因幡てゐ/妖怪兎
デュラム/岩の妖精
ウェントゥス/音の妖精
テネグロ/お茶っ葉妖精
(相容れない存在というのは必ずいる)
ウェントゥスは思う。
(例えばテネグロ、私はあいつが苦手だ)
他人の嫌がる事を平然とし、しかも本人は無自覚の時もあるから質が悪い。
(そしてもう一人、因幡てゐ。こいつもこいつで、私とは相容れない)
一人を好むウェントゥスと、兎達のリーダーを務めるてゐ。その時点で、二人は違っている。
違っているのだが、何故かてゐはウェントゥスに、度々ちょっかいを出してくる。
(テネグロとてゐ、何故あいつらは)
私をほっといてはくれないのだろう。ウェントゥスは歩きながらそう思う。
ウェントゥスが一人を好むのには理由があった。
(……ああ、やっぱり思い出せない)
理由があったが、その理由を思い出す事が出来ない。思い出す事が出来ないまま、妖怪の山に向かって歩いて行く。
妖怪の山に向かう理由は一つ、岩の妖精デュラムに、ちょっとした、いや、ちょっとしたどころじゃない頼み事があるのだ。
「おいウェントゥス、ちょっと待ちな」
と、迷いの竹林を出る辺りで、ウェントゥスは呼び止められる。
振り返ると、そこにはてゐが仁王立ちしていた。それを見てウェントゥスは顔を歪める。
猛烈に嫌な予感がするからだ。
「んだよてゐ、悪いけど用事が……」
「テネグロを探すのを手伝え」
ウェントゥスの言葉を遮って、てゐは言う。その言葉を聞いて、ウェントゥスは逃げ出した。
「待ってやウェントゥス!」
「誰が、テネグロ何か探すかボケ!」
「んだと! あんたもあいつにむかついてるんだろ!」
「確かにむかつくが、あいつに時間をかける方がもっとむかつくはアホ!」
「相変わらず口が悪いねぇ! 絶対逃がさんからな!」
「お前は気が短いんじゃクソ兎がぁ!」
てゐは目を光らせ、ウェントゥスは顔を強ばらせる。
二人の、もう何回目になるかも分からない。
追いかけっこin迷いの竹林の始まりである。
少女逃走中……。
追いかけっこはあけっなく終わった。ウェントゥスは迷いの竹林から出る事無く、てゐに捕まったのだ。
妖精と妖怪兎。しかも相手は老練の兎、因幡てゐ。
妖精と妖怪兎では地力が違った。そもそもここはまだ迷いの竹林。そして迷いの竹林はてゐにとっての庭も当然。
ウェントゥスが逃げ切るには、そもそも場所が悪かった。
(まさかあんな所に罠があるとは……)
現在、てゐに捕まったウェントゥスは、紐でぐるぐる巻きにされて、迷いの竹林の中を引き摺られていた。
「あんたはテネグロを誘き寄せる餌になってもらう」
と、てゐの言葉。
餌って何だよ。そうウェントゥスは思った。
「あのさ、私を餌にしようがどうしようが、テネグロが来るわけ無いだろ?」
「いやいや、あんたを竹林の真ん中に吊っとけば、テネグロは必ず近付いて来る筈さ」
「来るわけねぇ! 絶対に来ねぇから諦めろ! チェンジだチェンジ! 作戦チェンジ!」
「はぁ? 諦めるわけ無いだろ? クソ兎が考えた作戦は続行だよ」
その言葉を聞いて、ウェントゥスは顔をしかめる。
「悪かった! 謝る! クソ兎って言った事を謝るから! 逆さ吊りだけはやめろ!」
「じゃあ、変わりの案を考えとくれ」
ウェントゥスの必死の叫びが届いたのか、てゐはそう言うと、ウェントゥスの紐を解いた。
その瞬間、ウェントゥスは急いで紐から抜け出すと、ぶつくさ文句を言いながら作戦を考える。考えて、直ぐ様思い付いた。
思い付いたというよりも、思い返したが正しい。
「……仕方ない」
物凄く嫌な作戦だったが、ウェントゥスはその作戦をてゐに伝える。
結局その作戦でも、ウェントゥスが囮をやらざるを得なかった。
少女準備中……。
「ふぁんふぁんふぁーれ、ふんふんふん」
珍妙な歌を歌いながら、テネグロは歩いていた。
「おっ? にひゃ!」
丁度竹林の真ん中らへん、その場所にウェントゥスが立ち尽くしていた。
テネグロに背を向ける様に。
「ひゃひゃひゃ、二回目の開戦の合図だね!」
テネグロは竹に跳び移ると、力一杯、竹を撓らせる。
「高さよし! 距離よし! 威力よし!」
テネグロは限界まで竹を撓らせると、一直線に跳んだ。
(次も私の勝ちかな? ひゃひゃ、ウェントゥスは警戒心が薄い!)
