因みにこの話の時系列は結構不自然なところがありますがそこはご了承ください。一応輝針城終わった後です。(自然癒の異変が解決して、葉っちゃんが、生き残った感じですね)
葉は倒れてから一週間が経った。が、未だに彼女は目を覚まさない。
そんなある日正邪が看病を続けている時、正邪は霊夢に呼び出され神社を訪れた。そこには霊夢の他に白黒の魔法使いがいた。霊夢と同じように深刻そうな顔で俯いている。
「それで巫女。葉は一体どうしたんだ、あんたなら詳しい事情を知っているんだろ?」
霊夢はコクっと頷いた。
「ならば、教えてくれ。どうすれば葉を救える。私になにができる」
何時もの正邪らしからぬ真剣な態度。その姿勢に若干の戸惑いを覚えた霊夢はうーんと唸りながら頬を掻く。
「ここは手っ取り早く私が説明するぜ」
唐突に入ってきた白黒。がそんな事はお構い無しとばかりに話を聞く姿勢を取る正邪。
「まず、葉が倒れた理由。それは――――」
魔理沙は、正邪に説明した。過去の葉が関わった異変のこと。葉が植物を助けて欲しいと神社にやってきたこと。葉が優香によって作られた存在だったという事、葉のお姉ちゃんのこと。そして、異変の解決の仕方…………
それから暫くの間説明を聞き続けた正邪。魔理沙は一通りの説明を終えふうと一息つく
「――――まあ、これが今の葉が置かれている状況だ。そんな葉を幽香と霊夢が押さえつけてる状態だ。なんだけど……」
魔理沙がバツが悪そうな顔で霊夢を見る。
「そう、もはやそれも限界に近いの。幽香の見立だと次の満月だって……」
霊夢が静かにそう言った。
「なんだよ……それ」
徐に正邪の口からそんな言葉が漏れた。
「なんだよそれ! じゃあお前らは自分達のために葉を……あんな健気でバカなお人好しの妖怪かどうかもわからない様なやつに丸投げしたってことじゃないか。今は押さえてるからいい? そう言う問題じゃねえだろ。おい巫女、お前は異変解決が仕事なんだろ? だったらその異変をちゃんと解決して葉を救ってやれよ」
「私だってそうしたいわよ。でも、葉を救うことは不可能なのよ! 彼女の体の毒を抜けば体は力を失って消失する。かといって放置したら今度は力に飲まれて葉がなくなっちゃう。もう、私たちに出来ることは延命しかなかったのよ!」
「そんなことを知るか! だったらはじめからあいつにそんな使命を与えなかったら良かったんだよ。無理やりそんな事押し付けられて葉が可愛そうじゃ無かったのかよ」
正邪の怒気を孕んだ言葉に霊夢の勢いが止んだ。やがて、押し出すように口を開いた。
「……葉は無理やり使命を押し付けられたんじゃないわ。彼女は自分の意思でこの仕事を受け持ったのよ。毒と共に散る運命を自ら受け入れたのよ」
霊夢の言葉に正邪の勢いが止まる。
「もはや、彼女の死は免れない。悔しいけど、これしか方法がないのよ」
霊夢のすべてを諦めたような口調。となりの魔理沙もやはり何もい言わず空を見上げている。
「み、見損なったぞ巫女。貴様がその程度の人間だったとは思わなかったわ! いいだろう私がなんとかしてやる。お前たちにできなかった事を私は成し遂げ、必ず葉を救ってやる」
そう叫び、正邪は走って姿を消した。正邪が居なくなり二人だけになった霊夢と魔理沙はお茶でも飲むかと神社に入った。
「針妙丸~、悪いけどお茶淹れてくれる?」
霊夢は居候させている針妙丸に声をかけた。が、茶どころか返事すら帰ってこない。
「居候先が悪くて逃げ出したか?」
魔理沙が茶化すように言った。しかし霊夢は……
「いや、道を見失った小鬼に道を示す光になりに行ったのよ」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
結局その日正邪は諦めて家に帰った。家では恐らくまだ葉が寝ている、夕飯のため人里によろうと里を訪れる正邪。
「……今日の夕飯……なににしよっかな。葉は何か食べたいものあるだろうか」
ぼやくように呟く正邪。はあとため息をつく
