八雲紫/隙間妖怪
八雲藍/九尾の狐
レリーブル/本の妖精
リブラン/花の妖精
妖精の中で、最も強い存在は誰かと問われたら、レリーブルはチルノと答えるだろう。彼女の強さは妖精の中でも群を抜いている。では、妖精の中で最も好奇心旺盛な存在は誰かと問われたら、レリーブルは自分だと答えるだろう。彼女の好奇心は留まる事を知らない。一度気になる事があれば、自分が納得するまで探求する。それがレリーブルという妖精である。
そんな彼女だからこそ、一日の終わりに必ずその日の記録を書き記し、次の日の朝にその記録を確認するという日課を定めている。
「……くぅわぁぁ……」
レリーブルの朝は早い。
起きて欠伸と同時に体を伸ばし、少しばかりぼーとしてから顔を洗いに行く。顔を洗い終えたら、同居妖精であるリブランを起こしに行く。
「リブラン、もう朝だよ。 起きて」
「う~ん、後五分ー」
リブランの寝惚けた声を無視して、レリーブルは声をかけ続ける。リブランの後五分は、永遠に続くからだ。
一度レリーブルは好奇心でリブランの言う通りにしたら、一日を無駄にした事がある。もちろんその日の記録もちゃんと書き記しており、同居妖精対処法というタイトルのその本を本棚に大事に保管してある。
「リブラン、起きろー」
「五分だけー、五分だけ寝させてー」
ここまでしたら仕方ないと、レリーブルはいつも通りの起こし方をする。
「よっと」
「うやぁ?」
まずリブランを抱え、その後窓から放り投げる。
「うぎゃあ!?」
そうする事により、リブランは無様な声とともに起きるのである。もちろんレリーブルはこの事も、記録に書き記している。
同居妖精対処法第三条、リブランは起こす時窓から放り投げるべし。
「うー、もっと優しく起こしてくださいよー」
(どの口が言う、優しく起こそうとしたら永遠に起きないくせに)
そうレリーブルは思いながら、窓からリブランを見下ろす。
彼女の白い髪は土で汚れ、白いワンピースも汚れている。もしも朝っぱらから服が汚れたら、少なくともレリーブルは気分が最悪になる。
朝から面倒が増えるのは、誰にだって憂鬱だろう。
「今から御飯を用意するから、服の汚れを落としてから家に入ってね」
「はーい、分かりましたー!」
だがリブランは、髪が汚れようと服が汚れようと気にしない。汚れを気にするのは、その後にある洗濯という面倒があるからだ。しかしリブランは面倒だと思わない。何故なら、服が汚れようと髪が汚れようと、彼女は洗濯しなくても大丈夫だからだ。
「ほおぉい」
珍妙な掛け声とともに、リブランに着いた汚れは見るからに無くなっていく。これこそが彼女の能力。
汚れを落とす程度の能力。
彼女は汚れなき花の妖精なのだ。
「ふんふふーん」
鼻歌混じりに羽を軽く羽ばたかせると、リブランは放り投げられた窓から家に入っていった。
少女食事中……。
レリーブルが違和感を感じた日の数日前。
何処にあるのか分からない。八雲の屋敷。その居間で、二人の大妖怪が居座っていた。
片やお茶を飲みながら。
片や主人の後に控えながら。
八雲紫はお茶を飲み、その後ふっと思い出したかの様に口を開いた。
「ねえ、藍」
「はい、何でしょう紫様」
「この前博麗大結界を超えて何かが入ってきたでしょう?」
「はい、確かに先日、何者かが幻想郷に侵入してきました」
藍のその言葉を聞いて、紫は薄く笑う。何がおかしいのか、紫は笑いながら言う。
「ふふっ、藍。 侵入だなんて相手に失礼だわ」
「すみません、何か不適切な言葉でしたか?」
藍の困惑をよそに紫はお茶を飲む。ゆっくりとお茶を味わうと、紫はこう言った。
「幻想郷は全てを受け入れるのよ? それならば幻想郷の侵入者ではなく、幻想郷のお客様ではなくって?」
