正義と偽善の管理人   作:蓬莱の翁

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2幕 一端

「えーと、俺らはどこに行けばいいんだっけか」

 

隣で歩く翔がいつものトーンで話しかけてくる。仕事になると人が変わったようになるが普段は結構いい奴だ・・・一人軍隊みたいな事をしなければ。

 

「東棟4階の第2実験室って言われてるが、ここみたいだな」

 

第2実験室と書かれた扉の前で止まる。理科室のような雰囲気だがおそらくサージェスト関連の実験室なのだろう壁の掲示板には神臓に関する論文の一部や能力制御の仕組みなどのポスターが貼ってある。まずはノックっと

 

「失礼します、菅沢教諭はいらっしゃいますか?」

 

「あぁ?鍵は開いてんぞ~入ってこい」

 

中から気怠げな女性の声が聞こえてきた。中に入ると椅子にだらしなく座りこれまただらしなく着たスーツの上に白衣を羽織った女性が煙草を片手にパソコンを操作している。デスクの上にはファイルや資料が乱雑に積まれ、灰皿からは煙草の吸殻が溢れ出していた。だらしなく着ているスーツのせいで胸元の深い谷間がもろに見えているので結構目のやり場にこまる

 

「今日から編入しました九鬼です。」

 

「同じく二階堂翔であります!」

 

俺はなるべく胸元を見ないように挨拶をした、二階堂の方はビシッと敬礼までしてるここは警察学校とかじゃないから・・・

 

「あーあいらんいらん、事前に誰が来るか書類に目を通してるから。私が2年主任の菅沢 圭司(すがさわ けいじ)だ、一応お前らのクラスの担任ってことになってる。あ~男みてぇな名前だが女だからな?」

 

彼女はさも面倒くさそうに手を振って軽く自己紹介をした。こういう人に任せて大丈夫なのかなぁ主任・・・優秀な人なんだろうけど

 

「はい、よろしくお願いします。それはそうと菅沢教諭。自分たちはまだこの校舎の理事長に挨拶を済ませてなくて、統括理事長には挨拶を済ませたのですが」

 

「あぁ~?そうか、あのおっさん昨日まで出張だったからな。時間は・・・まだあんな。したら理事長室行ってから教室いくか」

 

まさかの上司をおっさん扱い、やっぱり大丈夫なのかなぁこの人・・・

 

 

 

 

 

「おーしここが理事長室だ覚えとけ。お前らも悪さしたらここに来るんだからなぁ、ヒヒッヒ」

 

菅沢教諭に連れられて来た理事長室の前でなにやら物騒なことを言われたが気にしない。俺たちは扉を軽くノックし

 

「失礼します。編入生の九鬼 颯天です」

 

「同じく二階堂 翔です」

 

「扉は開いている入ってきたまえ」

 

中からバリトン声が聞こえてきた。扉を開けて中に入ると窓際のデスクで壮年の男がパソコンや資料と睨み合っていた。菅沢教諭とは逆に一切の乱れなく着こなした高級なスーツ、額に深く刻まれた皺などから厳格な雰囲気を感じさせるその風貌は男の年齢を実際より上だと思わせる。おそらくは30代前半、この人も相当に優秀な人なのだろう。

 

「話は聞いている九鬼君に二階堂君だね。ようこそ太田学院ならびに太田南校舎へ、私が理事長の大森 隆盛(おおもり りゅうせい)だ。当校舎の理事長として2人が来るのを心待ちにしていたよ」

 

俺たちの前に立った理事長は、二階堂ほどの身長のうえ肩幅もありその顔と相まって凄まじい威圧感を漂わせていた。

 

「聞くところによると君たちは元居た学校で少し疎まれていたようだね。」

 

俺たちはそういう態でこの学校に編入した。

 

「はい、能力覚醒者が爆発的に増加したと言ってもまだまだ少ない地域もあります自分たちのいた学校では俺と二階堂だけでした。不気味に見えたのでしょうか」

 

俺は少しだけ自分の過去を思い出した。翔に、教授に会う前の話を

 

「確かにまだまだ能力を持っていない人からすれば不気味に映るのも仕方がない事だ。かく言う私も能力は持っていない。だが安心したまえ、この校舎はそういった事情を持つ生徒も少なからずいる誰も君たちを疎んだりはしないさ」

