正義執行   作:ラキア

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 前作の続編です。

【前作】一撃少女(https://syosetu.org/novel/163681/

※本作を読む際には是非、閲覧設定から挿絵表示をオンにしてご覧下さい。


第01話

 

 

 ───新暦○○七五年。この紀年法は管理世界第一世界ミッドチルダを中心とした、管理世界で共通する紀年法である。管理外世界である地球では勿論分からないこの紀年法に、最初は戸惑ってつい西暦として年を数えてしまう。これに慣れるまでミッドチルダに転居してから一年はかかった。

 

 思えば闇の書事件から一○年経つのかと、高町なのはは感慨深く思った。フェイトやはやてからの誘いがあって、高校卒業後にミッドチルダに引越したが、別段管理局に入局するつもりは無く、あくまで退屈凌ぎの為である。

 なのはとしては地球で生活するよりも、ミッドチルダの方が肩身を気にせずに生活できると考えた。ミッドチルダは基本として魔法を使っている。もちろん公共の場での魔法使用は禁止されているが、管理局に適正な許可を取ればそれも可能となってくる。子供は学校の授業で魔法を習うくらいだ。地球では非現実である事が、ここでは常識として存在する。

 無論魔法適正の無い人間も生活しているが、それでも企業などでも魔力運用の機械などを使って仕事をしているの殆どであり、魔法を使ったスポーツなどもあることから、魔法の世界と言っても過言ではないだろう。

 

 現在居るスーパーの内装を見ても、デバイスを通してのチラシや、立体ディスプレイで書かれた値札など、地球では考えられない技術の無駄遣いのように思えてしまう。一六になるまで地球に住んでいた身としては、最初にこの日常の光景に驚きを隠せなかったが、一九になった今では慣れてしまった事もあり、広告ぐらいは紙に書けばと思う。それも資源の無駄なのだがと考え、思考するのを止めて、特売商品だったカニの爪お得パックを手にとって、買い物籠に入れる。

 今日の夕飯のおかずだけを目当てで買い物に来たため、他には何も買わずにレジへと向かう。

 

「四八ガルです」

「はい。……と、ちょっと待って」

 

 ミッドチルダにおいても、お金に関しては札も硬貨も実物を使用する。勿論デバイスに入金した電子マネーもあるのだが、そこは地球と変わらずに安全性の問題から、完全に信用することが出来ずにお金は実物を使用している。

 五○ガルという、日本で言う五○○円相当の硬貨を出したが、細かい硬貨があった為、それを小銭入れから取り出す。普段から硬貨を溜めやすい性格な為か、一枚一枚を探して取っていく。後ろに人が居ない為、迷惑にはならない。

 しかし、硬貨を全部取り終えるまでに、事件は起きた。

 

「───全員手をあげろォ!!」

 

 片手に小銃のようなデバイスを構え、その場にいる全員を脅す男が現れる。見た目はよくある強盗の姿である。こんなスーパーを襲うなら銀行にでも行けばいいのにと思いつつ、店員に探し終わった硬貨を渡して会計を済まそうとするが、レジの店員のおばさんはそれを受け取ろうとしない。強盗の言うとおりに手を上げて腰を低くしている。怯えている。辺りを見れば、皆が同じように手を上げていた。なのはは溜息を吐きつつ、買い物籠を取ってからセルフレジのほうへ移動して会計を済ませようとするが───。

 

「そこ! 動くんじゃねぇ!!」

 

 強盗が此方に銃口を構えて怒鳴り散らしてくる。だが構わずにレジの操作を始めるなのはにイラつきが頂点に達した強盗が近寄って来て、至近距離から銃型デバイスを突きつけてくる。だが引き続きバーコード読み取りの作業を行ったなのはに、とうとう強盗が銃を撃って来た。弾丸は魔力弾であり、殺傷設定の弾丸が此方に飛んでくる。が、なのははそれを回避もせずに某として待ってから、その弾丸をゴミでも弾くように手で叩き落とした。

 それに強盗が目を丸くする。周りの人々も同じ様子であり、何が起こったのか理解が追いついてない状態だ。だが別に理解して貰う必要はない。強盗が目の前で固まっているので、死なない程度に加減して顎にアッパーを叩き込むと、強盗はそのまま気絶して倒れた。

 一瞬訪れる唖然だが、直ぐに騒ぎ始める。このままこの場に居ては面倒な気がしたので、カニの爪は諦めてさっさとスーパーから去ることにした。

 

 

 

 

 

 

 ミッドチルダには管理局の地上本部が存在し、治安も改善しようと日々努力しているが、多発する犯罪が消滅することは決してない。確かに大きな事件などには迅速に行動できるが、こういった日常の犯罪はいたるところで起こっている。

 なのはもミッドチルダに来てから三年になり、趣味で魔導師をしながら見かけた犯罪を解決している。日常で起こった犯罪はそうやっていくつか片付けているが、それでも世の犯罪は一向に消える気配は無い。それはなのはがミッドチルダに来てから変わっていないことだ。

