紗夜さんの恋人は総てを愛している。   作:貫咲賢希

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Episode ─XXⅤ【獣と文化祭①】

 熱い。息苦しい。

 視界に広がるのは紅蓮の炎。耳に届くのは肉が焼ける音と断末魔。

 

「安心しろ。死にはしない」

 

 阿鼻叫喚。燃え盛る烈火の中、悠然に佇む人間はたった一人の女だった。

 

「慣れているのでな。どの程度焼けば人が死ぬのか把握している」

 

 誰も彼も苦悶に叫ぶ中、鉄のように冷たい声が響く。

 それは、炎と共に魂へ刻まれた呪詛だった。

 

「汚物は完全消毒したいとこだが、人一人処分するのも面倒なんでな。

 ゆえにこれは慈悲だと思え、劣等共。永遠に火傷で藻掻くがいい」

 

 鉄火の魔女。

 興味半分で近づくべき相手ではなかった。

 彼女の領域に立ち入るべきではなかった。

 彼女に仇なした者は一人も残らず燃やされた。殆どが再起不能になり、ライターの火を見ただけで恐慌するほどのトラウマを植え付けられた。

 警察にかけあっても、奇怪なことに何も話が通じない。

 一つの理由としては、人間一人が何も道具を使わず、死なない程度で毎回大勢に火傷を負わせることなど、漫画の話にしかないからだ。

 事実はどうであれ、これだけは覚えておくといい。

 

 花咲川女子学園には手を出すな。

 

 もしも、手を出した人間がいるとすれば、無知蒙昧の阿呆か立ち上がり際を誤った愚か者だろう。

 

 

「受付はこちらでよいか?」

「!? は、はい! チケットの確認を!」

 

 突然現れた黄金の髪の美丈夫に受付の花咲川学生は分りやすく興奮した。

 今日は花咲川女子学園の文化祭。

 二日に渡って開催され、初日は学内のみ。次の日は学内の人間も招き、本日はその二日目だ。

 外部からの来客者は予め生徒が家族や知り合いに配ったチケット、もしくは校門一歩手前で教師が厳選な審査の下譲渡しているチケットが必要である。

 前もって恋人である氷川紗夜から参加チケットを貰っていた小笠原(おがさはら)純心(あつみ)は連絡先を交換しようしてきた女子生徒たちの誘いをやんわりと断って、受付を済ませる。

 彼女の文化祭に彼氏が来る理由などあってないようなものだが、中学の頃は紗夜に余裕もなかったので純心は遠慮をしていた。

 今回は近頃紗夜の精神は比較的に安定していたので、あまり来てほしそうではなかったが、純心の強い要望でしぶしぶチケットを彼に渡したのである。

 早速、純心は出し物をしている紗夜のクラスへ向かおうとした。

 

「あの!?  そこのお兄さん、日本語分かります? よかったらタコ焼き食べません? ただでいいですよ! その後、私と遊びに─」

「はい邪魔ー。かっこいいお兄さんねぇねぇ、一緒に回らない?」

「Would you like to have sex where nobody is there?」

「今からイベントするんで是非見てください!」

 

 だが彼は興奮した女性たちに取り囲まれていた!

 花咲川学生や他校の生徒。明らかに学生の親である一般参加者。中には女教師と選り取り見取りである。

 彼女たちは皆飢えていた。イケメンに。花咲川学生の生徒たちは同性ばかりの学校生活を望んだとしても、それとは別に出会いも求めていた。

 そこに突如現れた金髪金眼長身、眉目秀麗で妖艶な伊達男。女性ホルモンという刃を抜かねば不作法であろう。

 こういうことは慣れている純心は上手く躱していくが、まるで無尽蔵のように次から別の女性が彼の下へ続々と訪れる始末。

 普通の男ならば困ったものだと狼狽するところだが、歩みを止めず純心は進み続けた。

 ゆえに、人の集まりはより悪化し、巨大なうねりが生まれたのである。

 

「ちょっと!? なに、こんなに大勢で固まってるんですか!? 散りなさい! いうことを聞かないと退去してもらいますよ!」

 

 そこで事態に気付いてやってきた『風紀』の二文字が刻まれた赤い腕章の生徒、風紀委員たちが人を散開させようとする。

 彼女たちは複数人でことにあたり、余程訓練されているのか迅速な対応ですぐに人だかりは消失した。

 すると金髪碧眼の風紀委員が渦中の中心たる純心を見つけると、今にも反吐を吐きそうな嫌な顔を浮かべた。

 

