「お、おおおおおい、そこのののの、お前!」
挙動不審な言葉で呼び止められた小笠原純心は何事かと立ち止まった。
「な、なんだね。その金色の髪に目も、それに髪が長い! ふ、ふざけているのか!」
「ふむ」
風代学園中等部入学式。校門前で新入生を出迎えていた一人の男性教師が彼を呼び止めた。
他の教師たちは純心の尋常ならないオーラに触れて怯えているが、この教師だけは怖気ながらも扶郎に声をかけた。
純心のこの黄金の髪を染めたものと勘違いし、声をかけたのだろう。彼の外見は一見異国の人間にしか見えないのだが、純心の異常性で正常な考えができないようである。
純心は憤慨することもなく、職務に励む教師を優しく労った。
彼も愛する総ての一人、無下にはしない。
「お疲れ様です、先生。さて、この髪や瞳は生来のもの。私の記憶が正しければ。協調性を保つため、髪、目の色を黒に強制する校風や規則はなかったはずですが、如何かな?」
たとえ生来の髪色でも、黒に染めることを強要し、問題視される学校は存在する。
しかし、純心の言葉通り、風代学園はそのような規則は一切なかった。
仮に規則が存在するならば純心は謝罪して染めてくるが、そんな規則があったら彼はこの学校には通おうとは思わなかっただろう。
「き、規則はないが、皆、同じ立場なのだから、君だけそんな髪色をしていれば、我が学園の校風が勘違いされてしまう……」
「そんなことはないでしょう。近隣の花咲川女子学園では海外留学生も多い。毛色が異なるものが交じっているのは今更だ。
私は生粋の日本生まれだが、外国の血が流れているのでこの様な姿をしている。そんな学生が一人いようが、風紀、外聞もさして変わらない」
彼が花咲川女子学園のことを知っているかというと、最終的に妹とこの学園の兄弟校である羽丘女子学園に通った恋人である氷川紗夜の進路だったものの一つゆえだ。
小学三年の間にその学園に通っていた生徒と何人か男女関係を持っていたと話しても、今の彼ではきっと信じるものは少ない。
何故なら純心は一人の女だけに、熱心な恋をしているからだ。
「んんん、なら、色は良いとして、髪の長さはどう説明するのですか?」
「これは私の家が主に女性へ様々な作法を教授する道場ゆえにです。長い髪を持つ女性の苦労を知るため、男であろうと髪の長さは一定を保たらなければいけない。家訓なのだ」
そう、別に彼の髪の長さは趣味ではない。彼の父親や祖父も背中まで長い髪をしている。
まったく彼の趣味ではないと言えば、それはそれで嘘になるのだが。
「そうですか。事情を知らず、呼び止めて、すみません」
いつの間にか敬語になった男教師は深々と純心に
「気にせずとも良い。卿は職務を全うしただけだろう。これからも励むがいい」
「はは! ありがたき言葉、頂戴しました!」
最早、上下立場が異常なまでに逆転した。
新入生代表として出席をする小笠原純心は、初日早々堅物な教師を屈服させたと知れ渡る。
だが、それは単なる序幕に起きた些細なことだ。これから高等部を含めた6年間、黄金の獣は数多くの伝説を作ることになる。
『──そんな感じで新入生代表の挨拶を日菜は滅茶苦茶にしたから、姉である私は恥ずかしかったわ』
「想像できる光景だな」
入学式が終わり、夕方になる頃。式が終わった純心は家族と共に食事をしたあと家に戻り、恋人との電話を楽しんでいた。
彼の恋人である紗夜も本日が入学式であり、双子の妹である氷川日菜が新入生代表の挨拶で一騒動を起こし、酷い目にあったようだ。
彼女も純心と同様、入学式を終えたら家族と食事して家に帰った。だが、入学祝いで買った携帯電話で通話する場所は家ではなく、自宅の外。
態々、そんな場所で電話するのは、同じ部屋の妹に会話を邪魔されたくなく、親にも恋人
との会話は聞かれて恥ずかしいからだ。
