僕物語   作:ソウルゲイン

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 緑谷とキスショットの出会い、傷物語をダイジェストに書きました。
 ヒロアカの設定と物語シリーズの設定を織り交ぜる為に、かなり強引にこじつけておりますから、どうかご容赦を。


2・僕は〇〇のヒーローになる

 唐突だけど彼女・・・・・目の前にいる金髪の幼女の話をしよう。

 まず彼女の本当の名なのだけど"キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード"と言い、"吸血鬼"の個性を持つ者。

 およそ500年もの長い月日を生きている規格外の存在である。

 彼女は立場的にはヴィランであるらしく、かつては"ヴィランの王"とまで言われていたらしい。本当かどうかは分からないけど。

 元は大人の美女の姿をしていたのだけど、今は幼女の姿になっている。

 彼女が幼女の姿に成っているのには凄く大きく複雑な訳がある。それは今から三ヶ月前、僕がヒーローへの憧れを失ったあの日のこと・・・・・。

 

 

 

 ~三ヶ月前~ 

 

 暗闇に包まれた夜の街、光が無く唯一点灯していた一つの街灯の近く僕は彼女・・・・金髪の美女"キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード"に出会った。 

 四肢を失い血を流して瀕死の重傷を負って居た彼女はどう見ても死にかけており、それを見た僕は直ぐに彼女の元に駆け寄り、救急車を呼ぼうとしたが・・・・・。

 

「そんなものは・・・・いらん。うぬが・・・血をよせば済むことだ」

 

 彼女は僕の血を差し出すよう要求して来たのだ。

 最初は何を言っているのか理解が出来なかったけど、翌々考えてみれば彼女の今の状態はおかしかった。

 四肢を失い大量の血を流してるのにどうして生きているのかだろうか? 流れている血の量をよく見ると明らかに量が多すぎた。

 これだけの血が流れていれば既に死んでもおかしくないし、寧ろ生きている方がおかしい。

 そして彼女は僕に血を要求してきた。血と言っても輸血とかそう言ったレベルのものでは無い。

 

「うぬの血を・・・・全て貰えば、命を繋ぎ止めることが・・・・出来る」

 

 そう、全てだ。

 文字通り僕の全ての血、僕の体内にある全ての血を要求してきたのだ。

 僕の血を全て摂取すれば命の危機は脱する事が出来ると言っていたけど、それはつまり、僕の命を奪おうとしていたと言う事に他ならない。

 それを知った僕は足が震えていた。

 その日はヘドロのヴィランと遭遇し、命の危機に晒されてしまって居た事もあり、一日に二度も命の危機に晒されようとしていたのだ。

 だから僕は、目の前で死にかけている金髪の美女から逃げだそうとしたが・・・・・・。

 

「嫌だ、死ぬのは嫌だ! 助けて! お願いします! 何でも言う事を聞きますから!」

 

 彼女は泣き叫んで来た。

 臆面も無く、まるで幼子のような表情で泣いていたのだ。

 美しい顔が涙と鼻水でぐしゃぐしゃに成るほどに泣き叫び、喚いていたのだ。

 僕はそんな彼女を見て立ち止まってしまった。

 ハッキリとした事情はまだ分かって居なかったけど、唯一つ、理解出来たことはあった。

 

 それは、彼女が"助けを求めている顔をしていた"と言う事だ。

 

 そんな彼女を見た僕は、彼女に詳しい事情を尋ねた。

 そして彼女の聞いてみるとそれは驚きの内容の連続であった。

 彼女は今からおよそ500年前・・・・・日本の時代で言うと戦国時代にこの世に生を授かった人間であり、フィクションの中でよく登場してくる"吸血鬼"の個性を持った人間であったのだ。

 しかし、元から吸血鬼の個性を持っていたわけでは無いらしく、他の人・・・・吸血鬼の個性を持った人に血を吸われた事で吸血鬼に成ってしまったらしい。

 映画などでよくある、吸血鬼に血を吸われた人間が吸血鬼と成ってしまうと言うあれだ。

 さらに"吸血鬼"と言うのは生きるために人の血を摂取しなければならないらしく、どうしても人を襲わないといけないと言う何とも不便で悲しい行いをしなければならないとの事。

 故に彼女は意図せずにヴィランに成ってしまったと言うのだ。

 彼女が手足の四肢を失い死にかけていたのはヴィランである自分を狙ってきた複数のヒーロー達によるものであるらしい。

 そして彼女はその場に居た僕の血を全て摂取する事で命の危機を脱することは出来るとの事だったけど、それに対して僕はとてつもなく愚かな行動に出てしまったのだ。

 それは。

 

「・・・・・いいよ。あげるよ僕の血を」

 

 血を捧げる・・・・・つまり、命を捧げると言う事であった。

 一般人から見たら僕の行動は無知で愚かでイカれた行いとだと思われるかも知れないだろうけど、その日の僕は人生において潮時だと思ってしまっていたのだ。

 死ぬほど憧れたヒーローとの出会い、そしてそのヒーローから突きつけられてしまったヒーローに成れないと言う事実。

 その日を境に僕の人生は最早どうでもいいものに成ってしまったのだ。

 生きがいを失った僕、そんな僕の前に死にかけている人および吸血鬼。

 涙を流しながら必死に助けを求めてくる彼女を見て、僕は哀れみを抱いてしまった。

 だから僕は。

 

