだけだった。それだけが願いだった。だが、聖杯はメディアを愚弄した。

 その宝具、スキル、姿に至るまで変質させる()()()()()。メディアは鋼の精神で魔法なんたらチックな姿を幻術で隠し、本来の紫のローブを纏った姿に偽装して。性格の違う英霊メディアの霊基を、炎のような渇望で生前のそれに塗り替えてのけた。

 自身の霊基を弄る……無辜の怪物に堕ちた全英霊にとってまさに偉業である。神代の女魔術師の面目躍如と言えるだろう。だが……その呪いの如き伝承型宝具だけは、如何ともし難かった。 

 

「は? 竜を行使する宝具はない?『心傷結界・空想綴る魔女歌劇(メディア・オブ・オリジンオペラ)』とかいう固有結界が宝具……? は、ははは! こいつは傑作だ! 神代の魔女が現代の俗な代物に汚染されているとは――!」

 

 メディアを召喚したマスター、アトラム・ガリアスタの嘲笑が総てを物語っている。

 そう、メディアの宝具とは固有結界。そこだけを切り抜いて見れば、魔術奥義を切り札の宝具とするのは強力だと言えるだろう。

 そして実際に強力なのだ。逸話を元にした伝承型の宝具。別名、魔女の歌劇。効果は自身を題材にした多種多様な歌劇を再現し、敵対象を無理矢理に歌劇の中の敵役に据える。それにより相手の宝具発動を妨害でき、かつ抵抗を弱め、ほぼ一方的に攻撃可能。弱点は相手の対魔力がAランク以上だと効果が薄いこと、防御型の常時発動型宝具を装備している相手に効きづらいこと、メディア本人が精神的致命傷を負うこと、これを使えば魔力の大半が失われ戦闘の続行が困難になること。

 本人に狂おしい恥辱を齎す事を除いて、極めて強力なランクA+の宝具だ。それを口にするメディアの羞恥と屈辱は如何ほどのものか、想像に難くないだろう。

 

 だがアトラムはそれを嘲笑った。そしてそれはメディアの逆鱗である。

 

 一瞬にしてメディアはアトラムを精神支配し、その総てを己の意志の下に置いた。英霊として、サーヴァントとして恥ずべき所業だがメディアに悔いはない。寧ろ無駄な犠牲を生むばかりのアトラムの研究を消し去り、無駄に令呪で縛られる前に行動した己の判断を自画自賛したほどだ。一切の後悔はなかった。

 英断だった。メディアは即座に聖杯戦争に勝利するための布石を打ち始める。最弱などと揶揄される魔術師のサーヴァントだが、その忌まわしい偏見はこれまでの魔術師のサーヴァントが自分ではなかったからであると確信している。

 

 自分に掛かれば聖杯戦争など簡単に勝てる。寧ろ勝つ必要すら無い。この時はまだ、そう思っていた。

 

 メディアはまず、拠点とするに相応しい霊地を探した。アトラムの工房など三流魔術師の幼稚園程度でしかなく、彼女から見ればどんな弱小の英霊でも突破できる紙細工の如き防備しかない。自分が陣地作成し神殿化しても、一級のサーヴァントを相手取れるほどではないと確信していた。故にメディアは支配下に置いたアトラムを冷凍保存し、自身への魔力供給、現世へ留まる楔として更地にしたアトラムの工房の地下へ厳重に隠蔽した。

 アトラムの令呪にも干渉し、自身の遠隔操作でアトラムの令呪を自分に掛ける事で、擬似的に自分専用の令呪まで用意した。人を人として扱わぬ非人道的な行いだが、自分の逆鱗を踏み――あまつさえ何の罪もない子供を生贄に使うような外道には相応の末路であると、同情する事も良心を痛める事もなかった。

 

 目をつけたのは、冬木でも一等の霊地、柳洞寺である。

 

 メディアは変装し偽名を名乗り、またそこにいる人間達の認識を弄って潜り込んだ。些細な認識阻害である。佐々木某などと、日本人名を使い、昔から住んでいるとした。また自身の存在を他者に漏らさないようにも。

 卑劣で人を人とも思わぬ所業であると思われるかもしれない。然しメディアにも最低限の分別はあった。無関係の人々からは一切の魔力を奪わず、単に自分という異物が人知れず紛れ込んでいるのみで、寧ろ冬木の人々が聖杯戦争に巻き込まれないように手を打つ事も考えていた。一つの悪行の代償に、百の善行で報いる。冷徹な魔術師だが、根底には優しい王妃の思い遣りがそこにはあった。

 ではキャスターのサーヴァントに不可欠な魔力の供給源をどこから得るのか。メディアは周到だった。人としての情を重んじると同時に、冷酷な魔術師として、マスターが死ぬ寸前まで魔力を搾り取り続け、柳洞寺の霊地、霊脈から直接魔力を吸い上げたのである。そうする事で柳洞寺の神殿化は人知れず進み、サーヴァントにすら効果がある天然の要害である柳洞寺の防備を固めていった。

 

 そんな時だ。

 

 メディアは冬木全土に使い魔を飛ばしていたが故に、アニメ(それ)を見てしまって。

 

 気絶していた。

 

「………はっ!?」

 

