いつも誤字脱字報告してくれる方。読者の皆様に感謝を。
アイドルバンド、『
文字通りバンド演奏とアイドルの融合した新人音楽グループ。
ボーカルはアイドル研修生であった
ギターはオーディションで選ばれた氷川日菜。
ベースは元天才子役の
ドラムはスタジオミュージシャンであった
キーボードは日本とフィンランドのハーフで帰国子女のモデル、
メンバー全員が現役女子高生の若き才能が今、ガールズバンド時代に新たな色彩を描く。
そういった触れ込みをここ最近宣伝しているデビュー前のバンドだ。
アイドルという肩書を付加されていること以外は昨今、女性バンドが多く輩出されているので、それ自体は珍しくもない。
黄金の獣である小笠原純心も長年の付き合いで後に義妹になる氷川日菜が所属していなければ、そこまで気にしなかっただろう。
大々的に宣伝されているが、メンバー全員が音楽業界では新人である。
オーディションで選ばれた日菜は当然であり、以前まで研修生だったボーカルの丸山彩も無論新顔。モデルである若宮イブは畑違い。
この中で最も知名度があろうベースの白鷺千聖は数年前までは様々なドラマにも出演していたが、最近では目立った成果を出していない。
ドラムの大和麻弥だけが唯一音楽の経歴を持っているものの、裏方であった為知名度は皆無に等しい。
純心が日菜から聞いた話ではどうやら彼女はベース担当が中々見つからなかったので、急遽起用されたそうだ。なんとも準備不足のお粗末である。
下地もない状態からのデビューであるが、宣伝の数だけは多い。広告を増やせばそれだけ人の目に留まるというもの。
大手事務所ほどではないが、多くのプロモーションは功をなし、知名度はデビュー前にしては多く稼いだ。
後は近日公開されるお披露目ライブが成功すれば華々しいデビューを飾るだろう。
「執拗に問うが。やはり卿は日菜のライブには行かぬか? その日はRoseliaの練習日ではあるまい」
「行かないわ。練習も家で自主練するわよ」
純心が恋人のために自宅の地下に作った演奏室にて、先ほどまでギターの練習をし、今は小休憩している紗夜がむっすりと応える。
純心は日菜のバンドが出演するライブのことを知ると、すぐ自分と紗夜の分のチケットを手配した。
だが、紗夜は行く気はないと断っている。
「やれやれ。最近はRoseliaの練習ばかりで久しぶりに紗夜とデートをしたいと思っていたのだが──冗談だ。そんな申し訳なさそうな顔をするな。こうやって会う時間を作ってくれているだけで、慰めになっている」
「慰めということは満足してないということでしょう?」
「無論だ。私は常に紗夜に飢えている。
だが、その渇きを楽しむのも交際の醍醐味というもの。Roselia全体として見ても、個人的にファンになっている。その音楽を邪魔する真似はしないさ」
「そう。ありがとう……」
「話を戻すが、やはり行かぬか」
「本当にくどいわね……」
一瞬、和んだ顔を紗夜は不機嫌にさせて溜息をつく。
「日菜のことゆえ、てっきり観に来て欲しいと卿を誘っていると思ってな。
自分のライブには来るなと言ってる手前、逆に自分が行くのが格好にならんのであれば、私とのデートのついでという体裁を立てれば行きやすかろう?」
もっとも、紗夜からRoseliaのライブには来るなと言われている日菜であるが、あの手この手で何度も彼女のライブに行っていたりする。
「そもそも、日菜には誘われてないわ」
「おや、そうなのか」
やや俯きながら言った紗夜の言葉を聞いて、純心は意外そうに眉を上げる。
「あの子も私と一緒で身内には見られたくないのでしょう」
「あれがそんな殊勝な性分だとは思えんが」
「…………そうね」
純心の言う通り、紗夜に構ってほしい日菜が自分の演奏を見られて嫌がるとは到底思えなく、彼女もそれを認めた。
日菜のライブが決まったこと自体急なことだった為、誘うようにも日菜の方でチケットを確保できなかったかもしれない。
「けど、どの道誘われてないのは事実。そもそもバンドをすることだって黙っていたのよ。だから行く必要もないわ」
「成程。つまり卿は拗ねているわけか」
「なっ!」
目を見開く紗夜に純心はにやりを笑った。