 

 つまり、なのはは基本社会に何ら影響を与えていないということだ。それに関しては別段悲しくは無い。なのはは魔導師を趣味としてやっている。つまり、自己満足が出来ればそれでいいのだ。

 

 スーパーでの買い物が台無しになった為、日が落ちて来たとこで酒屋で卵一パックを購入する。出て外を見れば、廃棄都市が広がっている。ミッドチルダの端に存在する廃棄都市群は昔は栄えていた都市であるが、度重なる凶悪な事件やロストロギアの影響ですっかりとゴーストタウンと化してしまった場所だ。故に普通の人は住んでいないが、普通でない分類の人間はここで身を隠す為に住んでいる事が多い。よく見かけるのは情報屋の類だ。

 なのはは生活費にはあまり余裕が無い為に、この廃棄都市にある廃アパートに住んでいる。他の入居者は居ないが、設備は壊れていない為、光熱費を払えば普通に生活出来る。階段を上り、自分の住む部屋へと移動する。扉を開けて玄関から上がる。一度卵をキッチンの台に置き、手洗いを済ませる。

 折角卵を買ったので、昨日炊いたご飯を冷蔵した物を電子レンジで温め直し、そこに生卵をかける。テレビをつけて適当なバラエティを見ながらご飯を食べる。食べ終わったら食器はテーブルに置き、そのまま風呂に入る。

 風呂上りに、万年床となった布団に横になりながらテレビを見る。数時間が過ぎ、そろそろ寝ようと決めて、テレビを消してから電気を消すための紐を握る。食器はテーブルに放置されたままだが、明日、歯磨くついでに洗おうと考え、電気を消した。

 布団に包まり、見慣れた天井を見ながら思考する。

 

 なのはには今、悩みがある。日々感情が薄れていくのだ。恐怖も無い。喜びも無い。緊張も無い。怒りも無い。力と引き換えに、人として大切な何かを失ってしまったのだろうか。以前は戦いの際には心の中で様々な感情が渦巻いていた。恐怖。焦り。怒り。

 

 それが───ワンパンで片付く。無傷のまま自宅に戻り、同じ日々の繰り返し。

 

 このまま生活を続けて、何か変化はあるのだろうかと、考えてしまうのだ。目を閉じれば、昔の記憶がぼんやりと思い出せる。魔法と関わったきっかけになったプレシア事件。そして闇の書事件。どれも普通とは逸脱したものであったが、それでもなのはが本気で闘争できる相手はいなかった。

 唯一、過去一番の強さであった闇の書事件で戦ったリインフォースとは、一撃のみ本気で拳を叩き込んだが、それで終わってしまった。

 

【───お前は強すぎた。高町なのは】

 

 別れの際に言われた言葉は、今でもはっきりと覚えている。自分はこのまま何も感じずに生きていくのだろうかと、虚しく思ってしまう。そうぼんやりと思考すると、まどろみに包まれる感覚が支配し、それに委ねた。

 

 

 

 

 

 

 翌日に、それは起こった。

 

 いつも朝から晩まで静けさが支配するこの廃棄都市で、朝から爆発のようなものが響いた。いや、正確には遠くのほうからもいくつも爆発音が聞こえる。地震のように地面が揺れ、それによって布団から飛び起きる。

 と、同時に家の壁が突如破壊され、そこから巨大な手がなのはの頭をつかむ。凄まじい力で握り、そのまま頭部をつぶそうとしているのが分かる。それはなのはが恐怖するほどの力であった為、すぐさま手を叩き落として立ち上がるが、次に部屋全体が何者かによって完全に破壊され、その衝撃で身体が吹き飛ばされる。

 マンションの表の道路に着地し、自分の部屋が破壊された惨状を見る。

 

「!! 私の家が……ッ!」

 

 マンションはなのはの部屋は愚か、もはや人が住めないほどに破壊されてしまった。襲撃者のことよりも家の心配をするあたりに、まだ事態を冷静に把握できていない訳だが、思考を無理やり襲撃者に向けさせるように、背後の地面を破壊して現れた何かが、その巨大な腕を振りかぶって拳を横に叩き込んでくる。

 それを腕でガードするが、驚愕する。

 

 相手の力に耐えられなかったのだ。

 

 咄嗟のガードでは対応できずに、そのまま殴り飛ばされてしまう。マンションから程近い環状道路橋の下のコンクリートに身体がぶち当たる。幼き頃のトレーニングの成果から、怪我をすることが無くなったなのはだが、今まで経験したことの無い力に、頭から血を流す。

 すると目の前に襲撃者が近寄る。その姿は黒い人のような巨大であるが、頭部が明らかに人とは違う骨格をしており、歪な頭部から低い声が響く。

 

「驚いたな。殴っても死なない地上人がいるとは」

「それはこっちも同じなの。……何者なの、お前たちは」

「何だとは失礼だな。我々は真の人類だぞ?」

「我々?」

 

