正義執行   作:ラキア

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第20話

 管理局地上本部の敷地より少し離れた上空。そこには自らの能力───IS・シルバーカーテンを展開し、操作するクアットロの姿がある。鍵盤に似たような操作盤を打ちながら、幾つも出現させている立体ディスプレイで状況を確認しつつ、口を開き、

 

「うーん……順調順調! AMF拡散機も予定通りに稼動。ルーお嬢様の転移によるガジェットの襲撃。チンクちゃんとセインちゃんによる本部の管制室制圧も予定通り」

 

 眼鏡を人差し指で上げて位置を調整し、立体ディスプレイを見る。

 

「管理局の皆さんには出来ればこのまま大人しくして貰いたいので、拡散機の防衛はしっかりと維持して下さいねー。特にノーヴェちゃんとウェンディちゃん」

 

 ウインドウの一つに映るのは、拡散機を防衛している赤髪の女性二人───ノーヴェとウェンディの姿だ。ウェンディは元気よくこちらに向かいながらグッドサインをして、

 

『任せて下さいっス! クア姉! このウェンディ、初陣でしっかりと役目を果たすっスよー!』

『ウェンディ、煩い。少し黙れ』

『ちょ、ノーヴェ。どうしたんスか不機嫌で。カルシウム足らないッスか?』

『違ぇよ!』

 

 陽気なウェンディに対し、噛み付くノーヴェ。その様子を半場呆れた様子で見届け、ウインドウをそっと閉じた。すると新たにウインドウが開かれ、画面に現れたルーテシアがクアットロに話しかける。

 

『クアットロさん? とりあえず用意された分のガジェットは全部転移しましたんで、早速次の行動に移ろうと思うんですけど』

「あら流石ですルーお嬢様! ではその様にお願いします」

『了解です!』

 

 先ほどのやり取りを聞いていたのかは知らないが、ルーテシアもウェンディのテンションよろしく、笑顔でグッドサインを出した後に通信を閉じる。相変わらずテンションが高いと思いつつ、クアットロは「さて」と口に出して、

 

「では、そろそろ邪魔な外野が駆けつけて来る頃合いですし、ガジェットの幻影を追加してっと」

 

 言うと、クアットロはシステムを操作する。すると此方に向かって来ていた管理局員の部隊の前に、クアットロのシルバーカーテンによって現れたガジェットドローンの幻影が姿を現した。局員は困惑した様子で慌てて幻影相手に迎撃態勢を取る。その隙に本物のガジェットドローンの群れを向かわせておくとしよう。

 

「うふふ……宴はまだ始まったばかりです。まだまだたっぷりと踊って貰いましょう」

 

 

 

 

 

 

 地上本部の周囲に位置する空きビル。その屋上には無機質な機械が中央にでかでかと鎮座しており、その横にノーヴェとウェンディは待機していた。クアットロの通信も切れ、ショートの髪が特徴の方───ノーヴェが不機嫌そうに設置してあったベンチにドカっと座る。一方、長い髪を後頭部で纏めた女性───ウェンディがそんなノーヴェに向かって前かがみになり、その顔を見ながら、

 

「もうどうしたんスか、ノーヴェ。作戦開始からずっと不機嫌そうじゃないッスかー!」

「別に。ただ、あたしとしてはこんな後衛で不満があるから、とかそんな事思ってるわけじゃねー」

「不満ありありじゃないッスかー! 駄目ッスよー。これはドクターから私たちに任せられた立派な任務なんですから」

 

 人差し指を上げ、注意するウェンディ。ノーヴェは舌打ちしつつ、

 

「分かってるよ。……ただ、どうせなら確かめたかったんだよ。直接この目で。あたし達の王様が、本当にあたし達の上に立つ存在であるのかって」

「それはまぁ……気になる所ッスけど……」

 

 ノーヴェの言葉に、ウェンディは少しだけ眉を八の字にして口ごもる。だが直ぐに調子を取り戻すため、元気良く腕を上げながら再び口を開いた。

 

「でも、私達の与えられた役目はこの拡散機を守ることッス! 今日この日の為に用意された【三つ】のAMF高濃度拡散機! その一つが設置されているこの場所! 責任もって防衛するッス! それこそ、どんなイレギュラーが起こったとしてもッス!」

