紗夜さんの恋人は総てを愛している。   作:貫咲賢希

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 本編です。
 毎度ながら誤字はあとで直す。
 また、物語を進める上で役者不足だったため、何処かの作品にいるようなキャラがチラホラいますが、気にしないでください。
 他人の空似。物語を動かすための歯車。その場限りの脇役なのでタグもつけません。
 まぁ、そろそろチートタグは必要かなと思いますが。


Episode ─Ⅸ【停滞】

 四月後半。春の陽気で暖かくなったとはいえ、冬の名残で肌寒い日は少なくない。

 空調管理されていない学校の体育館も、入った瞬間は冷えた空気が肌を撫でる。

 しかし、中で数十人の人間がしばらく運動していれば、流石に室内温度はいやでも上がる。

 激しい運動ならば汗も流すだろう。

 殊更に雌雄を決する試合とあれば、熱気も高まるというものだ。

 ダン! ダン! と、バスケットボールが跳ねる。

 篭球(バスケ)の試合であることは、見れば誰もが分かる。

 しかし、これが小学校四年生の授業と言われれば耳を疑うだろう。

 ただ一人、異質な存在。黄金の長い髪を靡かせ、自分より頭一個分低い同級生を四人抜きするとレイアップでゴール。反対コートで見学していた女子たちは彼のプレイを見て歓声を上げた。

 日本人の血が混じっているとは思えない金髪金眼の少年、小笠原(おがさはら)純心(あつみ)は涼しい顔でゴールネットから落ちてきたボールを拾う。

 去年まで周りと比べて平均的身長だった彼だが、外見に色濃く出ている四分の一の異国の血の影響で身長は168センチ。中学生どころか高校生レベルの体格をしている。

 成長期途中で体が大きい場合、その体格に未発達な体の機能がついていけず、ほとんどの人間が鈍重だ。

 だが、純心はそのような醜態は見せない。

 男女の試合を分けるため、ハーフコートにしているが、コート内を縦横無尽に駆け回るその姿は獲物を狩る獅子の如く俊敏である。

 誰も彼についていけず、誰も彼を止められない。

 試合開始から52対0。どちらが彼のチームの得点なのかは言うまでもないだろう。

 ここまで力量差があるならば相手プレイヤーやチームメイトも試合を投げ出すところだ。

 

 しかし、それは純心が許してくれなかった。

 

 別に純心は周りに叱咤激励を飛ばしてはいない。

 ただ、彼の目の前で手を抜くことが恐ろしいことだと植え付けられているのだ。

 ゆえに敵わないと理解していても、不要ものだと分かっていても皆が全力を尽くしていた。

 お陰で試合に出たものは純心以外疲労困憊。次々に動けなくなった者から選手を交代の繰り返しである。

 誰よりも動いている純心が汗一つかいていないのに対し、試合に出た者たちは息を切らしながら体中から大量の汗を出していた。

 

「えっと、次の交代は──」

 

 担任教師、櫻井は困った顔で死屍累々の男子たちを見た。

 女子の試合は体育委員の生徒と純心と同じく学級委員の氷川(ひかわ)紗夜(さよ)に任せて、男子の試合を管理していた。どうしたものかと悩む。

 純心が参加すればこのような光景は目に見えていたのだが、可能な限り彼を特別扱いにしない方針をした結果がこれである。

 毎回このようにしているのではく、クラス内の試合では純心を半分の頻度で審判にしていた。

 それが特別扱いしない限度。今日はその半分の状況だ。

 純心以外の生徒たちが使い潰されれば、教師の櫻井が彼の相手をするのが通例である。

 だが、まだ生徒は残っていた。

 

「先生、あと動けるのは僕たちだけです」

 

 と、小学生には似つかわしくない野太い声と逞しい体が三つ立ち上がった。

 

「じゃあ、頼むよ。万代(ばんだい)不動(ふどう)越知(おちつき)

 

 櫻井の身長は187センチなのだが、立ち上がった三人は彼に迫る身長である。

 即ち、高校生並みの純心よりも大きいのだ。

 顔立ちも小学生と思えぬほど濃い。もはや成人していても不思議ではなかった。最高身長の越知は若さを感じる端正な風貌であるが、それでも一見では高校生と間違われる。

 櫻井は彼らや純心を見ている最近の小学生の発育は凄いなとしみじみと思った。

 限界近い選手と入れ替わり三人を純心が出迎えた。

 

「残ったのは卿ら。今回は随分と早い登場だな」

 

 自分よりも身長が高い三人を見て純心が不敵に笑う。

 彼らの能を学級委員である純心は当然知っていた。皆、体格に見合う身体能力がある。それでも余裕の姿勢が崩れないのは自信の表れだ。

 三人の中で一番身長が高い越知が困った顔を浮かべる。

 

「小笠原委員長が凄いのです。彼らも他のクラス相手ならば蹂躙と呼べる試合を行えたでしょう」

 