「僕の血を全てあげる。だからこの街の人達には危害を加えないで下さい」

 

 この街に住む人達には危害を加えない事を条件して、僕の血を差し出すことにした。

 話では僕一人の血で一命を取り留めることは出来るとのこと、だから犠牲になるのは僕だけで済むように取り計らったのだ。

 何て身勝手でいい加減で馬鹿馬鹿しい言い分なのだろうかと、自分でも思った。

 僕はヴィランのために命を差し出そうとしていたのだ。

 このような行いは笑い話にも成らないだろうけど、それでも僕は目の前で助けを求める彼女を見捨てる事が出来なかったのだ。

 恐らくこれは、"ヒーローに成りたかった"と言う思いの未練だろう。

 無個性である僕が抱いてしまったおこがましい思い、憧れのヒーローにまで不定された未練がましいヒーローへの思いだ。

 しかし、その思いが成就されることは永遠に来ない。

 このまま人生を生きても生き腐れるだけであり、無理して生きても良い事なんて何も無い。

 ましてや"無個性"の僕が居なくなった所で世界には何の影響も無い!

 だからこれは僕からの世の中に対するメッセージだ! 無個性でもヒーローみたいに人を救えるんだって言う世の個性持ちに対する身勝手な当て付けだ!

 だから僕は死んでやる事にしたんだ!

 格好つけて・・・・・ね。

 

「全部あげる。一滴残らず・・・・・絞り尽くしてくれ」

 

 僕は目の前の彼女を抱き上げ、この身に寄せた。

 

「ありがとう・・・・・・」

 

 感謝の言葉を述べてくる彼女、その言葉と供に、"ざくり"と音が聞こえた。

 鋭い痛みが首元に走り、僕は彼女に咬まれたことを自覚し、それと同時に意識が薄れて行った。

 

「(碌な人生じゃなかった・・・・。)」

 

 その時、僕は、血を吸われ意識が遠ざかっていき、死が迫っていくことを自覚しながら、これまでの人生を振り返った。

 無個性であると知り周囲から蔑まされ、母親にまで後悔させてしまった人生。

 僕はここで死ぬ、僕を大事に育ててくれた母親には申し訳なさしか無かったけど、それでも僕は後悔はしてない。

 何故なら・・・・。

 

「(ヒーローらしい事をやって死ねるなら良いか・・・・)」

 

 最後の最後で僕はヒーローらしいことをやれたのだから。

 そして僕はその日を持って、その生涯を閉じたのだった・・・・・。

 

 

 

 

 ――筈だったのだが。

 

「まさか、彼女が眷属を作るとは夢にも思わなかったよ。ね? 緑谷くん」

「唐突に話に割って入らないで下さい! 忍野さん!」

 

 いきなり話に加わって来た忍野さんに注意をしたが、話を続けよう。

 そう、僕は死ななかったのだ。

 血を吸われた事で僕は意識を失ったが、その後意識を取り戻したのだ。しかも全く別の場所で。

 ちなみにその場所というのが今いるこの学生塾跡である。

 そして意識を取り戻してすぐに気付いたのが直ぐ横で寝息を立てながら寝転がる小さな女の子の姿。

 後に知った事だが、その女の子が僕の血を吸った吸血鬼、"キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード"本人だ。

 彼女は僕の血を死ぬ一歩手前まで吸うと、何と僕を眷属にしてしまったのだ。

 

 それはつまり、僕は"吸血鬼"に成ってしまったと言う事、彼女の眷属になったのだ。

 

 そしてその後が大変であった。

 吸血鬼に成った事を知らずにお日様の下に出て、身体が業火に焼かれたり、彼女の眷属に成った事で彼女を狙っていた特殊資格を持ったヒーロー達に狙われたりと、命の危機に何度もされ為れてしまった。

 その時に助けてくれたのが・・・・・・・。

 

「この僕って訳さ」

 

 僕の目の前に居るアロハのおじさんこと、忍野メメさんであった。

 忍野さんを交えて改めて三人で話したところ、より詳しい事情を知ることに成った。

 僕の主となったキスショットは世界を滅ぼしてしまうほどの力を持った規格外すぎる存在であると言うこと、吸血鬼の個性を持つことで常に人に害を及ぼしてしまうこと、故に彼女は世界にとって有害と見なされてしまい、各国で秘密裏に国際指名手配されてしまっっていると言う事などを・・・・。

