僕物語   作:ソウルゲイン

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プロローグ

「『もう大丈夫! 何故って!? ・・・・私が来た!!』」

 

 映像に映る偉大なヒーローの活躍、何人もの人達を笑顔で救い出してしまうその雄志、この動画を見る度に僕は興奮してしまう。

 僕はヒーローと言う存在に憧れていた。

 親に頼んで見せてもらった古い動画には昔起きた未曾有の大災害が記録されており、普通の人なら怖くて見れない内容でもあるけど、その動画にはある一人の偉大なヒーローによる救出劇が記録されていたのである。

 

 そのヒーローの名は"オールマイト"。

 

 未曾有の大災害にたった一人で立ち向かい何千人もの人達を救出してしまった最高のヒーローであり、僕が最も憧れているヒーローでもあった。

 ネットに上がっている動画の再生数は僕だけで一万を超えてしまい、親に無理を言って沢山のグッズを買ってもらった。オールマイトが移る映像を見る度に僕はこう思ってしまう。

 

 僕もいつかこんな風に格好いいヒーローに成りたい・・・・・と。

 

 でも、その願いはあっという間に崩れ去ってしまった。

 

「諦めた方が良いね」

 

 医者にそう言われた僕は絶句してしまう。

 この世には"個性"という超常の力が存在し、かつてはごく僅かな人間にしか備わっていないものであったけど今の世の中では人類の8割がこの"個性"と言う力が備わっている。

 大体、四歳を迎える前にはこの個性を発現するため、世の子供達は個性診断という名目で医者に診断を受けるのだけど、僕には何の個性も宿って居なかったのである。

 所謂、無個性と言うものだ。

 突きつけられてしまった衝撃の事実。診断が終わり家に帰って再び憧れのヒーローの動画を見直したが、以前のように興奮する事は無く唯呆然と眺めてしまった。

 親はそんな僕を心配そうに見つめていたが、僕は必死に笑顔を作って見せた。何故なら僕はまだヒーローの憧れを捨て切れて居なかったからだ。

 しかし世間はそんな僕にとても冷たかった。

 無個性と診断されてからと言うもの、僕の環境は激変し仲が良かった友達からは蔑むように扱われる日々。誰もが個性を持つ今の世の中では無個性と言う存在はあまりに肩身が狭いものがあった。

 

 人は生まれながらにして平等ではない。これが齢四歳にして知ってしまった社会の現実だ。

 

 それから10年の月日が立ち14歳を迎えた僕は未だにヒーローの憧れを捨てることが出来ずにいた。

 今の世の中ヒーローと言うのは誰もが憧れる一番人気の職業、例え個性を持たなくても目指してはいけないと言う法律などは無い。クラスメイトや担任、幼なじみは全員がそんな僕をバカにするかのように大声で笑うが僕はそれに構うこと無く必死に努力をしてきた。

 格闘技のジムに通ったりヒーローの活動を分析したりと唯ひたすらヒーローに成るための努力を積み重ねて来たが、ある日を境に僕のヒーローへの思いは完全に打ち砕かれてしまった。

 それは・・・・・。

 

「"個性"が無くともヒーローが成り立つとは、とてもじゃないけど口に出来ないね」

 

 憧れのヒーローに告げられてしまった真実。

 学校の帰り道で運悪く遭遇してしまったヴィラン、僕は命の危機に晒されてしまったけどそれを助けてくれたのが僕が一番憧れていたヒーロー"オールマイト"だ。

 突然現れた憧れのヒーローに僕はどうしても聞きたかったことを尋ねてしまった。

 "無個性でもヒーローに成れますか"・・・・と。

 しかし返って来た返答は完全なる否定。自分でも心の奥では理解していたことだったけど、死ぬほど憧れていたヒーローから言われてしまったその言葉によって僕の心は完全に崩れ去ってしまったのである。

 

「夢を見るのは悪い事じゃない。だが、相応に現実も見なくてはな少年」

 

 そう言い残し、去って行く憧れのヒーロー。僕はその姿を唯呆然と眺めることしか出来なかった・・・・・。

 

「・・・・・・・」

 

 オールマイトに遭遇したその後、僕は涙を流すことを必死に耐えながら無言で帰路を歩いて居た。

 自分でも分かっていた事だけど憧れのヒーローに言われてしまったことはとてつもなくショックであり、思い出すだけで涙が溢れてしまう。

 この気持ちを抑える事が出来なかった僕は気分を落ち着ける為に公園のブランコに座り、しばらく時間を潰すことにした。

 

「・・・・・・・」

 

 夕日が差す中、僕は黄昏れるようにブランコに上で気持ちを落ち着けようとする。それでも突き詰められてしまった現実を中々受け入れることが出来ず、必死に涙をこらえていた・・・・。