 

期待していると俺たちの肩に手をのせた大森理事長は口の端を僅かに上げて微笑んだ。

 

「はい、理事長の期待にそえるように頑張ります。」

 

「頑張る所存であります!!」

 

だからここは軍じゃねぇって・・・

 

「うむいい返事だ。さぁそろそろホームルームの時間だ行きなさい」

 

いい人だ、理事長の言葉には一遍も嘘偽りがない。本当に生徒のことを大事にしている。任務を抜きにしてこの学院での生活が楽しみになってきた。

 

 

 

 

 

 

「おーしお前ら5秒で席に着け。聞いてるやつもいるかもしんねぇがこのクラスに2人の編入生だ仲良くしてやれよ?んじゃ自己紹介だ」

 

菅沢教諭に連れられて来た2年B組は何というか菅沢教諭が担任を持っているのがよくわかるほどしっかりまとまっていた。まるで軍隊だ・・・

 

「紹介のあった九鬼 颯天です今日から皆さんと一緒に精一杯学んで、楽しんでいこうと思うのでよろしくお願いします」

 

「二階堂 翔であります!得意なことはスポーツ全般おっとただの体力馬鹿と思わないで下さい?こんななりでもロシア語とドイツ語が話せます!好きな言葉はJ・Fケネディで汝の敵を許せ、だがその名は決して忘れるな。得意科目は歴史であります!!」

 

最後にビシッ!と敬礼までしてるよこの子・・・・・・あれでもうけてる

 

「はい、んなわけで九鬼はえーと右の後ろの窓際、二階堂は中列の後ろな」

 

俺たちはそれぞれの席に向かう。

 

「よぉ待てよ菅沢せんせ。編入生が来たらお決まりがあんだろうがよ」

 

唐突に一人の生徒が声を上げた。声の方に目をやると制服を着崩したガラの悪い生徒が俺たちを睨んでいた。

 

「あぁ?桜井よぉまたやんのか?お前もたいがいしつこいねぇ」

 

「あんたがこの後やる能力検査を省いてやってんだから感謝しろよ」

 

桜井と呼ばれた生徒は菅沢教諭にそれだけ告げると俺たちの方に向き直った。身長は俺と同じくらいか、ポケットに手をいれて睨んでくる様は一昔前のチンピラのようだちっとも怖くない。

 

「九鬼に二階堂だっけか?このクラスで編入生はな俺とやりあうって決まりになってんだよわかるか?」

 

んなもん初めて聞いたわ。とあきれる菅沢教諭を尻目に話を続ける。

 

「そうだなぁ・・・よし九鬼。おめぇが最初だ覚悟しとけよ」

 

うわっいきなり目付けられた

 

「やりあうってどこでやんだよ、教室や廊下じゃみんなの迷惑だ。」

 

「はっ!いい子ぶったことぬかしてんじゃねぇよ。外だよ外、ほれ付いて来な!」

 

そう言うと彼は窓から飛び出し地面に着地した。へぇ着地しても平気どころか地面に亀裂が・・・自己強化系の能力かな?

 

「九鬼ぃ悪いなあの馬鹿はどうにも頭が足りなくてな、少し付き合ってやってくれ」

 

先生に言われちゃしょうがない俺も窓から配管と壁を伝い地面に降りる。桜井は指の関節を鳴らしながら待っている。うわぁ古っ。垂直に変化した瞳孔は自己効果系の証か

 

「よぉし、手加減はねぇからな?二階堂だっけか?てめぇも包帯の準備でもして待ってな」

 

俺だけじゃなく翔ともやるのか取り敢えずは様子見で行くか。直線的に距離を詰めて、左ジャブ・ストレート・左フック(ワン・ツー・フック)無論簡単に躱される

 

「オイオイ人の話聞いてたか?誰が教本通りの格闘技をやれって言ったよ?能力を使えって言ったんだ・・・よ!!」

 

左のローキックが俺の太ももに直撃する。かなり痛い、サージェスト能力強化によるだけのものではない、彼はそれなりに喧嘩慣れしているらしい。じゃあ左前蹴り、右膝蹴りっと・・・あれ?これも避けられた

 