 越知の言葉に嘘はない。このクラスは文武両道エリートの集まりであり、その中で純心だけが次元違いで卓越しているのだ。

 また、純心に対してクラスメイトたちは敬語で話す。

 文字通り、彼の存在に敬意を示しているのだ。純心に敬語抜きで話すクラスメイトは氷川日菜だけであり、同学年、他学年を含めてもそれは変わらない。

 その強烈な存在とカリスマゆえに、純心を閣下と敬う人間は多かった。

 だが、大した役職でもないのにそう呼ぶのは可笑しいと純心自身が拒んだため、彼の呼び名は『小笠原委員長』が通例である。『黄金の獣』、『破壊侯』といった異名と比べて平凡極まりない。

 

「それは卿らもだろ。越知はテニス。不動は格闘技。二人とも四月始まりにあった大会で優勝したではないか」

 

「ご存知でしたか」

 

「クラスメイトのことだ。当然であろう?」

 

「恐縮にございます」

 

「万代は相変らず作物にご執心かね?」

 

「ええ。何かと勧誘されますが、私には土いじりが性に合っています」

 

「その優れた体に勿体ないと思うが、卿の人生だ。好きに生きるといい」

 

「ありがたい言葉、頂戴しました」

 

 九歳児の会話とは思えないが周囲の人間にとっては見慣れた風景だった。小学生らしくない言葉に誰も違和感を抱かない。

 だが、今は授業中。しかも、試合中だ。

 

「ほらほら、おしゃべりは後だよ。早く試合をしなさい」

 

「失礼。すぐに位置につく」

 

 櫻井教師に促されて、四人は他の選手と共に定位置に向かう。

 ジャンプボールは純心と越知。

 一瞬、空気が静まり返る中、櫻井教師が手に持ったバスケットボールを放り投げる。

 純心と越知が跳躍した。

 これまでの試合、純心が毎回ボールを制している。

 しかし、今回は彼よりも身長がある越知が相手のため、今回は分が悪いと誰かが思った。

 

 そう思った者は純心を侮っている。

 

 ボムッ! ボールを手で最初に触れたのは純心だった。

 越知がまったく飛べなかったのではない。彼も巨体に見合わず、俊敏な動作と驚異の脚力で高く飛び上がっていた。

 単純に、それら全てを純心が上回ったのである、

 しかし、純心が味方選手に目掛けて弾いたボールは、そのまま味方を吹き飛ばした。純心が越知に勝つ為に先程よりも力を増したので、そのパワーに相手が耐えられなかったのだ。

 人をコートから壁まで吹き飛ばしたボールは不動が拾う。

 不動は越知よりも身長は低いが、体つきは最高三人組の中で一番良い。

 筋肉隆々の肉体が動けば、まるで山が走っているかのように迫力がある。

 

「いかせんよ」

 

「ぬお!」

 

 だが、いつの間にか彼の傍に来ていた純心が彼のボールを奪った。

 響く歓声。そのままゴール目掛けて疾走する純心の前に万代が立ちはだかる。彼は万代、不動と比べて運動能力が劣るも、それでも身体能力は並みではない。

 

 それでも、純心の前では他と変わらない。

 

 万代が反応できない速度ですぐ横切ろうとした彼だったが、進行方向に越知がいた。

 逆サイドには戻ってきた不動が身構えている。

 

「ほう」

 

 面白そうに純心の口端が歪んだ。その反応を見て、してやったと万代がほそく笑む。

 

「幾ら貴方様でもこの壁は通り抜けませんよ」

 

 先にも述べたように、越知、不動、万代の三人組は学年最高。すなわち体格も最大級。三人とも横幅が広く、隙間がほとんどない。

 これがオールコートならば余裕を持ったスペースで彼らを抜けただろうが、ハーフコートのため純心が駆け抜ける空間がなかった。

 

「ちょっと卑怯じゃない! 一人に三人がかりで!」

 

 試合を眺めていた女子の一人が野次を飛ばす。それに呼応して他の女子たちもブーイングをだしてきた。

 自分たちは自分たちの試合を見ろと言いたくなるが、女子の試合は天才少女こと氷川日菜がいるチームが勝つのは目に見えている。

 よって彼女たちは男子の試合、正確には純心にご執心なのだ。

 弾幕のように響く女子たちの暴言を越知、不動、万代の三人組は苦虫を噛んだような顔で無視する。

 何が卑怯か。自分たちは何とかして純心(脅威)に立ち向かっているのだ。お前たちも天災(日菜)をどうにかする努力をしろ。

 

「女子共が騒いでおりますが、貴方様の進軍もこれで終わりです」

 

 52対0の圧倒的点数差。仮に純心からボールを奪えたところですぐ奪われる。

 また、純心には遠く及ばないとはいえ他のメンバーもいるのだ。残りの味方二人が頑張って抑えてくれるが、攻めて来たら彼らも黙っていないだろう。

 更に攻めに転じれば、動きによって隙間が生じ、純心が掻い潜って点を取る危険性がある。

 ここは勝てなくとも、これ以上点を取らせぬように奮闘する姿勢を三人は選んだ。

 

