東方変違原   作:左三文

9 / 10
紅美鈴/妖怪
十六夜咲夜/人間
チルノ/氷の妖精
レリーブル/本の付喪神
リブラン/花の妖精
フルードヴァッサー/水の妖精
サーフィスウォーター/水の妖精
リップルアクア/水の妖精
レンズロー/水の妖精


第九話 過去

 人間は、それに見向きもしないだろう。

 妖怪は、それに気付きもしないだろう。

 それはふやけて、破れて、傷んでしまった本。

 けれど汚れは一切無い。

 不自然な一冊、その本は彼女達の絵日記、まるで子供が描いた様な絵と、その日の思い出が綴られた日記帳。

 例え人間が見向きもしない本でも、例え妖怪が気付きもしない本でも、レリーブルにとっては、世界で一番大切な宝物。

 

▲△▲△▲△

 

 某月某日。

 季節は夏。

 喧しい蝉の鳴き声と、蒸し暑い部屋の中で、彼女達は地面に伏していた。

 茹だる様な夏の暑さに、彼女達は耐えられなかったのだ。

 彼女達とは、レリーブルとリブランである。

 二人共、この暑さの所為か、普段よりも薄着に着替えている。

 薄着に着替えているが。

「全然涼しく無い」

「あまり変わらないですねー」

 あまり涼しく感じなかった。

「ああ、何だろうこの暑さ。懐かしい」

 一年ぐらい前、まだ幻想入りしてなかった頃を思い出すレリーブル。

 思い出した所で、この暑さを凌ぐ対策は思い付かなかった。

「うーん、仕方ないです。彼女を頼りましょうか」

「彼女?」

 リブランの言葉に、レリーブルは首を傾げる。

「そういえばレリーブルは会った事は無いですねー」

 リブランはそう言うと、怠そうに立ち上がり、扉の近くまで歩くと、扉の取手に手をかける。

「氷の妖精、チルノに会いに行きましょー」

 

少女移動中……。

 

