東方変違原   作:左三文

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登場人物一覧
橙/化け猫
レリーブル/付喪神
リブラン/花の妖精
アネモネ/風の妖精
レンズロー/水の妖精
サーフィスウォーター/水の妖精
リップルアクア/水の妖精
フルードヴァッサー/水の妖精


第十話 急変

 本当に馴れ初めだった。紛うことなき惚気話だった。

 凡そ数十分に渡って、橙はリブランとの馴れ初めを聞かされた。というか途中から興味が失せて話を中断しようとしたが、させてもらえなかった。

 一度聞いたら最後まで聞くべきだ、と、レリーブルの言葉。

 その後リブランの優しさとか、楽しい思い出話とか、その他諸々なんちゃらかんちゃらを聞かせてくれた。

 ありがた迷惑である。

(好奇心が、まさか化け猫にも襲いかかるとは) 

 橙はぐったりと机に頭をつけると、腕を枕にして俯せになる。

 本当はベッドで寝たかったが、もう歩く気力がなかった。

 寝たかった。

 とてつもなく寝たかった。

 だが寝れなかった。

 寝ようとした瞬間、誰かが扉を叩いたからだ。

 どんどんと、誰かが扉を叩く。それに対して、橙は机から動かない。

 そんな橙を尻目に、何故か元気一杯のレリーブルが応対した。

「誰かな? 残念だけどミラー達は家にいないよ?」

 返答はない、相手はただ扉を叩き続ける。

 それに対し、レリーブルは首を傾げる。

「? 待ってね、今開ける」

 その瞬間、橙はぞわりと毛を逆立たせた。

 何か言い様の無い気配が、扉の向こうから漂っている気がする。そう、橙は直感した。

「待っー」

 橙の制止の声を聞く前に、レリーブルは扉を開けてしまった。

「えっ?」

 目の前にミラーが立っていた。

 呆気に取られるレリーブル。

 それは目の前に立っているミラーの姿が、血塗れだったから、ではない。

 レリーブルのお腹に、大きな釘が貫通していたからだ。

「な、何が、起こっ」

 困惑しているレリーブルに、ミラーは容赦無く追撃する。

 新しい釘を手に持つと、今度はそれを、レリーブルの喉に突き刺した。

「__っ!」

 と、そこで漸く橙が動き出す。

「仙符! 鳳凰卵!」

 橙は鳥の卵をミラーに当てる。当たった卵は弾幕を生み、ミラーを遠くへと吹き飛ばした。

 その隙に橙は扉を閉め、机を持ち上げると、扉を抑える様に置いた。

「……レリーブル」

 橙はレリーブルを見詰める。

 お腹と喉、その二ヶ所に釘が刺さったレリーブルは、血溜まりの中で倒れていた。

 倒れたまま、ぴくりともしない。

「……ああ、くそ!」

 橙は吐き捨てる様に言うと、急いでレリーブルから釘を抜いた。

 レリーブルは付喪神である、人間なら即死の怪我でも、レリーブルならば死ぬ事は無い。

 無い筈なのだが。

(おかしい、傷が再生しているのに、妖力がどんどん無くなっていく!)

 血は既に止まっているにも関わらず、レリーブルは苦しそうに呻く。

(これは一体……あの釘に何かが?)

 いや、考えるのは後だと、橙は急いで二階に上がった。

「起きろ! 早く起きないと死ぬよ!」

 橙は大声で言う。しかし魘されるだけで誰も起きない。

「こいつら!」

 その様子に憤慨した橙は、レリーブルを床に置くとベッドの足に手をかける。

 そして力の限りひっくり返した。

 そのベッドで寝ていたフルードとリップルは、地面に落ちて無様な声を漏らす。

 さらにその二人の上にベッドが覆い被さり、悲鳴を上げた。

「……うぅ、何ようるさいわね……」

「起きろ!」

 煩わしく言った後、再び眠りにつこうとしていたサーフィスに、橙は平手打ちを食らわす。

 平手打ちを食らったサーフィスは、へぶっ!と声を出すと、ベッドから飛び起きた。

「ちょっ、あんたねぇ!」

「怒ってる場合じゃないわよ!」

 そう言って橙は、瀕死状態のレリーブルを見せた。

「レリーブル! ちょっと何があったのよ!」

「説明は後! 早く全員起こして逃げるわよ!」

「っ! 分かったわよ!」

 そう言って皆を起こしにかかるサーフィスを尻目に、橙は窓を開ける。

 そしてレリーブルを背負うと、開けた窓から外に飛び出した。

 その橙の後に続いて、続々と妖精達が窓から飛び出す。

(なっ、こんなにも沢山!)

