燃える。燃える。
意識が薄れゆく。体感する灼熱が薄れていく。
ただ一人の弟を目の前に残し、直接何かをしてやることも出来ず、少しでも助けになればと想い一言残すくらいしか出来ずに、私という存在が消えていく。
「姉さぁぁぁぁぁぁぁん!!!」
訪れる死を目前に、そんなクルスの声が聞こえたような気がして、そして――――
「――――ようこそ、死後の世界へ。アルカ・シルトさん、残念ながら貴女の人生は終わってしまいました」
――――気付けば、目の前に見知らぬ女が座っていた。
「何……?」
そこは先程までいた場所ではなく、黒く染まったどこまでも続く空間であった。
思わず首辺りへと手を動かしていたが、その事に私は驚いていた。そう、身体を動かせる状態であったのだ。
確かに私は死んだはずだ。しかし、今こうしてここに五体満足の状態で存在している。
これは、異常な事だ。
先程までの状況から今のこの状況へと移せる者はあの場にいなかった。
であれば間違いなく第三者によるもので、その第三者である可能性が最も高い人間が今目の前にいる。
水色の髪をした、どこか超然とした雰囲気を漂わせている女。
この女こそが、何らかの
「どうやら混乱しているようですね……ってあれ? あなた日本人じゃなくない? どういうこと? ちょっとー! これ書類間違ってないー? 日本人以外は私の管轄じゃないんですけどー!」
……その人物は急に上を向いて誰もいない黒い空間に声をかけだした。コイツ、頭がおかしいのだろうか。
先程まで醸し出していた超然とした雰囲気が一瞬にして消え失せてしまった。猫被ってたにしてもはがれるの早過ぎるだろう。
いやしかし私をここに連れてこられる可能性を持つ不確定要素は、今目の前のこの女しかいないのも確かである。
「なんで誰も返事してくれないのー? ええー? 本当にこれ合ってるの? どうみても日本から来た人じゃないんですけどー。どこかの世紀末覇者的世界から来た人にしか見えないんですけどー。返事しなさいよー」
……本当にこの女、なのだろうか……? 少し自信がなくなってきた。
だが、ここで何もせずにいても何もわからないままだろう。少なくとも目の前の頭がアレな女がひたすらに何もない上空に声を上げ続ける様を見ているよりかはマシなはずだ。
例えこの女でなかったとしても、何からの情報が得られるはずだ。
という事で私は目の前の謎の女に話しかけてみることにした。
「おい、貴様、何者だ?」
「ちょっとー、聞こえて……って、えっ……あっ……ごほん。――――私は水の女神、アクア。若くして死んでしまった者の魂を導く女神です」
「胡散臭い」
「うさっ……!?」
つい思った事が口に出てしまったが仕方ないだろう。
この女も先程の超然とした雰囲気を纏ってはいたが、先程までの奇行を見ていたせいか、完全に剥がれた鍍金にようにしか見えなかった。
しかもよりにもよって女神を名乗るとは……コイツが神ならばあの神父の方がまだ……いや、ないな。
しかし私の言葉に女の張り付けられたアルカイックスマイルはすぐさま崩れていき、駄々っ子めいた雰囲気でこちらを指さしながら文句を言ってきた。
「胡散臭いとかそんな痴女ルックな人に言われたくないんですけどー!!」
「痴女、だと……!?」
「そんな格好どう見ても痴女じゃない! どこの世紀末から来たのかしらねー! ププーッ!!」
「――――殺す」
「殺すとか強い言葉使っちゃってウケるんで……え、ちょっと目がマジなんですけど……冗談よね……!?」
――――私は衝動に任せて
☆ ★ ☆ ★
「あっつ! 何アンタ変な超能力持ってるの!? 私じゃなかったら死んでたわよ!!」
「まさか死なないとは……もっと出力を上げるべきだったか……」
「ひぃっ!? 殺意高過ぎ!?」
「……で、これはどういう状況なんだ? 早く説明しろ」
カッとしてやってしまったのは反省すべきだが、しかしこの女の能力を見れたのは幸いだった。