「おお! 格好良い! ……ところで、この拡散機って全部で三つあるんだね?」

「えへへー、どうもッス! そうッスよ? ここと、もう一つはトーレ姉さんとセッテ姉さんが。三つ目がディエチが防衛してるッス!」

 

 と、ウェンディが疑問を投げられた声の方へ向かって人差し指を向ける。だが、そこで気付いた。だいぶ遅れて気が付いた。今の疑問の声は当然ノーヴェのものでは無い。

 

 するとおかしい。ここにはウェンディとノーヴェ以外に誰もいない筈だからだ。しかし、視界の中央には当然のようにして存在する───なのはの姿があった。

 

「え? ええ!? ちょッ!? 一体誰ッスか!? いつからそこに!?」

「こいつ、管理局!? どうやってここまで!?」

 

 仰け反って動揺するウェンディに、慌ててなのはから距離を取るノーヴェ。なのはは人差し指でぽりぽりと頬を掻く。跳躍してここまで飛び、浮遊する間に周りを注視していたところ、明らかに異質な機械と、異質なスーツに身を包むウェンディとノーヴェの姿があったのでここに来た訳だが、二人がなのはに中々気付かなかったのでしばらく話を聞かせて貰ったという。

 

 少しでも魔力反応があれば二人は気付いたのかもしれない。跳躍でここまで飛んでくるという予想外な接近をしなければ生体反応で感知していたのかもしれない。だが、なのはは魔法を使わずに凄まじい身体能力の持ち主であり、更に元々存在感を薄める特技があるというのも相まってこのような事態になったのだろう。

 

 慌てて警戒態勢になるウェンディとノーヴェ。不意を突かれてしまったが、別段ダメージを受けた訳ではないのは事実。故にウェンディは早々に余裕の笑みを浮かべ、自身のIS───エリアルレイヴを発動する。彼女が持つ固有装備のライディングボードを、盾のように使ったり、浮遊させて高速飛行移動を行う乗機としたり、砲撃をしかけたりできるという、防御・射撃・飛行の三種をこなす優秀な能力の持ち主だ。

 一方、ノーヴェも自身の装備である篭手「ガンナックル」と、ローラーブーツを模したジェットエッジを装備。彼女のIS───ブレイクライナーは格闘能力を上げるものである。

 

 なのははウェンディとノーヴェ。特にノーヴェを見てスバルにそっくりだなと感想を思った。髪形もそうだが、顔つきも似ている。おまけにその装備までほぼ同じなのだ。もしかしたら生き別れの姉妹なのかもと想像する。

 そんな呆けているなのはに、ノーヴェは眉根を寄せて不機嫌になり、早々に仕留めることを決行する。

 

「行くぞウェンディ! 合わせろ!」

「了解ッス! あなたには悪いッスけど、こっちは二体一。しかも連携の相性の良い私らが相手ッス! 悪く思わないで欲しいッス!」

 

 ノーヴェの言葉を合図に、ウェンディはそう言葉を口に出しつつ、エリアルレイヴで砲撃を放つ。ノーヴェもまたウェンディの砲撃に合わせ、ジェットエッジでなのはに接近。そのままガンナックルで拳を繰り出してくる。

 

【挿絵表示】

 

 ───が、次の瞬間には二人の姿は空の彼方へと飛んでいった。なのはのワンパンによって。

 

 これがギャグ漫画か何かであれば間違いなく空に星が光っていただろうのワンシーンだった。なのははそのままAMF拡散機に近寄り、拳を打ち込んで破壊する。

 二人が飛んでいったであろう空へなのはは顔を上げた。

 

「こっちも急いでるんで、悪く思わないでね」

 

 

 

 

 

 

 ノーヴェ達が居た空きビルとは別方向に存在する空きビルの屋上にて、ディエチは固有武装である大型の狙撃砲【イノーメスカノン】で、地上本部へ応援に駆けつける管理局員を迎撃していた。ディエチの背にはウェンディ達と同様、拡散機がある。拡散機の防衛と管理局の増援の迎撃を担っているのだ。

 何度目の狙撃かで、とうとう此方の方向から来る増援を全て迎撃完了する。

 一息つき、ディエチは状況を確認する為、ウェンディたちに連絡を取ろうとする。だが、繋がらない。どうしたのかと思った矢先、ディエチの視線の先に変なものが映る。

 