「なるほど。それが卿らの判断か。悪くないと言いたいが──」

 

『!?』

 

 刹那、純心が縦横無尽を動き回ると越知、不動、万代の三人がその場で崩れ落ちた。

 

「三人同時にアンクルブレイクだって!?」

 

 その光景を真っ先に理解した櫻井が驚愕した。

 アンクルブレイクとはオフェンスでドリブルやテクニックなどを使い、相手デフェンスの体勢を崩して転ばせる高等技術だ。

 プロ並みの技術だが、それを三人同時でするなど櫻井は聞いたことがない。

 理解を追いついてない多くの者は摩訶不思議な出来事が起きたように見えただろう。

 あるいはいきなり三人が転げた滑稽な光景か。

 どちらにせよ、純心の前に障害はなくなった。

 

「一つ教授してやろう。壊せぬ壁は存在せぬ」

 

 三人が呆然している間に純心がダンクを決めると、女子たちが今日一番の歓声を上げた。

 

「さて、卿らの番だがどうする?」

 

 純心がまだ床に尻餅をついている越知にボールを放り投げた。

 まだ、何が起こったのか理解できない三人だが、視線を交し合って頷くと共に立ち上がる。

 

「ご教授承りました。ならば僕たちも足掻かして貰います」

 

「よくぞ吠えた。ならば私に一矢報いてみせろ」

 

 

 

 

 その光景を紗夜は女子の試合を管理しながら横目で眺めていた。

 自分たちの試合そっちのけで男子の試合を観戦している女子たちとは違い、彼女は自分の仕事を行っているが、やはり気になるというもの。

 

 少し前まで自覚できず、胸に芽生えた思いに気づいたのはつい最近のこと。

 

 意識しているから自然と純心を追い、恥ずかしくて止めてはまた眺めてしまう。その繰り返し。

 彼女は自分の気持ちに気づいてから、特別行動はしなかった。

 相手は自分に思いを寄せているのだから両思い。早急に心の丈を告げればいい。

 これは勝ち戦だと他人なら思うかもしれない。

 だが、半年近く彼の思いを受け入れず、今更になって好きになったから構ってほしいなど厚かましいのではないかと、紗夜はそう悩んでいるのだ。

 純心はまだ紗夜に恋をしていると口にしているが、もしも、仮に自分から好きになったと言ってしまったら。結局、卿も簡単に靡く女か。そう言われ幻滅される。そんな妄想すらしてしまうのだ。

 そもそも、自分はどうしたいのか。何がしたいのか。彼に何ができるのか。

 あれはこれはと考えては次々に悩みが増えるばかり。

 難しく考え過ぎだと一蹴するのは簡単だ。

 しかし、それで紗夜の悩みを解決することにはならない。

 そもそも、紗夜はこの思いを誰にも相談してない。

 勉強と最近はお稽古。委員会の仕事に家では妹に構う。それが彼女の時間。

 即ち、こういったことを相談できる相手はいないのだ。

 もしもクラスメイトに口を割れば、只でさえ純心に思いを向けられることに反感を持つ女性は少なくないのに、煮え切らない言葉など火に油を注ぐ行為だろう。

 家族だと妹の日菜は恋愛経験ゼロなので当てにできない。そもそも感性が一般とズレている。母親は最終手段。父親は論外。

 結局、紗夜にできることは初恋に戸惑いながら、想い人を眺めて一喜一憂することだけだった。

 

 

 

 

 純心への声援が響く中、一人の少女だけ曇った顔した。

 

 クラスメイトとバスケの試合をしている日菜である。

 

 男子の試合が気になって動きが散漫になっているチームメイトは別にいい。

 最初から当てなどしてないし、一人でボールを持って行ってゴールを決めている。

 日菜のワンマンプレーが目立つが、純心が周りも利用してゴールしているのに対し、彼女は自分だけでボールを回していた。

 対戦相手もチームメイト同様純心の試合が気になりつつ、日菜が対戦相手なのでどうせ勝てないとやる気が感じられない。

 これもいつものことなので気にしない。

 クラスの女子で日菜とまともに組めるのも、相対できるのも姉の紗夜だけだ。

 どちらになっても日菜の気分は高揚していただろうが、大好きな姉は審判。

 更には他の女子よりと比べるまでもなく真面目に取り組んでいるが、紗夜もチラチラと純心を意識している。

 目立つプレイをして姉に褒めてもらおうとした日菜の思惑は、純心の活躍によって阻まれた。

 五人抜きしても、自分陣地のゴール下から相手ゴールにシュートを決めても、丁度姉は純心のプレイを見ていて自分を気にしてはくれない。

 

 苛立ちが募った日菜は閃いた。

 

 ならば、嫌でも目立つ行動をしよう。

 

 相手プレイヤーにボールが渡る。

 日菜はそれを奪うことは簡単だが敢えて見逃して、ゴール前に駆け込んだ。

 いくら敵わないと思っても、点を取られないことは嫌だったのだろう。久しぶりのゴール前に相手プレイヤーはシュートを構えた。

 

 ここだ!

