まぁこんなんで、しばらくはこういうやつもあるんで、勘弁してください
「殺されるぞ!撃ち返せ!」
「何言ってる!届くわけねぇだろ!頭ぶち抜かれて脳みそ飛んでったのか?!」
「うっせぇ!爆破担当はどいつだ!」
俺の普段上げない怒鳴り声に驚いた二人が、バンカーを爆破するはずだったなにかを指差す。肩を撃ち抜かれ、右肩を脱臼し、止血も虚しく失血で死んだ青い顔のそれ、その横腹のそばに転がっているバンカー破壊用の爆薬筒が転がっていた。
「クソが!やることやってから死ねよ!」
車輌の裏からそのまま飛び出し、ドイツが設置した、ある意味で失敗とも言える鉄柵に転がり込む。
「クソ!クソクソ!生き残るんだ、俺は!殺してやる殺してやる殺してやる、生き残ってやるぞ、クソッタレどもめが!」
最後の方には涙目になりながらもベルトの間に爆薬筒を挟む。そのまま意を決し、マシンガンの掃射を行い続ける銃口、というより、弾丸の雨が向こうに向くと同時に走りだし、目の前の爆発により抉れた穴ぼこに体を投げ込む。砂が少し口に入り、何度が吐き出そうとするが、うまくいかず、手も使うには少々遠慮したいので、仕方なしに口の中の嫌な感触を堪えることにする
「いける…いけるさ…バンカー吹っ飛ばしてドイツ野郎を殺るだけだ。生き残れる。何人このビーチにいる?いける」
自分への言い訳を必死に口にだし、震える手でスモークを掴み、ピンを外して穴ぼこの少し前に向けて投げる。ものの数秒で煙が立ち込め、濃い色は俺の位置を曖昧にしていく。それでも、やはり目立つ。マシンガンが一門、スモークへ向けて掃射をし始めたが、すぐに別の方向を向いたのだろう。弾丸も音も近くに届く様子はなかった
「今しかないんだ。殺れる、生き残れるさ」
弾丸が当たらないように腹這いになっていた姿勢から、一気にスモークを全身で受けながら突っ込む。少し煙たいが、この程度に嘆いていては死ぬしかない状況下で、いやに真剣になれない自分に、改めて嫌気が差し始める
「…!」
あとわずかの距離に達する、その瞬間に目線を上げた俺に向けられた一門の銃口。銃口と目を合わせる、とは中々の表現だが、その通りなのだ。思わず足の運びが緩んだが、その迷いを射手は逃した。きっと俺の顔をまじまじと、確実に見てしまったのだろう
一瞬遅れた発砲に対して、身を前方に投げ出すことでどうにか風穴を開けられずにすんだ
「生きてる…ははっ…これから助かるわけでもないのに…」
哀れにも先程、あれほどに渇望した生への邪な貪欲さが塗りつぶされていく。それでも、心臓は高鳴り、肺はいつも以上に酸素を求め、脳は興奮を露にする。
同じ船から降りた奴、肌の色が違う奴、小言なんか言わない奴、そいつらが、今、必死になりながらたどり着こうとしているこの場所、着いたらわかる。俺もそうだった。報われると思ってた
「さみぃ…六月だろ、今?」
失望から起きる芯から凍るような錯覚。きっと、ここに着いた俺みたいな頭の奴らは、死体よりも冷たいんだろうな
「なんだ、これ」
ベルトに挟まった、血と砂にまみれた役目を果たしていない爆薬筒。すっかり忘れていた
あいつらに、見えているだろうか?どうしようもない、今の姿を
「楽には…逝けんな…故郷の敵に、味方してんだぜ、俺。ここでなにもしないでくたばるのが国民としての定石、でも、目の前をここまでめちゃくちゃにされてまで、黙って死ねんな」
独り言をぼやき、うつぶせの姿勢に直り、爆薬筒を連結させ、一番下の栓を抜き、前に突き出しながら受け身をとり、叫ぶ
「吹っ飛ぶぞ!!」
近距離なこともあってか、中々派手な爆発に思えたが、休む暇などないあたり、しょぼかったかもしれん
だが、この爆発は、見事に鉄条網を吹き飛ばした
「攻撃開始!突っ込め!」
爆発と共に後方へ吹っ飛んだ俺をよそに、次々と生き残りが攻撃をかける。しかし、相手は人類の最先端を行くドイツ軍の兵器、突っ込むぶんだけマシンガンにやられる。
それでも、鉄条網まで到達する奴は着実に増えてきている。その時、一人がグレネードを柵の向こうへ投擲し、仲間の死体を盾に突っ込んでいく姿が目に映る
「天才だな……俺の杞憂だったよ…はは」
ああ、地獄だ。文字通りに
「エドワード!」
「ウォーレンか…死に損ねてるな、俺たち?」
「お前にしちゃ、上出来だなこの野郎!」
「ほざけ」
「立てるか?」
「理不尽だな。ライフル拾ってくれ」
ウォーレンが俺のライフルを拾って目の前に突き出してきたのを受け取りながら立ちあがり、内側へ入り始めた部隊に続きながら俺たちも攻撃に参加する
「ああっ、くそ!バンカーを片付けろ!」
「了解!エドワード、行くぞ」
「勝手にメンバーに入れるな」
「口では否定しても俺より前を走ってんじゃねぇかよ」
「たわけ」
現実逃避に小競合いをしながら、バンカーへの掘りを駆け抜ける。途中、気配を感じ、ウォーレンを手話で止め、グレネードのピンを抜き、一秒。そして投擲。それは見事に狙った位置に飛びこみ、相手の一瞬の驚愕とともに消えた。勿論どちらも派手に
「俺ら、地獄行き決定だな」
「そうか?俺たちには加護があるとしたらこの苦労は救いの証拠じゃないか?」
「そんなもんかねぇ?」
そんな話をしているうちに、予定より二秒オーバーの十五秒間の移動を終え、マシンガンを置いているバンカーの扉に到着した。ウォーレンは音をたてないように軽く扉を開き、俺はグレネードを準備する。俺が時刻あわせのタイマー代りに指を折り、それが拳を握った瞬間、ウォーレンは扉を押し開き、俺は、右足に体重を込めて上半身を右回しにしながら、横凪ぎの投擲をする
「ぶっぱなせ!」
俺の掛声の直後にウォーレンが発砲を始め、俺も素早く一発目を敵にむけて放つ。奴らが振り向いた時には、二人のドイツ兵が地面に倒れていた
それと同時に地面が抉れ、何人かが爆発に巻き込まれる
「全部か?」
「みたいだな」
その確認を終えた時だった。一発の引き金の音、俺の顔半分が血に染まった。反射的にその方向を撃っていた。倒れるドイツ兵、転んだにしてはいやにとてつもない速さのウォーレン。顔半分を覆う血液
「ウォーレン!」
体は動かず、叫びだけが空しく響く
その日、俺達は勝った。大きな勝利を、終戦への大いなる一歩を、第一歩兵師団の「犠牲を恐れない」様を見た
No mission dificullt. No sacrifice too great. Duty first!
(不可能な任務はない。大きすぎる犠牲はない。任務第一)
米国、第一歩兵師団 標語