『純心くんのほうは、無事新入生の挨拶ができたかしら?』
「無論だとも。私は日菜のように遊び心は疎いでな。ありきたりな言葉で終わったよ」
『貴方は日菜と別の意味で心配だわ。問題があってもあの子と一緒で自覚してそうにないから不安よ。まぁ、貴方ならその問題も自分で何とかするでしょうけど』
電話越しで、くすくすと笑い声が聞こえる。
付き合った当初は堅い口調だった彼女だったが、長年付き合うと家族と話すような自然体で純心と喋るようになった。
そして、紗夜的に些細な拘りだが、彼女が異性で『くん』付けをするのは恋人の純心だけ。
最初は言い間違いで出た呼び方だが、継続してみれば彼女にとって大切な呼称となった。
『──それで、今度の日曜日だけど、待ち合わせは駅前でよかったかしら?』
これはデートの相談だ。何度も確認した必要事項とは言わない。紗夜自身も解った上で話している。
単なる話の前振り。今度、久々に長い時間を共有する、その待ち遠しい時間も共有したいから振った話題だ。
中学に上がる際、紗夜は彼の家で経営している道場に通うのを止めている。
彼女と日菜が通う羽丘学園は進学校であり、学業を優先するため習い事はしなくなったのだ。
純心の両親からは、いつでも好きに来て弓を引いていいと言われており、実際何度か訪れたことはあるが、頻繁には通ってない。
次期当主の恋人であっても、我が者顔で門下生と交じって弓を引くのはあまり良い目では見られない。本人は真面目に弓道を勤しむつもりでも、単なる恋人と会う口実だろうと邪推されるからだ。
別々の学校に通うことになり、二人が共に過ごす時間は減った。
共学の同じ高校に通うか、進路の一つであった花咲川女子学園に通えば途中まで登下校を共に過ごすことができた。
尤も、二人ともそれだけで進路を決めるほど、色ぼけてはいない。
「あぁ。最後は以前から行きたかった夕方からのライブだな」
『中学生に上がってから、遅くまで外にいることが許させるのは良かったわね』
「流石にフェスなど宿泊が必要なものは、保護者同伴がまだ必要だがな。二人だけで夜を過ごせる機会は、高校になるまでお預けだ」
『…………、なんだか、その。何度も言うけど、そんな言葉を口にするのは、どうかと思うわ。二人ともまだ子供なんだし、いけないわよ』
恥ずかしそうに言い淀む紗夜。きっと、電話の向こう側では顔を赤くしているだろう。
一緒に歩くときは純心の腕に絡みつく紗夜だが、まだまだ初心だ。
付き合った時間や距離感のわりに、二人はキスもしていない。
純心としてはもっと深く触れたいが、今は恥ずかしがる紗夜の様子を楽しんでいるだけに止めている。
尤も、彼が本気になれば、その瞬間に実行しているだろう。彼は加減ができない。理性で本能を抑えているのではなく、気分の問題だった。
その気分も、最近は日を重ねることに艶麗な傾向へ変わっている。
「紗夜は可愛らしいな。今すぐ会って、卿の総てを奪ってしまいたいよ」
『っ! もう、そんなことを言うなら切るわ! ───またね』
「あぁ、ではな」
恥ずかしさで激情に駆られながらも、別れの挨拶はきっちりするのは仲睦ましい。
約束の日、珍しく紗夜は遅刻した。
「ごめんなさい! 遅れてしまって!」
「いや、かまわん。何かあったのか?」
やって来た紗夜の様子はかなり落ち込んでいる。真面目な彼女が遅刻したことを気に病んでいるのは解るが、顔色が悪いのはそれだけではないような気がした。
「…………う、ううん。なんでも、ないわ。行きましょう」
微笑んで、純心の腕に己の体を預ける。
一瞬、口篭もったので、なんでもないことが嘘なのは誰が見ても解る。
だが、純心は何も聞かなかった。
女性が秘密にしたいのならば、無理に暴くことはあるまい。
そう達観したゆえ、彼は見落とした。
