紗夜さんの恋人は総てを愛している。   作:貫咲賢希

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Prolog

 とある貸切スタジオにて、五人の少女たちが音楽を奏でていた。

 ここはアマチュアが利用する場所だが、その一室から聴こえてくる響きは遊びでやってるようには思えない本格的なロックサウンド。

 

 空気を震撼させる歌声、艶麗な旋律。聴いた人間を魅了するには十分過ぎる音色。

 

 彼女たちの名は《Roselia(ロゼリア)》。

 

 Roseliaは薔薇の『Rose』と椿の『Camellia』を合わせた造語であり、青い薔薇をイメージしている。

 青い薔薇は古くから生み出すことのできない『不可能』を意味していた。

 しかし、とある会社が十年以上の挑戦と努力を重ねた結果、開発に成功している。

 ゆえに花言葉は『夢がかなう』。まさに、不可能を可能にした花に相応しき言葉。

 

 その青薔薇をイメージしたRoseliaもまた、夢を追いかけていた。

 

 結成者であるボーカルの(みなと)友希那(ゆきな)

 憧れのフェスへの参加が切っ掛けで音楽に挫折した父親の無念を晴らすためにバンド活動を開始した一人の少女。

 彼女の歌声は幾つもの事務所から声がかけるほど素晴らしく、その強い信念のこもった歌声に惹かれて、今のメンバーが集った。

 

 ギャル系ファッションであるベースは友希那の幼馴染である今井(いまい)リサ。

 

 見るからに生真面目そうなギターは、友希那の技術と高い意識に共感した氷川(ひかわ)紗夜(さよ)

 

 小柄でツインテールのドラムは、友希那の魅力に惹かれたメンバー唯一の中学生、宇田川(うだがわ)あこ。

 

 大人しそうなキーボードは結成前からあこの友人であり、彼女を通して友希那たちに興味を持った白金(しろかね)燐子(りんこ)

 

 五人の少女は時に衝突や挫折もありながらも、夢に向かって日々研鑽を重ねている。

 目指すは頂点。違う思いで集いながら同じ夢を目指し、今日も音楽を奏でていた。

 

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 それが『バンドリ!ガールズバンドパーティ!』なのである。

 

 この後の話はそれからだ。

 未プレイの読者殿は頑張って登場人物を理解してください。

 

 貸切スタジオの終了時刻間際。最後の調整で五人は今度のライブでする曲を通して行い、曲が終るまでミスなくやり通した。

 

「ふぅ──。今回の練習で一番良かったと思うわ」

 

 ボーカルでありリーダーの友希那が総評すると、メンバーたちの顔が綻ぶ。

 Roseliaに馴れ合いは不要だ。

 全員でファミレスへ頻繁に通ったり、カフェにお茶をしたり、一緒に海へお泊りしたり、メンバーの誕生日にはサプライズを企画する彼女たちの間に、生温い気遣いなど存在しない。

 仲良しだけの友達ではなく、信頼し合った仲間たち。

 彼女たちは本気で音楽の頂点を目指しているため、練習はいつも厳しいのは当たり前。

 リーダーである友希那からも素直に褒めることは少ない。

 よって、彼女からの褒め言葉は、メンバーたちにとって心から嬉しいものであった。まるで普段素っ気無い猫が自分から懐いてくれるような気分である。

 

「各自、個人練習を怠らず、本番も先程以上の力を出せるように」

 

「了解っ!」

 

『わかりました』

 

「はい!」

 

「では、今日の練習はこれまでね」

 

「よーし、じゃあ皆で片づけを初めよっか」

 

 友希那が練習を締めると、今度はリサがみんなを仕切り始め、全員が彼女の指示に従う。音楽に関しては友希那が主に仕切るが、細かい段取りなどはリサに任せきりだ。

 貸切スタジオは散らかった状態でも後でスタッフが掃除するのだが、最低限のマナーとして彼女たちは使った後のスタジオはできるだけ元の状態に戻している。

 女子として乱雑だとは他人に思われたくもないし、綺麗にしておけばスタジオ側に良い印象も与え、時に融通も効かしてくれるわけだ。

 

「あっ、そうだ。練習が終わった後、紗夜に聞きたいことがあったんだよね」

 

「? なんですか?」

 