 悪い夢を見たようね……。頭を振り、忘却する。意識が飛んでいたのは単に疲れていただけなのだと自身に言い聞かせて。

 然し現実逃避はできなかった。使い魔を通して見てしまったのだ。

 白い少女と冬木の街を散策する、悍ましい何かを。

 

「………はっ!?」

 

 気絶していた。

 

 悪い夢を見たようね……。頭を振り、忘却する。意識が飛んでいたのは単に疲れていただけなのだと自身に言い聞かせて。

 だが――再び使い魔を通してそれを見た。黒服と黒ネクタイ、黒いサングラス、艷やかな長髪をオールバックに撫でつけ、銀細工のネックレスを首に巻き、腕時計を巻いた男を。

 

 勝利への布石を打ち続けていた。寧ろ勝たないまま、小聖杯さえ奪えば戦わずして聖杯を手に入れられる算段も立てられていた。引き籠るだけの簡単なお仕事です、よそのサーヴァントが撒き散らすかもしれない被害を出来る限り抑えるバイトもします、程度の気持ちだったのに。

 あの男が居た。

 ついでに破格の魔術回路持ちの、魔力タンクとして極めて優れ過ぎる少女を連れて。

 

「………」

 

 ああ、夢なんだわ。これは悪い夢なんだわ。

 壊れた使い魔(燕)は殺処分。別の使い魔(雀)を飛ばして再確認。

 

 そしてメディアは吠えた。

 

「……なんでよぉぉおおお!!」

 

 なんでヘラクレスがいるの!? なんで?! どうして!? 私の人生になんでそこまで関わってくるの!? 貴方はそんなにも、そんなにも私をおちょくりたいの!? そうまでして聖杯が欲しいの!? この私が……たったひとつ懐いた祈りさえ、踏みにじって……貴方はッ、何一つ恥じることもないの!? 赦さない……断じて貴方を赦さないッ! 名利に憑かれ、王妃の誇りを貶めた筋肉共……その夢を我が呪で穢すがいい! 聖杯に呪いあれ! その願いに災いあれ! いつか地獄の釜に落ちながらこのメディアの怒りを思い出せ!

 

 ――メディアの中で試合終了のホイッスルが鳴り響いていた。

 

 あー……何もかも無駄に終わったわ。全部の仕掛けが薙ぎ倒される未来しか視えない。未来視なんかなくったって分かりきった結末よ。

 でも……いいの? こんな所で、何もしないまま、成せないまま終わっても……。

 それは――改竄した霊基の残り粕。その残滓。それが訴えていた。()()()()()()()としてのメディアの霊基、無辜の怪物が叫んでいた。

 負けたくない、と。諦めたくない、と。本来のメディアなら投了していた聖杯戦争、それにまだ挑む気概が湧いてきた。メディアはその違和感に、全てを投げ出してしまいそうだったから気づかない。

 

 ――そうよ。まだ戦ってない……まだ、まだ! 例え生前では勝ち目なんて無量大数の先の単位まで探しても一つもないけど! 同じサーヴァントに堕ちた身なら、万が一が狙えるはず! 諦めないでメディア! 生前果たせなかったにっくきあん畜生のイオラオスの伯父! 挑まずして何が誇り高き王妃なの!? まだ私のライフは残ってる、マスター狙いに絞ればきっと勝てるんだから!

 

 メディアは奮起した。必ずや彼の邪知暴虐の王を除かねばならぬと決意した。

 生半可な策では踏み潰される。ならばもう表向きのルールとかどうでもいい。そう、ルールブレイカーの時間だ。

 

 メディアは柳洞寺の山門を触媒に、サーヴァントを召喚する。

 

 サーヴァントがサーヴァントを喚び出すのだ。門番として使い、柳洞寺の防備と合わせれば、なんとか撃退まではできなくもないのではないかと一縷の希望に託してみる。

 イオラオス来いイオラオス来いイオラオス来いイオラオス来い――その一念、鬼神に通ずる。イレギュラーな召喚故に、仮にアサシンが出てきても、冬木の聖杯戦争で固定されている山の翁が来るとは限らない。ならばアサシン適性もあるであろうイオラオスが来る可能性もある。

 もし来たらマスターの立場を笠に着て、それはもう自身の憂さ晴らしのサンドバッグにしてやると決意していた。

 

 だが、メディアは運命に負けた。

 

 自分が偽名で“佐々木”などと名乗っていたツケなのだろうか。召喚して出てきたのは剣豪“佐々木小次郎”のガワを着た、名もなき亡霊だったのである。

 

「アサシンのサーヴァント。召喚に応じ参上した。ふむ……お前が私のマスターらしいが……まあいい。よろしく頼むぞ、魔女殿?」

 

 メディアは激怒した。気に入る気に入らないではなく、第一声に魔女とかいう悍ましい呼び名が入っていたからである。

 

「――どうして私に関わる全部が()()なのよぉ!」

 

 メディア、魂の叫びであった。

 

 

 

 

 

 




なお、色んな制約を自分から負っていながら、原作以上にデタラメ仕出かしてるメディア氏。まだ余力もある模様。
やったねメディアちゃん! パワーアップしてるよ!(精神的にも)

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