もしも、この時。無理にでも純心が話を聞きだしていればどうなっていたか。
それはもう、詮無き事だ。
月日は流れた。
純心の中学生活は一年生で生徒会長になり、進学校だと馬鹿にしてきた不良学校連軍を一人で叩き潰したあと傘下につけ、虐めを黙認した教師を退職に追い込み、体育の授業で器物破損を繰り返していたが、小学校の頃と変わらないので本人的に語る価値がないとのこと。
そんな学業の傍ら、紗夜とのデートため、様々な資金繰りをしていた純心。
だが、その苦労は今のところ、成果を上げてなかった。
資金繰りは上手くいっている。だが、肝心の消費ができてない状態だった。
『ごめんなさい。今度、小テストがあって、その日も難しいわ』
「わかった、気にするな。思う存分、勉学に励むといい」
中学に入ってから、純心の想定以上に紗夜と会う機会が減った。
彼女曰く、進学校の授業が大変で勉強が忙しいということ。
何度かテストのため一緒に図書館で勉強をしたことがあるが、純心の目から見ても、紗夜が授業に遅れている様子は感じられなかった。
紗夜は優秀だ。一度だけテストの結果を聞いたことがあるが、全て満点
『でも! 必ず、来週の日曜日は絶対に行くから!』
「──紗夜」
付き合いが悪くなっているのを自覚している紗夜は、必死を感じさせる声を上げる。
耳に響く音だが、純心は咎めることせず、見えない恋人に向かって微笑んだ。
「別に私は、最後に卿が傍にいてくれるなら十分だ。己を高めたいのであろう? 満足するまで自分を磨くといい。私には会えるときに会ってくれればいい。
私には卿が嵌めた枷がある。不安にならずとも、つれないからと言って浮気などせぬさ。この鎖を壊しはしない。紗夜との絆だからな」
『純心くん……』
電話の向こうで、すすり声が聞こえる。
『なんで、純心くんはそんなに私に優しいの?』
「無論、卿に恋をしているからだ。よもや、忘れてしまったのかね」
『いいえ。ありがとう。私も貴方に恋をしているわ。大好きよ』
──そうして、紗夜からの電話が途絶えた。
メールやSNSの個人会話でのやり取りは毎日している。
そういっても、軽い挨拶ばかりで、お互いの近況などは語らなかった。
夏が来て、紗夜と共に行くはずだったフェスのチケットは無駄になり、知人に譲った。
季節が変わる前では毎日のように聞いていた声も聞こえない。
そして、もう秋が訪れた。
「貴方、紗夜さんに捨てられてしまったの?」
「母上。いきなり、失礼な言葉ですな」
一人、道場で弓を射っていた純心に彼の母親が口にした言葉。
それでも憤慨することはなく、悠然とした態度は崩さない。
「捨てられていませんよ」
「でも、随分も会ってないのでしょう?」
「連絡はしております」
「メールだけね。しかも、簡単な会話だけ」
「覗いたのですか。親子でも踏み込んではならぬ場所があるでしょうに」
パスワードを変更しようと思っただけで、覗き見に怒りは覚えない。
母親なりに彼を心配しているからだと解っているからだ。他には、もしも紗夜と別れれば、再び手当たり次第の人間と付き合うのを恐れているかもしれない。
「まったく、余裕と恰好ばかり持って」
そんな態度の息子を母親は呆れて、溜息をついた。
「寂しいなら、会いに行けばいいじゃない」
「紗夜には会いに来たければ来たら良いと言っております」
「何を言っているの? 私は貴方のことを言っているのよ」
「────」
思わぬ言葉だと、純心の顔が無表情になる。
変化がないように見えるが、彼を良く知る者にとって、それが彼の心が揺れた証拠だった。
母親が言った言葉を否定することはできない。自覚はなかった。
だから、納得ができた。渇いた感情に慣れて、気づかなかった。
「──なるほど。私は寂しかったのか」
「そうですよ。変なところで、疎いですから。貴方は」