 その時の彼女は四肢を失ったことで力の大半を失い、僕の血を吸った事でかろうじて人の姿を保っていたみたいだ。

 幼女の姿になったのは成人状態では戻るにはエネルギーが足らなかったとの事。

 そして僕は彼女に訪ねてしまった。

 "僕は元の人間には戻れないのか"と

 すると彼女は可能であると言って来て、ある条件を満たせば僕を元の人間に戻してくれると言って来た。

 それは彼女・・・・キスショットを襲い彼女の四肢を奪っていったヒーロー達から四肢を取り戻すこと。

 今の彼女は力の大半を失っていて、今のままでは僕を元に戻す事は出来ないらしく、奪われた四肢を取り戻す事で元の力を取り戻す事が出来るらしい。

 詳しい事情を聞くと彼女の四肢を奪っていったヒーローは三人、その三人全員が特殊資格を持ったヒーローであるらしい。

 その三人のヒーローの名はドラマツルギー、エピソード、ギロチンカッター。

 何とも個性的な名前をしていたが恐らくヒーロー名であるのだろう。・・・・多分。

 そして無事に奪われた四肢を取り戻すことが出来れば、見返りとして僕を元の人間に戻してくれると彼女は言って来たのだ。

 それを聞いた僕は少し悩んでしまった。

 一度は死ぬ事を選んでしまった僕が再び生きて居ても良いのかと勝手に思ってしまったけど、その時の僕はお日様の下も歩く事が出来ない吸血鬼、生き残ってしまったけどこのままではあまりに不便であったから、彼女の命令もとい要求に従うことにしたのだ。

 しかし、これはあまい考えであった。

 忍野さんから聞いた話なのだけど特殊資格を持ったヒーローと言うのは"ヴィラン殺し"が許可されているとのことだった。

 ヒーローなのに殺しをするのか? と疑問に思ってしまったけど、相手も曲がりなりにもヒーローだ。

 話し合いで決着が付くはず。

 だと思っていたのだけど・・・・・。

 

「ならばいつも通りのやり方だ」

「オッケ、早い者勝ちってこったな」

「いいでしょう。平等なる競争は、互いのスキルアップに繋がりますからね」

 

 仮にもヒーローでありながら僕の話には聞く耳を持たずに問答無用に襲いかかってきたのだ。しかも三人がかりで。

 その時は忍野さんが割って入って来て、難を逃れることが出来た。

 その後は忍野さんが三人と交渉したことで、一人ずつ・・・・一対一を三回行う、決闘方式で決着を付けることにより、僕は何とかして三人に勝利し、彼女・・・・キスショットの四肢を取り戻す事に成功した。

 聞いた所に寄ると吸血鬼の眷属となった僕の力は人間の持つ力を遙かに超えていたらしく、一対一であれば勝利を収めるのは簡単なことであったのだ。

 実際、野球部がグランド整備に使うローラーを片腕で軽々持ち上げられたのにはびっくりしたものだ。

 そして、取り戻した四肢を彼女に渡した結果・・・・。

 

「ひゃっほー! 戻った! 戻った!」

 

 彼女は元の戻った。

 幼女の姿になっていた彼女は見事に元の大人の姿・・・・・・美しい金髪の美女に戻ったのである。

 余程嬉しかったのか、無邪気な子供のように大はしゃぎをしていた彼女だったが、しばらくした後。

 

「これで、うぬを元の人間に戻すことが出来るぞい」

 

 彼女がそう言って来た。

 "元の人間に戻す"・・・・それは、彼女と交わした契約であり僕に対する見返りであった。

 それで彼女は準備をするためしばらく一人にしてほしいと言って来た為、拠点にしていた学生塾跡を出て街へと繰り出した。

 時刻が夜であった為、太陽の光に焼かれことは無かったけど、その時の僕は夜空の下を歩きながら思いに更けてしまっていた。

 元の人間に戻してもらう事を条件に彼女の頼みを聞いたけど、人間に戻ると言うの事はそれは"無個性"に戻ると言う事であったからだ。

 今の僕は眷属と言う特殊な立場ではあるけど"吸血鬼"の個性を持った人間、死ぬほど求めて決して成れなかった個性を持った人間だ。

 お日様の下を歩けないと言うデメリットこそはあるけどその力は絶大で、その時の僕ならトップヒーローにも引けを取らない力を有していた。

 意図せずに突然手に入れてしまった個性に僕は知らず知らずの内に酔いしれてしまったのかも知れない、僕は心の何処かでこの力を手放すことを惜しんでしまっていたのだ。

 自分でも厚かましいことこの上ないと言うのは理解できるが、"無個性"であった僕にはどうしてもその思いを捨てることが出来なかったのだ。

 夜のまちを歩いて居た僕はそんな曖昧な思いを抱きながらゆっくりと学生塾跡に戻って行った・・・・・。

 

 ――そこで僕は恐ろしい光景を目の当たりにしてしまったのだった。

 

「よう我が従僕よ待って居ったぞ」

 

 僕を待ちわびた様子を見せるキスショット、美しい容姿と笑顔を見せながら出迎えてくれた彼女だが、その時の彼女の状態は常軌を逸していたのだ。

 彼女は食事をしていた。別に唯の食事であればそれは何ら不自然な事では無いのだけど、問題は彼女が食している物にあった。

 それは人、・・・・彼女は人間を食べて居たのだ。

 床に仰向けで横たわる人間をまるでハイエナのように這いつくばりながら美味しそうに貪る彼女、彼女がいた教室の中は血の匂いが充満していて、彼女自身も口元やドレスを血で汚していたのだ。