 リサは揃ってコードを巻いている紗夜に話しかける。

 別に重要な話ではない。だからこそ、このタイミングで、そして偶々思い出したから聞いただけ。

 リサは些細な疑問を解消したかっただけだ。

 

「今日さ、スタジオ来る前に日菜(ひな)を見かけたんだ」

 

「日菜を?」

 

 日菜とは紗夜の双子の妹のことである。天才で姉である紗夜とは別の高校、リサと同じ学校にかよっており、アイドルバンドをしている。

 いつも冷静沈着な紗夜とは違い、天真爛漫な日菜。一番の特徴は姉である紗夜のことが大好き。

 そんな彼女を、リサはスタジオに来る前、偶然見かけたわけである。

 

「向こうも気づいてなかったし、私も急いでたから話しかけなかったんだけどね」

 

 日菜は車道を挟んだ反対側にいいてリサには気づいておらず、リサも練習に遅刻しないために声はかけなかったが、そこで彼女はあるものを目撃したのだ。

 

「その日菜がさ、『獣殿』って、男の人に話かけるのを見たんだ。すごいカッコいい人だったんだけど、もしかして日菜の彼氏だったり?」

 

「いいえ。日菜が獣殿と呼んだのなら私がお付き合いしている人です」

 

「へぇ、紗夜が付き合っている人」

 

 

 

『えっ!! 紗夜(氷川)(さん)、付き合っている人がいた(の)(んですか)っ!?』

 

 突然、四人の大声に紗夜は体を震わした。

 

「!? ど、どうしたのですか、皆して大声で。驚くじゃないですか」

 

「いやいやいや、驚いたのはこっちの方だよ!」

 

 メンバーに驚く紗夜だが、驚きは四人の方が上だった。

 氷川紗夜は、禁欲的で厳格な少女。風紀委員をやっているほど、規律には忠実で真面目。

 空いた時間は音楽に打ち込み、無駄なことは一切しない。

 家族やRoseliaなどが誘わなければ、遊びに行くことすらしなさそうだ。

 そのような彼女と異性と付き合っているなど、何かの冗談にしか聞こえない。

 しかし、紗夜の反応からして偽りではないようだ。だからこそ、四人は大層驚いているのである。

 

「え? 紗夜って彼氏がいたわけ! あまりにもナチュラルに返すから一瞬気づかなかった!」

 

「紗夜、今の話は本当かしら? 私やリサの聞き間違いではなくて?」

 

「み、湊さんまで。ちょっと、詰め寄らないで、近いです!」

 

「氷川さん、──男の人と。ひゃぁぁぁ!」

 

「白金さんは何故、顔が真っ赤なのかしら?」

 

「うっひゃああああ! 紗夜さん、恋人がいたんですね! 大人だ!」

 

「宇田川さん、声が大きいわ。無駄口を叩く前に早く片付けなさい」

 

「あこだけキツくないですか!?」

 

「別にそういうわけではありません。他の皆さんも、私の発言で驚いたのは解りましたが、それで手が止まるのは駄目ですよ」

 

 紗夜の言葉通り、片付けの手が止まっていた。

 

「そうだね、紗夜の言うとおりだ。ごめんね。ほら、他の皆を止まった手を動かすよ」

 

 空かさずリサが柔和に謝り、場を仕切る。

 音楽面で指揮を執るのはリーダーである友希那が強いが、それ以外の面ではリサがフォローすることが多い。

 むしろ、彼女がいなければやばい。

 仮に先ほどのリサの声がなければ、場はばつの悪い空気が蹂躙していただろう。

 

「気になるのは解るけどさ、話はしながらでもできるからね」

 

「そうね。ごめんなさい」

 

 紗夜に指摘された後でリサが促し、片づけを再開させるメンバーたち。

 だが、彼女たちは働いてるものの、意識は完全に一人に向いていた。

 

「よし。これで終わりっと。でさ、さっきの続きだけど──」

 

 作業が完全に終ったの見計らって、リサは先ほどの話題を掘り返した。

 

「私が見かけた人ってマジで紗夜が付き合ってる人なわけ?」

 

「まだその話を続けるのですか……」

 

 帰り支度をしていた紗夜は顔を呆れさせる。

 周りを見ると、他のメンバーも自分の荷物を持ちながら注目してるので、彼女は仕方なく答えた。

 

