「皆に紹介するな。この人は高町なのはさん。私とフェイト隊長の幼馴染で、かつて一緒に戦った仲間や」
「どーも、高町なのはです。趣味で魔導師やってまーす」
事件後に現場検証を調査班が行っている時に、はやてがなのはの隣に立って新人たち四人に紹介を始める。それに顔を呆けているが、いきなり出てきて圧倒的な力を見たのではそうもなるだろう。
慣れない挨拶をして、後頭部を手でかいていると、一足先に正気に戻ったスバルがなのはに訊ねてくる。
「あの……もしかして、四年前の火災の時に助けていただいた……」
「え……?」
スバルの質問に、なのはは何のことか分からずに疑問の声を漏らす。しかし、スバルにとっては自分が強くなりたいと思ったきっかけの人物であるが故に、さらに具体的に説明をする。
「えっと、四年前に起こった空港での火災の事です。その時に、まだ子供だった私を助けてくれたんです。憶えてませんか?」
「ほら、前に私のところに遊びにミッドに来た時や」
「あー……なんかそんなこともあったような……」
スバルの説明とはやての言葉から、なのははぼんやりと思い出す。しかし、なのはにとっては当たり前のようにした人助けなので、気にすることでも無かった。だが、スバルの顔を見ると、どこと無くこのような子を助けたような気がしてくる。
しかし───。
「───あれ? 男の子じゃなかったっけ?」
「おと……ッ!?」
涙目になって感動しようとしていたスバルへのまさかの言葉である。上体を崩して盛大にこける。これには隣に立つティアナも苦笑いである。
「……しょうがないでしょ。あんた今でこそスタイルから見て女だって分かるけど、成長期前なら男と見られても不思議じゃないわ」
「ティアー……」
何ともいえない涙が溢れる。それは間違いなく感動によるものでは無いだろう。そんなやり取りをしている中、エリオが思った疑問をなのはへとぶつける。
「あの、なのはさんって、局員では無いんですか?」
「うん、あくまで趣味だよー」
「趣味で、あんなに強いだなんて……」
あっさりと答えて、堂々と趣味と言い放つなのはに、エリオとキャロも苦笑いしか出てこない。そうしていると、はやてがなのはに向けて話しかける。
「ねぇー、なのはちゃん。これを気に、もう一度だけ六課入り考えてくれんか? なのはちゃんの為に、隊舎に部屋も用意してあるんよー」
「そんな事を言われても、局に入る気は全然ないの」
いくら頼まれようが局に入って仕事する気はさらさら無い。それは嘱託魔導師だとしてもだ。一度そういう組織に加入すれば一気にストレスでダルくなるのが目に見えている。そう断ると、はやてはそうかと肩をがっくりと落とした。
「そうかぁ……。あ、でも一つだけ頼まれてくれんか?」
「ん?」
◇
場所は変わり、ホテル・アグスタから戻って機動六課の隊舎。その訓練場シュミレーターに展開された廃棄都市に来ている。その場所にいるのはスバル、ティアナ、エリオ、キャロ、そしてなのはだ。皆バリアジャケットを装着しており、新人たちの前に立つなのはは腰に手を当てつつため息を吐いた。
「なんでこうなるのやら……」
『別にええやん。バイト感覚で新人たちの相手一回だけして』
念話での通信ではやてが気楽そうに言ってくるのに対して、もう一度軽めにため息を吐いた。
あの後、半場強引にはやてに六課に連れて来られて新人たちの模擬戦の相手をさせられる事に。ユーノは他の局員も来た所で、後から来た査察官と共に本局へと戻っていった。彼もまた地獄のような仕事量に追われることだろうが、それは置いておく。
後から来たフェイトもなのはがいたら心強いということではやての意見に乗ってなのはをここまで連れて来た一人だ。現在彼女たちはヴィータと共に離れたところからモニター越しにこちらの様子を伺っている。
レイジングハートも腹をくくりましょうと言ってくる為、いい加減に意識を切り替えることにする。
「……じゃ、さっそく訓練といきたい所だけど、何すればいいのかな?」
『それについてだが───』
なのはが言ったタイミングで、ホロウインドウ通信で映されたヴィータが口を挟む。皆もウインドウの法へ向き直り背筋を伸ばしている。なのははまじめだなと思いつつ、片足だけに体重を乗せた気だるい立ち方でヴィータに向く。
『はじめに言った通り、模擬戦だからな。新人共にはこれからなのはと戦ってもらう。制限時間一○分。無論、倒せとは言わない。あたしとやったみたいに一撃当てられればそれでいい。───だが、今回は一撃当てなくとも良いとする。つまりこの訓練クリアしようがしないがどちらでも今後の訓練に影響はしないとする』
「え……それって」
エリオが疑問の声を上げるが、ヴィータは言葉を続ける。
『───だが、もしなのはに一撃入れられたら、お前らの訓練課程を二段階くらい繰り上げにしてやる』
「「───ッ!!」」
ヴィータの言葉に、新人たちは皆驚いたように目を見開かせて、ごくりと唾を飲み込む。つまりこの目標を達成すれば一気に一人前に近い扱いになるのだ。自分たちにとってはなんとも近道であり、そして恐怖でもある。
この人物───高町なのはに一撃入れる。それがどれだけ困難かをその言葉ですべて伝えられたのだから。
なのはは頭にハテナマークを浮かべながら、ヴィータに訊ねる。
「つまり、私はただこの子たちの攻撃を避ければいい訳?」
『ああ。面倒になったら死なない程度にダウンさせてもかまわないぜ』
「そっか」
なのはが無表情で言うと、ヴィータのホロウインドウが消える。と、代わりに訓練時間のカウントダウンが開始された。時間が三○から二九に切り替わる。
