Summer Pockets蒼ルート SS   作:早崎いるか

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お祝いのその後とリハビリ(2話)

蒼と藍のお祝いのパーティーが終わった後、俺とのみきは蒼と藍の車椅子をそれぞれ押しながら診療所まで送り届けることになった。

 

藍が男の子より可愛い女の子に押されながら帰りたいといった時、良一と天善は分かっていたことなのだろうが、少し落ち込んでいた。

しろはは料理の大半を用意したこともあって、疲れているだろうと藍が遠慮した。

 

 

そう言えば、蒼もいつだったか好きなタイプは可愛い女の子って寝言で言ってたな……。

そういうところも似てるのはさすが姉妹といったところか。

 

蒼と藍の背中を見ているとなんとなく微笑ましくなった。

 

そんな視線に気づいたのか二人は同時に振り返った。

 

のみきに車椅子を押されながら、藍はこちらをみて少しニヤりとした。

 

「羽依里さん、寒くないですか?」

 

 

「あぁ、誰かさんに服びしょぬれにされたからな。もちろん寒いぞ……」

 

本当のところ少し湿っているだけで、そこまで寒くはなかったが、オーバーに寒そうなリアクションをして見せた。

藍は冗談と理解したようで、笑ったままだった。

 

「それより蒼は寒くないか?夏とは言え、夜は冷えるし……」

 

「別に病み上がりってわけじゃないから……。大丈夫よ?」

 

少し首を傾げて蒼はなんでもなさそうに言った。

 

「いやいや、体力も落ちているだろうからあんまり無茶したら駄目だぞ?」

 

体調がもとに戻るまでは少なくとも過保護になってしまう。

蒼に無理して欲しくないから。

もう蒼と離れたくないから。

この夏は蒼とずっと笑いあっていたいから。

 

「そ、そう?じゃあ、その……、ちょっとだけ寒いかも……」

 

「分かった。ちょっと待ってろ」

 

持ってきていたタオルケットを蒼に掛けてやる。

 

「……ありがとう……羽依里」

 

蒼はやわらかく微笑んだ。

なんだか少し気恥ずかしかったが、悪くない気分だった。

 

そんな俺たちを二人が串ざすように見ていた。

のみきは少し顔を赤らめながら、藍はジト目で。

 

「コホン……、今さらなんで聞いてなかったが、今はもう恋人同士なんだな……?」

 

のみきは赤面しつつもそう確認してきた。

 

「こ、こここ恋人だ」

「こ、こここ恋人よ」

蒼と2人して声が上ずってしまった。

改めて口にするのは恥ずかしいな。

でも、しっかり言っておきたかった…。

その事実を確認したい気持ちはあったから。

 

1年前……、「ほぼ恋人」と答えた時のことを思い出した。

蒼が長い眠りにつく前に恋人ということにはなっていたが、のみきたちにはちゃんと言っていなかったな。

 

「ふむ……。まあだろうとは思っていたが……」

 

のみきは確認するように頷いた。

 

「そうか〜。恋人か〜」

 

頷いた後、天を仰いでそう感慨深そうに言った。

 

そして沸騰したように赤面して倒れた。

 

まだ免疫がついてなかったのか……。

 

**********

 

「ふむ、じゃあ私たちはおじゃま虫だな。行くぞ藍」

 

回復して開口1番そんなことを言い出した。

 

「え?みきちゃん?」

 

俺より速いスピードでのみきは車椅子を押していく。

藍も想定外だったのか少し驚いた顔をしていた。

のみきに押されて少し遠い距離まで藍は運ばれていった。

 

「あおちゃーーーーーん」

 

藍は大袈裟にこちらに手を伸ばして叫んだ。

行き別れるわけでもあるまいに。

 

「送り狼には気をつけてーーーーー!」

 

「襲わないわーーーーーー!」

 

そんなコントをして藍は満足したのか大人しく運ばれていった。

 

「お、送り狼……」

 

「羽依里がもし……お、襲いたければいいわ、よ?」

 

またエッチな妄想をしたんだろうな…。

 

「襲わないよ」

 

「なんで!?」

 

「なんで、じゃないよ。もう少し体調が安定するまでそういうことはしない方がいいだろ?」

 

「どれだけ激しいことをするつもりなの……!?」

 

「そういう意味じゃないよ!」

 