 疑問の声を漏らすと、周りを囲うようにして真の人類と名乗る怪人たちが無数に姿を現していく。

 

「貴様らは我々を地底人と呼ぶそうだな? 我々は数が増えすぎた。よって地上を頂くことにした。だが地上人も中々多いらしい。このままでは我々の邪魔になる。よって地上人には───絶滅して貰う事にした」

 

 地底人は手を広げ、言葉を続ける。

 

「我々が侵略を開始してから、すでに七割の地上人が土に還った。これも生存競争だ。潔く受け止めろ」

 

 その言葉に驚愕し、開いた口が塞がらない。七割りという事を聞いた事から、恐らく管理局でも手に負えなかったのだろう。この地底人の力を知ればそれが理解出来てしまう。間違いなく人類滅亡の危機に変わらなかった。

 だが、こんな状況だというのに、自然と胸が高鳴ってしまう。その為、笑みが零れる。地底人は訝しげにこちらを見てくる。

 

「───こんな手ごわそうな相手は初めてなの。……地底人!!」

「……我々は真人類だッ!!」

 

 言って、地底人はなのはに拳を叩き込んでくるが、それを上体を横に倒すようにして回避し、その拳が背後にあったコンクリートの柱に突き刺さっている隙に、その胴に拳を叩き込む。拳が食い込み、次の瞬間には地底人の上半身が破裂した。その光景を目撃した他の地底人が狼狽するが、なのはの横に立っていた地底人が両手で拳を握り、それを振り下ろしてくる。それを横に飛んで回避しつつ、地面を蹴って跳躍し、集団にいた地底人の頭部に蹴りを叩き込んでから着地し、正面にいた地底人に向け、起き上がる反動を利用してアッパーを繰り出す。衝撃で天井の橋が崩れ、なのはは上に跳んで幹線道路の上に着地するが、それを追って地底人も跳躍してくる。

 四方から次々と地底人が襲い掛かり、それを拳を叩き込んで一体ずつ片付けていくが、無限のように襲い掛かる地底人に終わりは無く、次に三方向から同時に拳を振り下ろしてくる。それを頭上に腕をクロスさせて耐える。衝撃で道路が崩れるが、なのははガードしつつも三体の地底人の足を払って、蹴りで三体を纏めてから拳を叩き込んだ。それで地底人は遠くの柱にぶち当たり、絶命する。

 だが、思い切り腕を振り抜いた為に隙が生まれてしまい、その隙を突いて一際巨体の地底人が地面ごとなのはに拳を繰り出す。さすがに耐え切れずに吹き飛ばされて、遠くまで飛ばされてから巨大な爆発が起こった。

 

 激しい戦闘の末に、辺りが火の海に包まれた大地にて、巨大な地底人が次々と地中から這い出てくる。

 

「……終わったか?」

「何者だったんだ……あの地上人は」

 

 地底人たちは爆発を直撃させ、息の根を止めたと思ったなのはの事に驚愕を表すが、それもつかの間、マグマと化した地面から現れるなのはの姿がある。

 

「私は……趣味で魔導師をやっている者なの。───地上は……私が守るッ!!」

 

 胸に拳を当てて、宣言する。それに地底人が激昂し、全員が一斉に襲い掛かる。が、人間大の大きさの地底人は一気に吹き飛ばされ、なのはは巨大な地底人の集団に向けて跳躍し、拳を繰り出す。

 

 そう、これだ。久しく忘れていた。この戦いの昂揚感。それを全身で感じつつ、なのはは地底人たちを一掃していった。

 

 やがて倒れ伏す地底人の亡骸で地面が多い尽くされて、その山の上で激しく呼吸する。本気での闘争を繰り広げ、体力がひどく消耗しているが、心が満たされる。その表情にはもう無気力さなど存在しなかった。

 だが、一息するのもつかの間、大地を震わすほどの声が響くと同時に、地中から今までとは比にならない巨大な怪人が現れる。

 

「どうやら息子たちがずいぶんと世話になっているようじゃないか───この地底王が、相手をしてやる!!」

 

 気だけで分かってしまうほどの強敵。自分よりもしかしたら強い存在かもと感じてしまう程の相手が現れるが、上等だ。これが───。

 

「これが───私の求めていた───」

 

 

 

 

 

 

 ジリリリリリリリリリリリリリ───。

 

 目覚まし時計がけたたましく鳴り、なのははそれを拳で止めて、目を開いて見慣れた天井を見る。瞬きを数回する。朝日がカーテンから漏れ、電線にとまったスズメがチュンチュンと鳴いているのが聞こえる。

 いつも通りの、廃棄都市の静けさ。爆発音も地鳴りも無い。

 

 完全に夢を見ていただけである。呆然と天井を見て、なのはは改めて思った。自分が昂揚感を感じることはもう無いかも知れないと。

 

【挿絵表示】

 

 ───私は強くなりすぎた。

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