 

 日菜がジャンプする。

 しかし、まだ相手プレイヤーはシュートを撃っていない。

 焦ったなと、それを見た誰もが思った。

 日菜が床へ着地した瞬間を狙って、今度こそシュートを撃とうとした。

 だが、また日菜がジャンプをする。連続ジャンプ。

 

「!?」

 

 咄嗟に止まったが、日菜は連続ジャンプを繰り返す。

 

「るんるんるんるんるんるんるんるんるんるんるんるんるんるん!」

 

 まるで壁のように縦、横と連続で跳ねる日菜。

 跳躍の間隔が全くない。これではシュートが撃てない!

 あまりの奇怪な行動に紗夜と他の女子以外にも、反対側で試合していた男子生徒も含めて彼女のプレイを誰もが目を見張った。

 

「…………」

 

「あっ!」

 

 パシ──パシュッ!

 シュートを撃てないので日菜の相手をしていたプレイヤーは近くの味方にパスを出し、ボールを貰った女子は日菜の死角からシュートを決めた。

 

「くぅ~、せっかくお姉ちゃんに褒めてもらおうと思ったのに!」

 

 大声で嘆く日菜を見て、紗夜は頭を抱えた。

 

「何をしているの、あの子は…………」

 

 四年生になっても、日菜ちゃんは日菜ちゃんのままだった。

 

 

 

 

 引いた弦から指先で放し、弓から矢を放つ。

 矢は的に当たったものの、狙った中央から大きく外れていた。

 結果に内心濁しながらも、紗夜は最後まで射法八節(弓道の基本動作)の最後、残心を行う。

 弓道において的中させることは絶対ではない。

 正鵠を穿つことは素晴らしいことだが、実際の試合では的に当たったか当たらないかで勝敗を判断。ただし、当てた数が同数の場合、遠近勝負、すなわち真ん中に近いほうが勝者という規則もあり、段級審査では的中率も計られる。

 

 だが、弓道において的を狙うという行為は卑しいものだと戒められているのだ。

 

 弓とは無心で引くもの。ただ的を射抜くのではなく、的を射抜くための『行動』が重要なのだ。

 心構えは流派によって多少異なるが、概ねそのように考えられている。

 その在り方が気に入った紗夜は熱心に弓を引いた。

 ある種の精神統一。静穏を好む彼女には打ってつけの競技である。

 逆に妹の日菜は性に合わなかった。

 すぐに弓を引いて、的に的中させることができた彼女であるが、自己完結する弓の世界は彼女には閉鎖的で心に響くものではなったのだ。

 また、小笠原指南所にある習い事の殆どが日菜の琴線に触れなかった。

 合気道は最初こそ乗り気だったが、姉と試合するとなった途端、習うこと自体を放棄。彼女は姉と競うことは好きだが、痛めつけることは嫌悪している。

 他の習い事を悉く合わないと言ってしなくなった日菜に呆れていた紗夜だったが、合気道のときは内心安心した。彼女も練習とはいえ日菜に痛い思いをさせたくはなかったからだ。実際、日菜がまだ続けていてれば痛い目に遭うのは紗夜だった可能性が高いことは余分な話だろう。

 結局、日菜は小笠原指南所で礼儀作法だけを習っている。元々、これだけはと母親は二人の娘に習わせるつもりだったものであり、日菜も覚えことが多いため喜んで通っていた。

 紗夜はというと日菜同様一通り習った後、礼儀作法と合気道、弓道の三つを習っている。

 日菜と違い他の習い事にも興味がなかったわけではないが、全てやると全て中途半端になりそうだと考えたため、妹と同じものと、自衛のための合気道。そして一番肌に合った弓道を選んだ。

 

 弓を選んだ理由の一つで、『彼』の存在がいなかったかと聞かれれば、紗夜は嘘をつくことになるのだが。

 

 自分の番を終えた紗夜は先生に指導を貰って待機場所に戻ると、ある場所に視線を向ける。

 

 静寂が相応しい弓道場で爆音。

 この場でそれを響かせるのは指南所の次期当主である小笠原純心のみ。弓を下ろす姿に見惚れている者は紗夜を含めて多かった。

 大人の指導者たちは苦笑いを浮かべるが、誰も純心に何も言わない。最初の頃は静かに弓を放てないかと声をかけられていたが、己を高める弓道で全力を尽くさないのは誠意がないと論破されたため諦観されている。

 お陰で純心は自由に弓を引けているかといえば、そうでもなかった。

 

「紗夜。調子はどうだ?」

 

