橙/化け猫
レリーブル/???
リブラン/花の妖精
アネモネ/風の妖精
レンズロー/水の妖精
サーフィスウォーター/水の妖精
リップルアクア/水の妖精
フルードヴァッサー/水の妖精
降り注ぐ雨、容赦無い風、黒い道に溜まる水溜まり。
どれだけ時間が過ぎようとも、あの日の景色は忘れる事は無い。
あの日、私は救われたのだから。
▲△▲△▲△
「おー! 扉が開けっ放しだぞー!」
ミラー達が住む家に、真っ先にやって来たリップルは、無用心にも開けられた扉に近付く。
そして家の中を見て、誰もいない事を視認する。
「おーい! ブレス! フラワー! ミラー! いないのかー!?」
そう言いながら家の中に入って行くリップル。家の中は散乱していた。
机が壁際に凭れかかり、本は散らばり、皿が一つ割れていた。
それを見てリップルは首を傾げるも、まあ良いかと、部屋を掃除しだす。
机は部屋の真ん中に、本は本棚に、割れた皿は、皿は……。
(うーん、危ないから部屋の隅に寄せとくかー!)
そうして、散乱していた部屋は、散乱していない部屋に変わった。
「ミラーはいるか!?」
「おー! ミラーはいないぞー!」
部屋の片付けが終わると同時に、リップルを追いかけていたフルード達が続々と家の中に入る。
最後に入ったレリーブルが扉を閉めると、全員が家の中に揃う。
橙は三つある椅子の内一つに座り、残りの椅子はアネモネ、サーフィスが座った。
残りの五人が机を囲む様に立つと、レリーブルが口を開いた。
「さて、後はミラー達が帰ってくるのを待つだけだけれど」
「私はもう帰ってよろしいかしら?」
「駄目~」
どこまでも帰りたいアネモネに、レンズは気怠げに首を横に振る。そんなレンズに、アネモネは不機嫌に声を漏らすと、不満気に顔を横に向けて黙り込んだ。
「それで? どうすんだよレリーブル」
「実はこういう物を持って来ていてね」
どうするのかと聞いてくるフルードに、レリーブルは懐からある物を取り出す。
「神経衰弱でもして遊ぼう」
トランプを取り出したレリーブルは、にこりと笑った。
少女遊戯中……。
(結局、ミラー達は帰ってこなかった)
あれから皆で遊び尽くした。
神経衰弱、ポーカー、七並べ、大富豪、ブラックジャックなど、トランプで遊べる遊びをやり尽くし、気が付くと辺りは既に暗くなっていた。
取り敢えずレリーブル達は、今晩ミラー達の家に泊まる事に決め、三つあるベッドを取り合った後、レリーブル以外は就寝した。
三つあるベッドは現在、レリーブル以外の七人が、仲良くぎゅうぎゅう詰めに眠っている。
レリーブルは机の上に本を広げると、今日の出来事を記録する。
何故か森から出ることが出来ない事、橙が森に来た理由、そして、ミラー達の行方が分からない事。
本に記録を書き記すと、レリーブルは本を閉じ、んーと体を伸ばすと、軽く息を吐いた。
「ちょっといいかい?」
肩を解すレリーブルの後ろから、橙が声をかける。それに対しレリーブルは大丈夫だと言うと、椅子ごと橙に向き直った。
「これはただの好奇心なんだけど」
橙は壁に背を預けながら言葉を続ける。
「何であんた、トランプを持ってるんだ?」
「うん? 私がトランプを持つのがおかしいかい?」
「おかしいね」
断言する様に、はっきりと橙は言った。
「そのトランプ、どこで拾った?」
「どこで、ね」
うーん、と、レリーブルは目を閉じて考え込む。
「覚えてないな」
「それはどこで拾ったのか覚えて無いって事?」
「そうだね、まあでも、たまに人里に行くこともあるから、その時にでも拾ったと思うよ」
「それはない」
橙は断言する。
「人里にある娯楽に、花札はあれどトランプは売ってないよ」
「……」
「もう一度聞く、幻想郷でまだ流通していないトランプを、どうやって手に入れた」
橙がトランプを見たのは、八雲の屋敷で見た一度きり、その他の場所でトランプを見た事は無い。そもそも、トランプ等の舶来品は、幻想郷において、紅魔館か八雲の屋敷ぐらいにしか存在しない。