「あれは……?」

 

 望遠能力で視認する。それは管理局の制服に身を包むなのはの姿。おかしいのは、魔法を使っている様子もなく、人間ではありえない超脚力で跳びまくっている事だ。

 一瞬、自身の解析が壊れたのかと誤認するが、どうやらそうでは無いらしい。

 

「そういえば、あの人……前に市街地でお嬢と戦った……」

 

 思い出す。あの時に六課のメンバーにいた一人だと。ならばやる事は一つである。イノーメスカノンを構え、望遠能力で狙いをなのはへと定めた。なのはは此方には気付いていない。

 跳躍して一見狙いにくいと思われるが、実際タイミングを狙えば難しい事ではない。更にディエチはその能力でそのタイミングが正確に分析できるのだ。

 

「よく分からないけど、これでお終い。バイバイ……」

 

 そう一言だけ口にして、ディエチは引き金を引いた。砲撃が放たれ、なのはが空中へと跳躍したタイミングが重なり、直撃。それで終わりのはずだった。

 だが、砲撃は人に命中したものとは思えずにそのまま光が空を彩るだけである。

 

「……え? 一体どういう……?」

 

 理解が追いつかず、目を丸くするディエチ。もう一度能力で状況を確認しようと望遠能力を使った瞬間である。

 

 ───こちらに一直線に飛んでくるなのはの姿があった。まるで砲撃のように直進してくる姿に、ディエチはさらに驚愕の表情を見せる。一秒経ったか、経っていないかくらいの後には、迎撃をする余裕も無くディエチは吹き飛ばされ、後方の拡散機もその勢いのままなのはに破壊された。

 

 

 

 

 

 

「───ッ! AMF濃度が薄くなった! なのはの奴、上手くやってくれたな。いくぞ、リイン!」

「了解です!」

 

 なのはが出て行ってからしばらく経つと、AMFの濃度が薄くなったのを感じた。ヴィータはアイゼンを起動し騎士甲冑を装備、リインフォースと共に周囲のガジェットドローンの迎撃に出た。

 跳躍してそのまま飛行魔法で旋回し、片手に装備したグラーフアイゼンを構える。そしてそのままガジェットドローンの群れに向かって殴り込みする。

 アイゼンの槌分部が跳ね、

 

「───グラーフアイゼン! ロードカートリッジ!!」

 

 アイゼンが反応し、跳ねた槌が次の瞬間には変形し、片方が鋭利に尖り、後方が噴射口に変形し、そこから魔力が放出される。生み出された遠心力で回転し、勢いを増しながらガジェットドローンの群れを駆け抜ける。その結果、周囲のガジェットドローンを粉砕。それだけでかなりの数のガジェットドローンが撃墜されていく。

 一旦空中で停止し、アイゼンの槌が元の形状に戻り、カートリッジ装填した薬莢が飛び出していく。一呼吸吐いてから周囲を確認する。

 

「とりあえずここらのガジェットは殆ど撃墜したな。あとは別方向か。……リイン!」

「はいです!」

 

 辺りを見渡し、ヴィータ以外にも何人か戦闘に復帰する局員を何名か発見。後は本部の建物に取り付いているガジェットが居るだけで、彼等にその対応を任せて良いだろうと判断する。後から追いついてくるリインフォースを連れ、別のエリアへと迎撃に向かった。

 

 

 

 

 

 

 本部内部へと向かったスバル、ティアナ、エリオ、キャロ、そしてギンガ。電力が落ちている為、所々行き止まりの所を何とか潜り抜けつつ、確実にはやてたちが居るであろう会議室へと向かっていた。

 何度目かの扉を開けて後、走って移動していると皆のデバイスがそれぞれ起動し、反応する。それはAMFの濃度が薄くなった事を教えてくれていた。気付いた皆はデバイスを起動し、バリアジャケットを装備する。

 

 デバイスを起動できた事により、ギンガは先に管制室に向かう事にした。残りの四人はこのまま合流すべく会議室へと向かう。

 復旧していない暗くなった通路を四人で駆けて向かっている途中、スバルは心配そうな表情を見せる。

 

「ギン姉……大丈夫かな、一人で……」

「私たちの中で一番能力が高いんだから、大丈夫でしょ。それにあんたとは違って敵に突っ込んで行かないし、何かあれば直ぐ連絡寄越すわよ」

 

