Fate/Grand Order ―無明慟哭戦場 ノーフォーク-    作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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第一章 君は血に塗れて

 

 ――喉が枯れる、夢を見る。

 

 全身は血に塗れていた。

 総身は傷が刻まれていた。

 肉体は熱にうなされていた。

 痛い、苦しい、つらい、存在総てが悲鳴を上げている。

 肉体が呆然と立ち尽くしているが、けれど両足が立っていること自体が不思議で堪らない。

 だけど、何よりも不思議なのは――その心が、未だ砕けていないということ。

 嘲笑と侮蔑。暴力と凌辱。苦痛と鮮血。

 精神と魂は、全てがそれらにより染められている。

 身体以上に、血に塗れ、傷が刻まれ、熱にうなされている。

 なのに心は、まだ壊れていなかった。

 全てに狂って、全てを血に染めたと思っていたのに、根本のところでその心は変わらなかった、変えられなかった。

 だから――彼女は泣いている。

 血の涙を流し、彼女は哭いている。

 その手には何もなく、血に塗れたという事実だけしかない。

 喉を涸らして、彼女は泣いている―――――

 

 

 

 

 

 

 藤丸立香は唐突に目を覚ました。

 

「…………あれ?」

 

 そこは、住み慣れたマイルームの部屋ではなかった。

 気づけばもう一年も住み、体育祭やら無人島漂流やらハロウィンやら魔界村やらお月見やら鬼ヶ島やら大炎上本能寺やら思い返すと人理救済以外にもあれこれやりたいことやりまくったせいで、そういったイベントで手に入れたアイテムや記念写真で溢れているマイルーム。

 そんなマイルームではなく、

 

「……草原?」

 

 夜の草原、それも、

 

「……戦場、か?」

 

 かつての特異点の経験が、それが戦場であると判断させる。鼻に届く血と煙の臭い。これまでいくつかの戦場を駆け抜けてきたが、まさにそれと同じ匂いが周囲に充満している。いや、より正確に言えば、

 

「戦場……跡?」

 

 戦いは既に終わっている。戦闘の音そのものは聞こえてこないし、人の気配はない。血や草々の焦げ臭さはあるがそれは戦いが終わった後ということを教えてくれる。

 

「――やっと起きたのね、マスター」

 

 背後から、声を掛けられた。

 振り向き、そこにいたのは、

 

「……ブーディカ?」

 

 藤丸立香にとって最も特別なサーヴァント。

 ライダー・ブーディカ。

 真紅の長髪と華美な戦装束。女性らしい豊満な肉体と優しいほほ笑み。人理救済の旅の始まりから常にともに寄り添い合い、多くの聖杯を捧げ、霊基を極限まで上昇させた英霊だ。

 いつだって彼女はその慈愛に満ちた笑顔で、立夏と共にあった、

 

「――行くわよ」

 

「ブーディカ?」 

 

 ――が、今、彼女はただ一瞥のみを向けるだけ、彼を追い越し進む。

 

「ぶ、ブーディカ!? 何が起きて――――っ!?」

 

 その背に声をかけ、そしてその姿を認識して思わず息をのんだ。

 普段の騎士装束にマントではなかった。

 全身を覆うような外套、というよりも襤褸切れだ。元々白かったはずなのだろうが、全体的に煤で汚れ、ほとんどが妙に赤い。小さいな穴が所々に空き、衛生的には程遠い。

 その背を見て思い出したのは召喚時のジャック・ザ・リッパーの外套のそれだが、外套の形を保っていたジャックとは違い、今のブーディカが纏うのはただの襤褸切れに過ぎない。

 まるで、幾度も戦場を潜り抜け、そして敗北したかのよう。

 

 ぞわり(・・・)と、背筋に悪寒が走った。

 

「っ……!」

 

 倒れこむように駆けだして、ブーディカを追い越す。先ほど一瞬、目だけしか見えなかったが、今度はしっかりと今の彼女を目に焼き付けるために。

 そして、藤丸立夏は最愛のサーヴァントの姿を見た。

 

「なんで……っ」

 