だからこそ橙は、目の前にいる妖精が、どうやってトランプを手にする事が出来たのか聞くのだ。
(いや、そもそもこいつは……)
出会った時から気になっていた事を、橙は口にする。
「あんた、やっぱり妖精じゃないね」
「……」
レリーブルは沈黙したまま、俯く。
「そもそも本の妖精だなんて」
おかしいじゃないか。そう、橙は口にした。
妖精、自然から発生する存在。
その存在が、本という人工物から発生する筈がない。
「あんたは、そう……」
本の付喪神だね。その橙の言葉に、レリーブルはにやりと口を歪ませる。
「そう、その通りだよ。私は幻想入りしてきた本の付喪神、そしてこのトランプは、私のお手製だよ」
「……」
「おや、不服そうな顔だ」
「あんた、なんで妖精の真似事をしているの?」
「……好奇心は猫を殺すよ」
レリーブルの言葉に、橙は鼻を鳴らす。
「好奇心で死ぬ猫はいても、好奇心で死ぬ化け猫はいないよ」
橙の言葉を聞いて、レリーブルはため息を溢すと、そうだね、と呟いた。
「まあ、好奇心で聞いた私に、橙は目的を教えてくれたし、私も話すのは吝かではない。ただ……」
「ただ?」
レリーブルは懐から一つの本を取り出す。その本はふやけ、所々が破けている。しかし、そのわりには新品同様に綺麗で、汚れは一切見当たらない。
そんな本を橙に見せ付けると、レリーブルは口を開いた。
「私の話は長いよ」
少女説明中……。
外の世界では、物に対する扱いが悪い。幻想郷とは比べものにならない程に。
昔あった勿体ない精神が、段々と薄れていったのか。
とにかく、私は捨てられた。勉強嫌いの子供が癇癪を起こしてね。私は使われる前に捨てられたのさ。
ほら、この本は私の本体だが、その子の名前すら書いてない。
新品同様のまま、私は道端に捨てられた。
そこからは地獄だったよ。
降り注ぐ雨、容赦無い風、そして暑い太陽の光。
私の体は、ふやけ、破れ、傷み、最早ただのごみに成り下がっていた。
確かその頃かな? 私が付喪神になったのは。とはいえ、誰も私には気付かなかったけどね。
私に出来る事は、道にある自分の体を見続けるだけだった。
そんなある日、その日は台風だった。
私の体は風で飛ばされると、浅い水溜まりに落ちたんだ。
もうぼろぼろの自分の体を見て、私は泣いてしまった。
ただただ泣いて、泣いて、泣いて。
気が付いたら、私は幻想郷に来ていたんだ。
最初は驚いたよ。気が付くと森の中しかも目の前に妖精がいたんだもの。でも、それ以上に驚いたのが、その妖精……リブランが、私の体、つまりぼろぼろの本を、綺麗にしてくれたんだ。
信じられる? ふやけ、破れて、汚れて、最早誰も見向きもしない、そんな本を綺麗にしてくれたんだ。
私は今でも忘れない、忘れる事が出来ない。
あの日、私はリブランの手で救われた。
リブランは私に本を渡すと、微笑み、私に泣き止む様に言ってくれた。
その日から、私とリブランは一緒に暮らす事になったんだ。
その日から、私の本に、リブランとの思い出を綴る様になったんだ。
いいかい? 橙。
ここからは私とリブランの馴れ初めについて語ろう。
私がリブランを敬愛し、妖精に憧れるまでの馴れ初めをね。
橙
種族:化け猫
能力:妖術を扱う程度の能力
二つ名:凶兆の黒猫
レリーブル
種族:付喪神
能力:本を生み出す程度の能力
二つ名:永遠の本棚
リブラン
種族:妖精
能力:汚れを落とす程度能力
二つ名:汚れ無き花妖精
アネモネ
種族:妖精
能力:風を送る程度の能力
二つ名:ささやかな微風
フルードヴァッサー
種族:妖精
能力:水を集める程度の能力
二つ名:浮遊する集水
サーフィスウォーター
種族:妖精
能力:姿を被せる程度の能力
二つ名:水面に映る虚像
リップルアクア
種族:妖精
能力:相手との距離を知る程度の能力
二つ名:緩やかに広がる波紋
レンズロー
種族:妖精
能力:透ける程度の能力
二つ名:自由奔放な水妖精