正義執行   作:ラキア

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第15話

 

 薄暗く、機械的に装飾された床と壁、洞窟の中だろうか、むき出しの岩が上を覆うという、なんともアンバランスな空間。それは遺跡発掘の現場に似たような雰囲気を漂わせてはいるが、それとは似ても似つかないような雰囲気がここには醸し出されている。

 

 フェイトとはやてによる追撃を何とか免れたクアットロとディエチ。そしてルーテシアとアギト。彼女らは現在自分たちの拠点へと帰還して、この施設の通路を歩いていた。その横には頭一つ分大きい長身で屈強な姿だが、身体的な特徴で女性と分かる人物と、細身の女性がそれぞれ左右に並んで歩いている。屈強な女性は「はあ」と溜息を吐いた後に、クアットロとディエチに鋭く細めた双眸を向けて口を開き、

 

「まったく……。中々連絡を寄越さないから不安になって駆けつけてみれば、何だあの様は?」

「と……トーレ姉様」

 

 苦笑いを浮かべ、合わせ辛そうにクアットロが口ごもる。

 あの時、間一髪の所でクアットロとディエチを助けたのはこの人物───トーレである。彼女の固有能力であるISライドインパルスは瞬間的高速移動能力を発揮する。その為、あの寸前で二人を救出する事が出来たのだ。

 トーレに苦手意識があるのだろうか、クアットロはおどおどとした様子なので、ディエチが代わりに頭を下げて謝る。クアットロの性格も、ディエチのこの素直な性格も、トーレにとってはもはや分かりきっている事なので、トーレもクアットロに対しこれ以上叱咤するつもりはない。

 クアットロはでも、と口を開き、

 

「マテリアルとレリックの一つは管理局に取られましたが、レリックの一つは無事に回収出来ました。マテリアルの件はドクターの計画の一部なので、実質此方の成果は十分に───」

「クアットロ」

「うぐッ……」

 

 悪怯える様子もなく口を次ぐんだクアットロに、流石にトーレも再び睨みを効かせると、クアットロは再び口を閉じる。

 

「大体、そのレリックの一つも危うく管理局に渡るところだったんだぞ。セインがお嬢とアギトの救出ついでに回収出来たからいいものの……」

「そうだよクア姉! どっちかって言うと、あたしの功績だよ!」

 

 トーレの言葉に次いで、水色の髪が特徴の女性───セインが訴えるように口を開き、その脇に抱えられたレリックのケースを見せながら文句を放つ。結局、今回に関しては様々な面に関して尻拭いをして貰ったのが事実。クアットロもこれ以上は何も言えずに頭を下げた。その様子も、どうもワザとらしいと感じるのは彼女の性格故か。

 そういえば、とトーレがセインに向けて、

 

「今回のレリックは何番なんだ? もしお嬢の探しているレリックなら」

 

 と、トーレは一歩下がって歩いて来ているルーテシアを見ながら言った。ルーテシアはこの人たち賑やかだな位に考えながら腕を頭の後ろで組んでいた為、不意に話を振られて少々驚く。

 

【挿絵表示】

 

 

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「XI番のレリックなら、お嬢の目的も……」

「あはは……ありがとう、トーレさん」

 

 気が抜けている時にトーレに話しかけられて完全に不意打ちだったルーテシアは、そんなトーレの優しい言葉に慌てて手を振りながら笑みを浮かべて礼を言う。

 トーレは協力してくれているルーテシアには何かと面倒見が良い。というよりかは、ルーテシアがその幼い年齢とは反例してとても優秀な魔導師だからという点もあるのだろう。トーレの身近には、確かに頼れる仲間が多くいるが、クアットロのようにどうにも抜けている面々がある分、優秀なルーテシアには高い好感を持てる。

 そんなトーレに、ルーテシアも好感を持っているのが事実だ。隣に浮遊するアギトはその事が気に入らないようで、複雑な表情をしている。

 

「セイン、どうせだ。今中身を確認してみろ」

「あいよトーレ姉! ちょいとお待ちをー」

 

 視線をセインに戻し、セインはケースを持って少し移動する。通路の柱に丁度良い出っ張りがあったので、その上にケースを置いて、指に解除のシステムを発動させて、ケースの鍵を開ける。その間に他の皆もセインを囲むようにしてケースが開かれるのを待つ。

 

「パンパカパーン! ……って、あれ?」

 

 セインが注目を浴びている中、勢いよくケースを開ける。しかし、その中身の中央にある筈のレリックが、綺麗に空白を明けており、その姿が見当たらない。皆が驚く中、

 

「セイン……まさかディープダイバーでレリックだけすり抜けちゃったとか?」

「しないよ! ていうか返って器用すぎる芸当だよそれ!」

 

 ディエチがぼそっと口にした言葉にセインが両手を上げて言い返す。念のためにトーレがケースを持ち上げて確認するが、レリックが無いのは確かであり、ケースを置いてセインに視線を戻し、

 

「セイン、保存している映像データを見せてみろ」

「う、うん!」

 

