衛宮ぐだ子(本名にあらず) 作:ぐだ男よりもぐだ子がすきだぁ!
またインストールしてUBWとHFに三千円払わにゃいかんのだろうか…
(殺された!殺された!殺された!!絶対に殺された!!!)
だけど生きている。しかし、『お前は一度殺されたのだ』と血だらけの制服と胸に残る痛みが告げているようだ。
意識がしっかりと戻る頃には、ぐだ子こと衛宮立香は自分の足が自宅に向かっていることがわかった。息絶え絶えのまま昔のながらの風情溢れる衛宮邸に到着する。
『見られたからには殺すだけだ』
あの槍使いはそう言っていた。必ず殺しにくる。休む暇はない。
(武器だ……倒すまでとは行かずとも、撤退させるくらいのやつ……)
見慣れた居間をキョロキョロと見渡してみるが、それらしきものは………『恋のラブリーレンジャーランド。いいから来てくれ、自衛会』。
(藤ねえが持ってきた青年団の団員募集ポスター……あれの初回限定版は豪華鉄板仕様……いやいやいや、槍相手には無理だって!)
血が不足していてバカな考えが頭に浮かんだのだろう。だが直ぐにその考えはダメだと首を振る。
他に何かないのか、ぐだ子は周囲を見渡すがやはり何もない。
(こうなったら土倉に……)
「っ!」
考えに耽っていると、何か渇いた音が家に響いた。衛宮邸の結界が侵入者に反応したのだ。
(わたしの命がこんな一枚のポスターにかかっているなんて……)
不覚。そう言わんばかりに荒々しく初回限定版だけを抜き取る。
「———
施行するのは強化魔術。心を落ち着かせ、丸めたポスターの強度を高める。
(当面の間はこれが生命線。早いところ土倉に駆け込むのがベスト!)
とにかく心許ないポスターを早く捨てたい。その一心で居間を出ようとした時に、頭上から悪寒が走る。
ほぼ反射的に姿勢を倒し、体を空中に放った。ぐだ子が元いた場所には、青い装束の槍使いが落下する。
「…余計な手間を見えていれば痛かろうと……」
「出たな!この人殺し!」
目尻に涙を浮かべながら立ち上がる。敵は何か言いかけていたようだが、ぐだ子にとって重要なのは虚勢でもなんでもいい、ただ恐怖を紛らわせ、体の動きを鈍らせないための勢いだ。
そしてそのままポスターを持ち直し、構えるは正眼。
「…どうとでも言え。事実を言われたって否定はしねぇ」
ぐだ子には興味がない、そう言わんばかりの気怠い態度だ。
先に動いたのは槍使い。闘うには決して広くない居間を朱色の槍が走る。ぐだ子はその動きに合わせてポスターを当て、軽く身を屈めながら軌道をそらす。
「——!……ほう、武術に覚えありってか?」
槍が払われ、敵の体が開いた瞬間を狙い、ぐだ子は踏み込む。鉄板仕様に強化魔術、さらに藤ねえ譲りの剣術。これらを合わせて敵の脳天に一撃を加えればタダでは済むまい。
(取った———!)
だん!と踏み込む音が響き、次いでポスターが何かに当たった音と感触。しかし、それに違和感を覚えたのはその直後だ。
「んだよこれは、紙切れじゃねぇのか?」
槍使いは左腕でガードし、何事もなかったかのようにポスターに関心を寄せている。ぐだ子はすぐに後じさり、再びポスターを構え直す。すると、見据え直した敵の表情には先ほどとは違って色があった。格下相手に少しは遊んでやろう、そんな色が。
「はっ。変わった芸風にその負けん気、嫌いじゃねぇよ。———そら、次だ」
敵は軽く槍振るっているようだが、受け止めたぐだ子にとってはあまりに重い一撃だ。さらに一回、二回、三回、息をつく余裕もなく、何度も何度も繰り返す。
「もう一回!」
繰り返す度に良くなっていくぐだ子の剣筋。それに答えるかのように、槍使いは更に強く槍を突き出した。丸めたポスターのちょうど真ん中あたりでその刺突を防いだぐだ子の体が後ろへと流される。背後の襖に衝突し、退路が開けた!
(土倉に行くなら今しかない!)