 夏真っ盛り。

 そんな夏でも、ひんやり涼しい霧の湖。

 その涼しさの元ともいえる妖精が一人。霧の湖からちょっと離れた場所で、とある妖怪と話をしていた。

 話をしていたと言うよりも、その妖怪の話を聞いていた。と言うのが正しい。

 その妖怪の名は、紅美鈴。

 緑色のチャイナドレスの様な服装。髪は長髪で赤く、頭には星が付いた緑色の帽子を被っている。

 彼女は紅魔館の門番を務める妖怪。

 現在も彼女は、門に凭れかかりながら門を守っている。

 チルノと楽しそうに話をしている様子から、とても真面目に仕事をしている様には見えないのだが、見えないだけで、門番の役割は果たしているのだ。

「それで美鈴! そいつはその後どうなったんだ!」

「それはですね……」

 話の内容は冒険談。フィクションで彩られた、美鈴が即興で考えた冒険談である。

 即興で作られた物語なので、所々に矛盾があるのだが、チルノは気にした様子も無く、美鈴に催促する。

「そこでその老人は岩を砕くとですね」

「岩を砕くと!?」

「若者を指差しこう言ったのです!」

 お前が最強を名乗るには十年早いと。そう言いながら美鈴は、まるでその老人がしたかの様なポーズを決める。それを見てチルノは目を輝かせると、カッコいいと呟いた。

「……随分楽しそうね」

 と、そんな和気藹々とした空間に、門を少し開けて、そこから覗く様に顔を出すメイドが一人。

 そのメイドが、冷たい声で美鈴に言う。

「ひゃ、咲夜さん!?」

 彼女の名前は十六夜咲夜。

 髪は銀色のボブカット、服は青と白で構成されたメイド服を着ており、頭には白いカチューシャを着けている。

 彼女は紅魔館のメイド長を務める人間。

 美鈴の上司である彼女が、冷たい無表情で美鈴を見詰めていた。

「…………」

「…………」

「?」

 そんな美鈴と咲夜を見て、チルノは首を傾げた。

 暫しの沈黙、その沈黙の中美鈴と咲夜は、見詰め合う様にお互いの顔を見る。

「…………あの咲夜さ……」

「ぷふ」

 そのまま気まずい沈黙が続くと思ったら、咲夜は急に吹き出した。

「ふふふふ、め、美鈴、ひゃ、ひゃくやさんって」

「ちょっ! そこを盛り返さないでくださいよー!」

 あれはちょっと間違えただけです。と、言い訳する美鈴に、咲夜はごめんなさいと謝る。

「慌てなくても、別に怒ってないわよ? ちゃんと仕事はしているみたいだし」

 そう言って辺りを見渡すと、下級妖怪がちらほらと倒れている。それを見て咲夜は指を鳴らすと、ほんの一瞬姿を消し、その瞬間倒れていた下級妖怪は姿を消した。

「とはいえ、ちゃんと後片付けはして欲しいわね。紅魔館の景観が損なわれるわ」

「いやいや、あそこは紅魔館の範囲外ですよ」

 あらそうなの?と惚ける咲夜に、美鈴は苦笑する。

「所で咲夜さん、何か用事があったのでは?」

 美鈴の言葉に、ああそうそうと、咲夜は大きな籠を美鈴に渡す。

 渡された美鈴は、もうそんな時間ですか、と呟くと籠の中から昼食を取り出した。

「……」

「……ふふ」

 籠だった。

 美鈴は無言でその籠の中身を確認する。

「……」

「ふっ……ふふふ」

 籠だった。

「咲夜さん!」

 泣きそうな声で美鈴は言う。

 咲夜は大丈夫よ、と言うと別の籠を美鈴に渡す。

 今度はちゃんとした昼食だった。

「おっ? 肉まんですか! ありがとうございます咲夜さん!」

「どういたしまして」

 籠から肉まんを取り出すと、美鈴は一口齧る。そんな美鈴を見て、チルノはお腹を鳴らした。

「ふふ、小さな妖精さん。あなたも食べたいのかしら?」

「あたいにもくれるのか!?」

 咲夜は最初に美鈴に渡した籠を、チルノに差し出す。それを見てチルノは顔をしかめた。

「何だよー、あたいは空気でも食えって言うのかよー」

「違うわよ」

 美鈴が開けなかった最後の籠の中を、チルノに見せる。

「おー!」

 そこにはサンドイッチがぎっしりと入っていた。

 まさかの三段構え、それを見た美鈴は、相変わらず面白い人だな、と、そう思った。

 そんな美鈴の視線には気にせず、咲夜は籠からサンドイッチを取り出すと、一口齧る。

「って、咲夜さんも食べるんですか!?」

「あら? これだけの量のサンドイッチ、この子一人で食べきれる訳無いじゃない」

 咲夜はそう言うと、にっこりと笑った。

 しかしチルノは笑わなかった。寧ろチルノは、あたいのサンドイッチがー!と、咲夜の横で叫んでいた。

 そんな咲夜とチルノを、美鈴は微笑ましく見守ると、二つ目の肉まんに手を伸ばす。

「…………」

 と、そこで、肉まんを掴もうとした手を止め、美鈴は周囲を見渡した。

(何者かが接近している)

 美鈴は籠を地面に置くと、辺りを警戒した。

 霧の湖は霧で包まれ、その接近者を視認する事が出来ない。

「美鈴?」

「咲夜さん、何者かが近付いて来ます」

「……もしかして魔理沙かしら?」

 タイミングが悪いわね。そう言いながら咲夜も、ナイフを取り出し、迎撃の準備に入る。

「咲夜さん、正面から来ます」

「分かったわ」

 二人が正面を警戒すると、そこから六つの人影が飛び出して来た。

「……」

「あら?」

 その人影は、水の四妖精事、フルード、サーフィス、リップル、レンズと、花の妖精リブラン。そして最後に、本の付喪神レリーブル。その六人の人影だった。

 咲夜はその六人を見ると、あらあらと口を開いた。

「これじゃあサンドイッチが足りないわね」

 

少女接触中……。

 