「ご教授感謝する、母上」
そう言い残して、彼は道場から去ろうとした。
「何処へ行くの?」
「私はどうやら寂しいようだ。なら、渇きを癒すのは一つしかありません」
そのまま着替えた純心は外出した。
時刻は夕方過ぎ。茜色に染まる道を純心が歩いていると、予想通り、目的の人物と出くわした。
「純心くん?」
まるで夢でも見ているかのような目で、紗夜は突然現れた純心に出会う。
紗夜の服装は羽丘中等部の制服。今まで学校へ勉強していたのだろう。連絡の頻度は少ないが、帰宅する報告は互いにしていた。
だから、彼女の門限を考慮して何れ遭遇するだと予想はついていた。
「久しぶりだな、紗夜」
「っ────」
「待て、何故逃げる」
背を向けた駆けだしそうな紗夜の手を純心は一瞬で掴む。
捕まった紗夜は、純心に向かって顔は向けず、俯いたままだ。
「だって、ずっと貴方を避けてた。貴方もわかってたでしょう? 合わせる顔は、ない」
「何故だね。他に男でもできたか?」
「なっ!? 貴方以外となんて誰とも──」
心外だと怒鳴りかけたが、そのように疑われても仕方ない行動をしてたことに気づく。
「ごめんなさい。貴方は疑っても、仕方ないわ」
「そんなつもりはなかったのだが、気分を害したのは謝ろう」
「謝るって、貴方が? 私の方こそ、ここ最近会ってなかったのに。謝らないと」
「会ってなかったな。だが、会わないと言って会わないなら、それは仕方ない。会うことを約束して、それを破ったわけではないのだから、謝る必要はなかろう」
「……純心くんらしい言葉ね。あぁ、本当に私は貴方に会っているのね」
「おや、夢だと思っていたのか?」
純心は紗夜の腰に手をやって、無理やり自分の方へ振り向かせた。
「夢ではない。約束はしておらぬが、私が会いたくなってやって来た。許せ」
「っ!」
久しぶりに見た黄金の瞳、そして甘い言葉に耐えられなかった紗夜は彼の胸に飛び込む。
そのまま、大きな体で誰にも見られないように隠しながら、静かに泣いた。
「中学に入ってから、日菜と差が大きくなったの」
「そうか…………」
予想していた一つだったので、純心は特に驚かない。以前から天才の妹と比べて、悩んでることは知っていたのだ。
あの後、少し落ち着きを取り戻した紗夜を連れて、彼は近くの公園にやって来た。
ベンチに座りながら、静かに紗夜の話しに耳を傾ける。
「前から、差はあった。あの子の方が、なんでも上。だから少しでも追いつこうと何でもしたわ。勉強だってあの子が寝た後もして、運動も毎日トレーニングした。
他にもね、絵を描いてみたりしたのよ。小学校で習ったバイオリンを活かして大会にも出てみたの」
そう言って、紗夜は毒薬でも飲んだかのように、顔を歪める。
「そしたら、あの子。お姉ちゃんがするなら私もするって、一緒にして。真似して。私よりも上の成績を取ったのよ。細やかでもいい。あの子にはない、私だけの認められた物が欲しかったのに、悉くあの子が奪った! 勿論、勉強も運動も一緒!」
吐き捨てるように叫ぶ。
己自身がみっともないと思いながらも、紗夜は一度開いた慟哭を止められなかった。
「周りは全部、あの子の称賛ばかり! いえ、それだけならまだマシだわ! でも、お母さんとお父さんは、それと合わせてお姉ちゃんなのにもう少し頑張れないの、と言うのよ! 挙句の果てに、私があの子に追いつけないのは純心くんと会ってるからだって! ずっと、ずっと会いたいの我慢してて、最近では会ってなかったのに、それを説明しても言い訳するなって言われて! あの子はあの子で、ずっと私の背ばかり追い越して笑うのよ! お姉ちゃんは凄いねって! 私の努力を全部踏み潰しておきながら!」
一気に捲し立てるように叫んだ紗夜は息切れをした。