敵に背を向け逃亡。先ほどの一撃で曲がってしまったポスターを捨てて、ぐだ子は全力で爆走した。
「おいおい、戦士が背ェ向けちゃダメだろ」
縁側に差し掛かったところで追いつかれる。だがそれをも御構い無しにガラス戸を体当たりで突き破り、ぐだ子は土倉に入り、門を閉じた。
「———
扉に魔力を込め、籠城。今のぐだ子にとっての最適解。あとは土倉にある鉄パイプを強化して構えるくらいはしておけばいいだろう。
「っつ……
だが鉄パイプを拾う前に左手の甲に痛みがあるのがわかった。あまりの痛みに扉に寄りかかるように屈んでしまう。そして———
走馬灯だろうか?死を覚悟したつもりはない。だけど、ぐだ子の昔の記憶が頭を過ぎった。父と月を見上げた夜のこと。炎の中で見た———
「———よう、少しは休めたかい?」
「なっ!?」
(嘘、なんで…)
扉は破られていないのに、あの槍使いはぐだ子の背後を取っている。
「万策尽きた、そう見ていいのか?」
「……」
籠城で時間稼ぎ。それをした時点で敗北を認めているようなものだ。
「…なんで……わたしを殺そうとするの?わたしが魔術を知らない一般人じゃないことくらいわかったはずだよね?」
魔術師は基本的に日陰者。一般人の目を忍び、仮に目撃者がいようものならそれ相応の措置をとる。その結果で人を殺す者もいれば、ただ記憶を消すだけの者、とにかくそこら辺は個々人の裁量によるだろう。
「確かに、嬢ちゃんは魔術を知っているし、現に使っちゃいるがな、その様子から察するに、オレたちがやっている事の本質を理解してるってワケでもねぇんだろ?」
「……」
「まぁいいさ。少しは楽しませてくれた礼に教えてやるよ。薄々勘付いているだろうが、オレは魔術師じゃねぇし、そして人間でもない。聖杯を巡り相争うために召喚された
「…聖杯?サーヴァント?」
「ま、聖杯と呼ばれちゃいるが、実際のところはオレにもよくわからんシロモノだ。とにかくなんでも願いを叶えてくれる願望機をそう呼んでるんだ。んで、聖杯を手に入れるべく、七人の魔術師たちがお互いのサーヴァントを殺し合わせる魔術戦。それをオレたちは聖杯戦争と読んでるワケだ」
「なによそれ、夢のために殺し合わせるって……あなたはそれでいいの?」
「いいもなにも、他の奴がそうかは知らんが、オレはそれを目的に呼ばれてやってんだぜ?まさか
「……」
何故だろう?ぐだ子の胸中には確かな憤りがあった。
「それで……あなた達は関係ない人まで自分のお願いのために殺すの?…今日の、今のわたしみたいに」
「……まあ、そういうこったな」
(…ああ、なんとなく、よくわからないけど、わかった気がする)
昔の言葉が蘇る。それと同じくして朱色の閃光が自分の胸を貫かんと煌めいた。
(
左手の痛みが増していく。だがそんなことはどうでもいい。そんなことよりも、この憤りの正体は———
「あなた達みたいなのが許せないんだと思う……!」
呟きの後、ぐだ子は勢いよく背後の土倉の扉を叩く。
「
施行するは強化魔術。そしてありったけの魔力を込める。ただそれだけ、ただそれだけで土倉の扉が軋みを上げ始める!
「———っ!」
大きな音を立て扉が砕かれた。砂塵が舞い、朱色の閃光はその輝きを鈍らせる。
「悪足掻きを———……っ!?」
槍使いはぐだ子が外に逃げると思ったのだろう。しかし、ぐだ子は低い姿勢で槍使いの脇をかすめると、床に置いてあった鉄パイプを拾い上げる。そして、振り向きざまにそれを薙ぎながら叫ぶ。
「
鉄パイプだけではない。自分の体をも強化魔術で魔力を回し、槍使いを殴った。ぐだ子の予想外の動きに驚愕しつつも、槍使いは対応する。先ほどの薙ぎは槍に阻まれ、甲高い音が耳を劈いた。だが、体勢が悪かったのか、ぐだ子の攻撃の勢いを殺しきれず、槍使いは後ろへ押され、土倉の外に出る。
「いいじゃねぇか!そのまっすぐな眼!出会い方が違けりゃ惚れそうだぜ、嬢ちゃん!」
砂埃の中から出てきたぐだ子を見て、高揚した槍使いは叫ぶ。
「如何なる覚悟を決めたのかは知らんが、恐れは消え、生に固執し、ただ目の前の敵に殺気を向けている。いいねぇ、思わず
槍使いの構えが変わる。先ほどまでの余裕を捨て、腰を低くし両手で槍を握る。
「だがよ、あんなデケェ音たてられちまったら遊びは終いだ。関係ないヤツ巻き込みたくないってんなら、ここで大人しく死ぬってのが一番だと思うぜ」
槍使いが駆け出した。その獣のような動きは、校庭で見せたそれと似ている。ぐだ子にはその動きがはっきりと見えていた。だが、たとえ強化していようと反応し切るだけの身体能力がぐだ子にはない。
(それでも、わたしは死んではいけない。この命は二度も助けられたんだから……)
生きて何かを成すべきだ。その何かはわからないけれど……。
ただ直感的に鉄パイプを正眼に構え、流れに身を任せる。下手に避けようとすれば殺される。それだけはわかっていたから。
(———来い!!)
