「なぁ颯天。ちょっと冒険しようぜ」
とある土曜日の朝10時我が友二階堂翔の頭が遂におかしくなってしまったらしい。正気だった頃の最後の言葉はご飯を大盛り3杯平らげての「うめぇー」だった
「遂におかしくなってしまったか・・・ボスに連絡してお休みと良い医者を紹介してもらおうな」
「そんなわけあるか俺はいたって正常だ。任務の話だ、俺たちは学生として生活するのも任務だがこの学園に出入りしている可能性のある教授の情報を集めるのもまた任務だ。」
「それはわかっているがそれと冒険に何の関係があるんだ?」
「俺たちが今関りを持っている先生方、生徒。普段のあいつらの事はあくまで学校生活の中での一面しか見えていない。本当の普段ってやつを見てみるのも面白いじゃねぇかよ、ターゲットに関する鍵も見つかるかもしれないしな。」
取り敢えず我が友の頭は正常に働いていたらしい、安心したよ
「成程な、しかしどうやって覗いて行く?ここは大規模な学園、昼間から怪しげな動きをすればバレるぞ」
「ところがどっこい本部からいいものが届いてる、これだ」
翔が持っていた袋からコートのような衣類を2着取り出した。一見何の装飾もない真っ黒なコートだが
「こいつは着用した人間を不可視にするコートだ、ただ不可視になるだけでなく赤外線や電波までスルーしてくれるらしい」
なるほどこれが所謂光学迷彩ってやつか?数十年前まだ能力者の数が爆発的に増える前各国の軍が秘密裏に開発し少数精鋭の特殊部隊が実際に使用していたと言われている。まぁコスト的な問題や能力者の増加と共にだんだんと廃れていったらしいが、マニアがいたもんだ。
「確かに能力を探知する警報器の普及が殆どの今能力無使用の光学迷彩の方が逆に隠密性が高いって考えか・・・しかしよく本部からそんなもの届いたな」
「開発部の人間とちょっとしたコネがあってな、そいつが。君は先駆者になるんだ頼んだぞ!って言ってきたからよ!しかもあの光学迷彩だぜ?昔のゲームや映画でよく見た光学迷彩だぜ!憧れだったんだよなぁ速攻でオーケイしたぜ!」
目をキラキラさせながら話す翔だが、それ実験台にさせられてない?先駆者って事はまだ誰も着て無いんでしょこれ、裏地は雑だし、ほつれてるとこあるんだけど・・・
「取り敢えず着てみて学園連中の様子でも見に行こうぜ!」
どうやら翔の方はこれが着たくてうずうずしているらしい。仕方がないから着るか・・・まぁバレるよりかはましだろう。袖に手を通してみると思いのほか暖かい、と言っても今は春も真っただ中、これからどんどん暖かくなっていくのにこれはちょっと暑いな、左手に付いてる何かの装置のおかげでそっちの手だけ動かしづらいし。
「左手に付いてる装置で迷彩効果のON/OFFとこれから渡すサングラスの効果の切り替えが出来るらしい。これかなっと」
おぉ確かに見えなくなった、原理のほどは不明だが光を屈折させたり背景を透過させたり色々だろうな。サングラスの効果は迷彩着用者映す効果にサーモグラフィーやナイトビジョンがセットになった暗視機能、CTのようなものも付いてる。
「便利なもんだな、迷彩はともかくこのサングラスは実用的だな。」
「確かになぁでもこれ迷彩とセットじゃないと普通のサングラスらしいぞ」
やっぱり欠陥あるじゃねぇか!
