獅子の鬣如き黄金の髪。妖しく輝く瞳も黄金。
人体の黄金比と呼ぶに相応しい精巧な肉体。
なるほど、黄金の獣と異名されるに相応しい存在だ。
最初は遠目だったが、間近でその姿を直視した今井リサは目が眩むような気分だ。
「獣殿、なんで薫君といるの?」
「日菜か」
精神が朦朧しているリサの横を日菜が通り、小笠原純心に話しかける。
昔から面識があるゆえか、あるいは近い同種ゆえか。彼女は純心の威光を物ともしていない。
「今度、私の高校が羽丘女子学園と合同演劇会するのでな。会場はこの学園の講堂で、今回はその寄合に来たのだ」
「へぇぇ、そんなのやるんだ。でも、獣殿って演劇部じゃないよね。私が知らない間に入部したの?」
「しておらぬさ。兄弟校との交流ゆえな。生徒会長である私も寄合の席に座る必要がある」
「そうなんだ。態々、違う高校に来るなんて大変だね」
「話している最中にすまない。日菜は彼、我が羽丘女子学園の兄弟校である
二人の会話を割って瀬田薫が日菜に尋ねる。
風代学園はリサも聞いたことがあった。
薫の言葉通り、羽丘女子学園の兄弟校であり中高一貫の進学校は同じだが、女子高である羽丘とは違って男子高である。
しかし、その生徒会長が紗夜の恋人である小笠原純心だったとは。リサが内心驚いてると、日菜が何やら愉快そうな笑みを浮かべていた。
「獣殿はねぇ、私とって将来のおにーちゃんになる人かな」
「? それはどういう─」
「待った待った! 話の続きはこの状況をどうにかしてからだよ!」
正気に戻ったリサが二人の間に割って入る。
この状況とは恍惚とした顔で校庭中倒れている女生徒たちのことだ。
「原因は多分薫と、えっと小笠原さんだから。二人は一旦、人目が付かない場所に──」
「うぉわぁ!? なぁんだぁこれぇええ!?」
リサが事態の収拾をどうにかしようとしていた所、聞き覚えのある声が聞こえた。
「!? ひ、人が一杯倒れて──っ!?」
「ひょええええ!? 何が起こったのぉ!? 事件!? 戦争!?」
「な!? 何!? 何事!?」
「おぉ、無差別テロでもあったのかな──」
続いても聞き覚えのある声の叫び。
声の主たちは幼馴染でバンドを組むAfterglowの少女五人。
反応した順は、宇田川巴、羽沢つぐみ、上原ひまり、美竹蘭、青葉モカであり、他の仰天する四人と違ってモカだけはいつも通りマイペースだ。
「あぁ、丁度良かった。ちょっと助けて」
「えっ、リサさん? それに日菜先輩と瀬田先輩。あと、そこの人は──」
巴を先頭にしてリサたちに駆け寄った五人は、見知った顔の中に見知らぬ男の姿を見つける。
視線を向けられたので、名乗るが礼儀だと思ったのだろう。
純心は黄金の瞳で彼女たちに魔性の微笑みを浮かべた。
「初めまして、
「ゴールデンハンサ────────────────ムッ!!」
刹那、絶叫と共にひまりがその場で倒れる。更につぐみと蘭は赤面で硬直し、巴は存在の眩しさに「ぐお!?」と呻いて怯む。
モカだけは平常通り、「おお」と少しだけ驚いた声を出すだけに終わった。
「あぁ、ひまりも被害に! 私はこの人と薫を別の場所に移すからモカたちはここにいる人たちの介抱をお願い! じゃあ!」
「あ、リサさん」
唯一、平常を保っていたモカにこの場を任せ、リサは純心たちを別の場所に誘導したのであった。
「ふむ、紗夜の話通りだな。我々をここまで誘導する手際、見事だ」
「あはは、それはどうも……」
純心の労いに対し、リサは乾いた笑みしか浮かべられない。
彼女がいる場所は演劇部部室であり、舞台準備の関係上、体育館と講堂近くに部室があるため誘導しやすかった。
これが屋内であれば、被害者が増える可能性もあり、また小笠原純心の目的が演劇部との会合ならば一番適した場所であろう。
「あと、もう既に想像はついてるんですけど、なんであのような事態に?」
「それは私から説明しよう」
そう言ったのはキリっと微笑む薫だった。一々格好をつけるのは毎度なので突っ込まない。
「私が生徒会長と出迎えに校門で待っていたら、彼らの到着と共に周りの子猫ちゃんたちが騒がしくなったからね。
ここは他校に負けじとアピールしたら、あぁなった訳さ。あぁ、儚い!」
「儚いね。儚いね。あぁ、成程、発端は薫なわけだ」
適当に相槌しながらリサが嘆くと、純心が彼女に話しかけようと一歩近づく。
「彼女だけの罪ではないさ。私も声援に応え、事態の悪化を招いた。裁くなら同じものを受けよう」