 そして、僕の姿に気付いた彼女は食事を辞め、食していた人間の生首を片手に持ちながら僕に振り向き笑顔を見せた。

 僕はその笑顔を見て凍り付いてしまった。

 彼女が手に持っていた生首・・・・・その顔には身に覚えがあった。

 それは先に僕と一騎打ちをしたヒーローの一人、ギロチンカッターの生首であった。

 それを見た僕は我を忘れて教室を出て学生塾跡から飛び出してしまったのだ。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、・・・・・おぇっ!」

 

 夜の街をひたすら走った僕は路地裏で立ち止まり嘔吐してしまう。

 その時。

 

「やぁ、緑谷君。嘔吐するまで走り回るなんて随分元気だね? 何か良いことでもあったのかい?」

 

 学生塾跡で姿が見えなかった忍野さんが現れた。

 いきなり現れた事に僕は驚いたけど、今はそんな感情はどうでもよかった。

 忍野さんが現れた事で冷静さを取り戻した僕は慌てて忍野さんに尋ねた。

 彼女の事、吸血鬼の事、彼女を狙ったヒーロー達の事などを・・・・。

 

「吸血鬼ってのは複雑な事情があるんだよ。特に彼女の場合は・・・・」

 

 いつもと変わらずフランクに話す忍野さん、しかし彼女に関してより詳しい事情を知る事が出来た。

 最初は彼女が何故あそこまで理不尽に討伐されるような事を為れていたのか疑問に思っていたけど、それは簡単な事だった。

 "吸血鬼"と言うのは人類に取って存在そのものが有害であったのだ。

 吸血鬼の食事とは『生き物の生命力』、つまり命だ。

 血を吸うのはもちろんの事、生物の血肉を食らうのも当たり前であった。

 さらに吸血鬼は、"エナジードレイン"と言う血や肉を貪ればその身の力を増大させることが出来、しかも不死身だ。

 それは最早、人類の枠を完全に超えてしまっていた異常者であったのだ。

 人を貪る上に不死身の存在、今にして思えばヒーロー達が彼女を討伐しようとしていたのも何となく理解してしまった。

 彼らはあくまで人類と社会の側に立って正義を貫こうとしていたのだ。

 僕は地面にしゃがみ込み頭を抱えてしまった。

 僕は飛んでもない過ちを犯してしまったのではないかと、彼女を助けてしまった事で社会を危機に陥れてしまったかも知れないと・・・・・。

 

「あまり自分を責めるべきではないよ? 緑谷くん。君がどう思おうと吸血鬼の本質が変わる訳じゃ無いからね」

 

 そんな僕に忍野さんは何とも薄情な言葉を投げ掛けて来た。

 でも、忍野さんが言っている事も尤もであった。僕が何かをしたちしても吸血鬼が人を食べるのを辞めるわけでは無いし、生物としての本能を制限させること何て出来はしない。

 僕が抱いている後悔なんて何の意味も持たないのであると・・・・・。

 その時。

 

「そんな悩める緑谷くんに僕から一つアドバイスをあげよう」

 

 悩める僕に忍野さんが言葉を送って来た。

 それは・・・・。

 

 

「彼女、"キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード"は"敵(ヴィラン)"ではあるけど"悪人"ではないよ」

 

 

 その言葉を残して忍野さんは去って行ってしまった。

 "悪人ではない"・・・・忍野さんのその言葉を聞いた僕は改めて、彼女の事・・・・キスショットの事を振り返って見た。

 彼女は"吸血鬼"の個性を持った存在であり、意図せずに人類に害を及ぼしてしまう者。

 故にヒーロー達に狙われてしまい、討伐され掛けてしまった。

 そして四肢を奪われて逃げ延びていた彼女の前に偶然、僕と巡り会い僕の血を要求して・・・・・いや、ちょっと待て。ここで僕はおかしな点に気付いてしまった。

 何故彼女はヒーロー達に敗北してしまったのだろうか? 確かにヒーロー達は強くはあったけど吸血鬼であるならば簡単に倒せる相手であったはずだ。

 実際、彼女の眷属に成り吸血鬼に成った僕は戦いの素人でありながらも勝利することが出来た。ましてや500年もの長い時を生きる彼女ならばヒーロー達を蹴散らすのは簡単だった筈だ。

 そんな彼女が何故、死ぬ寸前まで追い込まれたのだろうか?

 まるで自ら死の淵に追いやったかのような・・・・・・・・・ん? まさか!

