東方変違原   作:左三文

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登場人物一覧
レリーブル/本の妖精
ブレスベイビーズ/植物の妖精
フラワーバルーン/植物の妖精
ミラーダスティ/植物の妖精



東方怨樹森
第一話 前兆


 裏の森。幻想郷の端の端、妖怪の山と博麗大結界の間にひっそりと存在している割りと広いその森は、自然は豊かだが、逆に言えばそれだけが特徴の、何の変哲も無い森である。妖怪の山の裏にあるから人間が来る事は皆無に等しく、人間が来ないから妖怪もあまりいない。その変わりに大勢の妖精が居を構える森。裏の森と言う名も、どこぞの妖精が名付けて妖精の間で根付いただけであり、本来なら名も無き森。

 そんな森にある大きいだけの木が一本。その木に住まう妖精が、椅子に腰掛け顎に手を当て、何だか一人考え込んでいた。  

(今日は珍しい事があった)

 髪型は長い黒と白のツートンカラー、服装は修道服の様な服装で、靴は左右で黒い靴と白い靴を履いており、背中からは黒い液体が四つ浮かんでいる。

 彼女の名前はレリーブル。本の妖精。

 妖精の中でも一際好奇心が強く、一度気になる事があると自分が納得するまで調べ尽くすという一風変わった妖精。

 レリーブルは、椅子の背凭れに体を預けると、家の中を見渡す。外装と違い家の中は設備が充実しており、玄関、机、本棚、箪笥、小物入れ、台所、二階には寝室、豪勢ではないが充実満足な内装をしている。

 レリーブルは本棚で目を止めると椅子から立ち上がり、本棚に近付いてから一冊の本を手に持った。

 そしてペラペラとページを捲る。

(こんな辺境の地にあの妖怪が来るなんて)

 とあるページで捲るのを止めると、その本の内容に目を通す。

 幻想郷縁起、その本の九冊目。九代目阿礼乙女、稗田阿求が幻想郷の様々な事を纏め資料とした一冊。その六十二から六十三。

 凶兆の黒猫、橙。その妖怪について様々な情報が書かれている。

(ふむ、人里で拾った本だが、様々な情報が載っていて便利だな。ふむふむ、化け猫は水と乾燥したマタタビに弱いと……乾燥したマタタビか)

 レリーブルは一通り内容に目を通すと、再び本棚に幻想郷縁起をしまい、机に移動する。

 椅子に座り、軽く体を伸ばすと、両手を前に出して自らの能力を発動する。

 レリーブルの能力は、本を生み出す程度の能力。レリーブルは一日の終わりに、その一日の出来事を記録する事を日課として定めている。つまりレリーブルは必ず日記を書いてから就寝する変わった妖精なのだ。

 机の上に出現した真っ白な本を開くと、レリーブルはペンを握る。そして目を閉じ、今日の昼に見た光景を思い浮かべながらペンを走らせた。

 今日起きた出来事、疑問、それについて明日どう行動するかの予定、それらを書き記すと本を閉じ、一息吐いてから就寝の準備に取りかかる。とはいえ、既に寝る準備は整っているレリーブル。自分の寝室まで移動し、ベッドにダイブする。

「さて、明日橙に会う事が出来るだろうか」

 レリーブルはそう呟くと、もぞもぞとベッドの中に入っていった。

 

少女就寝中……。

 

 場所は変わらず裏の森、裏の森の中で妖怪の山に近いレリーブルの自宅から大分離れた場所。博麗大結界寄りの森の中で、こんこんと、凡そ森で鳴るには不自然な音が鳴り続けていた。その音は寸分違わず同じペースで、寸分違わず同じボリュームで鳴り続ける。