「そうですね。彼以外にも日菜がそう呼んでいない限りは、私が付き合ってる人に違いありません」

 

「本当なんだ。冗談じゃなく?」

 

「本当です。疑われる謂れはないと思うのですが……、これでどうですか?」

 

 紗夜はそう言うと、携帯を操作して、一つの写真をリサに見せる。

 そこのはリサが見かけた男性が映っていた。

 

「あっ、この人だ!」

 

「あこにも見してください! って、超イケメンじゃないですか!?」

 

 あこの反応はけして過剰はではない。

 言葉は出ずとも友希那と燐子も同様の感想であり、実際に見かけたリサは言葉を失って見惚れたくらいである。

 映っていたの端整過ぎて現実離れした顔立ち。

 視線だけで釘付けされる双眸。長い黄金の髪は獅子の鬣の如く美しく、妖艶な微笑みは見ている蕩けてしまいそうだ。

 問答無用の美男。画像だけでもこの破壊力。現物はどれ程の色香を感じるのか計り知れない。

 

「この人が紗夜さんの蜜月を交わした運命の契約者! ていうか、外人さんですか!?」

 

「いえ。彼はクウォーターで歴とした日本人です」

 

「クウォーター!? なんだかカッコいい!」

 

「そうですか。ところで運命の契約者とは?」

 

 興奮のあまり迸ったあこの叫びに紗夜は首を傾げた。

 

「あこちゃんは恋人のことを言っているのだと思います」

 

「あぁ、なるほど」

 

 燐子が説明し、紗夜が納得する。あこの発言を翻訳するのは燐子の役目なのである。

 

「しかし宇田川さん、蜜月という言葉は解って使ってるのかしら?」

 

「きっと、解ってないかと」

 

「でしょうね……」

 

「これが紗夜が付き合っている人。実在してるのね」

 

「湊さん、何気に一番酷いことを言いませんでしたか?」

 

「いや~、しかし驚いた。紗夜付き合ってる人がいたなんて」

 

「そこまで驚くことでしょうか?」

 

 まだ驚きが収まらないメンバーの態度に紗夜は思わず首を傾げた。

 

「もう高校生ですし、付き合っている異性がいても可笑しな話ではないと思いますが」

 

「普通の人、ならね。正直言って貴方以外の全員が紗夜にそういう人がいるなんて想像もしなかったと思うわ」

 

 友希那の言葉に紗夜以外の三人がうんうんと、頷く。

 すると、紗夜は拗ねたように口を窄めた。

 

「私だって、恋くらいします……」

 

 頬を染めて不満を呟く彼女に、見ていた四人のほうが顔を赤くさせる。

 メンバーの意外に表情と其方の耐性が全くない彼女たちに、その顔は効果的だった。

 

「…………」

 

「うひゃあ、なんだかあたし、口の中が甘くなった」

 

「あこもですぅ」

 

「…………(無言で頷く燐子)」

 

 四人が紗夜が見せた女の顔で撃沈していると、気持ちを切り替える様に紗夜がおっほん、咳払いをする。

 

「では、この話はこれで終わりに──」

 

「待って。紗夜が良ければこの話、スタジオ出てからでも続けて構わないかしら?」

 

「えッ!? 友希那ぁ!?」

 

 話題を切ろうとした紗夜に、待ったかける友希那。これに彼女の幼馴染であるリサが心底驚いた。

 友希那は自分からはそういう話はしないが、浮ついた話がないわけではない。

 彼女はRoselia結成前から孤高の歌姫として周辺のライブハウスでは有名であり、容姿も優れてるので、異性から声をかけることは少なくない。

 冗談半分本気半分に告白されることも数ある。

 ただ、友希那は音楽に集中したく、彼女自身そういった感情に疎いのもあって、今まで人からの好意は避けていた。

 その友希那が紗夜から恋話(こいばな)を聞き出そうとしている。

 それはリサにとって、紗夜の恋人いる宣言よりも衝撃が上だった。

 

「まさか、友希那が恋愛に興味を? もしかして、気になってる人が? いや、もしかして、紗夜と一緒で既に友希那にも……」

 

「リサ。さっきからブツブツと何を言っているかしらないけど、紗夜から話を聞くのはバンドのためよ」

 

『え? バンドのため(ですか)?』

 