ヒートエクスプロージョンを大量の水を生み出す事で防いだ辺り、この女も
しかしこの能力であの状況を打破するのは不可能なように思えた。
あの状況で私が五体満足の状態を取り戻すには、最低でも再生能力が、さらにあの状況から逃れるための移動能力も必要になってくる。
それをこの目の前の女が持っていない事は能力者の原則から考えれば自明である。
とはいえこの状況において、この女が関わっていないとは考えられない以上、コイツは下っ端でその上に黒幕がいる可能性が高い。それを探る必要がある、のだが……。
「おほん、えーっと、気を取り直して……端的に言うとアンタは死んだのよ」
「死んだ……なら今私がいるこの場所は……いや、今の私は一体何だというんだ……?」
「ここは若くして死んだ魂が行き着く場所よ。アンタにもわかりやすく言えば天国とか地獄の手前辺りかしらね。そして今のアンタは魂だけの存在ね」
「……そう、か」
「あら? やけにあっさり納得するのね」
……このアクアとかいう女の言葉を鵜呑みにする事はできないが、あの状況から五体満足で何とか出来るとは思えない。今の私が死んだあとでなく死ぬ前の僅かな走馬燈を見ているような状態であろうと、変わりないだろう。
その場合の問題としては、この女神を自称するこの女は一体何者なのかという事なのだが……一先ずはコイツの妄言を前提として仮定して話を聞くしかない。
「それで、アンタの死因だけど……うわ、グロっ!? 首を切り落とされて、生きたまま頭燃やされるって……こんな死に方普通しないわよ。アンタ本当に日本で死んだの? やっぱり世紀末世界から来たんじゃないの? というかこれおかしくない? 首切られてるのに、生きたまま頭燃やされるって……あれ?首切られて生きてたのアンタ?」
「うるさい。で、何故その天国やら地獄ではなくその手前に私はいるんだ?」
「そう! それよ! ごほんっ! ……若くして死んでしまった貴女に示された選択肢は三つあります」
「その口調似合ってないな。違和感が凄まじい」
「はぁー!? 確かにちょっと堅苦しい感じはあるかもだけど、でもそれが女神らしい威厳になっててこの私にはピッタリでしょ!?」
「……フッ」
「鼻で嗤われた!? ムキー!!」
「説明するなら早くしろ」
声を荒立てて苛立ちを隠せずにいる女だったが、私が急かすと、その表に出していた苛立ちを一旦内に抑え込む。……まあ傍から見てても抑えきれてはいない、というかほぼほぼ出たままだったが。
「一つは、生まれ変わりね。文字通り、記憶を全部消して赤ん坊に生まれ変わるわ。その痴女みたいなセンスも治るでしょうね」
「誰が痴女だ」
「二つ目は、天国にいく事。でも天国っていっても何にもないわよ。お年寄りみたいにずっと日向ぼっこし続ける、ある種の地獄みたいなものね」
「それを自称女神のお前が言っていいのか?」
「誰が自称よ!」
それにしても碌な選択肢がない。何が悪いかと言えば何よりこの女の説明にこのどちらかを選ばせまいとするかのような悪意を感じる事だ。
「で、おすすめなのが三つ目なんだけど、聞きたい? 聞きたい?」
「早く言え」
若干ドヤ顔が漏れ出しているその表情にこちらの苛立ちが少し沸き立ってくるのを感じながら話の続きを促すと、女は漏れ出していたドヤ顔を隠すことなく曝け出しながらこう口にした。
「アンタ、異世界転生してみない?」
「異世界転生……?」
女の口からでた異世界転生という単語が、私は理解できなかった。なんだそれは? 生まれ変わりとは違うのか?
そんな私の疑念が表情に出ていたのか、鬼の首をとったように女は此方を嘲笑うように表情を変化させた。
「あ、そっかー。アンタ世紀末みたいな所から来たからそういう知識もないのねー。悪いわねー、気が利かなくってー、プスークスクス!」
「……」
コイツ、もう一回燃やしてやろうか……!