 そもそも、鮮やかな真紅の髪が肩のあたりで止まっている。それは切りそろえた、というものではない。まるで誰かに無理やり引きちぎられたかのように、髪の長さが一定ではなかった。

 金色の瞳は暗く、左目が血が滲んだ包帯で覆われている。襤褸切れの下から見える体もディテールは普段のバトルドレスに近いが純白だったものと違い、乾いた黒がこびり付いて穢れている。

 よく見れば見るほど、肌や手には煤や乾いた赤黒い何かがこびり付いている。

 赤黒い何か。

 それを立夏は知っていた。

 この一年間、何度も何度も目にしたものだから。

 ―――――血だ。

 それも、出血からどれだけ時間がたったのかも分からないくらい。

 

「ブーディカ!」

 

「うるさいわよマスター」

 

 気が動転して立夏が彼女の両肩を掴むが、ブーディカの声は冷たかった。心配が滲む声には一切介さず、冷たい瞳で立夏へ言葉を返した。

 

「此処にいても、仕方ないでしょう。進むわよ」

 

 言い捨て、立夏の横をすり抜け歩みを進める。

 そこに普段の優しさはなかった。全ての彼女を押し込めたように、低く冷たい声だ。

 けれど、立夏にはそこに込められたものが理解できた。

 理解してしまった。

 怒りと憎しみと、絶望。

 普段の彼女には程遠い負の感情が宿った呪詛だ。

 

 ―――それを、藤丸立夏は認められなかった。認めたくなかった。

 

「ブーディカ、今の君は……っ」

 

「来たわ」

 

「!」

 

 脈絡のないブーディカの言葉に、立夏の感情とは関係なく、人理救済の経験が半ば無意識で周囲の警戒と把握を完了させていた。

 

「■■■――――」

 

 そこにいたのは暗い影、靄のようなものに包まれた人型の何かだ。

 見た感じシャドウサーヴァントのそれに近いが、英霊の影ほどの力は感じない。何かに汚染された(・・・・・・・・)ようなエネミーとでもいうべきか。

 

「エネミー、というか…………兵士か!?」

 

 簡素な鎧に兜、剣や槍、盾を持った兵士たちが5体。

 それらが唸り声を上げながら、いつの間にか出現して立夏とブーディカに迫っていた。

 

「っ……ブーディカ!」

 

「流石だよ、マスター。その対応力はね」

 

 状況がまるで把握できないが、敵の存在は明確だ。

 そして、気づいたら謎空間で、いきなり戦うなんてことは藤丸立夏にとっては日常茶飯事だ。

 意味が解らないが、ブーディカとの魔力が通っているのは感じている。故に、契約パスを通し、即座に魔力を彼女へと送った。

 

「―――やるのなら、皆殺しだ」

 

 低いつぶやきと共に、血がにじんだ包帯に包まれた手に武器を出現させる。

 魔力で構成され、現れた武器は当然というべきか普段のそれとは違った。

 右手には半ばで折れた直剣。左手には既に血に塗れた簡素な長槍だった。

 

 基本的に藤丸立夏とサーヴァント戦闘はさほど複雑な指示は必要とされない。

 そもそも基本三騎、最大六騎まで同時運用する立夏からすれば一人一人に複雑な行動指示は無理がある。また、そもそも素人な立夏が達人である英霊に動きを命令するのも馬鹿らしいことだ。

 二人が兵士Aを倒せ。もう一人が兵士Bを足止めしろ、とかそういう程度。加えて礼装の魔術や宝具、スキル発動を随時指示していた。

 サーヴァントとマスターの戦い方は千差万別だが、同時に複数のサーヴァントと契約する現在のカルデア、藤丸立夏にはこれが限界である。

 メルトリリス曰く、一対一の契約であれば相手の行動を解析、先読みして動作を細かく指示するマスターもいるらしいがそんなこと言われても困るという話だ。

 いずれにしても、パスを通して普段の通り指示を飛ばす。まずは一番手前の兵士に牽制の一撃を。

 

 ――――がこん、と水音がした。

 

「――――え?」

 