 夜中も夜中、午前二時。草木も眠る丑三つ時に、ただ延々と鳴り続ける。

 そんな近所迷惑な音の出所を、三人の妖精が探していた。

 茶色のロングヘアーに、茶色の服装。服装は長袖のワンピース。しかもミニスカートタイプ。靴も茶色で、背中からは木の枝の様な羽が生えている。

 彼女の名前はブレスベイビーズ。三人の中でリーダーを務める植物の妖精。

 黄緑色のショートヘアーに、黄緑色の服装。半袖のワンピースに靴も黄緑色。背中からは複数の蔓が、蝶の羽の様に生えている。

 彼女名前はフラワーバルーン。最初に同じ言葉を二回繰り返して言う、変わった口調の妖精。

 緑色のセミロングヘアー、緑色の服装。服装には拘っていないのか、無地の緑色のワンピースに緑色の靴。背中からは葉っぱの羽が四つ生えている。

 彼女の名前はミラーダスティ。常に眠たそうな妖精。三度の飯と昼寝好き。

「まったく! うるさいったらありゃしない!」

「本当よ本当! 静かにしてほしいわ!」

「……眠い~」

 ブレスとフラワーは怒りを込めて叫び。ミラーは目を擦りながら呟き。三人は音の出所に向かってずんずんと進む。

 進んで進んで進んで進み。

 音の出所を見失った。

 見失ったと言っても、その音が鳴り止んだ訳ではない。寧ろその音は大きく聴こえてくる。

 三人がいる場所の、全方向から聴こえてくる。

「何よこれ、何処で音がしているのか分からないじゃない!」

「大勢よ大勢! 音の出所は一つじゃないんだわ!」

 三人は困惑しながら周辺を見回す。

 月の光を遮る森の中は暗く、森の奥を目で視認する事は出来ない。しかし彼女達には、視認出来なくとも確認する事が出来る。

 ブレスは一歩前に出るとポーズを決める。  

「ミラー偵察よ!」

「出番よ出番! 偵察何てミラーの十八番よ!」

「……皆寝てるから~無理~」

 ミラーは、目を擦りながら返答をする。

 彼女の能力は、植物と同じものを見る程度の能力。つまり植物視点で景色を見る事が出来る能力。

 犬走椛の千里眼と相通ずる能力ではあるが、この能力には一つの欠点があった。

 草木の眠る夜には効果が出ない、したがってミラーは、眠いと言いながらに首をこくりこくりと動かす事しか出来ない。

「もー! 仕方ないわね! なら今度はフラワーの番よ!」

「……頑張れ~」

「無理よ無理! 何も聴こえないわ!」

 フラワーはそう言いながら首を横に振る。

 彼女の能力もまた、ミラーと同じ欠点があった。フラワーの能力は、植物の声を聴く程度の能力。

 草木の眠る夜には、植物の声など聴こえない。

「……最後はブレスの番……」

「最後よ最後! どうにかしなさいよね!」

「うぇ! 私何て植物を元気にする事しか出来ないわよ! それでどうやって音の出所を調べるのよ!?」

「……う~ん、気合い……?」

「気合いよ気合い! 多分何とかなるわ!」

「気合いで何とかなる訳ないじゃない!」

 ブレスはそう叫ぶと腕をぶんぶんと振るった。そんなブレスの能力は、植物を元気にする程度の能力。能力を発動したとしても、精々周辺に生えている草木を、起こす事しか出来ないだろう。