大野朝陽と鶴田輝夜の場合
「じゃあお前ら仕事行ってくるから研究室の留守番頼むぞ」
「「大野組長!鶴田の頭!いってらっしゃいませ!!」」
奏との戦いの直後現れた二人の男、菅沢先生曰く同級生で普段は研究室で研究をしている普通の人らしいけど、え?やっぱりヤクザじゃん・・・
「おい朝陽、車を待たせてる行くぞ」
これから仕事らしい二人は校門前に止まってる高級セダン(運転手付き)に乗り込んだ。流石にアレに付いてくのはきついな、発信機でも付けておくか。俺たちは徒歩で付いて行こう
「よし颯天ここの角曲がったビル前で止まったぞ」
広大な学園の敷地から市街地へ出て数分彼らの車が商業複合施設の一角に停まった。ん?ここのビルってアニメ専門店のビルじゃ無かったっけ?朝陽の上着に付けた発信機(盗聴器付き)からは彼らの会話が聞こえてくる
「おい朝陽仕事中だぞ、今買わなくてもいいだろ」
「いやぁ新作CDは発売日に買いに行きたいじゃないか、最近のアニメやゲームは実際の声優さんが劇やったり活動してたりするからすごいんだって、今日は俺の推しのキャラの声優さんが来てたしよ」
「まったく・・・そんなヤクザみたいな姿でレジの列に並ぶのは流石にどうかと思うぞ?」
「そう言うお前もそんな目立つ格好でゲームの予約してたじゃねぇかよ。知ってんだぞ?予約してたのがFPSゲームに挟んだ乙女ゲームとギャルゲーだったのを。コスプレか何かかと思われてたぞ?」
「うるせぇな・・・」
仲いいなあの二人、花柄のスーツを着た恰幅のいい男が声優さんのいるレジに並んで、桜吹雪柄の和服を着て杖を着いた長身の男がギャルゲーと乙女ゲームの予約ねぇ想像しただけで面白いな、翔にいたっては地面叩いて大笑いしてるし。おっここからは歩いて移動か
「着いたみたいだな、朝陽取引を確認しておけよ?」
「あぁ、こっちの研究結果を提供する代わりに研究用の薬品、材料と機材の提供。それなりにデカい取引になるな」
ビル中に入って行く二人を追いかけて俺たちもビルに入る。このビルは能力研究の機材や材料を取り扱うビルらしい研究員らしき人たちの姿も見える
「初めまして、太田南大野研究室代表の大野朝陽です。」
「同じく鶴田輝夜です」
取引をする二人は見た目はともかく話術や細かい数量の交渉はそこいらの営業マンより高いスキルが窺える。オタク趣味全開だったさっきの場面が嘘のようだ
「それではこの条件で取引をさせて頂きます。少ない時間を割いて頂き感謝します。」
「こちらの研究室で提供して欲しい研究結果を確認次第ファイルを添付したメールを送らせていただきますので確認後に材料をよろしくお願いします」
取引が終わったようだ。相手方も満足な内容だったらしく笑顔で取引を終えていた
「よし何とか良い取引にできたな。輝夜ここからのスケジュールは?」
「今日はこの一件のみだな、研究室に戻って報告書作って後はフリーだ」
二人が歩いて車に戻ろうとした時路地の裏から微かに助けを求める声が聞こえた。
「・・・おい朝陽聞こえたか?」
「あぁスケジュール追加だ、行くぞ」
あの二人も行くのか
「ねぇねぇお姉さんこれから暇でしょ?俺らに付き合ってよぉ~」
「そうそうこれから俺たちいいとこ行くんだけどさぁ花が少なくてさぁ、お姉さんいいっすよねぇ」
「あ、や、やめて・・・下さい・・・」
路地を進んだ先ビルとビルの間の空き地でスーツ姿の女性が数人の男に絡まれていた。男たちは金髪だったりジャラジャラとネックレスやピアスを付けていたり如何にもと言うようなチンピラ達。奏を更に悪化させたらああいう風なるのかねぇ
「大丈夫だってお姉さんも絶対楽しいからさ!行こうぜ」
「ちょ、痛っ!」
「あーちょっと失礼お兄さん方、彼女痛がってるみたいだから離してあげたらどうだ?」
少し現場を眺めていた朝陽が流石にと思ったのか近付いて声を掛けた。ここは彼らのやり方を見守るとするか、翔も同じ考えらしく現場を傍観している
「えぇとあんたら何?この子の知り合いか何か?今俺たちが誘ってるんだから邪魔しないで貰えるかな?」
「そうそう、痛い目にあいたくないならどっかに行ってくれるかな?」
あからさまな敵意を向けるチンピラ達に怯むことなくそれどころか、はぁ・・・とため息を付く朝陽の代わりに輝夜が前に出る
「その言葉そっくりそのまま返すぜ?痛い目見たくないなら彼女を離して回れ右でもしておうちに帰りな」
「うぜぇなお前ら、オイこいつらボコってお駄賃でも貰おうぜ?」
チンピラ達は落ちているパイプやら角材やらを持って二人を取り囲む。おぉ結構いたんだな
「ひぃふぅみぃよ・・・一人頭四人ってとこか、輝夜いけるか?」
「秒だろ秒」
軽口を叩きながら上着を脱ぎ捨て素肌を晒す二人にチンピラ達の方が怯む。それもそうだ2人とも背中に彫り物してるんだもん。朝陽の桜吹雪と鳳凰も凄いが更に目立つのは輝夜の方だ、細く見える体とは対照的な鍛え上げられた筋肉、背中には月に吠える純白の虎と漆黒の狼の和彫り、左の腕には螺旋状に絡み合うトライバル柄の蛇、右の胸には梅に交差した日本刀と全身刺青だらけ。
「舐めやがってこの野郎・・・ぶっ殺せ!」
武器を持った八人対二人、無謀にも程がある戦い、彼らを知らない者が見れば結果は火を見るより明らかだが俺たちからすれば逆の意味で結果は明白だった。
「あーあぁ馬鹿な奴ら」
まさに災害、朝陽自慢の剛拳を食らえば枯葉のように人が飛び、ぶん投げられた奴は壁にひびが入る勢いで叩きつけられる。輝夜も剣に見立てた杖を剣豪も真っ青なレベルで振るう。あっという間にリーダー格の男を残してチンピラ達は全滅。台風みたいだな
「おい朝陽、ちょっと遅いんじゃねぇか?俺のが先に片付いたぞ」
「いやいや変わらねぇって秒だよ秒。さてそれはそうとまだやるかい?金髪の兄ちゃん」
朝陽がリーダー格の男に向き直った瞬間2人の間を何かが高速で通過しコンクリートの壁に突き刺さった。鉄パイプか・・・?