 牽制の一撃。そう指示したはずだった。

 なのに、結果はまるで違っていた。

 ブーディカは左手に握っていた槍を投げつけたのだ。それがそのまま兵士の脳天をぶち抜き、消滅させていた。

 あっけにとられた立夏に反し、ブーディカは既に動いていた。

 

「哭け、吠えろ……!」

 

 獣染みたロケットダッシュ。二人目に接近するのと同時に空いた左手に、二本目の折れ直剣を具現化。突き出された槍を右剣で叩き落しつつ、左剣で首を刎ねる。

 宮本武蔵を彷彿とさせる二刀流だが、しかしそれはまるで洗練されていない。武術や剣技では決してない。曲がりなりにも多くの英雄たちの武威を目に焼き付け、眼は肥えている立夏だから分かる。今のブーディカの動きは決して武威と呼べるものではない。

 ただ、命を虐殺する為だけの衝動だ。

 魂より発せられる慟哭が目前の命を奪う為だけに駆動させる。

 

「■■■!」

 

 三体目、四体目の兵士が同時にブーディカに迫った。二体の兵、二本の直剣の同時攻撃。

 対し、ブーディカの行動は単純だった。

 首を刎ねるために振りぬいた左腕をそのまま遠心力で任せて―――死体を、蹴り飛ばした。

 

「!?」

 

 死体が消滅するまでの僅かな数秒のタイムラグ。だがそれは、この場において紛れもなく致命的だ。

 迫る二体の内、右型の兵士の剣は半ば消滅しかけの兵士の体に突き刺さり黒い靄と共に完全消滅する。そのせいで兵士の動きが一瞬停滞した。

 その停滞を利用しないはずがない。

 剣を振りぬいたまま折剣を左手兵士に投げつける。

 兵士が飛来した折剣を叩き落し、

 

「ふっ……ぅ!」

 

 もう一本の折剣を時間差で心臓に投擲。切先が胸当てに接触した瞬間に、柄へ掌底を叩き込んで心臓をぶち抜いた。

 心臓に風穴が空いた死体が吹っ飛ぶのと同時に折剣を引き抜き、反動をつけて死体に攻撃していたもう一人の兵士の頭に無造作に投擲。

 一番最初の一人目と似たような鈍い水音と共に四人目が消滅した。

 

「地獄で詫びろ」

 

 最後の一体に至り、彼女の苛烈さはさらに増す。

 新たに出現させた二本の折剣。それを逆手で兵士の腹に突き刺しながら押し込む。反動で軽く下がりながら、出現させた槍をぶっ刺し、ダメ押しと言わんばかりに突き刺した双折剣を再び握って腹を掻っ捌き―――――五体目の兵士は為す術もなく消滅した。

 

「………………ブーディカ」

 

 残虐極まりない、自ら血を浴びるような戦い方。

 誰かを守る為に戦っていたはずの勝利の女王とは正反対の虐殺。

 全身にこびり付いた血があるのは当然だ。あんな戦い方をすれば、そうならないわけがない。

 靄に包まれた兵士に出血はなかったが、つまり、今の彼女はそういうことだ。

 

 藤丸立夏は理解した。

 理解させられた。

 ――――理解してしまった。

 今の彼女が、どういう存在かを。

 

「流石ね、マスター」

 

 その理解を、彼女もまた悟ったのだろう。

 闇夜の中で金色の瞳が細まり、口端が歪み、弧を描く。

 今の彼女は、共に人理救済を駆け抜けたライダー・ブーディカではない。

 立夏に向けて腕を広げ、隻眼の復讐者は嗤っていた。

 

「えぇ、そうよ。私はブーディカ・オルタ。クラスは―――復讐者(アベンジャー)。無明の夜と戦場が私の居場所。貴方についてこれるかしら?」

 




ブーディカさんの水着がないとか血涙を流すしかないので怒りの執筆。
イメージは巌窟王イベの感じで短編です。

スキル1慟哭の虐殺
「残り体力に応じて攻撃力UP+スター集中+スター獲得」
ブーディカオルタを焦がす怒り、憎悪、負の感情をそのまま魔力や攻撃力に転換し、戦闘における直感を無理やりに導き出す。
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