「此度ばかりはあれも遠慮しているやも知れぬが、気になるなら勝手に行けば良かろう。日菜も同じように卿のライブに行ってるのならば問題はあるまい」
「べ、別に日菜のことなんて気になってないわよ!」
と、叫ぶ紗夜。それが激怒ではなく照れ隠しなのは赤くした顔で明らかである。
これが純心以外の人間ならば癇癪を起していたが、心許している男の前だからこそ、この態度なのだ。
「そんなに気になるならあなただけで行けばいいじゃない!」
「そうだな。素直に来れぬ卿の分まで私が見届けることにするよ」
「す、好き勝手なことを──! はい、休憩はお終い! 今から弾くから黙って聞いてなさい!」
「くく、了解した」
懲りずに煽ってくる純心に埒が明かないと悟った紗夜は練習を再開させる。
そんな紗夜の様子を一通り楽しんだ純心は、彼女の要望通り静かに耳を傾けるのであった。
Pastel*Palettesのお披露目ライブは複数のバンドが共演する合同ライブの枠を一つもらって行われる。
収容人数一万人の会場での大規模なイベントなため、新人のデビューとしては破格の条件だった。
そのステージが一望できる上階に、あるスーツ姿の女性が歩いていた。
彼女こそはPastel*Palettesのプロデューサーであり、会場で異常がないか見回りしていた矢先、信じられない存在を目撃した。
周りに人が少ないVIP席に腰をかける黄金の髪を垂らす美丈夫。
人体の黄金比で作られたような体に、見惚れるほどの妖艶な魔性。その存在に気付いた他の来場者は目的であるライブを忘れたかのようにその男を呆然と眺めていた。
女は思った──何たる僥倖。
芸能事務所に勤めて数年。最初はモデルだったのにいつの間にか一人のスタッフとして働いて、嫌な上司や先輩の叱責を浴びつつ、周りは結婚して子供を作って自分だけ独り身。唯一の肉親である兄は隣に引っ越してきたドイツ留学生といい感じで事案かと心配と寂しさ、なんと運がないと嘆いた矢先、漸く一つのプロジェクトを任される立場になった。
今日はそのプロジェクトであるアイドルバンドのお披露目ライブ。そんな日にこのような傑物に巡り合えるとは何たる吉日であろう。
彼をスカウトできれば、自分の業績が上がることは間違いなし。どんな手を使ってでも事務所に引き入れるのだと、懐から名刺を取り出した。
金髪の美丈夫に近づく女に舌打ちや怨念が飛んでくるが、それらを無視して彼女は誰よりも輝く男に話しかける。
「すみません。ちょっと、よろしいですか?
私は
単刀直入に用件を言いますと、アイドルに興味ありませんか? 冗談抜きで貴方ならスターになると──」
「興味がない」
その上で酩酊させるような蠱惑な響きに女たちは一瞬意識を飛ばす。それを間近で聞き受けた女は立ちふらめくも、何とか踏みとどまった。
しかし、黄金の双眸に射抜かれると、小さく悲鳴を上げて涙を浮かべる。
「プロデューサーであるならば、私のような男にかまけている時間など無駄だろう。即座に自分が担当するアイドルの面倒でも見たらどうかね」
「で、ですが」
「くどい。去れと言っているのが理解できないのか?」
「ひ! 失礼しました」
黄金の美丈夫、小笠原純心は逃げるように去る女の姿に嘆息する。
自分に近づく度胸は買うが、然程優秀には見えない。
そもそも、VIP席に座る人間を勧誘するなど場違いにも程があろう。不幸中の幸い、隣で座るはずだった紗夜がいなくて良かったと安堵した。
日菜も苦労しそうだと一瞬思ったが、あれは苦労すら愉しむ性質であったと思い直した。
ライブが始まり、幾つかのバンドが演奏をした後、純心が見下ろしていたステージに五人の少女たちが現れる。
満員一万の観客を前に可愛らしい衣装に身を包んで登場した少女たち。その一人に純心は自分がよく知る日菜を見つけた。
数百メートルは離れていたが、アイドル衣装を着た日菜を見た瞬間、純心は紗夜に着せたいと素直に思った。
「みなさ─んっ! はじめまして─っ! 私達、『Pastel*Palettes』です!」
ボーカルの丸山彩が軽く自己紹介こなし、早速演奏を始める。
「─ますは一曲聞いてくださいっ! 『しゅわりん☆どり~みん』!」