 言われてセインが腕についた端末を操作すると、立体モニターが幾つも表示されていく。彼女たちは一応現場での映像を保存している為、こういった確認作業などが出来る。セインは「えーっと」と口に出しながら立体モニターのウインドウを直接手で動かしながら、肝心の場面を探っていく。

 

「えーっと……あった! ほら! ちゃんとレリックの魔力反応もサーチしながら回収してるし、間違えて落とすなんてこともしてないよ!」

 

 言ってセインが丁度回収する寸前の場面で保存した映像データを提示する。そこには管理局の面々───ティアナ、スバル、ギンガ、エリオ、キャロ、ヴィータになのはが映っている。そんな中、キャロが持っていたレリックのケース。確かに鍵は閉じており、サーモグラフィーのように映っている魔力反応からも間違いはないように見える。

 その映像を見ながら、クアットロが、

 

「うーん……確かに間違い無さそうね」

「なら、レリックは一体どこに?」

 

 ディエチが不思議そうに顎に手を当てて首を傾げる。トーレもまた腕を組んで映像を注視する。そんな中、ルーテシアが横から入って彼女らと共に映像を確認する。そこに映るのは変わらずの映像。あの時の様子で間違いない。不審な点も見受けられない。

 だが、ルーテシアは違和感に気付いた。

 

「あれ、この娘って……?」

 

 ルーテシアが見たのは、映像に映るキャロの姿。確かにケースを持っているのはキャロだ。しかしルーテシアが見たのはその手元では無く、キャロの装いである。

 正確にいえば、その頭に被る帽子である。そこに僅かにだが熱量があるのに気付いた。

 

「あ……もしかして、これって?」

 

 ルーテシアは映像のキャロの帽子の所を指差す。するとトーレも気付き、片手で頭を抱えた。

 

「え? どういうことルーお嬢様?」

「なにか可笑しいところあります?」

 

 セイン、クアットロがまだ気付かずにそう言った為、トーレは流石に睨みを聞かせて、

 

「馬鹿者、まだ気付かないのかお前達! レリックはここにあったんだ!」

 

 トーレはルーテシアと同じくキャロの帽子に向けて指を指した。確かに魔力反応が魔導師から出てるのは当然の事である。だが、この映像で見るとキャロの帽子の一点にだけ強い反応があるのが分かる。デバイスがここにあるとも考えられず、だとすれば導き出される答えは一つだ。

 流石に理解が追い付き、クアットロもディエチ、セインも気付く。セインは特に悔しそうにしながら、

 

「えええーー!? そんな所に隠してるなんて普通気付かないって! てか子供騙しにも程があるよこんなぁ!」

「その子供騙しに引っかかったのがお前だセイン。……まあこの状況でこんな事をされては無理もないが……」

 

 トーレも叱咤はするが、流石にこういった策を用意していたなんて予想外であった。なのでこれ以上セインを責めても仕方がない。ルーテシアもまあまあと手でトーレを制止しながら口を空けて、

 

「今回は私が探していた番号じゃなかったし、そこら辺で……」

「いえ、すみませんお嬢。そう言って頂けると良いんですが、今回レリックが彼等に渡ったのは事実ですので、流石に悔やみます」

「まあ、そうよねぇ……」

 

 ルーテシアは申し訳無さそうなトーレに対し、自身も頬を掻いて苦笑いを浮かべる。だけど、と口を開き、

 

「起きた結果は仕方無いんだし───例の計画で取り戻せば問題ないでしょう?」

 

 ルーテシアが放った例の計画という言葉で、トーレも「そうですね」と言いながら心の切り替えがついたのか、悔しそうな表情を一変させて他の三人へと向き直る。

 

「今回の結果は仕方無い。きちんとドクターとウーノ姉さんに報告しよう」

 

 その言葉に、セインは眉を八の字に歪ませて顔色を青くさせる。

 

「ああぁ……絶対怒られる……特にウーノ姉さん」

「折檻されるのは間違いなさそうねぇ……憂鬱だわ」

 

 落ち込むセインとクアットロである。ディエチも流石に顔を暗くさせた。「ほら行くぞ」とトーレが背を叩いたので、皆が足取り重い中通路を進んでいった。

 ルーテシアは開かれたレリックのケースを一応回収しつつ、そのケースの縁に書かれた番号を見て、ボソッと呟いた。

 

「……もう少し待っててね───母さん」

 

 その呟きを聞いたのは、肩の上を浮遊するアギトだけだった。

 

 

 

 

 

 

 街中での事件が起きてから数日後。

 早朝の準備が終わった機動六課の隊舎では皆が集まり、朝礼が開かれる所だった。簡単な連絡事項をグリフィスが告げた後、はやてが壇上に立って挨拶する。

 

「おはようございます。皆先日は本当にご苦労様でした。お陰様で被害も最小限に収めつつ、敵の情報に関しても貴重なデータを得られました。これも私達機動六課の成果があってのものです。ありがとうございました」

 

 はやてが言って軽く頭を下げる。

 先日の事件は直ぐに対応出来たとあって、街への被害は何とか抑えられた。ギンガの所属陸自の部隊が予め現場を抑えていたのもあり、レリックが流れ着いたのが廃棄都市であったのも幸いして被害が抑えられたのだ。