 隣を走るティアナが視線を前方に向けつつ言葉を吐く。現状確認すると、管制室はもう制圧されたのは間違いない。会議室の状況がどうなっているのかは知らないが、地上本部の守りは堅い。流石にもう制圧されたとは考え難いだろう。

 だとすると、敵が現在会議室を狙っている可能性の方が高いのだ。制圧した管制室にいつまでも居るほど敵も愚かではないだろう。だとすれば敵との戦闘になる可能性が高い此方だ。戦力的には問題ないだろう。

 

 しばらく進むと広い空間へとたどり着く。するとそこに人影があり、警戒したものの直ぐにそれがフェイトのものだと気付いた為合流する。フェイトもこちらに気付いて手を上げていた。

 

「フェイトさん! ご無事で何よりです!」

「皆も無事で良かった。状況は?」

 

 ほっと安堵しつつ直ぐに互いに情報を交換する。現在、会議室にははやてとシグナム、そしてカリムとシャッハがいる。フェイトは別室のロビーで待機だった為、何とかここまで来れたという事だ。

 だとすれば、会議室の状況がどうなっているのかが気になるところ。すると丁度こちらに来るシャッハの姿も確認できた。合流し、シャッハから状況を尋ねる。

 

「現在、会議室のドアは有志によって開かれはしました。ですが隔壁が閉まっているのもあって、他は会議室で待機しています」

 

 いくら扉が開いたとしても、現場職では無いお偉い方全員ががここまで来れるかと考えれば不可能であり、復旧もしていない状況では避難は出来ない。故にシャッハが外と連絡を取ろうとここまで来たわけだ。

 スバルはヴィータから預かったそれぞれのデバイスをフェイトとシャッハに渡す。シャッハは皆のデバイスを届けに再び会議室へと戻る。フェイトはバルディッシュを受け取る。

 

「私も外に出て迎撃に出る。皆はギンガと合流して内部の警戒を───」

 

 バリアジャケットを装備し、フェイトが皆にそう伝えようとした。が、

 

「……? ギン姉?」

 

 その時である。スバルは中々連絡を寄越さないギンガが心配になり、連絡を取ろうとしたのだが、念話が通じない状態になっていたのだ。AMFは展開されているものの、念話が通じない程ではない。故にギンガと連絡を取れないという状況は何かあったという可能性が高く、焦りが募る。

 状況を理解したフェイトと他の皆は直ぐ様アイコンタクトで合図する。フェイトは先ほどと同様外へ、四人はギンガの元へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 空もすっかり暗くなり、地上本部の周囲に展開するガジェットドローンが発する光が目立っている。建物に取り付いているのが見て分かる。だがヴィータの迎撃と復活した局員達によって確実にその数は減らされていた。

 そんな中、近くの道路に紫色の魔力光が現れ、召還魔法によって二つの影が現れた。先ほど吹き飛ばされたノーヴェとウェンディの二人である。二人は身体を起こし、

 

「ふう……何とか戻って来れたッスねー! まさか着地点のすぐ近くを、ルーお嬢様通りかかっていたんスから、とても運が良いッスよね!」

 

 言いながらウェンディは手で前髪をかき上げる。見ると二人の姿は海水で濡れていた。吹き飛ばされた場所が海であった為だ。ウェンディの言葉通り、たまたま移動中のルーテシアによって救助を受けて、更にこちらに向けて転移までしてくれたのだ。

 

 ───と、丁度その時であった。二人のもとに通信が入る。ディスプレイは表示されず、耳に聞こえる音声のみのものだ。

 

『ノーヴェ、ウェンディ。聞こえるか?』

「チンク姉? どうしたんだ急に……?」

 

 相手は彼女ら戦闘機人の一人───チンクである。チンクは現在、セインと共に地上本部内にいるはずだ。ウェンディは険しい表情をして訊ねる。

 

「もしかして、不味い状況ッスか? だとしたら直ぐ応援に!」

『……いや、別段不味い状況ではない。ただ少し手を借りたい。エリアルレイヴで運んで欲しいんだ』

「え……それは大丈夫ッスけど……もしかして?」

 

 ウェンディの言葉に「ああ」と言った後、チンクは次いで、

 

『───対象の一人を確保した。面倒な増援が来る前に頼みたい』

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