しかし、ぐだ子が構え直した時、獣の如き槍使いと彼女の間に一つの影が現れる。
「そう、幕引きだ。だが、死ぬのはそちらの乙女ではない」
「「———っ!?」」
その声が先だったのか、それとも朱色の槍と闖入者の剣が火花と金属音を散らしたのが先だったのかは判別がつかない。だが、その声は確かにぐだ子と槍使いの耳に届いた。
「腹立たしいことこの上ないな。まさかこの戦いには、純真なる乙女に仇なす悪漢しか湧かないのか?」
紫を基調とした甲冑に静謐な佇まい。呆気にとられていたぐだ子には、自分を助けてくれた男はとても高尚な存在なのではないかと思うほどに静かに見えた。
「何者だ、なんて聞くまでもなさそうだ。これまた真っ当で堅物そうな英霊様だな。行方知れずだったセイバーさんよぉ…!」
「そちらも聞くまでもなさそうだ。力なき者を殺そうとする下衆が。それほどまでに願望に執着する貴様はもはや英雄と呼ぶには相応しくない」
「ハッ、時として理不尽な命令に従うのも英雄だと思うがね」
「否、英雄とは理不尽に立ち向かい、弱きを助け、強きを挫く者」
刹那の間に火花が散った。それも一つではなく、複数だ。
双方とも人間離れした動きだが、その質はまるで違った。騎士のそれは獣の如き槍兵とは真反対、理性の宿る剣捌き。
自身の置かれた状況を忘れ、ぐだ子はただそれに見惚れていた。
攻守は目まぐるしく入れ替わる。理性と本能のぶつかり合い。そして互いに攻勢に出た一撃が一際 大きな燐光を放ち、二人の戦士は後退る。
大きく開いた距離。どちらの間合いでもなく、ただ静かに睨み合う。一瞬だが長い静寂が流れ、口火を切ったのは槍使いの方だ。
「止めにしないか?テメェを殺すには時間が足りん。流石に目撃者を増やしたくない」
「なら己が主人の元に帰るがいい」
「わからねぇヤロウだな。オレはテメェの後ろの小娘を殺しに来たんだ。それともオレが帰れば、代わりにテメェがソイツを殺してくれんのかよ」
「わかっていないのは貴様だ。私は殺されかかった無辜の命を救いに来たのだ」
槍使いは剣士の態度に大きな舌打ちをし、さらに構えを変える。右手に握られた朱色の槍が不気味な雰囲気を纏い始める。
その雰囲気、その構え。すべてぐだ子には見覚えがあった。槍使いがあの校庭で彼女の視線に気づく直前に見せたものだ。
「いいぜ、だったらそこの小娘の前にテメェが死にな」
「悪いが、私は現界を続けてやるべきことがある。ここは貴様の引き際だぞ、槍兵…」
緊張が最高潮に達するその瞬間、槍が纏う邪気が放たれる!
「“
その邪気、そして槍兵の殺気の全てが剣士に注がれる。だが、剣士はただ悠然と構えを崩さず敵を見据えていた。
「——————
まさしく必殺。まさしく必中。闇を駆け抜けるその閃光は、まるで剣士の死を運命付ける呪いそのものなのではないか、とぐだ子には思えた。
「…なんだと!?」
———その剣士が、胸に突き付けられた槍の穂先を握るまでは。
「言ったはずだ。
「チッ!」
振り下ろされた剣。それを紙一重で躱し切る槍使い。またも二人の戦士は距離を取る。
「驚いた。今のは確実に取ったと思ったのだが……貴様ほど動きが異常な者と闘うのは初めてかも知れん」
「そりゃあ、コッチのセリフだよ。やっぱり聞いておくが、テメェ一体何者だ?」
「故あって主人を失ったサーヴァントだ。悪いが人の身に余る神秘を浴びて昇天した経緯がある故、貴様の魔槍の呪いが効くことはない」
「……正体わかった相手には名乗る主義か?その王道っぷりはこの戦いには不向きだろうな」
そう言い残すと槍使い———クー・フーリンは踵を返す。
「…帰るのか?」
「あぁ、その娘について言えば、どうやらオレの仕事じゃなくなったらしい」
クー・フーリンが何もない虚空に……否、頭上から飛んでくる矢に向かって魔槍を払った。その矢が飛んできた方向——つまりは、衛宮邸の塀の上には赤い装束を纏った弓兵が弓を構えていた。
「よぉ、また会ったな、アーチャー。悪りぃが後のことはオメェんとこの嬢ちゃんに任せるわ」
クー・フーリンの姿が一瞬にして透明になると、ぐだ子は緊張感が途切れ、その場にへたりと座り込む。
「すまない、これは君の戦いだっただろうか?歴然とした実力差故に、手を出してしまった」
剣を鞘に仕舞った騎士が手を差し伸べ、ぐだ子はそれに応じて手を握り立ち上がる。
「ううん、助けてくれてありがとう。あ……えっと、衛宮立香って言います。なんでか知らないけどみんなわたしを『ぐだ子』って呼ぶけど…」
「言っただろう。私が勝手に我が騎士道に従い君を助けただけだ。君が謝辞を述べる必要はない。
名乗って頂いた以上は私も真名を明かそう。我が名はギャラハッド。円卓最強の騎士、サー・ランスロットを父に持つ者だ」
*ぐだ子の基本ステータスは士郎のものとは異なります。
ギャラハッドはオリジナル要素が満載。一話で言及した通り本来ありえない召喚です。
ちなみに昔読了したサトクリフさんのアーサー王伝説とネットで調べた知識を参考にしてます。