 と、そこで、ブレスは作戦を閃いた。

「そうよ! 皆の力を合わせれば良いのよ!」

「……どういうこと?」

「疑問よ疑問! どういう事か教えなさいよ!」

 ブレスの言葉に、ミラーは首を傾げ、フラワーはブレスに詰め寄る。そんな二人を見て、ブレスは自慢気に胸を張ると、二人に閃いた作戦を伝え始めた。

 ブレスの作戦は至って単純。ブレスが能力を使い周辺の植物を起こして、フラワーがその植物の声を聴いて音の出所を特定し、ミラーが植物を通じて元凶を視認する。

「それじゃあ早速能力を使うわね! フラワー! ミラー! 何が鳴ってるのか調べるわよ!」

「了解よ了解!」

「……お~」

 二人が返事をした後に、ブレスが能力を使い、周辺の草木を起こす。

「悪いけどあんた達! 起きて頂戴!」

 ブレスが両手を地面に置くと、周辺の草木が薄く光、みるみる成長していく。

 これこそが彼女の能力、植物を元気にする程度の能力。

「特定よ特定! 何処から音がするか正確に教えなさい!」

 そしてその元気になった植物の声を聴き、音の出所を特定するフラワー。

 両耳に手を添え、周辺の声に耳を傾ける。そうして数分後、フラワーはある方向に指を差し、自信満々に口を開く。

「彼処よ彼処! 彼処の奥が怪しいそうよ!」

「……分かった……」

 フラワーの言葉に返事を返すミラー。そのまま目を見開き、フラワーの指差す方向を視る。

「どうなのミラー? 何が見える?」

「報告よ報告!」

「……う~んとね……神社が見える……」

 二人は神社?と、首を傾げる。

「うん神社……」

「こんな所に神社なんてあったかしら?」

「曖昧よ曖昧! でもどっちかと言うと無かった気がするわ!」

「でも神社がある……」

 ミラーは欠伸をした後、二人に向き直り神社に向かうかどうかを聞く。それに対して勿論行くと二人は答えた。

 複数の音が鳴り響く森の中、彼女達は当たりを引いた。既に起こっている異変の元凶を、彼女達は特定したのだ。

 その異変の始まりの地。博麗大結界の近くに位置する小さな廃神社。そのボロボロの鳥居を抜けた先には、朽ちかけている本殿が夜の暗闇のなか不気味に存在していた。

 まったく手入れのされていないその神社からは、こんこんと音が鳴り続け、より嫌な雰囲気を醸し出している。

 そんな人間ならば踵を返すであろうその不気味な場所に、三人は躊躇せずに足を踏み入れた。

「ふーん、ボロボロの神社ね。これなら博麗神社の方がましね」

 ブレスはそう言うと、音の出所を探す。

 音は確実に境内の中で鳴り続けており、どうやら本殿の裏の方から音が聴こえてくる。

「眠~」

「確かに眠いわね」

 三人は欠伸をしながら本殿の裏を覗き込むこむ。すると、

『__、__、__』

 と、小声で呟く女が一人。

 注連縄が巻き付いた、朽ちた御神木の前で、延々と何かを振り下ろしている。

「何してんのかしらあれ?」

「不明よ不明、もうちょっと近付いてみましょう」

 三人は、背を向ける女にじりじりと近付くと、何をしているのか確認する。

『っ……!』

 確認して絶句した。

『怨めしい、怨めしい、怨めしい、怨めしい』

 女は呪詛を呟きながら、釘で地面に磔にされた、最早大量の釘で原型すら分からない何かに、延々と金槌を振り下ろしていた。

(こいつやばい!)

(危険よ危険! 逃げないとやばいわ!)

(眠気が飛んだ)

 三人は危険だと判断すると、後ろに下がろうと足を動かす。しかし、

『…………』

 三人が足を動かす前に、女の動きが止まった。そしてそのまま微動だにしない。

 三人は息を飲むと、女を観察する。

 白いくて長い髪は、女がしゃがみ込んでいるせいで地面に広がり、その髪が邪魔で服装すら確認出来ない。ただ頭に二本、蝋燭が巻き付けてある。

『あっ……』

 と、三人が見詰めていると、女はゆっくりと立ち上がり、三人の方を振り返った。そこでようやく、三人は女の全容を把握する。

 足まで届く程長い白髪、白装束に赤い下駄。右手に金槌と、左手には大きな釘を持ち、それがより女を不気味にさせている。しかし、より特徴的なのがその顔だ。

 顔というより、仮面だった。

 般若の仮面。それを三つ、顔に、そして顔の両側につけていた。そのどれもがボロボロで、顔につけている仮面に至っては、左目の部分が無くなっており、そこだけ女の左目が露になっている。

 その目は黒く濁り、怨みに満ち溢れていた。

「……鬼?」

 ブレスがそう表現した様に、女の頭から二本、まるで角の様に木の枝が伸びている。

 女は沈黙し、ただ三人を見詰める。

 三人は逃げる為、一歩後退りした瞬間。

 女はフラワーの目の前にいた。

『……怨めしい、怨めしい、怨めしい』

「えっ?」

 女はフラワーの喉に釘を刺すと、そのままフラワーを地面に打ち付け、金槌を振り下ろし始める。

 こんこん、こんこん、こんこん。

 フラワーは苦悶の表情でブレスに手を伸ばすも、ブレスは腰が抜けて動けない。

 その間も、女は喉に刺さった釘に向けて、金槌を振り下ろす。

 こんこん、こんこん、こんこん。

 やがてフラワーは白眼を剥くと動かなくなった。フラワーが動かなくなったにも関わらず、女は金槌を振り下ろし続ける。

 こんこん、こんこん、こんこん、こんこん、こんこん、こんこん、こんこん、こんこん、こんこん、こんこん、こんこん、こんこん、こんこん、こんこん、こんこん、こんこん、こんこん、こんこん、こんこん、こんこん。