「何やっているんですか、あなた?」

「キルヒアイゼン嬢か。お勤めご苦労」

「え? そのかっこいい人、キルヒアイゼンの知り合い?」

 

 顔見知りのような純心とドイツからの留学生で風紀委員のベアトリス・ブリュンヒルト・フォン・キルヒアイゼンのやり取りに、他の風紀委員たちが反応する。

 

「もしかして、ご家族?」

「私の血族にこのような人いません」

「なら、恋人!?」

「こんな派手な人趣味じゃないです。イケメンでも素朴なほうが好みなんですよ。

 紗夜の。紗夜の恋人ですよ、この人は」

「え!? 氷川さんの!? 実在したんだ……」

「紹介に上がった、卿等の同僚である氷川紗夜と交際している小笠原純心だ。私の紗夜が世話になっている」

「やだ、マジイケメン」

「敬愛する委員長閣下で耐性がなければ、私たちも有象無象に加わってたわ」

「はい、おしゃべりはここまで」

 

 和気藹々としてきた風紀委員たちを止めるため、ベアトリスが大きく手を叩いた。

 

「私はこの人を人目を避けながら紗夜のところまで誘導しますので、あなた達は予定のルートで見回りしてください。後で合流します」

「わかった。そのままサボらないでよ」

「サボりませんよ」

 

 そんなやり取りをして風紀委員はベアトリスを残して、その場を離れた。

 

「ついてきてください。一応確認ですが、紗夜のクラスへ行く途中だったのでしょう?」

「無論だ。だが、案内されなくとも道は知っている」

「何言ってるんですか。あなた一人残したらまた人だかりが増えるでしょう。今日は男に飢えた女たちが多いのですし、あの状態でクラスに行ったら紗夜に迷惑かけますよ」

「ふむ、一理あるな。では、案内してもらおうか」

「はいはい、行きますよ。途中で先輩に見つからないといいんですけどねー」

 

 最後の言葉は小さくつぶやくように、ベアトリスは純心をまず人目がない場所へ誘導した。

 純心とベアトリスは知り合い程度の間柄だ。紗夜に会いに来た純心が来たところ、偶然ベアトリスも居合わせていたのが始まりである。

 こうやって二人っきりになることも今回が初めてだ。

 だが、ベアトリスは純心のことを、本人でも分からないが魂の底から『いけ好かない男』と思っているので、少し態度が雑だった。

 それでも、友人の恋人であり、他にも面倒な事情があるので、最低限の交流は仕方なしにする所存である。

 ベアトリスの案内で比較的に人通りが少ない場所を通り、二人は目的の場所へ向かった。

 誰かが純心を見ても、ベアトリスとしては不本意ではあるが、男女二人でいれば勝手にそういう関係だと思ってくれるので、先ほどのように声がかかることはなくなった。

 そうして、少し遠回りながらも、ベアトリスは紗夜のクラス、そして自分のクラスまで何事もなく純心を案内した。

 ちなみに彼女たちの出し物は『大正喫茶』。

 隣同士二つクラス合同の出し物で、片方の教室を着替えや調理のスタッフルーム。もう片方を接客する店内として利用している。

 

「あれ? キルヒアイゼンさん、委員会の仕事じゃなかったけ?」

 

 大正時代の袴を着て受付をしていた大人しそうな女生徒がベアトリスに呼び掛けた。

 

「ちょっと、野暮用で。松原さん紗夜──氷川さんは厨房ですか?」

「うん。そうだよ」

「まったく、せっかく見てくれ良いのに引きこもって。悪いですけど私は彼女を呼んでくるので、この人を店に案内してください」

「? うん、いいよ。えっと、一名様ご案内です」

 

 少し不思議そうにしていたが、松原と呼ばれた女性とは承諾し、特別純心に過剰反応することはなく、彼を店内に招いた。

 内装はいかにも和風テイストであり、団子や抹茶を提供しているようだ。

 純心が店内に入ると、他の客や接客していた生徒たちはどよめき、それに松原が多少驚きつつも彼女は空いていた席に彼を案内する。

 

「では、ここでお待ちください。ご注文は今なさいますか?」

「勿論だとも。表で宣伝していた茶と団子のセットを頼む」

「はい、わかりました」

 

 松原は丁寧にお辞儀した後、別の人間に注文を伝え、本来の持ち場である受付へ戻っていた。かなり手慣れた接客だったので、彼女はきっと接客業のバイト経験があるのだと純心は感心する。

 純心が少し待っていると、受付とは反対の入り口から、袴を穿いた紗夜が、ややベアトリスに背中を押され気味で、純心が注文した品をお盆に載せてやって来た。

 