「……おい! 何だよこれはー!」

 追加のサンドイッチを作りに行くわねと、咲夜が紅魔館に入った数分後、チルノは囲まれていた。

 囲まれていたと言うか、抱き着かれていた。

「あはは、チルノさん大人気ですね」

「嬉しく無い!」

 溶けるだろ!離れろー!と、チルノが叫ぶも、誰も離れようとはしない。

 フルードは悪いねーと、チルノに謝りながら。

 サーフィスはひんやりしてるあんたが悪いのよ!と、チルノを責めながら。

 リップルはおー!と、言いながら。

 それぞれがチルノに抱き着いている。

 ちなみに、レンズとリブランはそうそうに寝ている。

 ただレリーブルだけが、少し離れた場所で涼んでいた。

「えー、と、あなたの名前は?」

「レリーブルだよ。本の妖精」

 本の、妖精?と美鈴は首を傾げる。

「えーと、レリーブルさんは、チルノさんに抱き着かないんですか?」

 美鈴は、やめろよー!と叫ぶチルノを見ながら言う。

「ここでも十分涼しいからね。所で、あなたのお名前は?」

「あっ、紅美鈴と言います」

「紅、美鈴?」

 はいそうです!と、美鈴は元気よく言った。

「紅さん?」

「美鈴と呼び捨てでお願いします」

「それじゃあ美鈴さん、あなたはあの妖精、チルノと仲が良いのかい?」

「そうですね、チルノさんは時々、ここに来て私と遊んだりしてます」

 だからチルノさんと私は仲良いと思いますよと、美鈴は笑う。それを見たレリーブルは、チルノの方に顔を向ける。

 チルノは諦めたのか、地面に寝転がっていた。

「……もしかしてチルノさんとは初対面ですか?」

「うん」

 そうですか……と、美鈴は腕を組むとうんうんと頷いた。

「それじゃあ、チルノさんと友達にならないといけませんね」

「……え?」

「チルノさんと友達になったら、毎日が面白いですよ」

「……」

 レリーブルはチルノを見詰める。

 この霧の湖という場所は十分にひんやりとしている。少なくともチルノに抱き着かなくとも暑さは感じない。それどころか涼しいぐらいだ。

(……それでもああして皆集まるという事は)

 それだけ人望があるんだろう。そう、レリーブルは思った。

 かつて誰にも必要とされず、誰も見向きもしなかった自分とは、天と地程の差があるな。と、レリーブルは自傷気味に笑った。

「そんな事無いですよ」

 美鈴は言う。

「……何がだい?」

「今、チルノさんと自分を比べたでしょう?」

「何でそう思うんだい?」

「あなたは妖精じゃなくて付喪神ですよね」

「……」

「確か付喪神は、人間に棄てられた道具が、その後時を得て妖怪に近い存在になる、そんな存在だったと記憶しています」

 うろ覚えですけどね、と美鈴は苦笑する。

「それであなたは、棄てられた自分とチルノさんを見比べて傷付いている」

「……はぁ、正解だよ」

 まるで心でも読んだ様にどんぴしゃだ。レリーブルは苦笑いを浮かべる。

 美鈴はいえいえと首を振った。

「私の能力は、気を使う程度の能力。この能力で、レリーブルさんの気が揺らいだのに気が付いただけです」

「便利な能力だね」

「割りと重宝してます」

 美鈴はにっこりと笑う。それを見てレリーブルは、やれやれと息を吐いた。

「それで? 何が言いたいんだ?」

「あまり自分を卑下しなくても良いと思いますよ」

「それは、そうだろうけど」

「レリーブルさんは愛されてますから」

 美鈴はチルノに抱き着いているリブランを見詰めた後、視線をレリーブルに戻す。

「あの子、あなたの事をとても大切に思っていますよ」

「……それも気を読んだのかい?」

「いえいえ読むまでもありませんよ」

 美鈴はリブランに視線を移す。

「気付いて無いんですか?」

「?」

「あなた方が私達に出会った時、あの子はレリーブルさんの前に出て、守ろうとしていましたよ」

「……」

 確かに、とレリーブルは声を漏らす。

 あの時確かにリブランは、レリーブルの前に出ていた。

 それに気付いた瞬間、レリーブルは顔を真っ赤に染める。

「自分の身を挺してまで守ろうとするなんて」

 愛されてますね、と美鈴は微笑んだ。

 美鈴は微笑んだが、レリーブルは微笑めなかった。

 それどころでは無かった。

 何年も何年も何年も、誰にも必要とされなかった。誰にも見向きもされなかった。

 それなのに、リブランは必要とする所か、自分を犠牲にしてまで守ろうとしてくれた。

(……ああ、これが、この気持ちが)

 必要とされるという事。

 気が付いてくれるという事。

 そして、大事にしてくれるという事。

(幸せというものか)

 顔を真っ赤にしたまま俯くレリーブルに、美鈴は、あー、と、頬を掻いた。

 気を読むまでもない。その様子を見たら誰にでも分かる。

 美鈴は籠を持つと、そこから肉まんを取り出した。

(うーん、青春だな~)

 取り敢えず美鈴は、そう思う事にした。




紅美鈴
種族:妖怪
能力:気を使う程度の能力
二つ名:華人小娘
十六夜咲夜
種族:人間
能力:時間を操る程度の能力
二つ名:紅魔館のメイド
チルノ
種族:妖精
能力:冷気を操る程度の能力
二つ名:氷の妖精
レリーブル
種族:付喪神
能力:本を生み出す程度の能力
二つ名:永遠の本棚
リブラン
種族:妖精
能力:汚れを落とす程度能力
二つ名:汚れ無き花妖精
二つ名:ささやかな微風
フルードヴァッサー
種族:妖精
能力:水を集める程度の能力
二つ名:浮遊する集水
サーフィスウォーター
種族:妖精
能力:姿を被せる程度の能力
二つ名:水面に映る虚像
リップルアクア
種族:妖精
能力:相手との距離を知る程度の能力
二つ名:緩やかに広がる波紋
レンズロー
種族:妖精
能力:透ける程度の能力
二つ名:自由奔放な水妖精
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