 僕は一つの答えを導き出し、直ぐ学生塾跡に戻って行ったのだ・・・・・。

 

 

 

 

「戻って来たか。我が従僕よ」

 

 学生塾跡に戻って僕が最初に目にしたものは彼女の姿。学生塾跡の入り口の前で仁王立ちをしていた彼女の姿だった。

 先程と違い口元に付いていた血は無く、血まみれになっていたドレスも新品のように綺麗に元通りになっており、まるで僕を出迎えていたかの用にも見える彼女。

 

「人を食らったワシが怖いか? まぁ、当然じゃろうな。常人ならばあんな物を見てしまえば発狂してしまうじゃろう。何せわしは吸血鬼じゃからな」

 

 僕に向かって一方的に話し掛けてくる彼女。自分事をまるで化物のような言い回しをしているが、僕にはそれが不自然に思えてしまった。

 

 だから僕は・・・・。

 

「一つ聞かせて欲しい」

 

 僕は彼女に問いかけることにした。僕が抱いていた疑問を・・・・。

 

「あなたは・・・・死にたがっていたのか?」

「!?」

 

 そう、これが僕が彼女に抱いていた疑問の答えであった。

 圧倒的な力を有しさらに不死身とも言える肉体を持つ吸血鬼、その力を持った彼女が何故ヒーロー達に遅れを取ったのか?

 確かに相手はヒーロー・・・・その実力はもちろんの事、それ以外の戦術も戦略も一流であったけど、吸血鬼と言う圧倒的な力を持ってすれば難なく勝てる相手であったはずだ。

 現に戦いの素人である僕でさえ倒すことが出来た相手だ。

 それなのに何故、彼女は遅れを取ったのか? 答えは簡単だ。

 ・・・・・・・わざとやられようとしていたからに他ならない。

 

 それに、他にも疑問に成っている点はあった。

 

「あなたはどうやって僕を元の人間に戻そうとしてたんだ?」

「・・・・・」

 

 これが僕が抱いていた最大の疑問だ。

 そもそも吸血鬼となった僕が元の人間に戻れるのかがおかしな話であった。

 例えば目の前にいる彼女、キスショットは元は普通の人間・・・・つまり"無個性"であったと言う話だったが、何故彼女はずっと吸血鬼でいるのか? もし元に戻れるならば彼女を吸血鬼にした吸血鬼に戻して貰えばよかったはずだ。

 意地悪で元に戻さなかったのか、それとも元に戻す方法自体が無いのか・・・・恐らくこのどちらでも無い。

 前者であれば吸血鬼と言う強力な存在を敵に回すかも知れないからそんなリスクを犯すことはしないだろうし、後者の場合はその可能性は無くも無いけど、恐らく違う。

 ・・・・・戻れないのならば、開き直る事も出来るからだ。

 では何故か? ・・・・・それは吸血鬼と成った人間を元に戻すには大きなリスクが伴うからだ。

 この学生塾跡に辿り着くまでに僕は必死にその答えを考えて居たがここに到着した彼女の姿を目にした瞬間、その答えが導き出された。

 

 それは・・・・。

 

「あなたが死ねば・・・・僕は元の人間に戻れるのか?」

「・・・・・」

 

 僕の問いに彼女は何も答えなかった。つまりそれは正解を意味していた。

 恐らく彼女は僕に殺されようとしていたんだろう。

 僕と彼女は主従関係、彼女が主で僕が従僕だ。主である彼女が死ねば従僕である僕の吸血鬼性が消える。つまりそういうことだったのだ。

 だから彼女は僕の目の前で人を食らう等と言う行為を行ったんだ。吸血鬼と言う存在を毛嫌いさせる為、その吸血鬼である彼女自身を忌み嫌わせる為に・・・・。

 

「察しがよすぎる従僕じゃのう。・・・・そうじゃ。うぬの言うとおり、わしは死を望んでおった」

 

 彼女は僕の言葉を肯定した。そしてより詳しく話を聞くことが出来た。

 吸血鬼に成った彼女は、500年もの間、・・・・ずっと孤独の中で生きていたと言う事、化物と罵られながらずっと苦しい思いをして生きていた事、人から追われ、国から追われ、人を救う筈のヒーローからさえも狙われる人生。

 不死身であるが故に老いて死ぬことも出来ず、彼女にとって生きると言う事は苦しむと言うことでしか無かったのだ。

 孤独に耐えられないあまり、昔、一度だけ眷属を作った事があったらしいけど、その眷属は自分を吸血鬼にしたことを大層憎んだらしく、自ら太陽の下に赴き命を絶ったと言う。

 僕は二人目の眷属だったみたいだ。

 一人目の眷属を作ったのもこの国だったらしく、思い出があるこの国で死のうと思って居っていたらしい。

 

 だが。 

 

「いざ死ぬ瞬間になって死ぬのが怖くなってしまったんじゃ・・・・・」

 

 彼女は死ぬ直前に成って死ぬことを恐れてしまった。

 しかしそれは当然とも言える。人が自殺を図ろうとする時に躊躇し後戻りをするのと同じなのだから。

 そして彼女が死を恐れ、死ぬ直前に僕と出会した・・・・と言う訳だ。

 

「それじゃ、何故僕を眷属にしたんだ?」

「最初はうぬを餌としか見ておらんかった。じゃがうぬはそんなわしに命捧げてまで助けようとしてくれた。そんなうぬを殺すことは出来なかった」

 