出会った時のやり取りが懐かしい。

蒼とのこういう会話って、ちょっと疲れるけど楽しいんだよなぁ。

 

「蒼とその……したいって気持ちは俺だってもちろんあるけど、蒼に負担をかけてしまうかもしれないことはなるべく避けたいんだ。蒼のことが大事だから」

 

愛した相手とやっと笑い合えるんだ。

もちろんそういう気持ちだって湧いてくる。

それでも……。

 

少しむくれていた蒼の顔が、にへらと綻んでいた。

 

「あたしが……大事。えへへ」

 

蒼のこの笑顔を見るとこっちまで嬉しくなってくる。

 

**********

 

診療所に着く前に話しておきたいことがひとつある。

 

「これからリハビリ頑張ろうな……?」

 

「うん……」

 

藍のリハビリを見ていると、リハビリにはかなりの気力が必要そうだった。

 

お役目の時と同じで俺には心の支えになってやれることしか出来ないけど、それで蒼の力になれるなら俺はいくらでも蒼の心に寄り添っているつもりだ。

 

「羽依里……。その…ありがとね」

 

なんとなく考えていることが分かったのか、蒼がそんなことを言った。

 

「彼女の力になりたいって思うのは当たり前のことだろ?」

 

そう当然のことだ。でも蒼は少し首を振って言った。

 

「うんうん…。それだけじゃなくて、あたしを見つけてくれて、藍を見つけてくれて、あたしにずっと会いに来てくれて…。好きになってくれてありがとうっ…って…」

 

蒼は泣いていた。

 

「そんなこと……」

 

「羽依里がこの1年間の想いも伝えてくれたから、あたしも…伝えたかったの…。また会うことが出来て…。また羽依里と話せて…。本当に嬉しかった…」

 

涙が零れる。

蒼が目覚めてから何度泣いたか分からない。

 

今年の夏はもっと笑って過ごそうって決めてたんだけどなぁ……。

 

それでも涙は出てきた。

悲しさからではなく、幸せに押し出されるようにして。

 

「…その…これからもよろしくね。羽依里…?」

 

「ああ、これからもよろしくな……蒼…!」

 

泣きながらも力強くそう返した。

 

**********

 

二人とも涙を拭ってからまた歩き始め、ようやく病室に着いた。

 

「やっと帰ってきましたか……」

 

藍が待ちくたびれたという風にこちらを見た。

先に着いていた藍とのみきは何やら水鉄砲を弄り回していた。

 

「何してるんだ?」

 

「みきちゃんの水鉄砲を少し改良しようかと」

 

「またろくでもないことを……」

 

藍は蒼のために病室での花見を企画したこともあった。

頭はいいんだろう。

ただ、悪知恵も働くのが玉に瑕だ……。

あの時怒られたのは俺だけだったしな。

 

「藍の改造は確実に威力が上がるから助かる」

 

のみきは目を輝かせていた。

 

そう言えばいつもより撃たれた時の痛さがましていた気がする。

 

「ほどほどにしておけよ?」

 

返事はなかった。

こちらの声はもう届いてない。

どれだけ集中してるんだ…。

 

蒼をベッドまでおんぶしてベッドに寝かせた。

 

俺ものみきと一緒に少し病室にいることにした。

 

「蒼、今欲しいものとかないか?」

 

明日からリハビリも始まるが、病室では少し暇だろうし、俺が泊まり込むわけにもいかない。

 

「そうねー。じ、じゃあ…その、帰る前に抱きしめて欲しぃ…です……」

 

そんな恥ずかしいことを要求された。

 

「ほ、ほんとにそんなのでいいのか?他に暇潰せるものとかいらないか?」

 

「だって、昼間は羽依里来てくれるし…。夜だって藍が隣にいるから大丈夫よ?特に今必要なものもないし……」

 

そっか暇なんて今はできないか。

まだまだ俺だって話したいことはあるし、藍だって蒼だってそれは同じだろう。

 

「それとも、あたしのこと抱きしめるの……嫌?」

 

上目遣いでそんなことを聞いてきた。

蒼のその聞き方は本当に反則だ。

 

「そんなわけないだろ!俺だっていつでも蒼を抱きしめていたい!」

 

無駄に大きな声になってしまった。

 

 

「二人ともよくそんな恥ずかしいことを人の前で言えるな…」

 