 その時。

 

「ねぇねぇ聞いた?」

「何々?」

「最近、この街で変な噂が流れてるって話」

 

 道端に歩く女子高生の話し声が聞こえた。

 クレープを片手に楽しそうに会話をしているその人達は徐々に僕に近づいてきたため、僕は手で涙を拭い顔を人に見せないように下を向く。

 

「最近、この街で"吸血鬼"が出たんだって」

「吸血鬼!?」

「うん。何でも金髪でもの凄く美人の吸血鬼が出て人を襲って血を吸ってるんだって」

「何それ怖い!」

 

 たわいの無い話をする女子高生。僕の近くで話していたため嫌でもその会話は耳に入ってしまう。

 そして女子高生はそのまま僕の前を横切って行き、僕は再び一人に成った。

 

「・・・・・吸血鬼か」

 

 その噂は僕も耳にしていた事だった。これは学校の女子達の間で噂に成っていた話なのだけど、ここ最近、夜な夜な金髪で長身で絶世の美女が出現していると言う噂だ。

 その金髪美女には影が無く、背筋が凍り付いてしまうような冷たい目をしていると言う。

 しかし。

 

「まあ、今の僕にはどうでもいい話か・・・・」

 

 僕にとってそれは最早どうでもいい事であった。

 恐らくその吸血鬼もヴィランの一種であると思うけど、ヒーローに成ると言う夢を打ち砕かれた僕には関係の無い話だ。

 もし人を襲っているのならヒーロー達が捕まえてくれる筈だし、唯の一般人の学生・・・・何より無個性の僕には何が出来るわけでも無く。

 気にしても仕方が無い事。僕は考えるのを辞めて再び気持ちを落ち着ける為に時間を潰すのであった・・・・

 

 

 ~その日の夜~

 

「ちょっと遅く成っちゃったな・・・」

 

 気持ちを落ち着ける為に公園で時間を潰して居たけど、すっかり夜に成ってしまった。

 時刻は既に午後九時を回っていて、中学生である僕がこれ以上夜の街を徘徊していると警察やヒーローに補導されてしまいかねない。

 まだ気分は完全には落ち着けて居ないけど、流石にこれ以上は学校だけでは無く親にも迷惑を掛けてしまう為サッサと家に帰ることにしたが・・・・・。

 

「・・・・・・?」

 

 僕はある異変に気付いた。

 いつもと同じ帰り道、僕は小走りでその道を進んでいたけど、周囲の風景が少しおかしかったのである。

 それは・・・・。

 

「(人がいない?)」

 

 そう、人の姿は見えなかったのである。

 時刻は既に夜の九時を回っているけどこの時間帯ならまだ大人達が夜の街を歩いていてもおかしくないはずだ。

 しかし今の街の様子は人々が寝静まった深夜のごとく静かで人っ子一人姿が見当たらない。

 

「(でも、今の僕にはピッタリかも知れないな)」

 

 僕は思わず変な考えに浸ってしまった。

 誰も居ない街に一人佇む無個性の人間。どっかのミステリー小説の題材にでも成りそうなその異様な風景。

 こんな考えに浸ってしまうなんて、僕もいい加減おかしくなってしまったかも知れない・・・・。

 その時。

 

「!?」

 

 それは突然の出来事だった。突如街に設置されていた街灯が一斉に消えたのである。

 

「えっ? 停電!?」

 

 いきなり全ての街灯が消えてしまった事によって街が暗闇に包まれてしまった。

 一体何が起こったのだろうか? よく見たら街灯だけでは無く建物の灯りも消えており街全体が漆黒の闇に包まれてしまう。

 しかしひとつだけ例外があった。

 

「何でここだけ灯りが付いてるんだ?」

 

 僕は一カ所だけ灯りがある所に気付いた。それは街灯、他は全て消えてしまっているのに一カ所だけ街灯の灯りが付いていたのである。

 何故ここだけ? もし停電ならここだけ灯りが付いているのはおかしな事であった。何か嫌な予感がしてしまった僕はそれを無視して帰ろうとしたが・・・・。

 

「うぬ」

「!?」

 

 突然声が聞こえた。

 

「おい、そこのうぬ。うぬじゃ・・・・」

「・・・・・・・」

 

 何とも古風な言葉で呼び止めてくる声。声からするとそれは女性の声であり、僕は恐る恐る振り向いて見ると・・・・。

 

「儂を・・・・助けさせてやる」

 

 そこに居たのは金髪の美女。この世の者とは思えないほどの絶世の美女であった。

 そして彼女は・・・・・。

 

「うぬの血を・・・・・寄越せ」

 

 血を要求してくる金髪の美女、この出会いが僕の運命を変えることに成った・・・・。

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