 その言葉で僕は絶句してしまう。

 僕は最初、奪われた四肢を取り戻す為、利用するために僕を眷属にしたのかと思っていた。

 しかし、それは大きな間違いであったのだ。

 

「今までわしを助けようとした輩なんぞ一人も居りしなかった。お主が初めてじゃよ。わしを助けてくれたのは・・・・」

 

 彼女は僕に感謝をしていたのだ。

 僕は命を捨てて彼女を助けようとした。

 本当の理由は世間に対する唯の当て付けであったけど、命を捨て彼女の命を救おうとした僕に彼女は心の底から感謝の念を抱いていたのだ。

 

「わしとうぬの両方を生き残らせるために仕方なくうぬを眷属にしてしまったが、うぬは元の人間に戻りたいと言った。うぬを人間に戻すには主であるわしが死ぬしか無い。じゃからわしはお主の為に死のうとしたのじゃ」

「っ!」

「うぬの為ならこの命を捧げても良いと思った。じゃが、自分で死ぬ勇気も無かった。じゃからうぬに殺されるように仕向けたのじゃ。・・・・わざとわしを毛嫌いさせるように仕向けて」

「っ!!」

 

 それを聞いてしまった僕はまたしても絶句した。それと同時に涙を流してしまった。

 僕も"無個性"であった事でずっと孤独な人生を送ってきたけど、そんなものは彼女とは比較にならなかった。

 目の前の彼女は僕よりも遙かに苦しい思いをして生きていた。

 そんな彼女は僕なんかの為に命を捧げても良いと言ったんだ。

 そんな彼女を見て僕は感情を抑えることが出来ずに涙を流してしまった。

 彼女は化物なんかじゃ無い、人間だ。

 何処にでも居る友を求め孤独を嫌い、幸せを手に入れたい人間と何ら変わらなかったのだ。

 そしてハッキリと分かってしまった。

 僕はもう彼女を殺すことは出来ない・・・・・と。

 だから僕は彼女にそう告げた。

 

 だが。

 

「わしを殺せ! そうすれば、うぬは元の人間に戻れる!」

 

 僕の胸ぐらを掴みながら彼女はそう叫んできた。

 でも僕は彼女を殺さない・・・・いや殺せない。

 誰かの命を犠牲にして生きる何てことは僕には到底出来なかった。

 そんなことをするくらいならば、誰かのために死にたいし、吸血鬼として彼女と供に生きたいと言った。

 

 しかし、彼女は。

 

「この世は吸血鬼と言う存在を受け入れはしない! 吸血鬼のままでいればうぬもわしと同じ苦しみを味わうことになる! 禄に死ぬことも出来なく成るんじゃ!」

 

 彼女は聞き入れてくれなかった。

 彼女は最後まで僕の身を案じてくれて居たのだ。

 僕はそんな彼女を強引に抱き締めた。

 

「僕はあなたを殺したくない! そんなことをするくらいなら地獄に落ちたい!」

 

 僕は彼女を抱き締めながらひたすら叫ぶ。彼女を不幸にして生き残ることがどうしても出来なかった。

 

 彼女も・・・。

 

「頼む! わしを殺してくれ! もう生きるのも追われるのも辛いんじゃ! 生きて苦しむのも、苦しみながら死ぬのも嫌じゃ! なら責めてわしを救おうとしてくれたお主の為に気持ち良く死にたい!」

 

 彼女も僕を抱き締め、涙を流しながら叫んでくる。

 僕と彼女、互いに涙を流しながら抱き締め合い叫ぶが、その言葉はどうしてもすれ違ってしまう。

 互いに譲れない思い、どちらかが犠牲に成らなければ解決しない事態。

 僕と彼女は抱き締め合いながら涙を流し避け続けた。

 しかし、世の中は残酷だった。

 互いに抱き締め合い涙を流しながらも時は過ぎていき、夜明けが迫って来たのである。

 このままでは僕も彼女も太陽の光に焼かれ苦しみながら死ぬことに成るだろう。

 

 しかし、それは一つの解決策でもあった。

 お互い譲り合わず合えない思い、このまま一緒に死ねるならばこれはある意味円満な解決ではないのだろうか・・・・と。

 彼女もそれを察したのか、叫ぶ事を辞めてより強く僕を抱き締めて来た。

 僕もそれに答えて彼女をより強く抱き締め身を寄せた。

 一人で死ぬのは確かに怖い。でも二人ならば怖くは無い。

 そう言い聞かせて僕ら二人は朝日を待つのであった・・・・・。

 

 ――その時。

 

「いやいや、感動ものだね。感動しすぎておじさんも涙が流れそうだったよ」

「「!?」」

 

 そこで現れたのがアロハのおじさんこと忍野メメ、どうやらこの人は僕と彼女のやり取りを隠れて見ていたようだ。

 

「忍野さん! 彼女を救う方法を教えて下さい!」

 