「はっ!」

「はっ!」

 

俺と蒼が気づいたように横を見ると、

のみきと藍がこちらをじーっと見ていた。

 

「はぁ、蒼ちゃんと羽依里さんのそういうところは見ていて楽しいですけど、もう少し人目のない所でした方がいいですよ……」

 

蒼と俺は恥ずかしさでこの場から走り去りたい気持ちでいっぱいだった。

 

**********

 

「できました」

 

藍がのみきの水鉄砲を改造し終えたようだ。

そんなに時間は経っていないが、なんとなくすごい威力になってそうなことは分かった。

 

「ハイドログラディエーター改マークIIだな!」

 

のみきがまたよく分からない名前をつけていた…。

 

「その水鉄砲の名前の過去の迷走具合からすれば大したことないわよ……」

 

蒼が何か思い出したように頭を押さえてそう呟いた。

 

「必要な過程だったんだ……」

 

のみきはどんな名前を付けていたんだ…?

少し気になったが長くなりそうな気がする…。

もう夜も更けて来たから帰った方がいいだろう。

蒼も眠そうだし。

「それじゃあ、俺たちは帰るか」

 

「そうだな。長居して申し訳ないな」

 

俺とのみきは椅子から立ち上がった。

 

とその前に。

 

「のみき先に出といてくれ」

 

「ん?……ああ」

察してくれたようだ。

 

藍も少し目を逸らしてくれていた。

 

「蒼、おやすみ」

 

優しく蒼を抱きしめた。

しっかりと重みのある温かさを感じた。

 

「羽依里……。おやすみ」

 

一言分だったが、短かったが、幸せな気分になれた。

 

「藍もおやすみ」

 

「羽依里さんもおやすみなさい」

 

藍にも挨拶して帰ることにする。

 

「蒼。じゃあまた明日な」

 

「うん、また明日」

 

顔がにやけていたかもしれない。

でも仕方ないよな?

 

**********

 

その日はそのまま加藤家に帰って眠った。

夢の中には蒼と色んなことをしている俺の姿があった。

リハビリも落ち着いたら、こういうことをしてもいいな。

未来への期待が膨らんで行った。

 

**********

 

朝起きて鏡子さんの分も朝食を作ることにした。

この1年間で俺は料理がそれなりに出来るようになった。

蒼の料理をいつか食べた時にお返しが出来るようにしたかったからな。

 

「なんだか本当に頼もしくなったね」

 

鏡子さんは俺の料理を食べながらそう言ってくれた。

まあ、蒼だけじゃなくて、単に鏡子さんの食生活が不安だったってのもあるんだけど……。

泊めさせて貰ってる身なんだから、これくらいはしないとな。

 

ただ、1年間ちょくちょく顔を出してはいたが、鏡子さんの料理が上手くなる兆しはなかった……。

 

皿を洗ってすぐに診療所まで向かった。

 

ここ最近俺が家を出ると、鏡子さんは満面の笑みで微笑んでくる。

耳年増と言ったら…怒られるんだろうな…。

 

「ポン!」

 

「お、イナリ!」

 

昨日はパーティーでたらふく食べたせいか食堂の近くの草むらでイナリは眠ってしまっていた。

まあもともと野生だし、そんなもんなんだろうなと思ったが。

 

「一緒に蒼のとこ行くか?」

 

「ポンポーン!」

 

こいつも蒼を見つけるために1年間頑張ってくれたんだ。いつかなんかお礼をしないとな。

**********

 

程なくして診療所に着いた。

イナリはいつも通り診療所の傍で丸まった。

またいつかイナリを持ち込むかな。

イナリばかりここで待ってもらうのも何か申し訳ないし…。

 

そんなことを考えながら蒼の病室をノックする。

 

コンコン

 

「どうぞー♪」

 

なんとなく俺と分かったのか少し声のトーンが上がっていた。

 

「おはよう。蒼」

 

「おはよう。羽依里♪」

 

なんだか上機嫌だ。

 

「あのね、なんだかとても幸せな夢を見たの」

 

なんだろう。

もしかして同じ夢を見たのかもしれないな。

 

「そっか…。俺も今日は蒼が出てくる幸せな夢を見たんだ。その夢を現実にしたいって俺は思ったよ」

 

「羽依里も!?」

 