「葉を救うなんて言っちゃったけど、正直何をすればいいのかわからない」
自分が放った軽はずみな言葉に今更ながら後悔が溢れてくる。もともと自分は天邪鬼で、他人を助けることなど今まで一度も考えなかった。他人の嫌がることしかしなかったから、葉を喜ばせるそして、救うために何をすればいいのか本当に浮かんでこなかった。
ふと、露天に目を向けた。そこは食器屋さんのようでたくさんの種類の食器が並んでいる。正邪はそれを遠巻きに見つめ、ひとつの食器に目を止める。それは自分がよく知っているものによく似ている。もう、逢えない……いや逢うことの許されない彼女の物に……
と、次の瞬間。目の前にあるその食器が僅かに動いた様な気がした。
正邪は不審に思いながら、それに近づく。
「………………」
ジーっと食器を見つめる。端から見れば幼い少女が食器をひたすらに眺めていると言う異様な光景だが、正邪はそんな回りの視線を無視しひたすらに食器を見つめ、そして……
ひょい……
食器を持ち上げた。
すると、きゃっと悲鳴をあげながら小さい少女がぶら下がった。
「……姫」
「……あー、正邪。久しぶり」
すると、正邪は彼女を机においた。
「それでは……」
ただ一言。それだけを告げその場を去ろうとする正邪。が、そんな正邪の服を小さい少女は懸命に押さえながら言った。
「ま、まって正邪。わたしは――」
「すみませんでした。姫。あなたを騙すようなことをして……」
正邪の言葉にお互いの言葉が止まる。祭りの祭り囃子が場違いな二人を強調する。
「こんなことを言えた質ではないですが、どうか姫は自分の道を歩んでください。暗いドブ道を歩くのは私一人で十分。ですから、この手を離してください。もう、あなたの邪魔はしたくない」
辺りの空間がシーンと静かになるように感じた。勿論錯覚だが、小さき少女は一向に手を離そうとせず
「やだ」
とだけ言った。一瞬正邪の顔が驚いたように目を見開く。
「謝るのは私の方。あのとき魔理沙にあなたが私を騙していると言われたとき、思わずあなたから逃げてしまった。でも、私は知ってたよ。あなたが私を騙して下克上しようとしていることは、知ってて付き合ってたの」
「……なんで、逃げなかったのですか」
すると彼女は小さく微笑み
「だって、あなたすごく寂しそうな目をしていたもの」
小さき少女。いや小さき反逆者少名針妙丸は小さい瞳で正邪を見つめる。強くはっきりとしたまっすぐな目で……その瞳に小さい涙の雫が溢れ出す。
「でも、私はあのとき逃げてしまった。分かってた筈なのに、いざ他人に言われると怖くなった。あなたのそばにいてあげようって決めた筈なのに……」
小さい滴がポタポタとこぼれ落ちる。正邪は彼女を手のひらにすくい顔の前に持ってきた。
「わたしは、結局弱かった。力なんかじゃない。心が……なにかを成し遂げるだけの強い思いが無かったのよ……ッー正邪!」
正邪から手を離して、着物袖で目元を拭う針妙丸。
「うあああぁあぁぁぁあん……ッツ……うあああああ――……」
正邪はそんな彼女を暫くの間見つめ、小さく呟いた。
「……姫……ではもう一度私と一緒に成し遂げてみせませんか?」
針妙丸が赤い目を正邪に向ける
「今度は騙したりなんかしません。下克上なんて大きい事ではありませんが、今私が一番成し遂げたいと思っているものです」
「……でも、私は……」
「私には、あなたが必要なのです。いつでも私に優しくしてくれるあなたが。小さいながらも頼もしいあなたが……
少名針妙丸が」
――――――
西の地、葉の家にて、やはりまだ目を覚まさない葉の隣で二人の元反逆者がいた。
「彼女を助けたいの? でも、これは……」
「分かっています。でも、私は彼女を助けたいんです。協力してくださいますか、姫?」
正邪が針妙丸を見る。針妙丸は葉と正邪を交互に見たあと、再び正邪に向き直り、頭の茶碗をかぶり直し、笑った。
「任せておきなさい」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