「そうですね、失礼しました紫様。 先程私がした発言、訂正致します」
「最も、幻想郷が受け入れても、幻想郷に住まう者が受け入れるとは限らない」
そう言うと紫は藍の方に振り返り、にこりと笑った。
「これから異変が起こるわ」
「はい」
事も無げに異変が起こると、紫はそう言った。しかし藍は動じない。主人である紫の言葉は藍にとって絶対であり、紫の言葉で動じるという事は、紫の言葉を疑う事と同義だ。故に藍は動じない。
「それもスペルカードを使う事のない異変、例えるなら吸血鬼異変の様な異変ね」
「吸血鬼異変の様な……ですか」
「そう、吸血鬼異変」
吸血鬼異変、外から幻想郷を侵略しようと吸血鬼達が暴れ回り、幻想郷に甚大な被害を出した異変。
当時の妖怪は存在意義を失い、弱体化していたが故に被害を出したが、スペルカードルールの設立により、現在の妖怪達はかつての力を取り戻している。
「御命令とあらば、私が対処致します」
「いいえ、貴女も私も、異変解決に直接動く事は無いわ」
「と言いますと?」
「貴女の可愛い式神、橙に動いてもらうわ」
「分かりました、橙にそう命じてきます」
藍はそう言うと、隙間を開きその中に入っていった。
藍の隙間が閉じ、一人きりになった部屋の中、紫は元の体勢に戻るとお茶を飲み干す。
「……吸血鬼異変、でもあの異変とは規模が違う。 あまりにも小さい」
とは言え、何もしない訳にもいかない。紫はそう呟くと、天井を仰ぎ見る。
「被害は最小限にしなくちゃね」
少女準備中……。
「何故だ」
「うーん、こりゃ駄目ですね」
食事を終え、昨日記録を確認したレリーブルは、早速昨日の違和感の元凶、橙に会う為に妖怪の山に向かったが、何故か森から出る事が出来ない。妖怪の山がある場所に向かって飛んでも、一向に着く気配が無い。寧ろ遠ざかっている気がする程に。
「ていうかそもそも、妖怪の山にその橙って妖怪はいるんですかー?」
「私は八雲紫及び八雲藍、そして橙について知っていた。 私が知っているという事は、過去に何らかの関わりがあったということだ」
「えー、大妖怪二人に妖怪一人と関わりー、妖精のレリーがー?」
そう言うとリブランは疑いの眼差しをレリーブルに向ける。
「たかが妖精である私やレリーが、大妖怪に関われる訳無いじゃないですかー」
けたけたと笑うリブランを横目に、レリーブルは懐から一冊の本を出し、それをリブランに手渡す。
「……何ですかこれ?」
「幻想郷縁起、九冊目」
「……はあ? 幻想郷縁起?」
「それが何らかの関わりというやつだよ。 急いでいたから記録をざっくりとしか確認しなかったが、どうやら大分前に人里で拾ったらしい」
レリーブルはリブランの手から幻想郷縁起を取ると、ぺらぺらと本を捲る。
「幻想郷縁起、六十二から六十三」
レリーブルは開いたページをリブランに見えるように掲げる。
「え~と、文字が多くて面倒ですね」
「『凶兆の黒猫、橙。 能力、妖術を扱う程度の能力。 危険度、中。 人間友好度、普通。 主な活動場所、獣道、妖怪の山』」
「ふむふむ、はっ! 妖怪の山に行けば橙に会えますよ!」
「行けないから困ってるんだろう?」
「あー」
そんなやり取りをするも、事態は何も好転しない。
橙の登場、森から出られない異常事態。そこまで考えて、レリーブルは気が付いた。
「つまりこれは……」
「つまりこれは?」
「……異変だ」
八雲紫
能力:境界を操る程度の能力
二つ名:境界の妖怪
八雲藍
能力:式神を使う程度の能力
二つ名:策士の九尾
レリーブル
能力:本を生み出す程度の能力
二つ名:永遠の本棚
リブラン
能力:汚れを落とす程度の能力
二つ名:汚れ無き花妖精