暫く呼吸が落ち着くと共に、興奮も収まっていく。同時に彼女は暗い顔で意気消沈した。
「情けないでしょう? 親に言われたからだけじゃないの。こんな惨めで汚い私が貴方の傍にいてもいいかと思ったから、会うのを避けてたのよ。
純心くんに嫌われても、しかたない」
「嫌うことはない。どれだけ汚れようが、紗夜は紗夜だ。ありのままの卿が一番美しい」
醜態を見せても変わらぬ世事に、紗夜は苦笑した。
「…………まったく、自分でも酷い有様だって分かっているのに。純心くんはそんなことを言ってくれるのね」
「正直に言っているまでだ。よく一人で耐えた。えらいぞ」
「うん。ありがとう……」
紗夜は純心の肩に頭を預ける。
沈黙が続き、気づけば日が暮れた。
「もう、帰らないと」
「わかった。送ろうか?」
「いいわ。もしも貴方を見られたら、また何か言われるもの」
そう言いながら、紗夜は立ち上がり、純心を見た。
「また、相談に乗ってくれる」
「無論だ。いつでも、紗夜のために時間を作ろう」
「ありがとう。じゃあ、今夜、電話できたらするわ。できなくても、明日は必ず」
「気にする必要はない。したいときにすればいい」
「もぅ……。私が言うのもなんだけど、したいからするのよ」
すこし顔を膨らませた彼女は次の瞬間には笑い、手を振って先に帰る。
その背中を見送った後、純心は自身の携帯に手を伸ばした。
「────母上。話がある」
「遅いぞ。今まで何をしていた?」
「学校で勉強をして、帰りが遅くなりました」
帰宅一番、紗夜を出迎えたのは困った顔した両親だ。
奥の方で日菜が心配した顔で見つめているが、あえて無視する。
少しでも純心と会った余韻に浸りたかった紗夜は、彼と別れてからほんの数分物思いに耽って、心を落ち着かせ、家に帰ってきた。
それは正解だったと、謝りながら思う。
すぐに帰ってきたら、気分の落差で気が狂いそうだった。
「そうやって、純心くんと会ってたのじゃないの?」
母親が呆れてそんなことを言った。
少し前なら違うと心の中で叫んだが、今回はその通りなので言い逃れはできない。
嘘をつくかは、迷ったが。どうせ結果は同じだからと、紗夜は正直に話した。
「はい。帰りの途中で偶然会って少し。ほんの数分ですけど」
「まったく、仲が良いのは結構だけど、学生なんだからあんまり遅くなっては駄目よ。そんなことをしているから、勉強が身に入ってないんじゃないかしら?」
「はい、申し訳ありません」
盲目的に、頭を下げる。
彼女の両親は天才の日菜が基準だ。少し前まで紗夜も全てのテストで満点を取っていたことが原因だろう。
最近、紗夜が日菜と比べて成績に差が出ているのを気にしているのだ。
単なる心配か、落胆なのかは、紗夜にとってはどちらも同じなので考えない。口答えすると怒られることは分かっているので、彼女は静かに従うだけだった。
あぁ、純心くんの声が聞きたい。ずっと、音楽も聴いてないわ。
「紗夜、聞いてる?」
「はい。聞いてます」
ピンポーン。どんどん、紗夜の心が沈んだ矢先、チャイムの音が響いた。
誰だ、この時間に? と疑問に思ったのは全員だった。
「私が出るわ」
そう言って、紗夜の母親が玄関の様子を見る。
その前に、ボガン! と鍵がかかった扉が無理やり開かれた。
「失礼。門前払いを貰う前に上がらせて貰った。ああ、壊れた鍵は外にいる修理屋が直すのでご心配なく」
「あ、純心くん?」
「えええぇ、獣殿どうしたの?」
驚く紗夜に隠れていた日菜もこれには仰天だ。彼女たちの両親は、突然の来襲に言葉をうしなっている。
狼狽する氷川家面々の様子など気にせず、純心は玄関から丁寧に靴を抜いで、紗夜の傍までやってきた。
「紗夜。卿に結婚を申し込みにきた」
本当はもう少し長くここまで繋げようと思いましたが、展開ないと呆れられるみたいで、一気にストーリーを進めました。