 思わぬ発言に友希那以外のメンバーが頭に疑問符を浮かべる。

 しかし、先程から反応するタイミングが揃っている。流石、同じバンドで演奏する者たちだ。

 

「私は恋愛に対する理解がないわ。紗夜以外のメンバーも先程の反応から見て似たようなものね。

 それでは、真に迫るラブソングを奏でることはできないと思う」

 

「あっ、そういえばラブソングらしいラブソングって、Roseliaにないような、あったような?」

 

 あこが頭を捻っていたが、話が脱線しそうなので友希那は構わずに話を続ける。

 

「それでこれを機に、紗夜の話を聞き、少しでも恋愛を理解したいと思ったのよ。音楽をする上で、愛や恋の曲を奏でることができないのは致命的よ」

 

「確かに、この世に恋愛を奏でる音楽は数多く存在しますね。それを譜面通りにするだけではなく、曲に篭められた思いも理解し演奏するのとしないとでは、明確な差が出ます」

 

「そうよ。今まで私はラブソングを歌う機会はあったけど、恋を理解するために映画を見ても全くピンとこなかった。けど、一緒に演奏する紗夜からの話ならばフィクションよりも心に残ると思ったの」

 

「なるほど……」

 

「勿論、紗夜の身の上話になるのだから、貴女が嫌なら無理強いはしないわ」

 

 友希那にそう言われて、紗夜は少し考えてから、口を開きました。

 

「解りました。バンドのためとなるならばお話しましょう」

 

「え!? 紗夜、本当にいいの?」

 

「今井さん、今日の貴女は驚いてばかりですね……」

 

「あ、そうだね。私が一番驚きぱなしだね」

 

 あはは、と乾いた笑みを浮かべるリサだが、彼女の反応は普通だろう。

 声こそ出さなかったが、あこや燐子も、紗夜が自分の話をするというのに驚きを隠せなかった。

 悪い言い方になってしまうが、紗夜は素直な性格ではない。

 自分のことはあまり晒さず、悩むも抱えるタイプ。好きな物すら、素直に好きだとは言わないのだ。

 だからこそ、彼女が自分の恋人の話をすることは意外である。

 しかも、最初から紗夜は自分の恋人のことを誤魔化す素振りは見せていないので、こと恋愛に関しては素直なだけかもしれない。

 それにリサは自分が恋愛話を振られるのは苦手なほうだが、他人の話なら好きである。

 何より、あまり身の上話をしない仲間の一面を知れるなら、聞く価値は十分あると考えた。

 

「よし! じゃあ、まだ昼過ぎだし、いつものファミレスで紗夜の恋愛話を皆で聞いちゃおうかね。今更、恥かしくなったからやっぱりなしとか駄目だよ?」

 

「一度、了承したものを簡単に撤回はしません。けど、あまり期待はしないでくださいね。バンド活動のためにお話しますが、期待に沿える自信はありませんよ」

 

 そう言いながら紗夜の困った顔を浮かべる。

 彼女の言葉も尤もだろう。他人の恋愛話に興味はない人はいるし、恋愛が全て漫画やドラマのように物語的であるとは限らないのだ。むしろ、劇的であるほうが稀だ。

 だが、それでもいい。

 例えどんな些細な話でも、仲間のことを知れるだけでリサには十分である。

 それは、頬を緩めている他の三人も同様だった。

 提案した友希那は当然として、発言こそなかったあこや燐子も、内容はどうあれ紗夜の話に興味を抱いた。

 

「いいよ。紗夜がそういう話をしてくれるだけで私は満足だから」

 

「はい! あこ、紗夜さんの話を聞きたいです!」

 

「私も、聞いてみたいです……」

 

「改めて私からもお願いするわ。紗夜、貴女の話を聞かせて貰えるかしら?」

 

 四人の視線を受け、少し不安そうにしていた紗夜の顔が和らいだ。

 

「……わかりました。私の話で良ければお教えしましょう」

 

 こうしてRoseliaはスタジオを後にし、行きつけのファミレスに向かった。

 そこで語られることになるのは、一つの、恋物語。

 後日、そのことをリサから聞いた紗夜の双子の妹、日菜は首を傾げた。

 

 

 なんでリサちーたちは、自分から砂糖の山に飛び込むような真似をしたの?

 

 




 超久しぶりの投稿。溜まってから投稿しようと思ってたけどDiesアニメ終ったので。
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