 忍野さんの姿を確認した僕は直ぐに尋ねた。彼女を・・・・キスショットを救う方法を尋ねた。

 僕では幾ら考えても彼女を救う方法が思い付かない。しかし、忍野さんならば何か打開策があるのでは無いのかと直感で思ってしまった。

 吸血鬼である僕と彼女がこのまま太陽に焼かれて死ねばヒーローの立場に居る忍野さんとっては好都合の筈だ。

 人類にとって有害である吸血鬼を始末する事が出来るのだから。

 そんな忍野さんがこの状況で姿を現したと言う事は、もっと都合が良い解決策がある。

 そう踏んだ僕は慌てて忍野さんに訪ねたのだ。

 

 すると。

 

「そんなの簡単さ。・・・・君が彼女の不幸を背負えばいい」

 

 忍野さんは直ぐに答えてくれた。

 忍野さんが言うにはこうだった。僕と彼女の吸血鬼としての力は強すぎてこのままお日様の下で焼かれても死ぬことは出来ずに直ぐに次の日の夜を迎えてしまい、結局死ぬことは出来ない。

 そして、強力な吸血鬼、それも二人に成った吸血鬼をこのまま野放しにするも出来ない。

 この状況を打破するには僕が彼女を殺して元の人間に戻るのが一番手っ取り早い解決方法だったらしいけど、それを受け入れることは僕にはどうしても出来なかった。

 忍野さんもそれを察したみたいであり、こうして姿を現し解決策を持ってきてくれたようだ。

 

 その解決策と言うのが・・・・・。

 

「君が彼女の血を吸う・・・・つまりエナジードレインをして彼女の吸血鬼の力をギリギリまで奪う。そして彼女が弱まることで君も吸血鬼としての力をギリギリまで失わせ、君は限りなく人間に近い"吸血鬼擬き"の存在になる・・・・・ってことさ」

 

 吸血鬼擬き。

 

 吸血鬼は強力かつ有害であるために世界から忌み嫌われる。なら、吸血鬼の力を失わせ、無害に成ってしまえば追われることも命を狙われる事も無くなると言う事だ。

 しかしそれには一つリスクが伴ってしまうと言う。

 

「君がその人生を彼女の為にささげ生き無ければ成らない」

 

 僕と彼女は主従関係にある。

 吸血鬼の主従関係と言うのは人間と違って死なない限り決して切れるものではないらしく、お互い生き残るには僕が残りの人生を賭けて彼女を護って行かなければ成らないと言う事だった。

 

 それに対して僕は・・・・・。

 

「それでお願いします!」

 

 悩むこと無く即決した。

 この方法ならば彼女を救える。僕が人生を捧げるだけで彼女を救えるなら安いものだった。

 

 それに対して彼女は。

 

「何故じゃ!? 何故そんなことをするんじゃ!?」

 

 僕に向かって叫んできた。

 

「何故うぬはそうまでしてわしを助けようとする!? 何故そんな事が平気でできるんじゃ!?」

 

 彼女は忍野さんの解決策に即答し自分を救おうとする僕が不思議でしかたが無かったようだ。

 しかし、そんな事は僕にも解らなかった。

 どう考えても言葉が思い付かないし、考えるよりも先に動いてしまっていたのだから。

 しかし、一つだけハッキリ解ることがある。

 

 

「君は今でも・・・・助けを求める顔をしてる」

「!!」

 

 

 そうこれだ。

 彼女は今でも助けを求めている。彼女はそんな顔をしていた。

 彼女は本当は死ぬことなんか求めて居ないし、死ぬことを恐れている。彼女は唯、寂しがっていただけなんだ。

 何百年も孤独の中で生きて来た彼女、眷属を作った本当の理由も一緒に生きてくれる存在が欲しかったからに違いない。

 孤独がどう言う物なのかは僕も知っている。彼女に比べたら些細な物ではあるかも知れないけど、それでも知っている。

 

 だから僕は・・・・。

 

「僕が君を背負う! 僕が君のヒーローに成る!」

「!!?」

「一緒に生きよう。一緒に人生を生きて一緒に死のう。僕と君の命が尽きるまで僕が君のヒーローで居続けるよ」

「!!!?」

 

 僕は彼女に向かって思いの猛をぶちまけた。

 これが僕の答えだ。

 僕は彼女を助けたい。・・・・彼女を救いたい!

 そして、僕だけが彼女を救うことが出来る。

 

 だから、僕が彼女を・・・・目の前の孤独な吸血鬼を救わなければいけないんだ!

 

「だから僕に君を救わせてくれ」

「・・・・・・・・・」

 

 僕の言葉に彼女は何も答えなかった。

 しかし、何も答えずとも彼女の答えは理解出来た。

 彼女は僕を僕を抱き締めて来て、ひたすら震えて居たからだ。

 

 ・・・・・それは彼女が僕を受け入れてくれたと言う事だ。

 

「・・・・・血を吸うよ」

「・・・・(コク)」

 

 彼女は言葉は発っせずに、首だけを縦に振る。それを見た僕はゆっくりと彼女の首元に顔を近づけ、そして。

 

「『カプ』」

 

 彼女の首に噛みつき牙を差した。

 

「『スー、スー』」

「はあ、はあ」

 

