正義執行   作:ラキア

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第19話

 公開意見陳述会の前日。時計の針が一二時を指す間際。六課の隊舎のヘリポートでは今まさに出発しようとしているタイミングだ。陳述会の警備は数日前から厳重化されており、六課も深夜から警備にあたることになった。なのはは夜勤という事に慣れない為に、眠そうに欠伸をしてしまう。正直だるいと感じるが、これも仕事故に仕方ないことだ。

 はやてとフェイトは後からの合流の為、出発するメンバーの見送りをする為その様子を見守る。ヴィータを先頭にスターズやライトニングがヘリに乗り込み、なのはも乗ろうとしたタイミングである。

 

「あれ?」

 

 ふと視界の横に、アイナと共にヴィヴィオの姿があった。近寄ってヴィヴィオの前でしゃがんで目線を合わせてから頭を撫でる。

 

「どうしたのヴィヴィオ? ここは危ないよ?」

 

 なのはの言葉に、ヴィヴィオは不安気な表情を見せた後に俯いてしまう。一体どうしたのだろうかと疑問を浮かべると、その疑問にアイナが口を開き、

 

「ごめんなさいね。ヴィヴィオがどうしてもお見送りしたいっていうから」

 

 その言葉に、横から歩み寄ったフェイトも加わり、

 

「なのはが夜勤に出るの、初めてでしょ? だから不安なんだよ」

「ああ、そっか……」

 

 なのはは納得し、ヴィヴィオへと向き直る。ヴィヴィオが来てからはなのはは寝る時もヴィヴィオの傍にいた。一緒にベッドで寝ていた。その為、ヴィヴィオにとって夜になのはが出かけるという事に、とても不安で仕方ないのだ。

 なのははヴィヴィオに笑みを浮かべつつ、

 

「ヴィヴィオ。今日、なのはママお泊りに行って来るから。大丈夫、直ぐに帰ってくるよ?」

「……本当?」

「うん。良い子にお留守番出来たら、ヴィヴィオの大好きなお菓子用意するからね」

「……うん!」

 

 不安で歪めていたヴィヴィオの表情がなのはの言葉で明るくなり、笑顔で頷く。そしてもう一度ヴィヴィオを抱き寄せてから、行って来ますと口にしてヘリに乗った。

 準備が完了し、ヘリのプロペラの回転が勢いを増して速くなり、上昇を始めて、その姿はあっという間に上空へと消えていく。その様子をフェイトはヴィヴィオの手を握りながら見送った。

 

「ごめん、お待たせ」

 

 ヘリの後部座席に座るスターズとライトニング、そしてヴィータに向けて軽く謝りながら空いている席へと座る。それにしてもと、スバルは口を開いて、

 

「なのはさん、もうすっかりヴィヴィオのお母さんですね」

「ええ? そうかな?」

 

 スバルの言葉に、他の三人も同意して頷く。

 

「ヴィヴィオが懐いてくれているのは嬉しいけど。私としては、あくまで保護してくれる家庭が見つかるまでって思っているから。もし見つかれば、ヴィヴィオに納得して貰うように説得するつもりだし」

「いや、ヴィヴィオ、絶対に納得しないと思う……」

 

 キャロが苦笑いを浮かべて言葉を吐く。それにまた皆も頷いた。なのはにしがみ付いて泣き叫ぶ光景が安易に想像できる。でも、となのはは口を開き、

 

「私とずっと一緒に居るより、私よりもっとまともな人が、円満な家庭があれば、ヴィヴィオにとっても幸せだと思うんだ。ほら……私って、こんなだし」

 

 言って、なのはは右手で拳を作って見せるようにして腕を上げ、苦笑いを浮かべる。その意味は当然皆にも伝わっているが、そんななのはにヴィータが半眼の視線をなのはへと向け、

 

「お前自身の問題なんて、この際関係ねーと思うぞ。肝心なのは、ヴィヴィオにとって何が一番幸せなのかって事だ。ヴィヴィオがお前を選び、お前と一緒にいる事が一番の幸せなら、それを受け入れる選択もある。……まあ、答えを急ぐ必要もねーし、よく考えてみることだ」