それから二人は、葉の日記から彼女が日課として行っていた役目を知った。
一つ目は、人里離れたこの家から里までの道にある植物の管理。および世話など。
たまに、里の子供が悪戯で枝を折っていく事があるので注意、と日記には記されている。
二つ目は、家の庭で育てている食用野菜の世話。出来上がった野菜は里の人々に配ったり神社にお供えしているそうだ。夏の今の時期は、茄子や胡瓜が美味しいらしく、庭では毎日野菜たちの大合唱が聞こえるらしい。無論天邪鬼と小人にはそんな声は聞こえない。
三つ目は、お姉ちゃんのお墓まいり。
里から少し離れ、山を登った見晴らしのいい崖に姉の「虹霓文花」のお墓があると言う。
日記から読み取れた彼女の主な役目はこの三つ。
二人は、意識を失ったままの葉が、いつ目覚めてもいいように、二人で手分けして葉の日常を守ろうと思った。
「待ってろよ。必ず葉を助けて見せるから」
ーーーーーー
そんな、二人の奮闘が始まって約三週間がたった頃突然葉の部屋から物音がした。
ドン、と言うなにかを叩いた音。
泥棒かと思い、二人は各々武器を持ち、葉の部屋の扉を開けた。
するとそこには
「あいたたたた」
ベッドの掛け布団と共に地面に落ち、痛そうに自分の頭を撫でる葉の姿があった……
ーーーーーー
「葉が、目を覚ましたんですって?」
いつもの紅白の格好をした巫女が、らしく無く慌てた様子で葉の部屋に飛び込んできた。
その時葉は、ベッドに座り看病中の正邪と針妙丸から、ジュースを手渡されていた。
葉は、霊夢を見るや否や、ババっと素早く立ち上がり
「はわわ、れ、霊夢さん。お、お久しぶりでしゅッ……噛んだ……えっと、あの私どうやら結構長いあいだ眠っていたようで、正邪さんと、そのお友達の針妙丸さんに看病していただいていたようで、あっ、正邪さんと針妙丸さん、大変お世話になりました。ご迷惑をおかけしました。霊夢さんにも、ご迷惑をおかけして本当にごめんなさい!」
勢いよく頭を下げた。その衝撃で頭の緑の帽子が取れそうになったが、葉は慌ててそれを元の位置に正す。
と、ここまでの一連を見ていた霊夢が、部屋の中を見渡して正邪たちを見た。
「あんたたち……」
低い声で、二人を見る霊夢。それに気圧され針妙丸が小さく悲鳴をあげる
葉が、はわわと慌てた様子でジタバタしている。正邪は霊夢に警戒して、針妙丸を隠す。
霊夢が、口を開く
「ありがとう……」
…………………………………………………………………………………
「「「えっ?」」」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
葉と正邪、針妙丸の3人が同時に声をあげた。
数時間後の神社にて
「なによあいつら、私がお礼したらいけないっての? 葉までまるでUFOを見たみたな顔でこっちを見るし、針妙丸はなんか笑ってるし、正邪は呆れてるし……ブツブツ」
ブツブツ言いながらお酒を飲む霊夢。その隣で、友人であり良きライバルの魔理沙が、同じく酒を注ぎながら笑う。
「そりゃなるだろう。なんてったってあの霊夢がお礼言うんだぜ? 私ですらびっくりするわ」
そう言って酒を飲む。
「でも、本当に嬉しかったのよ。葉を大事にしてくれる奴がいたことが、まぁ、異変の主犯の二人だって言うことはこの際目を瞑るわ。」
「それについては、私も同意見だ。私も葉を大事にしてくれる奴がいるのは嬉しいしな」
そう言いながら、魔理沙は自分の器に酒を注いで飲む。
そして、徐に器を地面に起き、言った。
「んで、霊夢。ここで酒飲んでる理由をそろそろ聞かせて欲しいんだが……」
魔理沙が、そういうと霊夢は瞬時に顔を真顔に戻した。酒の瓶を置いて話し出す。
「あいつが……鬼人正邪が、言ったのよ……」
「『葉を助ける方法を見つけた』ってね……」
生まれてこのかた、恐らく正邪は他人に喜ばれようと何かを頑張った事なんてなかったであろう(個人の意見です)
そんな彼女が、葉を助けるために奮闘する。
そして、ついに見つけた葉を助ける方法とは!