「てめぇよ。馬鹿にしてんのか?」

 

桜井がイライラして様子で問いかけてくる

 

「いや別に、ただほらお互いに殴って怪我すんのは嫌じゃん?」

 

「・・・・・・はぁ。もういいや最初から全力でぶん殴りに行きゃよかったんだ」

 

桜井が腰を落とし脱力して構える。脱力した構えとは裏腹にピリピリと殺気のようなものを感じる。

 

「じゃあ死ぬほど苦しいが我慢しろよ?」

 

一瞬だった。目の前から桜井が消え次の瞬間に腹部の強烈な痛みと共に吹っ飛ばされた。

 

「っ!九鬼の野郎まともに食らいやがった!」

 

上から見ていた女子生徒の一人がヒッ・・・と悲鳴を上げる。菅沢もこれはマズイと顔をしかめている。

 

「チッ止めるか・・・初日から面倒なこと起こしやがって」

 

止めに入ろうとする菅沢を二階堂が止めた。

 

「あれじゃお前の相方死ぬぞ?桜井の自己強化から放たれる音速一歩手前の蹴りはマジもんの凶器だ、間に合わなくなる前にどけ」

 

菅沢は一教師とは思えないほどの殺気はざわついていた空間を静まらせた。しかし二階堂は友人が危険だと思われる状況でそれでも笑いながら

 

「せんせ、待ってくださいよ。これからが面白いっすよ」

 

ホラと窓の外を指さす。彼の言う通り窓の外を見た菅沢は目を見張った、今まで倒れていた九鬼が悠然と立ち上がり服をはたいていたから、必殺の一撃を決めたはずの桜井が唖然としていたから。

 

「ありゃ一体・・・桜井と同じ自己強化、体を硬質化させて攻撃を無効にした?いやいやそれなら桜井の足がぶっ飛んでる筈だ。」

 

「いやぁキッツいなぁ中々痛かった。んでそれが一番の大技?じゃあ俺の勝ちでいいかな?」

 

桜井の意識は一瞬のうちに間合いを詰めた九鬼の顔面への蹴りで刈り取られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

太田南校舎の屋上。一人の男が煙草を片手に一連の戦いを見つめていた。170cm前後だろうか恰幅のよい身体にスーツをピッタリと身に着けサングラスで目元を隠している。ともすると極道かそれに近しい存在とも見える。

 

「ふむ、やはりここにいたか」

 

校舎繋がる引き戸を開けた大森理事長はゆっくりと男に近付き同じように下を眺める。男はチラッと理事長を見た後スーツの内ポケットから煙草を取り出し理事長に差し出す。

 

「オイオイ何の冗談かね、校舎は禁煙だが?」

 

「フッ面白ろい冗談だな、理事長が私とここに来た時吸わなかった事は無かった気がしたが?」

 

そうだったか?と笑う大森理事長は既に煙草に火を付けている。

 

「ふむやはりこの煙草はいいな、ほのかに感じるラム酒のフレーバーが私は好きだ」

 

「もう100回は聞いたよそのセリフ、んで私に用事じゃないのか?」

 

「そうだったな話を戻そう。してどう思う?彼を」

 

再び視線を下に戻した男は

 

「中々興味深くはあるな、ただの学生じゃあ無さそうだ。格闘技のセンスに能力はおそらく自他問わずの治癒能力増大、攻撃を受けた瞬間に超高速で破壊された箇所を修復しダメージを無効化。」

 

「はたから見ればまさしく不死だな」

 

「あれが新しい編入生、九鬼 颯天か・・・」

 

男は自分の携帯灰皿に煙草を落とし踵を返す。

 

「君はあの教室には戻らないのかい?もっとも君に研究室を与えた私が言える事では無いかもしれんが、どう思う元B組筆頭大野組長殿?」

 

「あぁ居心地がいいからな、それに2人もあの教室に入ったんじゃ私共の席は無いだろう?B組筆頭も何年前の事だろうな」

 

そう言うと男は階段を降りて行った。残された理事長は紫煙を燻らせながらこれからの事を想像する

 

「学院はじまって以来の大事になるやもしれんな・・・フフっ期待しているよ九鬼君」

 

一人呟いた理事長は自分の携帯灰皿に煙草を押し付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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