 それに今回、二つのレリックの回収。そしてそのレリックと共に発見された幼い少女。そして現れた犯人の数人の姿とそのデータ。得たものが多いため、今後の捜査に大きく役立つのは確かだ。

 報告を受けて、皆の表情も明るくなっていく。新人であるスターズとライトニングの面々も微かに笑みを浮かべており、ヴォルケンリッターの皆も笑顔を浮かべ、フェイトも笑顔を浮かべ───てはいるが、苦笑いである。その原因は、フェイトの隣に立つ人物である。

 

「えー、それでですね。今回の事件をきっかけではありますが、ここで今日から正式にうちに所属することになった新しいメンバーを紹介します。───なのはちゃん、こっち」

「あ、はい!」

 

 はやてに呼ばれ、フェイトの隣に立っていた人物───六課の制服に身を包んだ高町なのはが小走りで壇上に立つ。こういう事に不慣れななのはは緊張気味に皆に顔を合わせてから口を開く。

 

「お、おはようございます! 今日から、嘱託という形ではありますが、こちら機動六課で働かせて頂く事になりました。高町なのはです。宜しくお願いいたします!」

 

 なのはの不慣れな挨拶に、スタッフ一同拍手を送る。もう一度だけ頭を下げて、なのはは壇上から降りてフェイトの隣へと戻っていく。次いではやてはなのはの事について軽く説明を始める。

 

「高町なのはさんは、言わずもがな私とフェイト執務官の昔からの付き合いで、私らに並ぶ……いや、それ以上の実力の持ち主やと思ってます。戦力としてはこれ以上ないくらい頼りになる助っ人になるのは間違いありません。まあ、こうやって仕事をするのは何分初めてなので、皆フォローよろしくお願いします」

 

 大多数が顔を合わしたことがあるスタッフ一堂なので、特に問題はない。ヴァイスやシャーリーも含めて十分顔馴染みなのだ。

 

 ───だが、何故高町なのはがこうして嘱託として六課で働く事になったのか。

 

 その理由は、先日の事件がキッカケである。はやてとフェイトが犯人二人を捕らえようとした際に、生命反応が無かった廃棄都市ごと攻撃した時だ。実を言うと、その廃棄都市はなのはが住んでいる場所であり、なのはの家が木っ端微塵に破壊されてしまったのだ。

 これにはなのはも衝撃で混乱し、慌ててマンションに向かったが、そこには瓦礫が散乱しているだけであった。

 勿論、はやても謝罪し、破壊されてしまった資産や被害額、慰謝料も支払うことになったが、それだけで直ぐに解決という訳にもいかないのが現実だ。なのはは内職とアルバイトで生計を立てており、その必要な物は勿論、資産全てが瓦礫の中で粉々になった。

 被害者なので色々と生活保護が受けられるのは分かる。だが、なのはとしては友人の迷惑で保護を受けるという事実に心痛むのもある。まして破壊したのがはやてのデアボリック・エミッションでは無く、フェイトの一薙ぎによるものだと分かれば尚更だ。フェイトからは泣きながら何度も謝罪を受けて、なのはとしてもなんだか申し訳ない気持ちである。その為、早く安定した生活を得たいというもあり、そこではやての提案である六課に入って隊舎で生活を送ることを選んだのだ。

 なのはとしても、今までのフリーターという立場から、一気に公務員という立場になったので、望んでいなかったとはいえ社会的に立場を得たといえる。悪いことは無いのだ。

 だが、成り行きとは言え、仕事の拘束と責任を持つという事実から逃げたくなるのは事実だが、ここまで来たら腹を括るしかない。

 はやてが「では」と言葉を発し、

 

「挨拶はこの辺にして、皆、今日も一日頑張りましょう! 以上です」

 

 その一言で、部隊長の挨拶が終わり、六課の仕事が始まる。皆が各々の作業場に向かい、スターズ、ライトニングの面々も早速制服から訓練服へと着替える為、更衣室へと向かって行く。

 なのはも次いで皆について行く形になる。基本なのはの仕事はヴィータと一緒に新人教育の手伝いをすることである。早速用意された服へと着替えようと更衣室に向かおうとした時、

 

「あ、なのはちゃん、ちょっとええかな?」

「ん、何? はやてちゃん」

 

 はやてがなのはに声をかけて、振り返りつつ返事をする。組織に所属する事になった以上は上司に対してそれなりの態度と言葉使いをしなければならないのだが、なのはは嘱託で特別加入という事もあってそれは免除されている。はやてとしてもなのはからそういった態度は求めていない。

 次いではやては口を開き、

 

「先日保護した娘なんやけど、ついさっき目を覚ましたらしいんよ。今から私とフェイトちゃんが様子を見にいこうと思うんやけど、なのはちゃんも一緒にどうかなと思ってな」

「そうなんだ! 良かった、目を覚まして……」

 

 なのはの記憶では、保護した娘はとても酷い怪我をして意識不明だった為、その事を聞いて安堵する。はやての誘いの為、断る理由が無い為、同行する事にした。

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