「いや、裁くとかそんなつもりはないですよ。あれ? そういえば、生徒会長も薫と小笠原さんを出迎えに来てたと言ったけど何処にいるの?」
リサが誘導したのは純心と彼と同行していたのだろう、同じ風代学園の学生と思わしき一人に瀬田薫。
日菜は面白そうだからと言ってついて来ようとしたが、彼女にはPastel*Palettesの仕事があるため、途中で別れた。
「彼女は純心くんが自己紹介した途端、ひまりちゃんと同様、その場で倒れてしまったよ」
「気づかなかった……」
頭を抱えた。態々互いに出向くのであれば、今回の会合は両校の生徒会長同士が必要であったことは説明しなくても解る。
「別にいいんじゃないかな、本来は僕らの演劇部とここの演劇部だけで済む話だし」
すると、今まで黙っていた風代学園の学生が発言する。
言葉から察するに彼が風代学園の代表なのだろう。大人顔負けの風格を持つ純心と違って、子供らしい無邪気な少年だ。
中性的な容姿で天使のように美しい風貌。彼が舞台に立てば映えるに違いない
「他校との交流だから会長たちが同席する予定だったけど、いないものは仕方ないし、後で決まったことを伝達しておけば問題ないでしょ」
「確かに卿の言う通りだな。彼女が復活しているとも限らんし、交流の面合わせは後日にするとしよう」
「よーし。会長の言葉もあったし、決定。早速やろ! 僕、早く終わったらここの学園の見学をさせて欲しいんだ!」
「ふふ。お目当ては妹のアンナちゃんかな?」
意気込んでいる少年に向かって薫がそう言うと、彼は不思議そうな顔を浮かべる。
「あれ? 瀬田さん知ってるの?」
「学園の子猫ちゃんたちは全員知っているし、風代学園の演劇部が来ると話を聞いた彼女から君のことを教えてもらったのさ。見た通り、双子のお兄さんだそうだね」
どうやら、彼の双子の妹が羽丘に通っているようだ。
風代学園演劇部員は無邪気な笑顔で手を上げる。
「そうだよ! アンナは僕と同じで綺麗で昔は一緒に舞台をしてたんだ! でも、人前で上手くセリフを言えないからって、吹奏楽でフルートを始めたんだ。
一緒に舞台へ上がることができないのは残念だけど、アンナのフルート綺麗だし、今日はこっそり練習してるところを見たくてね」
「なら、急いで話し合いをしよう。その後の案内は私がするよ」
「ほんと!? ありがと、瀬田さん!」
人懐っこい笑みを浮かべて少年は礼を言う。普段は交わらない他校との交流だが、意気投合している二人を見れば、今のところは問題ないと見ていいだろう。
「さて、私も寄合に参加するから卿とはここまでだ。世話をかけたな今井嬢」
「あ、いえ、どういたしまして」
いきなり呼ばれたことない呼び名で呼ばれたリサは、純心にぎこちない笑みを向けた。
「いずれ、卿。いや、卿らRoseliaとは話がしたい。先日、紗夜から私の話をしたと聞いたのでな。最早、遠慮は不要だろう」
「えっと、はい。機会があれば」
思わず、リサはそう答えて、彼らと別れる。
純心の言葉を聞いて何を話したいのかと一瞬思ったが、彼にとってリサたちは恋人のバンドメンバーだ。多少の興味があっても不思議ではない。
リサも少しは純心の存在に慣れたので、機会があれば話をしてもいいと考えた。彼から見た紗夜の話も、糖分過多でなければ聞いてみたい。
といっても、それは当分先の話だろう。
今回はあくまでイレギュラーの訪問であり、今後は彼の所属する演劇部が何度か顔合わせで羽丘に訪れるくらいだ。
小笠原純心が風代学園の生徒会長なのは驚いたが、彼が羽丘に訪れる機会もそうないはずである。
リサは彼の連絡先も知らないので、改めて約束を取り付けることもなく、紗夜に聞くのは少し抵抗あったので、その機会はもう少し時間が経ってからにしようと考えていた。
──のだが。
「聞いたリサちー! 獣殿が今度の合同演劇会に出演するんだって!」
数日後、日菜からそんな話を聞いたリサは、自身が演劇部でなくともすぐに再会しそうだと予感する。
何故、生徒会長の彼がそのような事態になったかは知らないが、今度は以前のような事態にはしないで欲しいと、深々と願うリサであった。
最早本編との絡みが殆どない幕間。
一評価が増えたが、是非もなし。
こんなもの獣殿じゃないって、感じなんだろうね。
オリジナル学園の風代学園は、Diesが月之澤学園を『月』。バンドリの花咲川を『花』。羽丘は羽ということで『鳥』とみて、花鳥風月に合わせて風代学園と名付けました。