サンパウロ市内の病院に筋骨隆々な男と長身の男がいた。
彼の名はカルロス・ナカサワ
日系ブラジル人であり、つい2ヶ月前までは日系ブラジル人として初のボクシングのヘビー級世界王者であったがとある理由により引退をした。格闘家、格闘技ファンの間では知らぬ者がいないとまで言われていた大スター選手であった。
カルロスは長身の男に少しだけ待ってもらい、一人の少女が眠っている病室に足を運んだ。
ベッドの傍にイスをずらし座ると、カルロスは寝ている少女の頭を大きな手で優しく撫でる。
「ジュリア…」
小さく少女の名を呟く。
この少女はカルロスの妹であり、3ヶ月前に謎の病に倒れ入院しており、倒れたその日からまだ一度も目を覚ましていない。
金なら余るほど稼いだ
名誉もこれまでもかって位得た
だが、代償にジュリアを独りにしてしまった…
寂しい思いをさせてしまった。
もう…独りにしない、目を覚ますまで傍にいる
だから、ボクシングをやめた。
遅いかもしれないけど、自己満足かもしれない、だが俺にできる事はこれしかない…そう決めた、そう決めたのに…
「報告があるんだ、さっきなスカウトが来たんだ。国連航空宇宙局って所の職員から火星に行かないかって、ジュリアの病気が治るワクチンのサンプルを採りに行く人を探しているらしくてな…だからまた独りにしてしまうかもしれない…もう独りにしないと決めたのにな、嘘つきなお兄ちゃんでごめんな…けれど、もう少しだけ待っててくれ、ジュリア」
そう言いながら、彼女の片手を両手で強く握った。
病室を出ると、出口の傍にスカウトを持ちかけてきた職員の男が立っていた。
「もういいのですか?」
「はい、もう大丈夫です…!」
カルロスが力強く言うと長身の男は頷き、封筒を渡した。
「では、明日からカルロスさんの妹さんをU-NASAに移します。それに合わせてカルロスさんもご一緒に来てもらいます」
数日後、俺はU-NASA内でとある手術を受けた。
火星環境で生身での長時間任務を可能とするためと、とある生物から対抗するための手術だ。
だが、成功生存率は36%と低く、術中死もありえるこの手術を乗り切る事が第一。
見事手術に成功、目が覚めた頃には病室のベッドの上だった。その時にこれで火星に行けるという実感が湧いてきた。
ベッドから起き上がり、立ち上がろうとするもうまく力が入らず転びそうになったが、何とか踏ん張り持ちこたえる事ができた。
とりあえず、リハビリがてらに病棟の中を軽く歩こう…と思い、扉から部屋を出て、ゆっくりと歩き始めた。
それから数ヶ月後、火星での計画、そこにいる生物で人間大のゴキブリを見せらたり、他の乗組員らに紛れて、走り込みや筋トレをしていた。現役の頃の身体に戻す為に、現役時と同じ…いや、現役の時より過酷なトレーニングをこなしていた。それにより、身体はより大きく、力は強くなり、スピードも速く、フルパワーで長時間打てる持久力も身についた。
明らかに現役の頃より強くなっていた。
今日も、トレーニングとして走り込みをしていた。今は、局内のトレーニング施設で5キロのダンベルを持ちシャドーをしていると、後ろから男の声がかかった。
「もしかして、カルロス・ナカサワ?」
その声の主は、鬼塚慶次。ボクシング元ライト級王者だった。
声の主に驚きつつも言葉を返す。
「まさか、こんな所で会えるとはね…鬼塚さん」
「いやいや、俺こそまさかだよ。あの闘神とまで呼ばれた君と会えるなんて光栄だよ」
手を差し出し、互いに握手を交わすと近くのイスまで移動し腰を掛け、これまでどのようにしてボクシングの道を辿ったか、どうしてここにいるのかを話し合った。歳も同じなのかすぐに打ち解け、既に旧知の友人のようになっていた。
「そうか…お前も大変なんだな」
「それはお互い様だよ…成功させたいな、慶次」
「そうだな…じゃあ俺は走り込みに行くよ、トレーニング中に邪魔して悪かったな、カルロス」
「じゃあまたな」
そのまま慶次を見送った後、トレーニングを再開した。
トレーニングを終え、シャワーを浴びて帰る途中に飲み物を買おうと自販機に向かった所にまたもや声が掛かった、今度は聞き慣れた声でだ。
「カルロス」
「あ、アドルフ班長どうしたんですか?」
襟長の服を着て口元を隠した長身の男、アドルフ・ラインハルト。
U-NASAドイツ支局所属であり、俺が属している班の班長である。
結構無愛想で、周りに冷たい態度を振舞っているから勘違いされがちだが、実はかなり優しい人。
なのでいつも俺と出会うと、自販機で飲み物を買ってくれる。
「いつもありがとうございます!」
ポイッといつも買っている飲み物を買い、俺に投げ渡す。
そして必ず
「調子はどうだ?」
こう聞いてくる。
「好調です!」
「…そうか、あまり無理をするなよ」
こう言い残して、去って行く。
周りからはどう思われているかは知らないが、俺らの班員は彼を慕っている。
貰った飲み物を開け、一口飲むと飲み物を誰かに奪われた。といっても犯人は分かってる。
「また俺のを奪うなよ、イザベラ!」
イザベラと呼ばれた褐色肌の女性は奪った飲み物を飲み終えると、そのまま投げ渡した。
「いいじゃん、一口だけなんだから」
笑いながら横に並び歩く、これもほぼいつもの光景だ。
イザベラとは出身国が同じだからか此方に来てから、グイグイと話しかけて来るものなので案外早く打ち解けられた。まあ、打ち解け過ぎたというのもあるのか、俺が怒らないからかもしれないが、ほぼ毎日絡んでくる。
「はぁ…しょうがないな」
「大人はそうでなくちゃね」
「んで、もう終わったのか?」
「終わったよ、ちょいっとハードだったけど」
何気ない会話をしながら歩く、こんな事があとどれだけ出来るか分からない。
ただ、ボクシングでの初めての試合の時に負けたらどうしようとネガティブな事ばかり考えていた時に父親に言われた言葉を思い出した。
『今を楽しみ、今を考えろ、そして今をがんばれ!そうすればなんとかなるさ!』
初めての試合は勝つことが出来た。
その言葉のお陰で、全ての試合に勝つ事が出来た。
全てがうまくいった気がした。
その言葉を信じよう、そうすればジェシカも…。
あぁ…早くジェシカと会話をしたいな。
初めての投稿なんですが、文章って難しいですね!
スラスラと書けてる人マジパナイっす…
誤字脱字があったら宜しくお願いします。