 地面を見下ろすと、沢山の人影が見える。夜故に暗くて見えにくいが、十中八九、先程の妖精と同じ、血塗れの妖精達が地面に並んでいるのだろう。

 そう予想した橙は、正しかった。

 その予想は正しく的中した。

 しかしどうしようもなかった。

 的中した所でもうどうしようもなかった。

 その地面に並んだ妖精達は、夥しい量の釘を、橙達に向かって投げつけたのだ。

 まるで弾幕の様に。

 しかしその弾幕は、弾幕ごっこの様に優しく無ければ、美しさの欠片もない。

 例えるならば壁だ。

 釘で出来た壁が、橙達に迫ってきていた。

「あっー」

 橙は声を出す暇もなく、その壁の中に埋もれていった……事は無かった。

「なっ、何が」

 起こって、と、橙が言う前に、目の前の光景に呆然とする。

 全身に釘が刺さったリブランが、橙の目の前に立っていたからだ。

 それはつまり、リブランが橙を、そして橙に背負われているレリーブルを庇った事に他ならない。

 そして同時に、夥しい量の釘が、リブランの体を貫いたという事でもあった。

 あまりにも凄惨な光景。

 先程までトランプで遊んでいたリブランの姿が、橙の脳裏に過る。

 それは目の前の光景とはあまりにも対称的だった。

 橙が動けないぐらいに。

「あんた、何して」

 戸惑う橙に、リブランはにっこりと笑う。

「レリーブルを、お願い」

 全身釘だらけ、口の端から血を流し、例え妖精と言えど、ただではすまないだろう。

 死なない筈の妖精が、死ぬという矛盾。

 その矛盾を成立させる釘が、リブランの全身に刺さっているのだから。

 リブランは笑ったまま、地面に落ちていった。

 あの血塗れの妖精達がいる地面に。

「…………」

 橙は無言のまま、逃走を開始した。

 橙にはまだやるべき事がある。このおぞましき異変を、解決するという使命が。

(だからあの妖精を見捨てるのは仕方がない事)

 助けた所で助からない。

 橙はそう判断すると、スペルカードを発動する。

「鬼神、飛翔韋駄天」

 身体能力を飛躍的に上昇させるその技で、橙は韋駄天の如くその場を離れた。

 

少女逃走中……。

 

 先程の場所から遠く離れたアネモネの自宅。その家の中で三人が椅子に座り、机を囲っている。

 レリーブルだけが、二階にあるアネモネのベッドで横たわっている。

 レリーブルの意識は、まだ戻らない。

 結果的に、生き残ったのは四人だけだった。

 橙と、橙に背負われていたレリーブル、後の二人は、アネモネとレンズだけだった。

 他四人は、ここにはいない。恐らくあの釘を避けきれずに刺さり、そのまま落下したのだろう。

 リブランと同じ様に。

「……っ」

 橙は唇を噛み締める。

 そんな橙を見て、アネモネはため息を吐いた。

「……これからどうするのかしら、橙。正直に言うと、あなたが頼りなの」

「……正直、私一人じゃどうすることも出来ない」

 俯いた橙が言う。

「私、協力するよ」

 いつもと違い、真剣な声でレンズが言った。

「私も協力致します。最早この異変は無視する事が出来ない異変ですわ」

 そう、この異変は、最早橙の手に負える異変ではない。

 あれほど沢山の妖精を、殺し、使役する存在。

 それほどの事をしでかす存在に、化け猫である橙が敵う筈もない。

 例えレンズとアネモネを加えたとしても、妖精達に殺られて終わりだろう。

 異変の首謀者すら、まだ分かっていないのに。

 何故、と、橙は思う。

(何故紫様や藍様は、私にこの異変を任せたのだろうか? あれほどの妖精が、仮に人里を攻めたとしたら、幻想郷は、いや、そもそもあの妖精達は森の外に出る事がー)

 と、そこで、橙の脳裏に嫌な考えが過る。

 この森から出る事が出来ないのは、紫様の力なのでは?と、考えしまった。

(もしそうだとしたら、私は、私達は……)

 見捨てられたのだろうか、と、そう考えた瞬間、橙は首を横に振った。

 あくまで予想だと、橙はその考えを切り捨てた。

 今重要なのは、異変を解決する事。

 橙はそう結論付けると、口を開いた。

「この森で強い妖怪や妖精はいる?」

 アネモネは首を振る。

「いないわね」

「……いないね」

 アネモネの言葉に、レンズも同意する。

「……打つ手無しか」

 橙の言葉にアネモネはため息を吐いた。

「後もうやることと言えば、生き残っている妖精達を集めて、戦うしかないわね」

「……気乗りしないけれど、それしか無いわね」

 アネモネは俯く。

(未だに信じられないわ、あの光景が)

 血塗れの妖精、焦点の合わない目に、白目を剥いた妖精まで、ただ全員に共通する事は。

(あの大きな釘、あれが皆をおかしくしているのかしら?)

 もしあの釘を抜く事が出来れば、そうアネモネは考え、そして首を振った。

(無理ですわね。釘は複数刺さっていました。あれらを抜く時間を与えてくれるとは到底思えませんわ)

 それに確証がありませんし、アネモネはため息を吐いた。

(……最近ため息が多いですわね)

 アネモネは天井を見上げる。

 天井のその先、未だ目を覚まさないレリーブルを思うと、アネモネは苦笑する。

(やはりあなたの暇潰しは、面倒事に変わるみたいですわ)

 アネモネは橙とレンズを見回すと、明日どう行動するかについて話し合いを始めた。

 夜はまだ長い。





種族:化け猫
能力:妖術を扱う程度の能力
二つ名:凶兆の黒猫
レリーブル
種族:付喪神
能力:本を生み出す程度の能力
二つ名:永遠の本棚
リブラン
種族:妖精
能力:汚れを落とす程度能力
二つ名:汚れ無き花妖精
アネモネ
種族:妖精
能力:風を送る程度の能力
二つ名:ささやかな微風
フルードヴァッサー
種族:妖精
能力:水を集める程度の能力
二つ名:浮遊する集水
サーフィスウォーター
種族:妖精
能力:姿を被せる程度の能力
二つ名:水面に映る虚像
リップルアクア
種族:妖精
能力:相手との距離を知る程度の能力
二つ名:緩やかに広がる波紋
レンズロー
種族:妖精
能力:透ける程度の能力
二つ名:自由奔放な水妖精
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