そう考えてスッと右手を上げるとそれに気付いた女がビクッと身体を震わして、笑うのをやめ、こちらを警戒し始める。
勘のいい奴め、と思いながら静かになったのならいいかと右手を戻すと女はホッと息を吐いて説明を続ける。
「アンタが元いた世界とは違う異世界に転生させてあげるって事! しかも身体も記憶もそのままの状態で!」
それは転生ではなく転移では……そう思ったが、続きがあるようなのでツッコミを入れるのを我慢する。
「さらに転生特典としてスゴイ武器とか能力とかを一つだけ持っていけるの! これはもう選ぶっきゃないわよね!」
前の二つの選択肢と違い、あからさまに三つ目を推してくる自称女神を怪しく思いながらも、私は自身の選択を口にする。
「生まれ変わりでいい」
「そうよね! 当然異世界転生を選ぶわよね! じゃあ特典を…………って、え?」
私の返答に対し、信じられないものを見るかのようにこちらを凝視する自称女神。仮にも女神を名乗るヤツがしていい顔ではない。
というより100%裏がある話を何故無条件に選ぶと思ったのか。まあそもそもそんな転生などという事が本当にこの女に出来るのかも疑問ではあるのだが……まあその胡散臭さがなくとも私の選択肢は変わらない。
「未練がないわけではないが、私のいた世界に戻れない以上意味はない。ならば記憶をなくして元の世界で新たな生を全うする方がいい」
「ちょ、ちょっと待って! ほら、今までの世界で出来なかった事とかがアンタ自身のままでできるのよ? だったら絶対選ぶべきは異世界転生でしょ?」
「私にはそこまで魅力を感じられない。生まれ変わりでいい」
「待ってよ! お願い! ノルマが足りてないのよー!! あともう少しでノルマ達成で昇給圏内に入れるの!! だから異世界転生してよー!!」
自称女神の勧誘を頑なに断っていると、女の口からポロっと本音が出てきた。
「……昇給?」
「あ……」
私がそれを軽く追求すると、自称女神はまるで「やっちゃった……」みたいな表情を浮かべていた。
私は徐に右手を目線の高さまで持ち上げた。
「話せ」
「……はい」
☆ ★ ☆ ★
「つまり、その転生する世界には魔王軍ってのがいて、人類側がだいぶ押されてるの。しかもモンスターなんかもわんさかいるから悲惨な死に方をした人間がそんな過酷な世界に転生したくないって、転生を拒んじゃって……それで、その世界における人間の魂の数のバランスが崩れちゃって……だから異世界転生に興味のある地球世界の日本人の若者を代わりに送り込んでバランスをとって、ついでにすぐに死なないように特典を与えて魔王軍を倒して貰ったらいいんじゃないかって……あっ、別にわざとこっちで殺してるわけじゃないわよ! だから、ね。少しでも強い人が異世界転生してくれたら、それだけ人類のためになるの。……だからいっぱい送ったらそれだけ私のお財布のためにもなるし。そんなわけで、向こうの世界には貴女の力を待ってる人がたくさんいるのよ。だからお願い! 異世界転生してくださーい!!」
……コイツ、自分の昇給とか自己中心的な理由を棚に上げて世界の為だとか嘯いている……自称女神どころか、駄女神、あるいは屑の女神と言った方が適格なほどヒドイ性格をしているぞ……! コイツの為になると聞いた時点でもう受けたいとは思えなくなってくる。
それにしても、生まれ変わり、天国、そして転生……荒唐無稽な話ではある。
これならば、ここが死後の世界と言われるよりも、精神系能力者によって幻覚を見せられていると言われた方が納得がいく。
しかしあの状況で私に幻覚を掛けるメリットが存在し得るとは思えない。
……話を聞いても何ら現状を理解できない。果たして本当にここが死後の世界なのかとも思えてしまう……目の前の自称女神な駄女神を除けば、だが。いや逆にコイツがそこまで自然に私に嘘を気付かれないほどの腹芸ができるとは思えないしあるいは……。
しかし、もしも今までの話が事実だったとして、異世界転生において与えられる特典……その権利を用いれば、あの後クルスがどうなったのかも知る事ができるんじゃないか? ダメ元でも聞いてみる価値はあるかもしれない。