「じゃあ訓練開し───」
言って訓練を始めた瞬間である。なのはに向けて魔力弾が放たれる。迷うことなく早撃ちであり、撃ったのは間違いなくティアナである。常人ならば反応に付いていけないが、なのはは表情を変えずに弾丸を───上体を反って回避する。
「あっぶな!」
なのははゆっくりと上体を起こしてから後ろの瓦礫に目を向ける。そこにはティアナの弾丸を受けて損傷している瓦礫の様子があった。その驚異的な反射神経にティアナはクロスミラージュを構えたまま絶句している。
「(───嘘!? 明らかに防御するしかないタイミングよ、ヴィータ隊長だってあれは回避できないのに……!)」
速さに特化したフェイトならともかく、ヴィータも弾丸を弾くなどして接触せざるえない攻撃を、イナバウアーみたいな動きで回避されては驚きもするだろう。しかしすぐさま意識を切り替えてスバルに指示を送る。
「スバル!」
「うん!」
答えると同時に、スバルはティアナの身体を抱えてローラーブーツを走らせてこの場から去る。なのはは別段新人たちに攻撃してもいいのだ。不意打ちの初撃を仕掛けて回避され、返り討ちに全滅という結果にはしてはいけない。エリオとキャロもこちらの動きを理解し、各々これまでの模擬戦の通りに行動する。
なのはに対して、単発での攻撃が効果が無いのは分かった。フェイト並の速さであるならば、こちらも作戦を変更するまで。
『動きを抑え、同時に攻撃を仕掛ける!』
『『了解!』』
ティアナの指示に皆が答える。
なのはは特に皆を追おうとはせずに、気だるそうにあくびをした。こういった訓練とかは一番苦手である彼女である。自身がトレーニングで強くなったので、新人たちも魔法に頼らないで毎日トレーニングすれば良いのにと思いつつ、このままではヴィータに文句を言われかねないので新人たちを探すことにする。
地面を蹴って、大地を駆ける。それだけですさまじい速さであり、砂埃が一気にあたりに舞う。だが、そんななのはに攻撃する反応が一つある。
「どぉぉおおおおおりゃぁぁぁあああああああーーーーーッッ!!」
突如ウイングロードを展開し、こちらに突っ込んでくるのはスバルだ。ウイングロードを見て、魔法ってこんなことも出来るんだと思っているなのはへ向かって、リボルバーナックルを回転させて突っ込んでいく。しかし一直線の攻撃がなのはに当たる筈も無く、ひょいっと回避して足をかけてスバルをウイングロードから落とした。悲鳴を上げて落下するスバルだが、ダウンはしていないだろう。
と、思っていると狙撃で弾丸が飛んでくる。ティアナの攻撃であるが、それを視認するまでも無く、次の瞬間には回避していく。
「(あんな……出鱈目な……!!)」
あまりにも動きが凄まじ過ぎる。しかし、フェイトのようなスマートな動きではなく、ただ避けている。それを凄く速くこなしている。それだけの理屈だ。
───だが、時間を稼ぐには十分だった。
「……ん?」
なのはの足元に術式が展開されたと思うと、そこから鎖が出現する。拘束魔法【バインド】の上級技である。仕掛けたのはキャロだ。一定の位置に目標を固定できれば、うまく捕縛できる。以前これでフェイトの動きを抑えて攻撃し、訓練達成したことがある。キャロの拘束魔法【バインド】がなのはを捕らえたと同時に、エリオが死角からストラーダで突っ込んで来る。さらにスバルも地面を跳躍してなのはへ攻撃を仕掛ける。
だが───。
「んしょ」
なのははまるで拘束魔法【バインド】を紐か何かを引きちぎるかのようにして、簡単に破ってしまったのだ。皆が驚愕するが、すでに突っ込んでいるエリオとスバルは動きを止められない。その隙をなのはが見逃す筈も無く、双方の胴部に軽く拳が当たる。
それだけでエリオはビルの壁に、スバルは地面に突き刺さって動かなくなる。目をぐるぐる回して、気絶しているのは明らかだ。その二人の光景にティアナは驚愕する。普段あれだけボコられても気絶しない二人が、一見軽そうな拳一撃でダウンしたのだ。
キャロも目を丸くして驚いているが、すぐになのはに場所がばれてしまい、目の前になのはが現れる。そして、軽くデコピンをキャロに当てると、それだけでキャロは目を回して気を失った。
あっという間に三人がダウンしてしまったのだ。
「(……お家帰りたい)」
そう思い、もはや現実逃避したくなるティアナの後ろに、いつの間にか背後に立っていたなのはによって手刀を当てられ、他三人と同様に目を回して気絶した。
◇
開始三分で終了してしまった模擬戦を、はやて、フェイト、そしてヴィータが苦笑いしながら見ていた。
「……ま、そりゃこうなるわな」
ヴィータが苦笑いを浮かべてそう言葉を零すと、はやてとフェイトもそれに頷く。
「せやなー……なのはちゃんがわざと攻撃を当たらない限り、あの子らが攻撃当てるなんて無理な話やなー……」
「まあ、これで新人たちになのはがどんな人物なのかは分かって貰えただろうけど……」
はやてとフェイトがそう口にする。実際はやてとフェイトは以前になのはと模擬戦をして、何度か攻撃を当てたことがあるが、それは空間ごと攻撃するなどの半場確実な攻撃である。しかし、それでもなのはにダメージを与えたことは一度も無いため、ある意味新人たちと結果は変わらなかったのだが。
「もしあいつらがなのはに攻撃当てたら、あたしより強ぇーわ……」
戦闘スタイルの関係から、同じ条件ならヴィータですら攻撃を当てられないと分かっている。その為、ひたすら苦笑いするしかなかった。