 練習が終われば純心は寄ってくる女性たちを避けて、当たり前のように紗夜の傍へやって来る。

 彼に慕っている女性たちから嫉妬の視線が集まるが、紗夜は平気な顔をして応対した。こういったことは学校で経験済みである。

 

「やっと的へ当たるようになってきました。小笠原さんの方は相変らずですね」

 

 紗夜が純心の手元に視線を下ろすと、そこには亀裂が走った弓があった。

 

「加減をしない心情は理解しますが、その調子ではまた壊れますよ」

 

 純心が弓を引いてからまだ一月も経っていないのだが、その間に彼が壊した弓の数は片手では足らない。

 弦が切れることは少なくないが、弓本体が折れることなど滅多にないだろう。

 しかし、純心が持つ桁違いの腕力に弓が耐えられず頻繁に折れているのだ。

 最初は不良品かと思われたが、次々に純心が持った弓が破壊される光景に周りは驚いた。

 五本くらいで慣れたが。

 

「丁寧に扱っているつもりなのだが、昔から加減が苦手だ。これではまた母上に叱られてしまう」

 

「貴方でも叱られるのですね」

 

 彼が叱られる光景を想像して、紗夜は思わず微笑みを浮かべる。

 すると純心は無表情になった。何を考えているのか読み取れない顔だが、一年近く彼と向き合ってきた紗夜にはその内心を読み取る。

 

 これは拗ねていますね。

 

 また顔が緩みかけたが、これ以上は彼に申し訳ないので紗夜は堪える。

 

「笑い事ではない。何度も続けば暫く新調しないと言われた」

 

「それは困りましたね」

 

 純心が弓道に入れ込んでいることを前々から知っている紗夜はどうしたものかと考える。

 それを見た純心はふっと笑った。

 

「卿が悩む必要はあるまいに。壊れたら壊れたで新調したら良いだけだ。誰かが得られなければ自分で得るしかないがな」

 

「相変らず壊れぬように加減して、大切にすることは考えないのですね」

 

「大切にしているからこそ壊れるのだ。替えが利くものなら尚更、遠慮はいるまい」

 

「それで永遠に壊し続けるのですか?」

 

「無論だとも」

 

「本当に仕方のない人ですね、貴方は」

 

 純心が物をよく壊すのは今に始まったことではない。物からすれば堪ったものではないだろうが、それが純心の大切にすること──愛することなのだ。

 

「なら、替えが利かないものはどうするのですか?」

 

「変わらんよ。触れて。愛し。その結果が壊れるなら、砕けた破片を愛そう」

 

 生涯不変。物だろが命だろうが、総てを愛している純心の価値観は変わらない。

 

「そうなると……。貴方に好かれている私もいつか壊されてしまいそうですね」

 

「怖いかね?」

 

 彼は尋ねる。壊すなら壊す。そこに隔てりもない。

 彼を妄信する者は壊してほしいと願う。彼を恐れる者は壊さないでほしいと願う。

 ならば、彼が『恋』する相手はどう答えるのか。

 

「壊されるのは嫌です。ですから、私は壊されてあげません」

 

 少し前の紗夜ならば、壊れる前に逃げるとあしらっただろう

 でも、今は彼に恋をして、触れてほしいと願っている。仮に彼の愛で総てを壊そうとするならば、壊れぬようにあろうとするだけだ。

 実際、純心がその気ならば、紗夜を無理やり愛する(壊す)ことは簡単なはずだ。物理的にも精神的にも力尽くで屈服させ、彼なしには生きられないようにすることは容易い。

 しかし、それはできない。あるいはしないのは単純に惚れた弱みか。壊させないと口にした彼女だから好いたのか。それは純心しか分からないことだ。

 どの道、そうさせない時点で、彼に紗夜を壊すことはできない。

 

「それこそマイン・ゲッティン。再び私は卿に惚れたよ」

 

 何度も聞いたが、久しぶりの言葉に紗夜は顔を赤くする。

 もしもここで自分の本心を告げたらどうなるか。

 それができるなら、とっくに告白しているだろう。だから彼女は照れ隠しをする、

 

「ま、まったく、神聖な道場で何を言っているのですか……」

 

「神聖な道場だからこそ、本音を包み隠さないものだろ」

 

「ほ、本当に、仕方のない人ですねっ。そろそろ帰ります。お疲れさまでした」

 

「ああ、お疲れさま」

 

 恥ずかしくなった紗夜はこれ以上この場に留まれなくなり、逃げるように道場から立ち去る。

 周りに他の人間がいなくなっても純心が見送っていると、背後から彼に近づく人間がいた。

 

「まったく。何時になったらお付き合いをするのですか」

 

 着物を纏った金髪の女性、純心の母親、小笠原莉那(りな)である。

 

「母上。息子の恋路を覗きとは暇なのでしょうか?」

 

「覗かれたくないなら道場の真ん中で陸み合わないでください。私が人を除けなければ大勢に見られたままですよ」

 