「……その特典で私の希望が叶えられるのなら、異世界に行っても構わない」
「――――! なになに!? 私にできることならするわよ! あ、でも何でもは無理だからね!」
私の発言に駄女神は食いついてきた。まあノルマがどうと言っていたのでこの女の性格からして絶対食いついてくると確信していたが……一先ずこちらの要求を突き付けてみることにした。
「クルス……私の弟が、私が死んだあとどうなったのか、知りたい。それを特典とすることはできるか?」
「え……? う、うーん……元いた世界の、しかも未来の事を教えるのはちょっと規則的にアレなのよねー……でも特典としてって言われたら……」
想像以上に渋い反応、しかし揺れているのも確かである。少し押し込めばあるいはできるのではないか……という手応えを感じた。
「何もクルスの今後全てを見せろと言ってるわけじゃない。今アイツが巻き込まれている騒動が終わるまでで構わない」
「ぐ、ぐぬぬ……でも、規則的に、ね?」
「はぁ……なら普通の生まれ変わりで」
「わぁぁぁぁっ!? 待って! ちょ、ちょっと待って! 上に掛け合ってみるから! ちょっと待ってなさいくださいお願いします!」
そう言うと慌てたように駄女神は少し離れた所で電話のような端末を取り出してどこかに連絡を取り始めた。
……もし、これが本当に可能であるのならば、最早コイツの与太話が真実であると信じるしかない。
そう思いながらペコペコと頭を下げながら連絡相手と交渉をしている女の姿を眺めていると、交渉が終わったのか連絡に使っていた端末を仕舞ったあと、こちらに対し自信満々な笑みを浮かべていた。
「ふふふ、喜びなさい! 今回は特例として、特別に見せてあげるわ! 私に感謝しなさい!」
見事なまでのドヤ顔ではあるが、さっきまでペコペコ頭を下げていた姿を見ていた身としてはそんなに自信に満ち溢れた表情を見せられても、腹立たしさよりも滑稽さが勝る。
「あ、でもその代わり転生特典はなしになっちゃうけど……いいの?」
「構わない。私には
「……アンタ自分の能力のことをフラグメントなんて呼んでるの? もしかして中二病?」
「断じて違う」
「まあ自分で認めるのはつらいものね。っと、それはさておきさっさとしちゃいましょう」
そう言ってアクアが指を指し示すと、何もない空間に光の窓が現れる。それは映像を映す液晶画面のように思えた。
「よし、と……これでアンタの弟がどうなったか見れるわよ」
「……水以外にも能力があるのか……」
「まあ私の権能的にちょーっと外れてるから他から借りてるんだけど……」
ここまでくると認めざるを得ない。コイツは単なる
……ただ今までのコイツの言動からこれが女神であるというのは認めがたい事ではなるが。
「じゃあさっそく見ていくわよー!」
「貴様も見るのか……」
「当然じゃない! あとで見てないから異世界に行かないとかイチャモンつけられたりしたらたまったもんじゃないし! あ、ちょっと待って。ポテチと飲み物取ってくるわ」
「おい」
☆ 観 ★ 賞 ☆ 中 ★
「よしっ! 映ったわよ! とりあえずアンタと魂の波長の近い相手を映しているわ。これは……多分妹さんね。可愛い子じゃない。で、肝心の弟は? 近くにいるの?」
「ソレが弟だ」
「…………え?」
☆ 観 ★ 賞 ☆ 中 ★
「え? アンタ本当は山田っていうの? なのにシルトなんて名乗るなんて……ぷぷー! 山田アンタやっぱり中二病から卒業してなかったのね!」
「貴様に一つ言おう……我々の名字は山田ではない……!!」
☆ 観 ★ 賞 ☆ 中 ★
「ちっちゃい山田大行進!?」
「だから山田ではない!」
「え? というかあれ妹? いっぱいいすぎじゃない? 山田大家族?」
「違う」
☆ 観 ★ 賞 ☆ 中 ★
「神~!? この私を差し置いて神を名乗るなんて! なんて烏滸がましいヤツなの!?」
「貴様よりはまだ神らしいと思うが」
「そんなわけないじゃない! どうせアイツらろくなやつじゃないわ! きっと変態よ変態! 多分ロリコンね! それも極度の!!」
「…………」
☆ 観 ★ 賞 ☆ 中 ★
「まさか、そう言う事だったのか……!?」