 女の異常性、狂気、執念。それを見せられた二人は、恐怖のあまり逃げ出した。しかし、ブレスは、腰が抜けて立つ事が出来ない。

「待って! ミラー! 待って!!」

 ブレスの叫びに一度立ち止まるミラー。だが、振り返ったミラーが見たのは、ブレスの後ろに立つ女だった。

 それを見てミラーは、逃げた。一目散に、一直線に、無意識の内に逃げ出した。

 後ろからブレスの呼ぶ声が聴こえてくるも、もうミラーは止まる事等出来なかった。

 逃げ続けるミラーの耳に、あの音が鳴り続ける。

 こんこん、こんこん、こんこん、こんこん、こんこん、こんこん、こんこん、こんこん、こんこん、こんこん、こんこん。

「やめて……」

 こんこん、こんこん、こんこん、こんこん、こんこん、こんこん、こんこん、こんこん、こんこん、こんこん、こんこん。

「いや、やめて!」

 いくらミラーが叫んでも、音は鳴りやまない。

 こんこん、こんこん、こんこん、こんこん、こんこん、こんこん、こんこん、こんこん、こんこん、こんこん、こんこん、こんこん、こんこん、こんこん、こんこん、こんこん、こんこん、こんこん、こんこん、こんこん、こんこん、こんこん、こんこん、こんこん、こんこん、こんこん、こんこん、こんこん、。

 そのまま半狂乱になったミラーは、ようやく、家を見つけた。

 慌てて中に入り、扉を閉めると、扉に凭れ掛かる様に座り込む。

「はぁ……はぁ……」

 もう外から音はしなくなっていた。しかしミラーの耳には、あの音が染み付いて離れない。

 こんこん、こんこん、こんこん、こんこん。

「大丈夫、妖精は死なない……」

 耳を塞ぎながら、まるで言い聞かせる様に呟くミラー。

 こんこん、こんこん、こんこん、こんこん。

 そうしてガタガタ震えるミラーは、一つの事実に気が付く。

 おかしい、フラワーは死んだのに消えてなかったと、そう気付いて顔が真っ青になった。

 妖精は死なない。死ぬほどのダメージを受けた妖精は姿を消し、時間をかけて復活する。しかしフラワーの姿は、死ぬほどのダメージを受けても消えなかった。

(それはつまり……)

 死なない妖精が、死んだと言うことに他ならない。

「ひっ!」

 突如、どんどんどんと、扉を力強く叩かれる。

「開けてミラー!」

「ブレス、無事だったの!?」

 ブレスの声を聴いて、ミラーは立ち上がると扉の取っ手に手をかける。

「開けてミラー!」

「今開ける!」

 しかし、手が震えて、うまく扉を開ける事が出来ない。 

「開けてミラー!」

「ちょっと待って!」

「開けてミラー!」

「手が震えて、うまく……」

「開けてミラー!」

「! 開いた!」

 ミラーが扉を開けて外を見ると、そこにブレスは立っていた。

「開けてミラー!」

 頭に釘を刺して白眼を剥いたブレスが、金槌と大きな釘を持って、ミラーの前に立っていた。

「開けてミラー!」

 




レリーブル
種族:妖精
能力:本を生み出す程度の能力
二つ名:永遠の本棚
※文字通り本を生み出す、それだけ。
ブレスベイビーズ
種族:妖精
能力:植物を元気にする程度の能力
二つ名:活発な植物の力
※植物を元気にし、ある程度成長を促す事も出来る。
フラワーバルーン
種族:妖精
能力:植物の声を聴く程度の能力
二つ名:さざめく植物の耳
※植物の声を聴く能力。ただし夜には効果が出ない。
ミラーダスティ
種族:妖精
能力:植物と同じものを視る程度の能力
二つ名:見通す植物の目
※植物の視点から景色をみる能力。ただし夜には効果が出ない。
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