「舐めんじゃなねぇよ!お前らなんて俺一人でも十分だ!」
気が付けば落ちていたパイプや角材などが男の周りを漂っている。アレは・・・
「チッ・・・
「流石にパイプでぶっ刺せば死ぬだろ・・・?だったら死ねや!」
「うるせぇ」
だがそれが彼らの体を貫くより速く輝夜の杖が男の意識を刈り取った。輝夜と男の間には10m近い距離があったが距離を詰めたのと杖で突いたのが同時だった。だが距離を詰めた動作はまったく見えなかった。唯一分かることは輝夜の立っていた位置から一直線に伸びた何かが焦げたような黒い線だけ
「は、速い!おい颯天アレは・・・」
「あぁ全く見えなかった、瞬間移動か身体強化か、見当がつかん」
あれが鶴田輝夜・・・あの人が警戒するだけの事はある。
「お疲れ輝夜。いやぁお前がいて助かったよ」
「嘘付くな、俺がいなくてもお前一人で何とかなっただろ」
「んなことねぇよっと、さてさてお嬢さん大丈夫でしたか?」
そんな会話している二人、朝陽が座り込んでいる女性を起こそうと手を伸ばす。が彼女はその手を振り払う。
「触らないで!助けてもらった事は感謝するけど、貴方達能力者でしょ?化け物風情にこれ以上気を使われるなんて御免だわ!」
そう叫んだ彼女の言葉がその場にいた四人に重くのしかかる。
化け物か・・・超能力等の類がサージェストと定義付けられ30年程経ち能力者の数も多くなってきたが今尚能力者を化け物や怪物と称しその存在を忌み嫌う者は多い。10年ほど前には能力者肯定派と否定派で大規模な抗争があった程だ。
「わかったわかった、我々はもう行きますからそんなに怒らないで」
朝陽は気にしていないように振舞っているが、手を出さないように必死なのだろう翔の方も怒りを露わにしている
「輝夜行くぞ俺たちの役目は終わりだ」
「なぁ一つ聞いていいか」
去り際に輝夜が立ち上がった女性に問いかける。背を向けたままただ冷たく
「お前は、お前の子供にも同じことを言うのか?」
そう言うと輝夜は足早に路地を後にした。朝陽も「お気をつけて」と一言だけ言って輝夜を追いかける。
「化け物か、なぁ翔お前は能力者に付いてどう思うよ」
「変わらねぇよお前と、彼らも同じ人さ化け物なんかじゃねぇ。でも人が自分とは異なるものを毛嫌いするのもまた事実だ、だから争いは止まないって事だろう、俺だったらあの女表の通りまでぶっ飛ばしてるところだ。」
報われない人助け。善意が必ずしも感謝されるとは限らない、それどころか敵意を向けられる事さえある。ともあれ俺たちは再び研究室に戻る二人を追いかける。勿論徒歩で
「輝夜、よく手出さなかったな。」
「お前もな、だが流石に我慢できなくてな、つい問いかけちまったが・・・」
「いいだろうよ、まだまだ時間はかかるだろうがいつか互いに分かり合える日が来るさ」
大野朝陽は能力否定派に歩み寄ろうと努力している、やり方は地味でも少しずつ研究を通して争いを無くそうとしている。鶴田輝夜は言葉は冷たいがそれはある種の悲しみなのかもしれない。親によって捨てられる能力を持って生れて来た子供、中には泣く泣く子供を手放す親もいる。そんな悲しみを彼は無くしたいのかもしれない。
「あの二人の論文あったぞ、能力の暴走と安全性それからサージェストの生誕とその不可逆性、朝陽の方は本も出してる。能力者との争いとその果てだとさ」
部屋に戻った後翔がスマートフォンで彼らの論文と本を見つけて来た。理事長や彼らのように肯定派と否定派の懸け橋になるようなそんな人たちが増えていけばいいと思った休日だった。
明けましておめでとうございます。
年が明けたら早めに投稿しようと思い執筆作業をしてみたもののテストや資格の取得やらであれよあれよという間にもう2月・・・今年もぐだぐだしそうですが頑張っていこうと思うので閲覧してくださった方々、誤字脱字の指摘やこうした方がいい等のアドバイスなどよろしくお願いします。
本編書よりこっちの方が文字数多いってどういう現象だろうか・・・(本編に関係がないとは言ってない)