「私は気にしない」

 

 平然とする息子に母親はため息をこぼす。

 

「私は気になります。……しかし、貴方も本命には奥手なのですね。無理矢理押し倒さないのは褒めてあげます」

 

「母上。息子の恋路に茶々を入れるほど暇なのでしょうか?」

 

「暇ではありません。ですが、貴方が紗夜さんとお付き合いするのを待ってはいます」

 

「母上は随分と紗夜が気に入ったようですね」

 

「それもありますが貴方が紗夜さんと結ばれないと、知らないところで孫が沢山増えそうで怖い」

 

「母上、私がそのような後先考えずの行動はしてないさ」

 

「小学校入学してから既に火遊びした子とは思えません」

 

 純心の女性問題は当然なら母親も知っていた。

 表立った事件はなく毎度自然崩壊していたが、最初に知ったときは血の気が引いたものだ。

 まさか小学校になったばかりの息子が女性と密接な関係を持つとは思わないだろう。

 

「私は求められたゆえに応じただけですよ」

 

 しかも、本人がこの態度だ。

 来るもの拒まず。彼の総てを愛することを悩みだしたのはこの頃からである。

 

「火遊びしたことには変わりません。紗夜さんに恋をしてからは止めたそうですが、失恋したらまた再開しそうで心配です」

 

「心配せずとも私は紗夜を手に入れる」

 

「凄い自信ですね」

 

 二人の様子に莉奈は脈がないとは思わなかったが、堂々と宣言する息子には呆れる。

 莉奈としても、紗夜は気に入ったので息子の恋が成就することは願っていることだ。

 しかし、彼女が心配していることは、息子が意中の相手と結ばれるかどうかだけではない。

 息子が気づいてないとは思えないが、どうするつもりなのか。

 恐らく、尋ねてもはぐらかされるだけだろうが。

 

 

 

 

 紗夜は弓道着から更衣室に向かうと、自分の服がなかった。

 

 一瞬戸惑ったが、すぐに理解する。

 

 少し離れた場所でにやけた顔した数人の女子がいたからだ。

 見た目の年齢は自分と近いが、ほとんどが年上。中学生もいるかもしれない。

 大方、純心に言い寄られている自分への嫌がらせだろうと、紗夜は嫌悪を抱いた。

 学校では純心の傍に相応しいと思われるだけの実力を紗夜が周囲に見せていたので、嫉妬はされても酷遇なことはされなかった。

 だが、この指南所では紗夜は新参者であり、学校と変わらず羨望の的である純心から特別扱いされている彼女は彼を慕う女性たちにとって面白くない存在だ。

 他人を妬む気持ちが悪いと紗夜には言えない。彼女もそういった気持ちがあるからだ。

 

 しかし、腹いせに陰湿な行為をしても、許される理由にはならない。

 

 体の熱が高まる。けれども、紗夜は憤りを腹の奥深くに抑えた。

 彼女たちに文句を言うのは簡単だ。だが、証拠もないのに食って掛かるのは愚行。

 例えば彼女たちを問い詰めている最中に何処かから自分の服を取り出されれば、向こうの良いように難癖をつけられるだろう。

 ならば、このまま黙って帰るか?

 否。妹や母に心配はさせぬし、人を貶めた者供から逃げるつもりもない。

 ここには自分と彼女たちしかいない。紗夜は敢えてこのまま動かず、痺れを切らした向こうから接触があるまで待つか考える。

 会話の中で言質を取り、相手の口から犯行を供述させてから実力行使してからも遅くはない。

 紗夜は悪戯好きの日菜を注意するため尋問する技術は昔から養われている。

 口ならば妹よりも姉の方が上。幾ら年齢を重ねようとも単に日々を生きた人間では紗夜を論破できない。

 逆上して暴力を振るってきたら、絶対に相手(・・)を怪我させないようにする。

 騒ぎになって誰かが駆け付けた時、どんな状況であれ怪我をしている人間が被害者だ。

 次に、口の数が多いのが正論になる。怪我をしているのが紗夜と相手側の両方ならば、数が多い向こうの言い分が通る可能性が高い。

 だが、相手側が一切怪我もせず、紗夜が一方的に嬲られているような状態ならば形勢は圧倒的に有利だ。

 最悪の状況は暴力沙汰になった時、騒がれないように紗夜が鎮圧される。そうならないように、できる限り冷静であろうと集中した。

 そうやって一向に動きを見せない紗夜に、服を隠したと思われる女子たちが訝しみ、痺れを切らして自分たちから近づこうとした時だった。

 

「よかった! まだ、ここにいたんだ!」

 

 

 更衣室に第三者が現れた。紗夜に近づこうとした女子たちは立ち止まり、一人が舌打ちをする。

 紗夜はやってきた人物を目で確認した。

 見た目は自分よりも年上。身長は高く、紗夜にはない何より豊満な胸があった。服装はゴシックタイプの私服であるが、弓道場で何度か見かけたことのある顔だ。

 彼女は安心したように紗夜まで近づくと、手に抱えていたものを見せた。

 