 僕は彼女の血を吸った。血の味が口の中に広がっていった。

 彼女も僕を抱き締めていた力がどんどん弱まって行き、身体が小さくなって行く・・・・・。

 そして。

 

「はー・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

 

 彼女の血を吸い続けた僕は吸血鬼の力を失っていき、彼女も力を失って再び幼児かした。

 こうして僕と彼女は人間以上吸血鬼未満の存在になった。

 

 

 

 

 

 ~現在~

 

 

 

「そして今に至ると言う訳さ」

「台詞を取らないでください、忍野さん」

 

 忍野さんの言うとおり、そして今に至った。

 長々と語ってしまったけどこれが僕とキスショット・・・・今は忍野忍か? 忍との出会いの経歴だ。

 

 あれから三ヶ月の月日が経ち、彼女はギリギリまで力を失った吸血鬼、僕は限りなく人間に近い吸血鬼擬きの存在へと変わったのだ。

 忍のことに関しては忍野さんが政府に働きかけてくれて無害認定を受けることが出来、僕は今までのように中学生の生活に戻った。

 

 しばらくの間、学校を無断欠席をし行方不明に成ってしまって居た為、家にも学校にも大目玉を食らってしまったけど、まあ、当然だろう。

 自分でもいけないことをしたと思っているし、一様こじつけの理由として、ヴィランに襲われて憧れのヒーローに夢を否定されてしまった事がショックで家出をしてしまい、偶然出会ったヒーローに面倒を見て貰って居た・・・・と言う事にし、忍野さんもそれに協力してくれたお陰で何とか事を片付けることは出来た。

 

 そして復学した僕は、学校帰りに毎日この学生塾跡にやって来ては忍の様子を見に来ている。

 

 僕の血を与えているのは、彼女は僕と違って吸血鬼性がまだ強いらしく、ある程度の血を摂取しなえれば生きてはいけないらしい。

 人間で言うと水と塩みたいなものだ。

 だから僕が彼女に定期的に血を与えている。

 

 出来れば僕の家に彼女を招き入れたかったけど、まだ未成年である僕にはそんな権限は無く、無害認定を受けた彼女がこの国に住む為の手続きが必要という事であった為、今はこの学生塾跡で忍野さんの監視の下で暮らしている。

 

 無害認定を受けたことで彼女はこれまでのようにヒーロー達に狙われる事は無くなったみたいだけど、一つだけ問題に成っていることがあった。

 

「・・・・・・・・」

 

 あれから三ヶ月、彼女は一言も喋らなくなってしまった。

 

 ほんの三ヶ月前まではもの凄く高圧的な態度で喋っていた彼女だったけど、今は全く喋ろうとしない。

 僕が幾ら語りかけても返事を返さないし、忍野さんの言葉にも反応をしなかったのだ。

 何故喋らないのかは忍野さんにも解らなかったみたいだけど、それは決して僕を拒絶している訳では無かった。

 

「忍。・・・・隣、座るよ」

「・・・・・・・」

 

 僕は教室の片隅に座っていた忍の隣に腰掛けた。

 すると彼女は直ぐに僕に身を寄せ、身体を預けて来る。

 

「大丈夫。僕は君の側に居るよ」

「・・・・・・・」

 

 身を寄せてくる彼女に僕はそっと手を回して抱き寄せ、彼女に語りかけた。

 返事は返してくれないけど、態度で彼女が僕を受け入れてくれているのは理解出来る。

 言葉が無くとも心は繋がっている証拠であった。

 

「それにしても緑谷君。本当によかったのかい?」

「何がですか?」

「彼女を受け入れた事さ」

 

 忍野さんが僕に語りかけてきた。

 

「今回の事で吸血鬼と言う脅威を無くすことが出来た。ヒーローに犠牲が出たけど、円満に解決出来たといえるだろう。でもその代償に善良な市民である君の人生を台無しにしてしまった」

 

 どうやら忍野さんは僕の事を心配していてくれて居たようだ。

 

「彼女を見捨てれば君は何時だって元の人間に戻れるし、望んだ人生を歩む事が出来るんだよ?」

「答えは決まっています。今この時・・・・今のこの状態が僕が望んだ人生です」

 

 なんと言われようとも僕の気持ち変わらなかった。

 僕は彼女を助けたいと思った。心の底から救いたいと思った。

 だから、この人生を彼女の為に捧げる事に何の後悔も無かった。

 

「僕は彼女を一生背負って行きます」

「・・・・・そうかい」

 

 僕の言葉に忍野さんも納得してくれたようだ。

 僕はこれからの人生を彼女と供に生き、彼女の為に生きる。

 

 何故なら・・・・。

 

「僕は彼女のヒーローです」

 

 僕は彼女の・・・・忍野忍のヒーローに成ると決めたのだから・・・・・。

 




 傷物語のダイジェストはこれで終わります。本来ならもっと短くまとめようと思ったのですが、書いてく内に感情が高ぶってしまい、緑谷と忍がとんでもない方向に向かってしまいました。忍はともかくとして、緑谷に至っては最早原作の面影が無くなってしまっているとおもいますが、どうがご了承ください。
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