老練少年兵と氷川さん   作:ちりめ

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おっそいね、なんだよこいつ


目的とは

ふと、ある日、自身の無力感を突然覚えることなどないだろうか

 

格好つけだと思われるかもしれないが、意外とあるはずだ。勿論、今、この瞬間、俺はそれを感じている

 

「……」

 

携帯についている着信の相手だ、電話するというときには大抵文句があるし、それをここにいるやつらに聞かれたくはない、事情が事情なのだ

 

「いーのー、タカさん、でなくて?」

 

日菜の訝しげな視線とやけに冷たい言葉

なにかしら気分を害してるのは間違いないが、なぜなのかわからない

言ってくれない分にはどうしようもないので、コールを続ける携帯の受話ボタンをスライドし、電話にでる

 

「もしもし?」

 

「…やっとでた、兄さん。遅すぎ」

 

「そう生き急ぐなよ」

 

「急いでない、あんたがのろまなの」

 

「ごもっとも」

 

画面越しにはぁとため息をつくのがわかる

呆れられるのはわからんでもないが、酷く傷つくので優しくしてほしいのはある

 

「なにか用か?」

 

「生存確認。父さんが煩いから」

 

「世知辛い世の中だな」

 

「うっさい、大学はどうなの?」

 

「もう二年だ、一年のときに聞けよな」

 

「いっつも聞いてるじゃない、卒業するまでしか言ってもらえない言葉でしょ?」

 

最初と比べたら少しは穏やかになった口調で話を続けてくれているあたり、いつも通りだ、そう、いつも通り

 

「そう言われると勝てないな」

 

「…なにがしたいの、卒業してから」

 

「これから考える。じゃな」

 

「あっ、ちょっと」

 

義妹が全てを言い終わる前に切ってしまった。今度帰るのが怖いよ

 

「終わった?」

 

この時を待っていたと言わんばかりに日菜がいつのまにやら目の前に寄ってきていた

 

「…日菜」

 

「ぐえっ」

 

紗夜が日菜の頭を軽く押さえて律すると、日菜が変な声をあげて沈む

 

「やれやれ…」

 

結構焦ったぞ、内容あんま聞かれたくなかったし

別になにも悪いことなどはしていないのだが、なんとなくばつが悪いんだ。続かない話を切って外に視線を送る。元から移動するときは、近場だろうと遠かろうと外はあまり見ない

 

戦場へ移動するとき、トラックの荷台に満ちる緊張感、恐怖に耐えようとする者の必死な荒い深呼吸、なんとなく落ち着かずそわそわしてるやつ、あとはまぁ…気になる分には気になるが、それは俺も緊張していた証拠だし、かといって変わったやつもいた分にはいたが

とにかく、そいつらと一緒が嫌で、ずっと助手席を希望して外を眺めてたのもあるのかもしれない

 

勿論、車輌移動で危険なのは地雷や爆破物による奇襲や頭数減らしだ。次点に運転席への攻撃がある。そう、意外と誰も乗りたがらないのだ、だから都合が良かった

 

まぁ、でもこんな風に外を見れるなんて、長生きはするもんだね」

 

「タカさん、まだ未成年じゃん」

 

なんと空気の読めない

 

「そのとおり」

 

「あれ?一人言だったんでしょ?れーせーだね」

 

俺は組んでいた右足を降ろして、今度は左足を右足にのせて組み直すと、足癖の悪さを蚊帳の外に何気もなしに返す

 

「聞かれて困るもんじゃないし、もう着くぞ」

 

逃げるような返しだったが、ここは日菜。なんとも云わんばかりのどや顔で

 

「そんなこと知ってるよー」

 

ガキだな

 

「それでねー、タカさん、今回くっついてきたのって、あれだよね?」

 

「?」

 

「前言ったじゃん!俺がなにか我が儘を言ったとき、味方についてくれたらなにか奢るってみんなに」

 

は?言った…のか?だとしたら、あいつらがずかずか俺の味方をしてくれたのも、この夏遊ぶとかいって全員でいるのも、それなのか?!

 

「え、は、マジ?」

 

「うんうん、マジだよー」

 

日菜は変わらずキラキラとした目でこっちまで体を突き出しながらに頷く。その目の輝きに太陽以外のまばゆさで気が滅入ることを俺は今日学んだ

 

それからしばらく電車に揺られていると、今回の目標地に到着するとアナウンスが流れてきた

 

「さぁ、もうつくよー」

 

ここでもリサの世話焼きは止まらない。流石だ

 

 

 

 

 

 

「あっつ…」

 

窓を開ければ吹きこむ風は海沿いともあり涼しかったが、いざ駅を抜ければ暑いことといったら

違う車列にいたメンバーも集まり、これからというときに限って面倒ごとは起こる。ちょいと都合よすぎやしないかね?

 

「お勤め様です」

 

「…いや、誰だお前」

 

そう、ほんの少しだ、トイレに用を足しにいきゃこの様よ。なんで男子トイレに女が堂々と居座ってんだ、女子トイレ混んでないだろ、背ひっく、150前半?

 

「いえいえ、貴方は知ってるはずです、隊員番号16」

 

「……働きたくねぇなぁ」

 

「そう仰らずに、あのオモチャはどうでしたか?」

 

「マジもんをオモチャとか湧いてんのか」

 

「貴方の欲しくてたまらない、殺さない武器などオモチャです」

 

「ありゃ弾撃ちしかしねぇよ、ゴム弾なんてでやしねぇ、電流もな、つか何様だ、誰だよお前」

 

「おお、知識は現役ですかぁ?」

 

「お前むかつくなぁ」

 

「そうカッカするもんじゃないですよ、16番。私は14番、志藤三門です」

 

志藤、そう名乗った女は、今までの下手な冷徹かぶりの口調と文体の決まった聞くには疲れる日本語をやめ、短いショートの茶髪を揺らしながらブイサインでポーズをきめている。

 

 

え、こいつ14番?マジ?上司?つか先輩?嫌なんだけど


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