「ねぇ、これって貴女の服じゃない?」

 

「あっ!」

 

 声を上げたのは紗夜ではなく、固まっていた女性たちだ。

 口が滑ったと気づき、素知らぬ態度を見せても遅い。紗夜は疑心を確信に変えて、彼女たちを警戒しながら目の前の女性に応じる。

 彼女が持ってきたものは無くなっていた紗夜の服で間違いなかった。

 

「はい。そうです。無くなっていて困っていました」

 

「そうか、よかった~」

 

「お尋ねしますが、何処にありました?」

 

「そこにいる連中がごみ箱に捨ててたよ」

 

『はぁ!?』

 

 声を荒上げたのは紗夜ではなく、指で示された女性たちだった。

 

「何を証拠に言ってのよっ!?」

 

「私がその現場を見てたからよ。あっ、一応目立った汚れはないか確認したからね。一回ゴミ箱に入ったから安心はできないかもだけど」

 

 少女は一度紗夜に振り返って説明してから、ジト目で女子たちを睨んだ。

 

「ちなみに証拠は携帯で写真を撮ったから」

 

 その少女の言葉で顰め面だった女子たちの顔色が一気に悪くなる。

 

「消されたら堪ったものじゃないから見せないけど」

 

「うぅ…………」

 

「大方、純心くんと仲良くしてたのが気に入らないからしたんでしょうけど、小学生相手にやることが陰湿なのよ。そこのアンタ、中学生でしょう?」

 

 苦渋の表情を浮かべるしか反応しない女子たちに彼女は鼻で笑った。

 

「大体、こんなことしたらスグにバレるわよ。もしも純心くんが知ったらどうなるだろね。彼、紳士だけど、甘くないわよ」

 

『!?』

 

 瞬間、顔色を悪くする。

 純心が総てを愛していることは指南所でも周知されているが、彼が彼女たちの所業を知れば、愛されながら(・・・・・・)処断されるだろう。

 かつて指南所に通う生徒相手に不逞を働いた不審者がいた。

 偶然、その場にいた純心はその不審者を笑いながら叩き潰したのだ。

 そこに一切の嫌悪もなく、感情は愛しかない。

 純心にとっては悪戯をした我が子を諭すような感覚で、再起不能にしている。

 暴力以外でも、この指南所で問題を起こした者に対し、社会復帰不可能のレベルまで追い詰めた噂もあるのだ。

 その異様な存在だからこそ、彼女たちは年下ながら純心に惹かれ、同時に恐れている。

 

「う、あ………」

 

 今更ながら、自分たちの浅はかな行動に気づいた少女たちは恐慌状態になった。

 青ざめた顔で涙目を浮かべる彼女たちに、紗夜はどちらが被害者だったのか分からなくなる。

 

「もういいです。今回は見逃してあげます」

 

 紗夜は溜息の後、そう言った。

 その言葉に周囲の人間が驚き、紗夜の服を見つけてくれた少女も首を傾げる。

 

「いいの?」

 

「貴女のおかげで服は戻ってきましたし、再犯がなければ事を荒げる必要もありません」

 

 許したわけでないが、みっともない彼女たちに同情した。

 また、好いている男の子が彼女たちに制裁を与えるかもしれないと考えると、気分が悪くなる。彼の性分は理解しているが、できればそんなことはしてほしくない。

 

「ですが、次はありませんから──」

 

「!?」

 

 紗夜が鋭く睨むと、犯行に及んだ少女たちは凍えたように固まる。

 自分たちよりも年下であり、彼に慕われているだけの生意気な小娘と侮っていたが、氷のような瞳に見つめられて、その考えを改めた。

 普通なら泣き寝入りか怒鳴り散らすところを、少女は冷ややかに自分たちを見つめている。

 双子の妹が普通でないことを知っていたが、彼女も普通ではない!

 

「……もう、いいですから何処かに行ってください」

 

「っ────」

 

 その言葉で紗夜の視線から解放された少女たちは、逃げる様にその場から去った。

 残されたのは紗夜と服と見つけてくれた少女のみである。

 

「いや、すごいね。貴女」

 

「? 何がですか?」

 

 いきなりの称賛に紗夜は戸惑っていたが、少女は先程見せた彼女の態度に感心しているのだ。

 

「だって、服が隠されたのにああやって冷静に許しちゃうなんて私にはできないよ。ねぇねぇ、本当に小学生?」

 

「疑われるのは心外ですが、正真正銘の小学生です」

 

「ふえぇ~。純心くんといい、最近の小学生は大人だね」

 

「彼と同類なのも心外ですね」

 

 とは言った紗夜であるが、外見は純心と違い年相応であるものの、精神年齢は同等に近い。

 これは元からトラブルメーカーである双子の妹の付き合いでしっかりしていた所に加えて、去年は更に精神構造が複雑な純心とも絡んでいたゆえの成長だった。

 