「ヴィータちゃん……」

 

 ヴィータの言葉に、なのはは目を丸くして視線を合わせると、ヴィータはそっぽを向いて目を閉じた。ヴィータとしても、はやてに家族として迎え入れて貰ったからこそ、思うところがあったのだろう。

 

「そう、だね。とりあえず、受け入れ先が見つかるまでは、ちゃんと責任持って世話するよ!」

 

 言われた言葉をしっかりと理解しつつ、なのははこの事を一旦保留する。受け入れ先が、今よりも幸せな環境である可能性もあるわけで、それこそ今急いで答えを決める必要は無い。

 だから、その答えを決めなくてはならないその日まで、自分がヴィヴィオにとっての幸せになれるように頑張ろうと決意した。

 

 

 

 

 

 

 地上本部には現在、各地上世界の役員と同行して来たであろう局員と、地上本部の局員で厳重な警備態勢がされている。公開意見陳述会は午後からであるが、その前に襲撃される可能性は十分に高い。故に六課も深夜から警備にあたる。

 深夜から本部に着いたメンバーは四方八方のあらゆるエリアを確認する。現地の局員とも情報交換をしつつ、予め怪しいものが無いかも徹底して確認を行うなどする。そうやって夜が明け、朝を迎えた。

 

 そこから更に時間が経過。午後からはやてやリインフォース、フェイト、シグナムが。そして聖王教会からカリムやシャッハも現場入りする。

 本部内には基本的にテロ防止の為、デバイスの持込は出来ない。そのため、デバイスをヴィータに預け、五人は本部内へ入り、会議室にて内部の警備を担当する。

 陸自の部隊も警備にあたり、ギンガも午後から警備に参加する。六課のメンバーに挨拶を交わした後、六課とは別のエリアの警備する。

 

 基本的には異常がないかの確認の徹底だ。いつ襲撃を受けても対応出来るようにする為、少しでも変わった点が無いかを意識し、周辺警戒へと努める。だが、人間常に集中を維持しているのも無理な話だ。故に各エリアにはそれぞれ余分に人員を割き、一定時間で交代で小休憩を挟む。

 外で待機するスバル、ティアナ、エリオ、キャロ。そしてなのはとヴィータ、リインフォース。丁度時間も区切りが良いので、四人をリインフォースに任せ、なのはとヴィータは休憩に入る。用意されたトラックの荷台にある飲み物を取り、それを飲む。水分補給を取りながら、荷台に体重を預けて少しでも楽な態勢を取る。なのはの隣にいるヴィータも同様だ。

 

 周囲を見る。もうすぐ陳述会が始まる時間ともあり、皆の緊張感が一層に増しているのが見て取れる。

 

「なあ、なのは?」

「ん? どうしたの、ヴィータちゃん?」

 

 ペットボトルを片手にヴィータが、視線をそのままにしつつなのはへ訊ねる。なのははヴィータに顔を向け、ヴィータは視線を固定したまま話を始める。

 

【挿絵表示】

 

「……正直、今回の襲撃の可能性。もしスカリエッティ一味が襲撃をしたとして、奴らの目的は何だと思う? 確かに奴らは犯罪者だが、そもそもスカリエッティという奴は研究者だ。レリックやその他ロストロギアを狙ってそこに襲撃を仕掛けるのは分かる。だが、今回の襲撃は奴に何の得がある?」

 

 ヴィータは飲み物を一口飲み、

 

「たしかに今回の陳述会を襲撃すれば、集まっている重要人物を消す絶好の機会だ。だが、奴にとって管理局やその他お偉い方を始末したとして何になる。管理局が邪魔だから襲撃するって訳じゃねー。むしろ、ここを襲撃すれば大事件として一気に注目を受け、今までとは比べ物にならない程の厳戒態勢がスカリエッティに向けられる。そうなれば奴は碌にロストロギアの回収も出来なくなるし、研究だってしにくくなる。デメリットしかないんだ」

 

 一呼吸置き、

 