「え? ちょっと待って。どういうこと? 全然わかんないんですけど……どういう事よ説明しなさい山田!」
「だから山田ではないと……!」
☆ 観 ★ 賞 ☆ 中 ★
……そうして、紆余曲折の果てに、クルスたち神父陣営は、機転と運を利かせた事で、黒幕陣営を圧倒、『全能者』となった神父によって黒幕が倒され、クルスたちの勝利は揺るぎないものとなった。
『全能者』となった神父は想うだけで世界を塗り替えられる、まさしく神の如き力を得るも、それも行使できるのもあと僅かな時間のみ。あの神父がその僅かな時間で何を願うのか……気にならないわけではないが、それ以上に私はクルスが生き残り乗り越えた事に安心していた。
「よかった……」
ブラックスポットにおいて人の命の価値は軽い。もしかしたらこの後すぐにでも死に瀕してしまうかもしれない。
けれど、今のクルスならばそう簡単に挫けはしないだろう。
決して能力がどうという話ではない。頼りなく守るべき相手だったあのクルスが、特に精神的に強くなった。
もう、未練は晴れた。クルスは私がいなくても何の心配もない。
アイツも、もう立派な男になったのだから…………
『 山 田 が 女 の 子 に な れ ば い い の に !!!! 』
………………………………………え?
その言葉とともに何かクルスの身体を閃光のようなものが穿った。
怪我はないようだが、かすかに煙が立ち込める自身の身体……下半身をクルスが恐る恐る確認するが、すぐに絹を裂くような声が上がった。
『いやあああああああ!?
「 」
……ちょっと待て! 一体どういうことなんだ……!? 理解が追いつかない……!?
あ、ありのままに今起こった事を整理するぞ……! クルスが一端の男になったと思ったら、クルスが男でなくなっていた。な、何を言っているのかわからないかもしれないが、私も何を言っているのかわからない……!?
「――――はーい、ここまで!」
「……え?」
余りの予想外過ぎる出来事に私が混乱していると、隣の自称女神によって映像が途切れた。
「いやー、私頑張った! 見せていい時間ちょっとギリギリ超えちゃった気もするけど、誤差の範囲内って事で……まあバレなきゃセーフよね!」
「あ、あの後、どうなったんだ!? クルスが、え!? クルスが!?」
「特典としてはここまでね。残念だけどここから先は見せられないわ。いやーしかしまさか弟が妹になるなんて、この水の女神の目を持ってしても見抜けなかったわ」
「戻るのか!? アレ、戻るのか!?」
「私も気になるけど、さすがにこれ以上はバレて減給されかねないから……」
「そこを何とか! 何とか!!」
「いやだからできないって言ってるじゃない。ああもう……!」
食い下がる私から駄女神は少し距離を取ったかと思えば、最初に被っていた最早鍍金としてか思えない超然とした雰囲気を纏い、性格を知った今では違和感が尋常じゃないようなお淑やかな笑顔を浮かべて、こう口にした。
「――――では今から貴女を異世界に送ります。その円から出ないように」
「おい! 無理矢理に話を締めようとするんじゃない!? 話はまだ終わって……!?」
気付けば魔法陣のようなモノが私の足元に現れて、さらにその円に合わせるように障壁のようなものまで展開されてその円から出られなくなっていた。
「円から出ないようにって、貴様これ出す気ないだろうが!?」
魔法陣が光り始め、それに伴い身体が浮かび上がる。それでも叫ぶ私を気にすることなくあくまでさっさと仕事終わらせようとばかりに駄女神は〆と言わんばかりに口上を述べていった。
「――――さあ勇者よ! 願わくば、数多の勇者候補達の中から、貴女が魔王を打ち倒す事を祈っています! 魔王を倒し世界を救った暁には、貴女の望みを一つ叶えて差し上げましょう!――――さあ、今こそ旅立ちなさい!」
その言葉を切っ掛けに魔法陣の輝きが増し、私の身体はどこかに吸い込まれるかのような感覚と共にその空間から離れていった。
「ふ、ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁ!!」
――――そうして私は、新たな未練を抱えたまま新たな世界へと降り立つことになったのだった。
続かない