「それはそうと、服を見つけてくれてありがとうございます。また、貴女が間に入ってくれたお陰で事を荒げることもなくなりました。私だけでは一騒動になっていたでしょうね」

 

「気にしないで。悪いことを見過ごすのはできない性分なのよ」

 

「それはとても素晴らしい心構えです」

 

 他人の悪事を見て、見ぬ振りをする人間は多い。

 それは自分の保身ゆえだ。下手に関われば、自分にも危害が及ぶかもしれない故の防衛本能。少なくとも紗夜はそう思っているので、もしも彼女が紗夜を見捨てていても恨みはしなかった。

 だからこそ、彼女の行動に敬意を感じる。

 

「そういえば自己紹介がまだだったね。私の名前は沖田(おきた)紗羽(さわ)。貴女と同じここの弓道教室に通っている中学三年生だよ」

 

 自己紹介されて、改めて紗夜は少女、沖田紗羽の姿を確認した。

 顔は整っており、年齢にしては高い身長。とはいえ純心などを比べると常識の範囲内だ。胸の方は小学生の紗夜と比べても仕方ないが、随分と豊満に育っている。

 綺麗な女性だと思った。

 虐めを見過ごせないところから気性が強いと分かり、紗夜にとって好ましい人物である。

 

「沖田さん、ですか。私のことは先程の口振りでご存知かと思いますが氷川紗夜と申します」

 

「うん、知っているよ。純心くんと仲が良いから──、顔は覚えちゃうよ」

 

 少し奥歯に物が挟むような言い方をしてから、紗羽は微笑んだ。

 目立つことは分かっていたつもりだが、改めて人に言われてしまうと紗夜は恥ずかしくなる。

 でも、好いている相手と仲が良いと思われるのは、少し嬉しい。

 

「ま、まぁ、同じ学校に通って、クラスメイトですから」

 

「だけじゃないでしょう? 純心くんから熱烈なアプローチをされてるじゃない。彼って、さっきの子たちのように年が離れた相手からも好かれているんだよ。そんな漫画の王子さまのような子から思われてるなんて、羨ましいなぁ」

 

「そう言われましても、どう答えていいのか困ります」

 

 純心は紗夜への好意を隠してないので、そこも周知されているのは察していた。

 好意に関しては、以前は兎も角、自分も心の奥では彼のことを想っているので正直嬉しい。

 しかし、他人から改めてそれを言われると、仲が良いと言われる以上に羞恥心が込み上げてくる。仮に曝け出す度胸があれば、とっくに純心へ告白でもしているだろう。

 そうやって、紗夜が顔赤くして困っていると、それを見た紗羽はにんまりと笑った。

 

「その様子だと満更じゃないかな?」

 

「いえ、それは、なんと言いますか」

 

 助けてもらった相手だが、今日あったばかりの人間に秘めた思いを白状できる紗夜はではない。

 しかし、このような話は不得手なため、大人相手でも交渉できる紗夜はしどろもどろになった。

 そんな紗夜の様子を見た紗羽は名案を思い付いたように、目を輝かせる。

 

「ならさ、今からオヤツ食べに行かない? カフェとかで。勿論、奢るよ。お姉さんだからね」

 

「え?」

 

 まさか、この話の続きを逃げる場所をなくしてするのか。

 訝しんだ紗夜だが、そんな彼女の様子に気づいた紗羽は警戒を解くように微笑みかけた。

 

「安心して。貴女が嫌なら興味あるのは嘘じゃないけど、これ以上は聞かないよ。むしろ、貴女のことを話したいな」

 

「私のこと、ですか?」

 

「うん、そう。私、貴女のことに興味が湧いたの。だから、お話。嫌なことがあったわけし、甘いもの食べてガールズトークしよう」

 

「ええと……」

 

「ああ、無理ならいいよ。強引過ぎると悪いしね」

 

「……いえ、門限までであればお誘いを受けます」

 

 申し訳なさそうにした紗羽を見て、紗夜は彼女の提案に乗ることを決めた。

 単に今日あったばかりの人間なら断っていただろうが、相手は窮地を助けてもらった者でもあり、それを邪険に扱うのは躊躇いを感じる。

 必要以上踏み込まないのであれば少し話をするくらいならいいだろう。

 紗夜としても年齢が離れた女性と会話するのに興味がないわけではない。

 別にオヤツに惹かれた訳ではないのだ。

 紗夜が照れ臭そうに頷くと、紗羽の顔が花咲いた。

 

「! よし。決まり! じゃあ、早く着替えて行こう! 私も門限があるからね」

 

「わかりまし──、って、なに服を脱がそうとしているんですか!?」

 

「いや、着替えるのを手伝うと思って。お姉さんだから」

 

「そこまで子供じゃありません!」

 

 




 書いた分が長かったため分割しました。
 物語の進展は明日で。
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