等と思いながら、ウェントゥスの背中に着地しようとして。
着地しようとして。
大幅に横にずれていた。
「ありゃ?」
そのまま違う竹に着地するテネグロ。その瞬間を狙って、てゐのドロップキックが炸裂する。
「ぐへぇぇぇ!」
てゐに蹴られ、無様な悲鳴をあげながら、テネグロは竹林の奥に姿を消した。
「テネグロォ、何で蹴られたか分かるかい?」
てゐは、ゆらりと体を揺らすとテネグロを見下す。そんなてゐにテネグロはにっこりと笑うと、こう言った。
「ちんぷんかんぷん☆」
「ぶっ殺す!」
勃発したてゐとテネグロの喧嘩に巻き込まれない様、そそくさとその場からウェントゥスは離れた。
戦略的撤退。
苦手なテネグロに、相容れないてゐ。
そんな二人の喧嘩に等巻き込まれたくない。
ウェントゥスはそう考えながら妖怪の山に向かって避難を開始する。
少女避難中……。
「ふひひひ、それで急いで避難したってか!」
ウェントゥスの話を聞いて、岩の妖精デュラムは大笑いする。
橙色の髪は短くボサボサ、服装は橙色のタンクトップにズボンを履いている。首元には石のアクセサリーを身に付けており、石で出来た靴と、背中からは八つの細長い岩が浮かんでいる。
そんな妖精が、妖怪の山の中腹で大笑いしていた。
妖怪の山の川原、その場にある岩の上で、二人は話をする。
「相っ変わらずテネグロは面白いな!」
「面白くねぇよ」
「聞く分には面白い!」
そう言うとデュラムはふひひと爆笑する。
ウェントゥスは呆れた様にため息を吐いた。
「とはいえ、だ。お前が私に会いに来るなんて、珍しいじゃないかウェントゥス」
「……まあ、デュラムに頼みたい事があってよ」
「これはますます珍しい! 頼み事とは! で、何をして欲しい?」
突然の頼み事でも嫌がらないデュラムに、相変わらずなのはお前もだ。とウェントゥスは苦笑する。
面白い事はまず断らない。珍しい事はまず断らない。常に楽しい事を探し続ける妖精。それこそがデュラムという妖精である。
「断らないんだな」
「ふひひ、友の頼みだ! 断る訳がない!」
「……ありがと」
一人を好むウェントゥスだが、友達がいない訳じゃない。このデュラムという妖精も、ウェントゥスの友達であり、理解者でもある。
ウェントゥスが離れ様と、デュラムは追いかけない。何故ならデュラムは、ウェントゥスが一人を好む理由を、否、一人になりたい原因を知っているからこそ、デュラムはウェントゥスの嫌がる事をしない。
「……」
「? どうした、デュラム」
「いや、何でもない」
「?」
礼を言われたのは久しぶりだな。デュラムはそう思った。
昔は四人、ずっと一緒だったのに。
「……それで、頼みとは何だ! 出来る事なら手伝おう!」
「ああ、それで頼み何だが、一緒に塔を作って欲しい」
「塔?」
「そう、塔を作って欲しいんだ」
真剣な表情で、ウェントゥスは言う。
その顔を見て、デュラムもまた、真剣な顔になる。
「どんな塔だ?」
「迷いの竹林の竹と、妖怪の山の石を使った七階建ての塔だ」
「……ふむ、大分時間はかかるぞ?」
「分かってる」
ウェントゥスは頷くと、座っていた岩から飛び降りた。
そんなウェントゥスに、塔の名前は?とデュラムは聞く。
「塔の名前は、そうだな」
ウェントゥスは空を見上げ、少し考え込んだ後に口を開いた。
「絶縁塔にしよう」
因幡てゐ
種族:妖怪兎
能力:人間を幸運にする程度の能力
二つ名:幸運の素兎
デュラム
種族:妖精
能力:固める程度の能力
二つ名:豪快な岩の妖精
ウェントゥス
種族:妖精
能力:音を自在に変える程度の能力
二つ名:冴え渡る音妖精
テネグロ
種族:妖精
能力:美味しいお茶を作る程度の能力
二つ名:悪戯好きなお茶っ葉妖精