「奴が生粋のサイコ野郎でも、犯罪者でなければ天才的な頭脳の持ち主だ。自分の研究成果を見せびらかしたいって理由も無くは無いだろうが、それだけにしても自分が損をしてまでそんな行動を起こすとは思わねー。目的が分からねー……」

 

 確かに、となのはは口に出しながら腕を組んで思考に耽る。ヴィータの主張はもっともだ。スカリエッティにとって今回の襲撃で何の得があるのだろう。ここには彼の欲しているものがあるとは考え難い。考えれば考えるほど、疑問が浮かぶ。

 だから、なのはは一旦、情報を分かりやすく整理する事にした。それは分かりやすく単語から。ロストロギア、研究、地上本部、襲撃、人、と。

 思考する内に、なのはは人という単語から派生して考える方向性を変えた。もし襲撃されれば、少なからず人的被害は免れない。それがスカリエッティの狙いだとしたら、だ。

 なのはは腕を解き、人差し指を立てながらヴィータの方へと向き直り、考えを述べる。

 

「……もしかして、そこまでして憎い人、もしくは生かしてはおけない人が居るから、かな? 色んな人が集まるし、一斉に始末できる絶好の機会だし」

 

 思いつきで浮かんだ可能性を口にするなのはに、ヴィータは「あ」と声を出して顔をなのはへと向けた。ヴィータは腕を組み、ぶつぶつと独り言を始める。

 

「……そうか。もしそうだとすれば狙いも分かるし、こんだけ集まっているところを襲撃すれば誰を狙ったのかも誤魔化せる。無くはねー可能性だ」

 

 なのはがどうしたのかと訊ねようとした際、レイジングハートが時間を知らせた。陳述会が始まったのだ。その知らせに、ヴィータも我に返って顔を上げる。まあ、と口を開いて、

 

「何にせよ、あたし等は何があろうと対処する。それしかない」

「うん、そうだね」

 

 区切りも良いので、小休憩を終わらせ、警備に戻る。

 

 

 

 

 

 

 陳述会が始まって更に時間が経った。既に会議の時間も残り半分を切ったところだ。未だに何も起こらないまま、空の色も紅に、そして日が沈もうとしている。

 横から指す夕焼けに当たり、なのはは息を吐いた。今のところ異常無し。もしかしたらこのまま何も起こらないのではと思ってしまう。予言は外れ、スカリエッティも襲撃しない。その他イレギュラーも発生しない。そうであればそれに越した事はないのだ。

 

 だが、そんな淡い期待は直ぐに打ち砕かれた。

 

 急に辺りがざわつき始める。どうしたのかと状況を確認するため念話し、

 

『ヴィータちゃん! 一体何が!?』

『どうやら本部の管制室に異常が発生したみてぇだ! 来るぞ!』

 

 その言葉に、同時に念話を繋いでいたスバルたちも警戒態勢に入る。周りの局員も同様にだ。デバイスを構え、各々バリアジャケットを展開する。辺りを見渡す。まだガジェットドローンの反応や戦闘機人の反応は無い。

 どのタイミングで来るかと構えていたが、次の瞬間には全く予想だにしない事が起こる。

 

 突如、辺りにいた局員のバリアジャケットが一斉に解除されてしまったのだ。

 

 不意を突かれた局員が狼狽の声を上げる。すると次の瞬間には地上本部からある程度離れた地点から、肉眼でガジェットドローンを確認する。一斉に出てきた数としては多すぎる。おそらく召還か何かで瞬時に出現したのだろう。

 状況を確認する為、再び念話でヴィータに話しかけようとするが、いくら話しかけても応答しない。そして感じる違和感。念話をしようとしても、会話が出来ないどころか、念話そのものが出来ていないのだ。

 一体何が起こったのか理解が負いつかずにいると、ヴィータ達が此方に駆けつけてくる。なのはも駆け寄り、ヴィータに訊ねる。

 

「ヴィータちゃん! 皆! これって!?」

「くそッ! やられたッ!」

 

 ヴィータは怒気を含ませた声を吐き、未だに混乱する辺りにいた局員に対し、建物の影に避難するように指示する。魔法どころかバリアジャケットも展開出来ない局員はガジェットドローンに対抗する手段が無く、ただの的になるだけだ。なのは達もとりあえず影に隠れ、状況を確認する。ヴィータは表情を険しくしながら、