「美しいぞ、紗夜」

「開口一番にそれ?」

 

 見慣れぬ袴姿に純心が褒め称えると、紗夜は真っ赤にして不満そうな声を出すが、まんざらでもなさそうである。

 

「甘っ! はい、ごちそうさま~。私はこれで失礼しますので、後はよろしくやっちゃって下さい」

 

 無事、二人を引き合わせたのを見届けたベアトリスは自分の持ち場へ戻ることにした。

 

「ご苦労。後日、謝礼を渡そう」

「キルヒアイゼンさん、ありがとうございます」

 

 掌を振って去るベアトリスを見送ると、純心は紗夜に微笑みかける。

 

「さて、どれほどこの店に貢献すれば紗夜を一日中指名できるのだ?」

「この店はそんな店じゃないわ。そもそも、統率の為(とキルヒアイゼンさんに言いくるめられて)みんな袴を穿いているけど、私は裏方よ」

「そうか。それなら他の男が紗夜の雅な姿を眺めていると嫉妬する心配もないな」

「あなたは嫉妬よりも自慢してるじゃない。……、そろそろ戻るわ」

「おや、つれないな」

「皆さんのご好意であなたと話しているけど、私はそもそも仕事中なのよ?

 だいたい、来るのが早いわ。クラスの出し物の後は委員会の仕事で一緒に回れるのは夕方頃だって伝えたはずよ」

「無論、覚えてるとも。だが、紗夜の働きぶりも見たくてな」

「もう、仕方ない人」

 

 団子より甘い空間に微笑ましそうな顔や、甘ったるそうな顔。美男美女に片方を嫉妬する顔。紗夜の知らない一面を知った彼女クラスメイトたちは意外そうな顔と様々だった。

 そんな空気が次の瞬間、一変する。

 

「ふえぇ! こ、困ります!」

 

 受付で悲鳴が聞こえた。

 見ると純心を店内に案内していた松原が二人の異性に絡まれていた。

 

「いいじゃん、仕事終わってからでいいからさ」

「終わったら友達と回る約束してるんです! だから無理です!」

「おっと、意外と強気。でも、その友達も一緒でいいからさ!」

「あなた達、いい加減にしなさい! 人を呼ぶわよ!」

 

 まだ、引き下がらない男に対し別の女生徒から叱責が飛んできた。

 しかし、その人物はナンパ男たちを更に興奮させる。

 

「お前は、白鷺千聖じゃん!?」

「ワンフォウ! 有名人じゃん!」

「だから、なんだと言うの? 早く花音から離れなさい」

「ええ、俺ちゃんファンなのにそんな態度していいのかな? SNSで炎上しちゃうよ? 最近入ったのアイドルバンドのようにさ」

「されたくなかったら、千聖ちゃんも~お茶しよう」

「っ、最低ね」

「──」

 

 最早、見過ごせぬと紗夜が動く。

 あういう輩が入ってこれないように注意をしていたが、学生の保護者でも不貞の輩はいるし、検問を掻い潜って虫は侵入するものだ。

 心地よかった心は一瞬で冷め切り、目障りな●●共を駆逐する為、紗夜は入口に向かう。

 

「待て」

 

 だが、その紗夜を純心が止める。

 

「! なぜ止め──」

「てめぇら、なに人のだちにつば付けてんだ、ぶち殺すぞ!」

 

 彼女の言葉は猛烈な怒声にかき消された。

 そこには松原たちに絡んでいた不良よりヤバそうな男たちがいた。

 

「ケイくん! ルイくん!」

 

 だが、松原の安心しきった声を聴くと、どうやら知り合いのようである。

 

「お前たち。我が姉とその友人に良からぬことをしてみろ。深淵の闇に落とすぞ」

「なに小難しいこと言ってんだよ。ぶち殺せばいいんだよ。ぶち殺せば」

 

 何故か首を痛めてるのか横顔スタイルで気怠そうな男に最初に叫んだ白髪のチンピラ。

 二人はかなり威圧的であり、暴力的存在感。松原たちを絡んでいた男たちはすっかり畏縮していた。

 一触即発の殺伐とした空気。今にも白髪の男が男たちに殴り掛かりそうだったので、彼らの登場に一瞬動きが止まった紗夜が再起動しようする。

 だが、その前にまたも別の人物が現れた。

 

「もう駄目ですよ、刑士郎。類も。喧嘩をしたら花音姉さんや周りに迷惑ですよ」

 