驚きつつもなんだか繋がりあってる感じがして嬉しかった。

 

「ところで藍はリハビリか?」

 

「うん。そのあとあたしがリハビリをするわ」

 

藍が病室に居ない時なんてリハビリ以外に知らないからもはや確信はしていたが…。

 

「初めてのリハビリか。まああんまり気負う必要は無いんだろうけどな」

「そうよ?数ヶ月頑張れば駄菓子屋の看板娘は復活するんだから」

 

蒼はそう言ってウィンクした。

ちょっとずつではあるけど、元気を取り戻している気がする。

しおらしい蒼も可愛くて好きだけど、元気な蒼を見ていると、楽しくなって嬉しくなって、愛おしく感じる。

 

「何やら甘酸っぱい匂いが。あ、やっぱり羽依里さん、来てましたか……」

 

「やっぱりってなんだ」

 

藍がリハビリから帰ったようだ。

 

「毎日蒼ちゃんとあんなやり取りしてればなんとなく空気感で羽依里さんがいることくらい分かります」

 

そういうものなのだろうか。

まあいいか。

なんとなく悪い気はしないし。

 

「ところで次は蒼のリハビリか?」

 

「そうですね。リハビリの先生も後ろに来ています」

 

優しそうなリハビリの先生が入ってきた。

 

「空門蒼さんと…君が鷹原羽依里くんね」

 

「俺の事も知ってるんですか?」

 

「この島じゃ有名よ?」

 

まあ1年間恋人のもとに毎週通いつめてたら、そうなるか……。

 

「まあそれは良いとして、蒼さんのリハビリなんだけど、鷹原さんにも手伝って貰おうかなって思ってるの。やっぱり2人で補助できた方が安全だしね」

 

「本当ですか!?是非お願いします!」

 

蒼のリハビリを手伝えるなら願ってもないことだった。

 

「じゃあ早速だけど、リハビリに使う部屋まで案内するわね」

 

「分かりました!」

 

俺は蒼をおんぶしてゆっくり車椅子に座らせた。

 

「行ってらっしゃい、蒼ちゃん。羽依里さんも蒼ちゃんのこと、よろしくお願いします」

 

「ああ、任せとけ」

 

「行ってくるわ、藍」

 

藍は蒼から向けられる笑顔に優しい笑顔で返した。

 

**********

 

リハビリはいくつか種類があるそうで、ベッドでは体を起こしておくこともリハビリの一環になるそうだ。

部屋を移動してやるのは歩く練習で、俺は今、歩いている蒼の手を引いている。

 

お役目の時よりも蒼のためにしてやれることが多くて少し嬉しかった。

 

「蒼、大丈夫か?」

 

「う、うん。羽依里がしっかり手を握ってくれてるから…」

 

なんだかんだ起きている蒼の手を握ったのは久しぶりだ。

移動する時は車椅子だったし、手を繋いで歩くことも今は無かったからな。

 

俺よりも少し小さく柔らかい手は運動をしているせいか、ほのかに暖かかった。

 

女の子の手って握ってるだけでちょっとドキドキするな。

 

蒼だからかもしれないけど。

 

それにしても…。

 

「蒼、結構ちゃんと歩けてるんじゃないか?」

 

「そ、そうかしら?」

 

確かにまだちょっとおぼつかない感じはあるが、藍の時よりはだいぶしっかり歩けているように思う。

 

「それは多分藍さんと鷹原さんがずっとマッサージをやってくれていたからだと思うわ」

 

「そっか…」

 

専門家なだけに信じられる言葉だった。

1年間蒼のためにしたことがこういうところで感じられるのは素直に嬉しい。

 

「羽依里、ありがとう」

 

何より蒼の感謝の言葉が俺には最上級の喜びになる。

 

「藍にも言ってやれよ?」

 

「もちろんよ」

 

少し休憩を挟みながらも今日のリハビリはつつがなく終えられた。先生曰く、リハビリに慣れてきたら、器具を使って外を散歩するのもいいとの事だ。

 

リハビリ中だけど、久しぶりに駄菓子屋に顔を出すのもいいかもしれない。

 

今はただただ楽しみだった。

これから蒼のリハビリを手伝えることも。

数ヶ月したら、また駄菓子屋で駄べるような日々を送れることも。

 

 

~続く~

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