 

「AMFだ! 奴ら、本部一帯に強力なAMFを展開しやがったッ!」

「AMFって、ガジェットが展開しているものだよね? あのガジェットがそれを?」

 

 その疑問に、ヴィータの肩の上に乗るリインフォースが答える。

 

「いえ、あの数のガジェットから展開しているだけではありえない規模と濃度です。恐らく、近くに大掛かりな装置を起動して展開しているんだと思います」

 

 成る程、となのはは頷く。外部から予め用意したとすれば、確かに実現可能なものだ。今日の陳述会の警備はこの場所に集中している。狙いが地上本部だと確信していたからだ。だが、スカリエッティはそれを逆手に取った。

 警備が厳重、という事はそこに戦力が集中しているという事だ。なら、それをまとめて無力化してしまう。管理局が魔導兵器しか使えないという穴を突いて。

 

「皆さん!」

 

 六課のメンバーに一人近づく。ギンガであった。反対側のエリアからこちらに駆けつけて来たのだろう。念話も使えない状況では、状況確認は直接合流して行うしかない。

 ギンガは皆と一緒に影に隠れつつ、

 

「こちらの部隊には避難指示を。そちらは?」

「同じだ。考えられる限り最悪だよ、この状況は……」

 

 ヴィータが鋭い双眸を、浮遊する無数のガジェットドローンに向けながら答える。ガジェットドローンは隠れる局員達に攻撃はせず、あくまで本部の建物に取り付くといった行動を行っている。殺戮マシーンと化さないのはスカリエッティの慢心故なのか分からないが。

 ギンガにも先ほどの装置の可能性を説明すると、険しい表情を浮かべながら顎に指を当て、

 

「そうなるとやはり、外部の部隊に対処して貰うのを待つしか……」

「いや、そんなもん待ってたら遅い。早急に対処しなきゃ不味い」

 

 ギンガの言葉にヴィータがそう口にする。が、それをどうやってとギンガは訊ねた。するとヴィータは視線をなのはへと移し、

 

「そういう訳だ、なのは。頼めるか?」

「うん、任せて」

 

 なのはは頷き、影から一歩踏み出して表へと出て行く。それにギンガはハッと気がついた。言わずもがな、なのはのその強さは魔法というものに一切頼らない己の強さ。故に唯一通常運転で行動できるのがなのはであった。

 リインフォースはその背に向かって、

 

「恐らく、発生原因は本部の敷地からガジェットが出現した地点より前の位置までを半径にしたライン。そこにあると思われます! 万が一、装置が無かった場合、或いは別のシステムが原因であった場合、それの排除を! 不可能であれば直ぐに戻って報告をお願いするです!」

「了解、リイン!」

 

 言って、地面を蹴って跳躍する。それだけでかなりの距離を飛ぶ事になり、放物線を描いて落ちて行く。その途中でガジェットドローンが反応し、なのはへと攻撃を繰り出すが、なのははそれをワンパンで返り討ちにして数機撃墜し、地面に着地する。それを繰り返していき、なのはの姿は幾つも生まれる爆風と共に離れていく。

 その光景にもはや苦笑いを浮かべるスバルたちだが、生憎そうもしていられない状況だ。ヴィータは他の皆へ視線を向け、

 

「なのはが頑張っている間、あたしとリインがここで外を見張ってる。お前らは内部へ行ってはやてたちにデバイスを届けてくれ」

 

 言って、ヴィータが中にいる皆の分のデバイスをスバルたちに預ける。現状展開出来ないが、なのはの事だ。上手くやってくれることだろう。なら次の手を打っておくの最善だ。

 

「ギンガは管制室へ行って状況を確認してきて貰えるか?」

「了解です!」

 

 ギンガは敬礼で返す。そうと決まれば早速行動だ。スバルたちは中へ入り、ヴィータとリインはこのまま待機しつつ、なのはが状況を変え次第、直ぐに外部の戦力を掃討するつもりだ。

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