 その少女はどこまでも眩しかった。

 剣呑な二人の男が闇ならば、彼女は光である。どこまでも清浄で慈悲深い笑みを浮かべながら二人の男を宥める。

 彼女の言葉に毒気を抜かれたのか、威圧的な空気が薄れていった。

 

「お前はこんな時でもなに、寝ぼけたこと抜かしているんだ」

「ふん。お前にはクラウディアの大らかさが相変わらず理解できんようだな」

「あん? なんだよ、類? お前なめてんのか?」

「浅はかな男だ。勉学はできても素行の悪さは相変わらずだな」

「殺す」

「待って! ケイくんとルイくんが喧嘩したら駄目だよ!」

 

 睨み出す二人に割って出る松原。

 そこに、何やら気まずそうな白鷺千聖が声をかけてきた。

 

「……その、お取込み中悪いけど、さっきの二人逃げたわよ」

『!?』

「どうやら、争う必要はなかったようです。アーメン」

 

 愕然とする男二人に、クラウディアと呼ばれた少女は祈るように手を重ねる。

 

「と、とにかく、何もなくて良かったね。ケイくん、ルイくん、ありがとう」

 

 微妙な空気が漂う中、しどろもどろであるも松原が二人に礼を言った。

 すると、白髪の男がつまらなそうな顔を浮かべ、大男は誇らしげに微笑む。

 

「別に何もしてねぇよ」

「礼はいらない、姉さんを助けるのは当然だ」

「えへへ。あっ、千聖ちゃん、紹介するね。白い髪の男の子が一つ下の幼馴染の真河月(まがつき)刑士郎(けいしろう)くん。大きい男の子が私の弟のルイくんだよ」

「どうも…………」

「松原(るい)です。いつも姉がお世話になってます(また奴の方が先に紹介されている)」

「そう……弟に幼馴染」

「こっちのクラウディアちゃんも一つ下の幼馴染だよ」

「クラウディア・イェルザレムです。どうぞ、お見知りおきを」

「ええ、よろしく」

 

 クラウディアの微笑みに対し、千聖も微笑みで返す。

 

「あと、もう一人──あれ? 咲耶(さくや)ちゃんは?」

「ここです、花音姉さま」

 

 と、松原の脇からひょこりと小柄で可憐な少女が現れた。

 少女の登場に刑士郎と紹介された男は機嫌が悪そうに顔を歪める。

 

「おい、咲耶。どこに行っていた、一人だとあぶねぇだろうが」

「花摘み。野暮ですよ、兄さま」

「お、おう」

 

 咲耶と呼ばれた少女はしたたかに躱し、千聖に笑いかけた。

 

「ご紹介にあずかりました真河月咲耶です。花音姉さまより二つ下の幼馴染で、そちらにいる真河月刑士郎の『義理の』妹です」

「ご丁寧にどうも。よろしくね」

「あと少しで私たちの時間も終わるから、一緒に回ろう」

 

 そこまで一部始終を見ていた紗夜はほっと安心したように息をついた。

 

「途中から呆気にとられたけど、もう大丈夫そうね」

「ご苦労だな」

 

 彼女を労う純心に紗夜は不思議そうに首を傾げた。

 

「何もしてないわよ?」

「発端の輩が逃亡した途端、携帯で連絡を取っていたではないか。相手は大方、キルヒアイゼン嬢辺りか」

「目ざといわね。まぁ、そうよ。あの二人はキルヒアイゼンさんが捕獲したわ。

 妙なことがあったけど、問題ないようだし今度こそ私は戻るわね。純心くんはどうするの?」

「頼んだ品を堪能したら適当に時間を潰す。ここに居座っても迷惑だろう。安心しろ、目立った行動はしない」

 

 あと少し時間が過ぎたら、紗夜は紀委員の仕事に入る。

 そこで先刻のようにその気がなくとも人を集めれば、彼女に迷惑がかかるのは自明の理だ。

 彼の行動で他人に迷惑が掛かっても、『我が道ゆえに是非もなし。運が悪かったな』と切り捨てるが、恋人に迷惑が掛かるならば流石の彼も自重するのだった。

 

 Roseliaのキーボード、白金燐子もこのクラスに在籍してるのを聞いていたので、純心も挨拶くらいはするつもりだったが、見かけないなら次の機会に持ち越しである。

 

「そうしてくれると助かるわ。終わったら、一緒に回りましょうね」

 




実はKKK、ソフト買ったのにすぐVita壊れたから、調べた情報しか知らんのだ。
Switchで出ないかなー。
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