曲が流れて、
愛らしい容姿に聞き心地の良い演奏。観客の反応は上々だった。
会場の空気は和気藹々と高揚している。
ただし、眼下の演奏を睥睨する黄金の男は別だった。
(口パク……。楽器の演奏ですら全てしているフリとは、茶番だな)
純心は始まってすぐ、Pastel*Palettesの演奏が彼女たちによるものではなく、音声のみで行われることに気付く。
特にベースとキーボードが酷い。流れている音とコードが全く異なっている。間近で見れば純心でなくても気づけるほどだ。ベースは女優だというが、演技すらできないとは役者の名が聞いて呆れる。
ボーカルは声を出していないものの、口の動きは合っていた。ドラムとギターは寸止めだが正確な動きをしている。むしろ普通に演奏した方が楽なくらいだろう。
誰の意向かは知らぬが、虚構の音楽を彼女たちに演じさせていた。
(なるほど。日菜が紗夜を招待しなかったわけだな)
ステージの日菜は笑っている。
けれどそれは、暇つぶしでもしているような軽い笑みだ。
純心は氷川姉妹をずっと見てきた。
紗夜の後を追う日菜。紗夜にとっては追い越される恐怖でしかなかったが、日菜にとっては姉と同じ輝きを得るための大事な儀式である。
しかし、これでは同じ輝きにはなれない。偽りの音では本物にはなれないのだ。
ライブに招待する以前に、日菜は自分からバンドデビューするとも言わなかったそうだ。偶然、紗夜が此度のライブ広告を見つけて本人に確認するまで何も言わなかった。
見せたくなかったのだろう。
今はかつてよりも真摯に音楽へ没頭する姉に、偽物の音楽など。
純心はこれを仕組んだものに別に激怒もせず、何かしらの意向があるのだろうと理解した。日菜も本当にやりたくなければこの瞬間にも放り出すだろう。
だが、それがどうした?
よく謀った。
事情など知らん。
見苦しい言い訳など愚劣。
万死とは言わぬ。
されど──文句の一つくらいは当然だ。
「興醒めだ」
呟きは地獄から這い出るような振動。圧力は音より伝播した。
刹那──、演奏が途絶える。
突然訪れた静寂に演者や観客、裏手のスタッフは突然の事態に混乱していた。
だが、これは好機と邪悪な笑みを純心は浮かべている。
自分の圧力で虚構の音楽を奏でていた音響機器に障害を与えたなどと全く思わず、彼はこの状況を愉しんでいた。
(
混乱の最中、ボーカルの丸山彩は歌おうとしていた。それに気づいた日菜とドラムも彼女に合わせようと準備している。
過半数音が合わせれば、窮地の事態を乗り越えるやもしれない。むしろトラブルの中、演奏を続けようとしたことで評価されるだろう。
だが、一向に始まらない演奏が仇となり周囲の観客たちも気づく。
歌わ、ない?
もしかして今までのって口パク?
ていうか、演奏もしてなくない?
演奏はどうした─?
「あ……あ………!」
声を出そうとした彩だったが、異常事態と周囲からの視線。
何より当人たちには気づいていない
ここで真っ先に動いたのは芸歴が長かったベースの白鷺千聖である。
彼女の行動があと少し遅れてたら、丸山彩は圧力に耐えきれず発狂して更なる混乱を招いてただろう。
「みなさん、ごめんなさい。機材のトラブルで、残念ですが演奏ができなくなってしまいました。
私たちは、今後ともライブを行っていく予定なので、もしよろしければ遊びに来てくださいね。それでは、『Pastel*Palettes』でした!」
そうやって、彼女たちはステージから去り、会場は観客たちの
「呆気ない幕引きだな」
もうここには用はないと、純心は立ち上がる。
こうして、合同ライブは音響トラブルと1フロアで多数失神者が発見されたことにより中止になり、Pastel*Palettesは嘘吐きバンドとして世に晒された。
ついで担当プロデューサーは泡を吹いて倒れた。
アニメの描写ではパスパレの初ライブは何処かのショッピングモールでしてましたが、今回はゲームに合わせて一万人のキャパでライブをしてもらいました。
アニメ3期中盤、チュチュが叩かれてましたが執筆の為、バンドストーリーを見返したらそれ以上の問題児が多い。
そんな子たちはチュチュも含めて、みんな愛されるようになりましたがね。